エピソード77:うわぁ、結局最後はそうなっちゃったか
「審判の時は開かれた! 反逆する者には死を下す!」
あの傲慢王とは違う威圧を感じる。これは決戦……またしても僕は世界の存亡を掛けた決戦に足を突っ込む形になるのか。
「マリー、すぐに助けるから……じっとしていて」
「ショウタ。うん、貴方なら必ず私を助けてくれるって信じてる」
「無視はよくないなあ」
「へっ、シカトされたからって拗ねんなよ……アルカディア!!」
先に突っ込んだのはやっぱりザットだ。こういう時の行動は人一倍早い。
しかし、それに反応するのもアルカディア。彼は杖を横に振っただけで無数の球体のような物を浮かべて全体に満遍なく展開してきた。
この後どうなるかは何となく分かってきたが僕の意思とは関係なく先読みの力が発揮する。
うん、これはかなり厳しい。こんなのを放たれたら避ける間もなく全身に重症を負いかねない。
剣で防いでも間違いなくやられる。ここは一か八かあの形態に掛けてやるしかない!
「モードチェンジ!」
薙刀に素早く形態を変更させて、力強く回転させてみる。その次の瞬間からとんでもない量の球体が僕達に向かって放射してきた。
回転させる毎に腕が千切れそうになってくるがここは堪えろ!!
「野郎!」
「最初は小手試しだ。これで、死んでくれても結構だけど」
「冗談じゃない。こんな大事な場面で死ねるかよ!」
「そうだ、僕達はここでくたばらない! 逆にくたばるのは貴方だけです」
「くくっ! さすがはここまで辿り着いただけはある! なら、もっと大盤振る舞いをしないと……ねえ!」
どんどん勢いが増してきた!? くっ、この攻撃は身動きも取れない上に腕がくたびれそうになってきた。
けど、ここまで来れたのは皆のお陰。それを蔑ろにしてはならない!
耐えろ、耐えろ、耐えるんだ! 必ずや勝機はある! 無数の球体を勢いよく回転させている薙刀で防いでいく僕。
それに対し、ザットは隙を見て果敢に突っ込んでいくようだ。灰色の剣を構えながら勢いよく走り抜けていく。
アルカディアとザットとの間合いはまだまだ遠い。しかし、ザットは諦めるつもりは毛頭ない。
「面白くなってきたねえ」
「てめえだけだよ。そういう感情に行き着くのは!!」
苛立ちを堪えつつ、間合いを急激に詰めていく。もう少し、もう少しでいけるぞ。
そうこうしている内にあれだけ勢いのあった球体の速度は止んできた。
有無を言わさず、薙刀形態を銃形態に変更。こいつで……すかさずぶっ放す!!
「そらぁぁ!」
「おっとと! そんな生温い速度では到底倒せないよ」
回避した上に、すぐさま杖で叩き付けたらであれだけ吹き飛ぶのか!?
やはり、洒落になっていないぞ……あの武器は。
「くくっ、惜しかったねえ。あともうちょっと速度が上回ったら焦っていた所だっーー!?」
余所見をしてくれてありがとう。お陰で僕の攻撃を見事に喰らってくれそうだ! さぁ、たんまりと受け取ってくれよおぉ!
「真・蒼撃砲! 僕の全力を出し切る!!」
「何がどうなっている!? こんな力は以前彼にはなかった筈だ!?」
驚くのも無理はない。貴方は会議の時以来僕の真なる力を見ていなかったのだから。
これは貴方に対するリベンジでもあって、マリーを助ける為に進化した力。
特とたんまりと味わえぇぇ!
「……くくっ、なんちゃって。そういうからくりはもう前から知っているのさ」
なっ、アルカディアが消えた!? ま、まさかあれは本体じゃなかったのか。
だとしたらいつの間に! と言うか本物は一体どこへ。焦りが募る僕。
知らされたのは隣にいた彼。
「君達の歴戦の記録。とっくにお見通しなんだよねえ」
「……はっ!? くそっ!」
耳打ちしてきた事にビックリする僕に対してアルカディアは容赦のない蹴りを喰らわす。
とても魔術を好むような奴とは思えない痛みが全身にビリビリ走る。
彼は格闘家かなのかと言いたくなりそうだ。近距離戦闘も子こまで強かったとは。
全く持って……貴方は付け入る隙を与えてはくれないんですね。
「どうしたのかな? それじゃあ、いつまで経っても君の大切な子を助けられないよ?」
「アルカディア。貴方は……マリーを使って、本当にミゾノグウジンの器に収めるつもりなのか! 頼むから、馬鹿な真似は止めろ!」
「それは負け犬の遠吠えのつもりかな? だとしたら、床にへばりついて敗北している癖に随分と上から目線なんだねえ!」
全身に雷が当たった! こんな物、生身で喰らったらまともに生きてはいない。
どうにか回避出来たので、何とか助かったけど……次にアルカディアの機嫌を損ねてしまえば重症は避けられないか。
「くくっ。マリー・トワイライトは僕の求める聖なる神の贄として新たなる生命を授かるのだ!」
「貴方はそうやって、自分の考えている事を勝手に押し付けているだけだ。どんな思想を持っていようとやり方はあの傲慢王と変わっていない!」
オウジャもアルカディアも目的は違えど、やり方は非常に横暴かつ強引。
人の命を平然と奪う奴に世界を壊される資格は存在しない!
「彼と一緒にしないでくれるかな? とても腹が立つんだよ!!」
怒らせてしまったが次にどうするのかは先読みが教えてくれる。
だから、僕は寸での所で距離を取った。あんな雷をバチバチ喰らったらただ事では済まなくなる。
「この薄汚れた世界は神によって浄化されなければならない! 最終的に決めたのは私だが、これは創造神ミゾノグウジンが与えて下さったありがたき計画なのだ! だから、ミゾノグウジンをこよなく愛する私は快く承諾したのだよ!」
「気色悪い野郎だ。神の囁きが何か知らんが……巻き込まれるこっちの身にもなりやがれってんだ」
本当にそう思う。ミゾノグウジンの声が聞こえたからとそれを素直にやられたら、今回の騒動に巻き込まれた僕達の気持ちはどうなる?
少しは人の気持ちを考えろと言いたい所だ。
ただ、アルカディアが僕らの気持ちを察するような人物かと言えば首を傾げたくなるけど。
「君達の気持ちなど知らん。私は神の導きに従い、遂にここまで辿り着けたのだ! あの頃を思うと……実に空虚な長い日々を過ごしてきた。しかし! これでようやく解放されるかと思うと気分が晴れやかになるよ」
そう思っているのは貴方だけ。こちらはそんな下らない理由で迷惑を被っている。
あと何分、あと何時間でこの計画は完成されるのだろうか? 早い所で食い止めないと手が付けられなくなってしまう。
僕は恐れた。アルカディアが計画を見事に完成させ、この異世界の全てが消えてしまう事を。
だからこそのもう一発。
「今度こそ……ぶち抜けえぇぇ!」
「またやるつもりか!?」
蒼い光は一直線にストレート。次は本気で沈めようと僕の全身を使って、姿が丸々生まれ変わった真・蒼剣に力を送り込む。
すると、真・蒼剣は確かに僕の期待に応えてくれるかのように……力を倍増させて放射した。
これだけ範囲が何倍にも膨れ上がるとアルカディアが得意とする分身は全く使い物にならない。
避ける時間もないのだから。
「ぐぅぅぅ! 神に仇なす人間共が! 何故こうも偉大なる計画に賛同しないのだ!!」
「そんなの決まってんだろ!」
灰色の剣の刀身からバチバチと鳴るのは雷。それを思いっきり振るって、動きの止まったアルカディアに命中させてみせる。
「胡散臭い宗教なんぞに興味ねえからだ!」
「次いでに言うと、僕はこんな自分勝手で起こす計画が大嫌いです! 彼女を取り戻して……貴方を倒します」
「くくっ。蒼の騎士はそこまで自分の力に自惚れるようになったか。確かに以前の君と比べると、とんでもない質量を感じる……だが、しかし!!」
これ以上は真・蒼剣が持たない。自然とエネルギーが切れていき視界が晴れる。
うーーん、やっぱりなのか。まぁ、これで倒れてくれるとは到底思っていなかったけど、
「この幾重にも重なる障壁。果たして君達ごときで壊せるかな?」
挑発のつもりか。随分と舐めきった態度を醸し出してくれる!
「諦めないで!! そんな壁……貴方の気合いなら一発でぶち壊せる!」
君の声が僕にとって唯一の励みになる。そう、マリーの言う通りだ……僕は、こんな何枚も重なっている障壁を壊せないなんて思わない! 壁なんて気合いで全部バラバラに割ってみせる!
「はぁぁぁぁぁぁ!」
「気合いで乗り越えるつもりかな? くくっ」
鼻で笑った事を一生後悔しているが良いさ。
「これで終わりだ! 覚悟しろぉぉ!」
蒼剣を構えて突進。アルカディアはその間にも球体を飛ばしてきた。
僕はそれをどうにか払い除けるもそれは全てとはいかない。ただ、こうして前に進めているのは何かと加勢してくれるザットのお陰だったりする。
「前に進め! こっちはこっちでサポートしてやるからよ!」
「あれれ? こうなる筈ではなかったのになあ」
猪のように、目の前の壁に一心に向かいガラスのように粉々に1枚づつ丁寧に砕いていく。
パラパラと床に落ちた破片。あれだけ悠然としていたアルカディアもこれには焦りが募ったか、眉をこれでもか潜めている。
「馬鹿な。これは……計算外だ。認められない! 私は認めん!」
往生際が悪い! もう貴方が仕掛けた障壁とやらは数枚しか残っていない。
素直に負けを認めろ! ミゾノグウジン教宗主アルカディア!!
「ラスト! 消し飛べぇぇ!」
最後の1枚。必死の妨害はあったけど、ザットが幾度か力を貸してくれたお陰で僕はようやく辿り着く。
そこで振り下ろした一撃は大きく蒼色の斬撃として迸り対象を無力化……出来た筈。
あれだけ至近距離で放ってしまったら、さすがのアルカディアも無事で済まない。
さーて、これで何もかもが終わった。後に残ったのは宗主アルカディアが最終段階の要として取っておいたとされるマリーの救出。
位置はアルカディアが触れないようにと企んでいたのか、結構な高い場所。
十字架に身体をがっちりと固定されているが、どうにか刃物で自由にした。
かれこれマリーと随分と久しい再会だ。アルカディアも倒せたようだし、本当に怪我もなく無事でいてくれて良かった。
「ごめん。かなり待たせてしまったね……アルカディアに変な事はされていないかい?」
「内心不安で一杯だった。けど、ショウタが助けに来てくれてほっとしたよ~」
えっと……やれやれ、弱ったな。こんなに密着されたら心臓が聞こえちゃう……じゃない、じゃない!
落ち着いて話を聞けそうにないなあ。
「これで終わりか。結末は随分とあっさりだったな」
「残るはアルカディアの後始末か。僕の目的はこれで果たせたけど、君は彼をどうするつもりなの?」
「火葬で燃やしてやだろうな。この哀れな罪人の末路はそんなんで終わるだろ」
まぁ、何をどうしようが彼等が決める訳だし。僕が口を挟むような事ではないか。
「それよりも……地上部隊の抵抗は続いているみたいだな。アルカディアが残していた部隊も潰しておいておくか」
「仕事は山積みだね」
すっかり忘れていたけど、地上で捕縛されている女性達は助けられたのだろうか?
薄い青色が特徴的な魔力がこっちに集まっている様子からして、未だに難航しているように見えてしまうが。
「やーれやれ。こんなに計画が狂わされるとは……これは思いの外手段を選んでいる状況ではないようだ」
「なにっ!? まだ、立てんのか!?」
そ、そんな。あれだけ叩いてもなお立つのか。あの一撃で沈められないなんて……
「かくなる上は計画変更か。本来ならあの魔力を君に移して創造神ミゾノグウジンへと変異させようと思ったが……邪魔者に奪われた今。手段を講じている場合ではない! 神よ、お許しを!」
切羽詰まったのか。余裕のない顔付きで彼はすぐさま地上から送られたであろう薄青色の球体。
ふわふわと浮かんでいるそれをなんと自身に移した!?
とんでもなく目映い光が僕達の視界を遮る。しばらくして収まった頃に瞳を開けば……
「自分が神となるか。これは出来れば避けたかったが……」
早人間の姿を無くしている。あの白いローブに豪華な飾りつけをしていたアルカディアは超人となって。
「おいおい、嘘だろ」
「私自身が神となって貴様らに天罰を下そう、さぁ……覚悟したまえ!」
僕らを見下ろし、嘲笑う。