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エピソード75:新世界の準備はオーケー?

「……やられてしまったか。やれやれ、これでは私の気苦労が増すばかりだよ」


 アルカディアはアビスとサイガを両方とも失った。二人とも彼等に倒されてしまうという結果は別に驚く事でも何でもなかった。

 だが、実際にそうなってしまうと戦力の損害は実際大きい。自らが築き上げた城では戦力が最初の時よりも格段に減少している。

 それ故に自分を追ってくる連中が今まさに到達しようとしていた。

 もはやこれまでと見て良いか。このままだと時間稼ぎは殆んど使えない。


「仕方ない……この私が、君達を出迎えてやろうじゃないか」


 近付くのであれば排除する。理想を掛けた計画が邪魔者に潰されてしまうなど決してあってはならない。

 計画の最大の要となる彼女を切り離されてしまえば、自分が最も敬愛する愛しき神を拝めない。

 

 最悪のシナリオになってしまうのは絶対に避けねばなるまい。アルカディアは自分の置かれた戦況を今一度確認して、考え込む。


「私の駒も残りは少ないと見える。一階の入り口ではまだ戦闘が続行しているようだが……二体一ではさすがの彼も持たない。となれば最終的には息のある連中が私の元に辿り着く」


 悪い方向へ流れ始めた。最初はこちらの方がリードしていたが、いつの間にか逆転されている。


 どうにかしなければならない……自分の力だけで。

 

 しかし、それとは別にこの陥っている状況に対して楽しんでいる自分が居た。


「くくっ、何とも笑いが止まらんね。今から彼等をどう始末してやろうか胸が高鳴って仕方がない!」


 綻ぶ笑み。城の頂点でアルカディアが間もなく到達しようとしている彼等を見下げていた。

 

「貴方が思うほど彼等は弱くはない。ましてやショウタはもっと別……そうやって今の内に馬鹿にしていなさい」


 地上からの魔力が満タンになるのはおおよそ数時間。その間、マリーはただただ貼り付けられた状態で飯も水も食わずで耐え抜いていた。

 食べ物はどうにかなるが緊張のせいで喉はやけに乾いている。だからと言って、今すぐにでも水はこない。


 アルカディアの気が済むまでは良いなりの人形にされるだけで。

 マリーにとって屈辱でしかない。歯を噛み締めつつも反抗心を剥き出しにしていく。


「へぇ~。君はショウタを随分と高く評価しているようだね。でも、何度も言っているかもしれないが彼は一度私に敗北している。そんな彼がもう一度再戦すれば間違いなく次は君が止めようとしても、絶対に殺す……新世界に彼等は不要だ。ゴミは必ず排除する。手加減抜きでね」


 表情は笑っているようで、どこかおぞましい。あの目付きは本気だ。

 障害となる者は確実に潰しに掛かるだろう。


「……創造神ミゾノグウジンの歓迎を妨げる障害。君を守る為なら全力で潰す。すぐに終わらせてくるから、安心して待ってくれたまえ」


「アルカディア!! 貴方のその優越が敗北を招く! 何をどう思われても!!」


「ご忠告ありがとう。けど、その言葉も無意味に終わる……何故なら私は」


 ミゾノグウジン教を開いたその時から長く愛用している白いローブをバサッと広げ、神秘的な杖を利き手で押さえた。


「アグニカ大陸全土を揺るがす世界の礎となるのだからなぁぁ! もう新世界へのカウントダウンはすぐそこに迫っているのさ!」


※※※※

 

「もう、いい加減に着いても良いんじゃねえか?」


「僕もそう思うよ」 


 が、しかしアルカディアの元に辿り着くかは行かせまいとするミゾノグウジン教の人達がわんさかと牙を剥く。

 僕もザットも互いに時間を掛けることなく、すんなりと切り抜けようとする。

 アビスを倒した後に続く廊下を渡った先には上品なカーペットが敷いてある廊下を時計回りに進む。


 そこは回るにつれて、上に上がる構造でゴールという明確な扉が昇っていく度に見えてきた。

 さぁ、あそこにあるぞ。後は速度を上げてグングン進むだけ。道中には予め待機していた者達も居たが、さっきと同様に手短に片付ける。


 この城に残っている戦力は幾つかの罠と人員と支配下に置いたモンスターだったけど、もうモンスターはアビスが自ら飛び降りた直後に自制心が効かなくなった。

 恐らく奴等はもうこの先支配下に置かれる事はなくなった。これでミゾノグウジン教の戦力は大幅にカットされる上に、モンスターは敵として牙を剥くので結果新たなる第三勢力として生まれ変わる。

 彼等の戦意は程ほどになった。最初の頃の威勢は遥か遠くに消え去ってしまったらしい。


「俺の通り道を邪魔すんなら……ぶった切る!」


「神の救いに逆らう愚か者めが!!」


「うぜえんだよ。自分の主張を正当にしやがって」


 黒いローブを着飾った集団は火の玉を乱雑に放り投げる。行く先に振り掛かる火を弾いて、勢力を無力化。

 その次に道中の先でミゾノグウジン教の人達が制御が取れなくなったモンスターと死闘を繰り広げていた。


 これは彼等が招いた自業自得。正確にはアビスがやった事なんだろうけど、進むにも奴等を倒さないと上手く進めない。

 そこでザットは灰色の剣を力強く握り締め、単身で衝突。足を切断してから動けなくなった瞬間に頭部に飛び移り、止めに頭ごと剣でぶっ刺すという見事にグロテスクなやり方で恐竜型のモンスターを始末した。


「はっ! 最後に惨めに終わったな」


「馬鹿な……あの化け物を一人で退治しただと!?」


 驚いている間に無抵抗な彼等を二刀流で振り払う。何の抵抗もなく、見事にやられる連中。

 もう戦う気力は遠くに消え去ってしまったのか? 


「行こう。ゴールはすぐそこだ」


「そうだな」 


 ゴール間近。僕らを先に行かせた彼等は……結局合流してくれなかったか。

 身の安否が心配だけど、ここで戻るという選択肢は到底許されない。


 残った者は僕とザットだけになってしまったか。あれだけサポートしてくれた皆はアビスとの戦闘でかなり撃退された。


 動けたとしても致命傷を受けていて、とても自由に動けそうな気配はない。


 軍の兵士も、治安団の団員も失った。このラストバトルにあの人達が合流しなかったら二人だけで戦うのか。


 前と比べて僕も強くなった気がするけど、アルカディアの能力はかなり未知数。

 新しい力を手に入れたからとは決して油断は出来ない。

 

「おらおら! どけや!」


「くそっ、もう追い付かれたのか!?」


「この奥は宗主の神聖なる儀式の御前! 決して通すな!」


 やはり全力で止めるつもりか! 貴方がアルカディアに従うのなら少しは痛い目を見てもらう!

 二刀流から一本の剣に戻して、来たる敵をバッサバッサ凪ぎ払う。

 軽く剣を振るうだけで見事に吹き飛ぶ者達。ふと前を見ると、ザットが次々と敵を盛大にぶっ倒している。

 敵は良いようにやられているぞ。さぁ、あの先に居るアルカディアとご対面だ!!


「貴様ら。こんな事をして……ただで済むと思うなよ」


「うるせえ奴等だな……やられた奴は大人しくやられとけ。それとも何だ? もっといたぶられたいのかてめえは?」


 無抵抗な奴の遠吠えをわざわざ応じる必要はない。相手するだけ、時間を取られるだけだ。


「ザット。そんな事をするよりも、もっと優先すべき事がある」


「ちっ、分かってるよ。ちょっとからかっただけだ」


 扉はよくある普通の一軒家のような物でサイズとしては何故か小さい。

 けど、開けた瞬間に物凄く広い空間が視界にダイレクトに伝わった。

 ガラスの階段の奥に待っているであろうアルカディア。一足歩けば神秘的な物が置かれていてそこは完全に別空間。

 果たして、これはどういう構造で作られているんだ? 城が空中に浮いているだけでもおかしいと言うのに。


「なんだ、こりゃ!?」


「この空間。明らかにさっきとは違う」


「となれば奴が居るんだな? じゃあ、心置きなく殺れるな」


 あぁ、道のりが思いの外長かったよ。けれど……これで終われる。

 最後はアルカディアに半ば連れていかれたマリーを助けて、貴方を倒してしまえば世界も平和になる。

 

「長いな」


「大分歩いているが、まだ着かねえか」

 

 創造神ミゾノグウジンを降臨させようとする祭壇は結構長い物で道中に敵は居ないが足がくたびれそうになる。

 けど、その痛みをつつ昇りきった先にはいよいよお待ちかねの彼が待っていた。


 手を両手で何とも神秘的な空間内で響き渡る拍手の音。ここまで来るだけで、僕達は幾つもの障害を乗り越えてきた。

 今日はその落とし前をしっかりと付けさせて貰う!


「おめでとう! ここが君達の最終到着点だ! 祝いの品をあいにく用意していないが宗主自ら拍手を持って祝うとしよう!」


「ただの宗教団体がこんなに事態を大きくしてくれるとはな。お前が犯した全ての罪……ただで帰れると思うなよ?」


「別にただで済むとは思っていない。これでもある程度覚悟を決めて計画を決行しているのさ」


 マリー。ここに来てようやく会えた。随分と待たせてしまったけど……今度こそはリベンジだ!


「ご託は結構です! それよりもマリーを離して下さい」


「それは無理だね。彼女には最終計画の要となる創造神ミゾノグウジンとなる大変貴重な器なんだ。幾ら言葉や金を積まれようと私は絶対に手放さない……但し!」


 自前の杖を僕らに向ける。そうか、どうしてもと言うなら力で証明して見せろと言いたいのか!

 だったら上等! 多少強引な手を使っても彼女を取り戻す!


「力で奪えるなら、やってみたまえ。私の全身全霊の力に耐えられるなら!」


「へっ。てめえの戦力はアビスの消滅で頼りのモンスターが散り散りになって何人かのお仲間が食われている。仲間にしていた筈がとんでもない化け物にチェンジした! だから、この上に立たされている状況は詰みだ。どれだけ余裕ぶっても!」


「彼等は神を降臨させる為の尊い犠牲となった。それは後々後世に未来永劫刻まれる事になるだろう」 


「貴方は! 部下を何とも思っていないのか!」


「腐ってやがる!」


「罵倒、蔑み大いに結構。私は神の自分の従いでここに立っているのだ! 例え、どれだけ死のうが泣いている暇があったら新世界へ飛ぶ準備を早急に済ませる! そうでなければ、この世界の未来は永久に閉ざされるのだからな!」

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