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エピソード73:この答えに後悔なし

 少しだけ明かりが照らされた……運悪く落ちれば転落死になりかねないフィールド。

 群がるモンスターの大群を兵士達が対応し、ザットは我先にとアビスに向かって刃を振り回す。


 鬼の形相で下ろす凶刃。アビスはいなすようにして軽く弾く。僕も向かおうとするが、それは大きな体を誇るモンスターによって妨害された。

 邪魔をしようとしても無駄だ。悪いけど、先に進ませて貰うからな。


「二刀流形態!」


 数秒のプロセスを経て織り成す二本の剣。元々あった一本は二本に裂かれたので威力は少し下へ行くものの、数が多いというこの状況ではこっちの方が活かされる。


「切り裂け! 真・蒼天円舞そうてんえんぶ!」


 相手に飛び込むような形で次々と豪快に凪ぎ払っていく奥義。敵は圧倒される形を持って、戦意を失い地面に伏していった。

 続けて、苦戦している兵士達を助けるようにモンスターを切り刻む。

 この後の戦を考えるといい加減アルカディアの元に辿り着けるだろう。


 そうなると、なるべくは戦力を温存しておいた良い。とは言え、兵士達がいいようにやられてしまうのは黙って見ていられないというのが一番の問題なんだけど。

 僕はどうにしても弱っている人や困っている人がいれば、多少の迷いはありつつも結局手を差しのべてしまうタイプなんだ。

 今更人に変えろと言われても無理な物は無理である。


「終わらない闘争。神が下す祭壇を阻止するお前達の真意は何処にある?」


「はっ、馬鹿かてめえは! そんなもん……部下を使って、街を平然と壊し挙げ句の果てには自分が思い通りの世界にしてやろうと企んでいるからに決まってんだろうが! 鼻からそんなくそったれな世界は断じてお断りだ!」


 それ以外に何の理由があるのか。ザットの言う通り……アルカディアは自分の思い通りになる世界へとする為に創造神ミゾノグウジンを呼び込むだけに多くの女性とマリーの命を使って、何か僕等には予想だにもしないとんでもなく凄まじい計画を企てているに違いない。

 

 もし、計画がクリアされたら僕等の命はどこかに向かうのかも。

 アルカディアのさじ加減では消されると言う可能性も充分考えられるので仮にそうなったら、この異世界の全てが生まれ変わる。

 

 そうして僕の意識はアルカディアに殺された時点ではっきりと途絶える。

 こうなるとショウタ・カンナヅキは異世界で死去する事にはなるが、現実世界に帰って来れるのか?


「あくまでも己に準じるか。なら、私も自身の道へと進むとしよう」


「いーや! てめえは今日で朽ち果てる! 俺の凶刃でな!」


 もしかしたら現実の僕は殺されるのかもしれない。そうなれば……本当に唐突だ。

 この異世界に神無月翔大というイレギュラーを招いたの誰か? そして一見関係ないように思えて発生する現実世界に置ける不可解な事件。


 異世界と現実を行き来する能力の謎もアルカディアに負ければ全てが壊される。

 今はなんとしても、この世界を守り通す。そして見知らぬ世界で始めて巡り会えたマリーを救う。

 それが現段階に置けるショウタ・カンナヅキの使命!

 

「アビス、今は貴方が邪魔だ!」


 二本に一本に。豪快に叩き落とす一閃が地面を切り裂き、爆風を撒き散らす。

 だが、アビスの動きは実に軽快で反撃もかなりの速度で人間とは思えぬ動作を繰り出す。

 それに付いていこうとするザット。冷静さを欠いた動きがアビスに良いようにあしらわれるだけであった。


「お前はあっちに行ってろ! こいつを狩るのは俺だけだ!」


 単身で突っ込んだ所で我を見失っている君では到底勝ち目はない。

 何とかして冷静にさせないと。そうと決まった時には身体が思わず反応した。

 

「……っ!? なんで逆らってんだ!!」


「君だけ突っ込んでもアビスには到底勝ち目はない。けど、二人で協力する方が勝率は格段と上がる。だから!」


「はっ? ざけんなあ! てめえの力なんざ借りたくもねえ! てか邪魔だからさっさと退けーーぐぁ!」


 こういう馬鹿は殴って言い聞かせた方が言葉よりも手っ取り早い。

 後で最悪の仕返しが待っているかもだけど……震えて待機するしかないかとある程度覚悟はしていた。


「悪いね。こうでもしないと君は目覚めないだろ?」 


「へっ……非力なお前さんが俺の頬を殴ってくるとは。随分と舐められたもんだ」


「それは冷静さが欠いた証拠だ。今の君は頭に血が昇り過ぎている」


 ん? アビスが僕達を待っている? そういえば……なんで全然反撃してこないのだろう?


「現状のお前達の判断が明日の道を変える……その大事な決断は決めたか?」


「てめえ、わざわざ待ってんのか?」


「苦悩に浸されている貴様をここで殺した所で意味もなく空虚に枯れる」


「へぇ~~なら、わざわざご丁寧に待ってくれてありがとよ。てめえが律儀に待ってくれたお陰で俺の心は決まったぜ」


 片方の頬を殴られ、半分倒れ込んでいたザットが気力だけで身体を起こす。

 そうして隣の僕に無言の合図を送った。彼の冷静さがここに来て戻ったんだ。


「こっちには武器が変形しちまうトンデモ野郎が付いている。今の俺達に敗北の文字はねえぜ!」


「共に組む道を選んだか。だが、そうであったとしても……私の敗北は運命に組み込まれてはいない」


 貴方の言葉は僕達で崩す。その運命とやらも乗り越えて見せる!

 

「言い出しっぺはお前だ。俺の動きに付いてこいよ?」


 わざわざ殴ってまで説得したんだから、君の足手まといになるのだけは避けないと。

 ほぼ同士に展開。右から上に回る僕と左から上に回るザットでアビスに攻撃を仕掛ける。

 僕達の反撃に反応したのか、他の兵士達もモンスターの魔の手をどうにか払い除けて跡を追い掛ける。


 最初に突撃した頃に比べて随分と兵士が居なくなってしまった。

 道中で色々と犠牲を出しすぎてしまった。もう、死んでしまった人達の命は二度と戻っては来ない。


 だが、悔やんでばっかりもいられないだろう。こうなると知って僕達はアルカディアに挑んだ。

 兵士達の覚悟はとっくに決まっていた筈だ。


「審判の時は刻一刻と着実に刻んでいる。計画の根元が完成された暁において、アルカディアは世界を書き換えるだろう」


「だから、僕はそうなる前にアルカディアを止めます!」


 黒のコートの袖の中に伸びる剣。それをアビスは難なく身体の一部かのように使いこなす。


 所々で先読みを使用しても、人間以上の動きを繰り出すアビスはとてつもなく脅威だ。


 けど……こっちには頼れる者も居る。何も貴方と戦っているのは僕だけじゃない!!


「てめえがどういう理屈で組んでようが知った事か! 俺はただ、家族を奪ったお前がそこに居る! だから今日で仕舞いにしてやるだけだ! 俺の為にも家族の為にも!」


 ザットの灰色の剣とアビスの腕先の剣が火花を散らして、お互いの武器が主張しあう。

 そこから人の目で追い付かない程の速度で乱闘が繰り広げられる。

 

 激しい動きで剣を振るう度に揺れる茶髪の髪。対して動きに付いていきながらも、さっきとは別人と感じているのか執拗な攻撃に少しながら焦りを感じているようだ。

 とは言え。数が迫ってきても全く動揺する気配も見せず周囲の兵士を簡単にあしらう。

 

「その選択は誤りだ。自らの決断に報いを受けろ」

 

 まだモンスターは全滅してはいない。早い所で切り上げないと……計画を完成させてしまう。

 アビスとは早々に決着を付けなければ。そう思うと、僕の手が意思とは関係なく益々滲む。

 

「けっ! こんな時に汗かいてんのか?」


「まぁ……さすがにここまで切羽詰まるとね」


 後にも前にも状況はかなり厳しいと思った方が良い。けど、簡単には諦めきれない。

 そう思うと、拳に力が入る。


「けど、逆転の機会は作れる!」


 モード変更。自らの妄想で書き換えられる事が出来る最強の兵器と化した真・蒼剣ならどんな無茶も可能にする。

 剣・銃・両剣でも充分強いが、まだまだやれる! 僕の妄想力が残っている限りは。

 

「なんだ? 何が剣にそうさせている?」


「てめえも随分と驚いてんじゃねえか。まぁ、始めはお前と同じ反応したもんだ。あの剣がどでけえ大砲をぶっぱなす武器やら剣が分かれるやら……今じゃあ、何とか馴れたが。また恐ろしい事をしてくれやがった」


 刀身の一部がパカッとスライドして、持ち手の逆へと滑り込む。

 一瞬で完成して出来上がった一本の武器から連なる二つの刀身。

 表現はやや曖昧になってしまっているけど、分かりやすく言ってしまえば薙刀か。

 まーた、僕はとんでもない事をいとも簡単に作り上げてしまったみたいだ。


「蒼の騎士ショウタ・カンナヅキ。お前には常人とは違う何かが備わっているらしい……しかし、私には後には引けない。この世でやるべき意義がもうそこへと臨界する以上は」


 ならお互い譲れない。貴方のお喋りに付き合っていられる程時間は残されていない。

 だからさっさと切り上げる!


「ザット! それに皆さん! 奴に総攻撃を仕掛けます! アビスに付け入る隙を与えないよう徹底的に追い詰めて下さい!」


「おぉぉぉ!」


「ちっ……本来なら拒否りたいが、この状況じゃ仕方ねえか!!」


 本気になった僕達を止める事は出来ない。例え……幾らモンスターを支配下に置けるその謎の手も、僕の気合いに勝れば!


「ぐっ、蒼はここまで進化するか!?」


 苦し紛れに避けるアビス。あれだけ攻勢に転じていたモンスターも気合いが入った兵士達によってご臨終。

 それに連なって、冷静さを欠いてきたのかアビスの動きが鈍ってくる。

 劣性に追い込まれた上に先程まで良いようにもてあそばれていた僕達がここぞとばかりに攻めてきたんだ。

 数も圧倒的にこちらが有理。よもや、一人に立たされた彼に余裕の表情はない。


「これがお前達の答えか。なら、私の提示は!!」


 亜空間がまたもや再び。残念だけど、数を増やす切り札は本日を持って打ち切りにさせる! こいつをぶっ飛ばして!

 勢いよく、アビスに目掛けて飛ばす薙刀。クルクルと手裏剣のように回る強靭なる刃が回転。


 凄まじい速度は数秒の範囲で接近。すぐさま後退するアビスではあったが、次の瞬間薙刀は変則的な動きで……反対側に回り込んだ。

 

 アビスは薙刀の動きに警戒していた。だが、ザットと各国の兵士がその動きを封じる。

 多勢に圧されればさすがにどれ程強かろうと動きは必ず止まってくれる。

 これこそが僕が思いついた悪足掻き!!


「切り裂けぇぇ!」


「そうくるか!」


 自分の手に戻ってきた薙刀を二本に分解。何人かの兵士がアビスの動きを止めている間に跳躍して飛び込む。

 すぐに気配に気づいたアビス。一本の剣は封じられた……がもう一本の剣は本命の手を切り裂いた! 


 手から血が吹き出した。ふらりと動きが止まったので構わず二本の剣を横に振るう。

 

 そうしてラスト。アビスに対して憎悪の感情を司るザットと僕は互いに無言でアイコンタクト。

 一本の剣を床に捨てて、Xの文字を作り上げる。灰色の剣と蒼の剣が見事に組み合わさった貴重な瞬間であった。

 これでご自慢の力は為す術もなく死んだ。貴方の体力もそう残されてはいないだろう。


「ぐはっ! はぁ、はぁ……アルカディアよ。お前が思っていたよりも彼等は侮れぬ存在となったようだ」


「お前はあの傲慢王の指示に従った。だがそれでも、あの時家族を葬った事実は決して忘れられねえ」


「常の淵に投げる必要はない。お前は私に対し永遠に怨めば良い」


 あれだけ……血塗れでも立てるのか。モンスターを支配下にする能力も亡くなった今よもや対抗する力はないと言うのに。

 どうして、そんなにも苦しくなさそうなんだ?


「抗いは可能性の限界に君臨した。もう、間もなく世界は奴の手に渡ろうとしていよう……だが、今の俺達ならばアルカディアと渡り合えると」


 両手を真横に? ま、まさか……その奈落に飛び込むつもりか!  


「私はここまでだった。お前達の完勝だ。よもや、悔いはない」


「やめろぉぉ!」


 時すでに遅し。手を伸ばそうとした時にはもう消えていた。あれでは死んだかどうかも分からない。

 下が深すぎるせいか……くっ、なんでか分からないけど。あんな事をしたアビスが何故か憎めない。

 彼はきっと、この世界で自分という意味を探していた被害者なんだ。

 ザットがどう言おうとこれだけは変えられない!


「ははっ、ようやくくたばったか。最後の死に様は呆気なかったな……あぁぁぁ!!」


 結果的には家族の仇を討てた。けど、結末は到底納得の行く物ではなかった。

 この無情なる空間。さっきまであれだけ生死を懸けた戦場はザットの悲鳴で埋め尽くされる。

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