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エピソード72:存在の証明=解答不能

「私のご自慢の城が一気に血だらけだ。終わった後のお片付けを考えると嫌になりそうだよ」


 天空の城にある最上階。アルカディアは最高級の椅子に座りながら、予め手軽な魔術で作製したモニターから皆の状況を読み取っていた。

 時折無惨に殺されていく敵に嘲笑いながら、確実に一歩仲間を差し置いて最上階に近付こうとするショウタ・カンナヅキの姿勢に対しては目に見張る物があった。

 まさか、私の計画を潰そうとあらゆる手段に講じてでも近付こうとするとは。

 その信念には笑う他なかった。ただ一人を除いて無口な者が居るがアルカディアは一向に気にしない。


「……私の計画は確実に進行している。これで、もう間もなく君の願いも叶うだろう」


「だが、敵は居る。最大にして一番の脅威である……奴が」


「あぁ。彼の事か……あんなに痛め付けてやったのに、まだ立ち直ろうとする根性がある意味素晴らしいよ。まぁ……そのしぶとさを完膚なきまでに潰してしまえば、彼の人生は地獄に叩きつけられる」


 天井から吊り下げられたマリーを見て、ほくそ笑むアルカディア。


 既に計画は最終局面。

 

 マリー・トワイライトに送る魔力は地上の女共が今もこちらに送っており、過程としては順調その物で。

 

 現在も熾烈な攻防が続いているようだが、自身の力を少々授けてやった部下とあらゆるモンスターを強制的に支配下に置くアビスの能力が合わさって最強の防壁と化している。

 現状ではこちらの優勢。

 良いスタートを切れたと喜ぶの声が漏れる。


「その役目をお前がやれと?」


「そう……だね、そうしてくれると助かるよ。いずれ彼等が私の元に辿り着くのも時間の問題かもしれない」


 優勢ではあるが、万が一の事も考えられる。この順調な滑り出しが急降下すれば戻すにもかなりの手間を強いられる。


 だからこそ、アルカディアは打てる手を打つ事にした。

 もはや右腕と呼ぶべきサイガが戦場に立った今、頼れる者はアビスのみ。


「蒼の騎士と荒くれ者の副隊長が複数人連れて、もう間もなくこちらにやって来る。君には出来る限りの時間稼ぎをして貰いたい」


「ミゾノグウジンを呼び寄せる時間稼ぎか?」


「なんだったら、彼等を殺してくれても一切咎めない。寧ろそうしてくれた方が私にとって都合が良いからね」


「奴等は侮れない……両者とも、危険な存在である以上戦闘の長丁場は回避できないだろう」


「大丈夫さ。蒼の騎士も君に比べればメンタルも強さも話にならないし、隣の治安団の副隊長でさえもサイガが見事に退けた相手なんだ。モンスターを支配下に置ける素晴らしい能力がある君に敵はいない。だから、安心して行きたまえ。創造神ミゾノグウジンを目覚めさせる準備だけは着々と進めておくからさ」


 アルカディアに協力する理由は創造神ミゾノグウジンにある。彼からすれば、アグニカ大陸における全て生きとしいける生命を産み出した神から自分がこの世に誕生した正当な理由を知りたいだけ。

 その他は何も望んではいないし、アルカディアが神をどうこうしようと興味を持たない。

 アビスはこれっきりで最後だと視線を送りつつも、彼等が駆け抜ける場所を先回り。


 明かりがひとつもない、どこまでも続く螺旋階段。慎重に足を一段一段……ではなく階段の真ん中にある空洞を落下地点として一気に降下。

 上手い具合に階段の壁を足場の道具として、素早く交差する。


「私の知る全てが誕生する。だが、しかし道は突如として闇を照らす。まるで……光を邪魔せんとする天の宿命と言わん限りに」


 何段あったかは既に忘れた。気付いた頃には床に着地している。

 アビスは真っ直ぐただの廊下を進む。そこには雑音は聞こえない。


 どこまでも続く暗闇がより一層不気味さを醸し出しているがアビスにしてみれば、それは自然と落ち着く事だった。

 この暗闇が心をより一層沈めてくれる。精神が非常に穏やかになるのだ。

 もっとも、感情の起伏など滅多に起きるものではないのだが。


「その障害は視界にある物。完なる真理を奪うのは……やはりお前達であったか」


「相変わらず意味不明な言葉を並べやがって。けど、そいつも俺の剣で終わらせてやらあ! 家族を奪われた無念、今度こそ晴らしてやる!」


 治安団所属かつ副隊長の立場にあるザット・ディスパイヤー。

 茶色の髪はぼっさぼさで全体的にまとまりがなく言動もやや荒くれている。


 腰を低くして、こちらに向けるように構える灰色の剣。その刀身はこれまでの戦場で人を大勢斬ってきたのか血痕が何ヵ所かこびりついてる。


 この広い空間。下は完全なる闇の奈落が待ち受けているであろうフィールドに対し、例にも漏れず蒼の騎士と何人かの兵士が矛を向いていた。


「私は知らなければなかった、存在意義を。ならばこそ犠牲は運命的」


「お前の勝手な理屈で父さんは! 母さんは! 姉さんは殺されても問題ないって言いたいのかよ! ふざけた事抜かしてんじゃねえぞ」


 自分の理屈が理解されるとは思っていない。

 ただ、それはこの世に選ばれた自分を知ろうとするには通らなければならぬ道でもあった。


 あの時、あの場所はかつて傲慢王の指示で動いていた。それだけの理由で人を殺めた。

 動機は領地の拡大をする為の再三通告をしたにも関わらず、断固従わなかったという理由。 

 

 この当時、アビスは誰が殺ったか分からぬように村を消してこいとの指示が下された。

 無論指示通り、徹底的に至らしめた。物に関しても人間に関しても。

 

 大人は勿論の事子供であろうが容赦はしない。アビスの視界に映る全てを自分の手でもしくは強制的に支配下に置いたモンスターに喰らわさせていた。

 だがザットに関して言えば、所謂情け。アネモネ・ディスパイヤーという当時ザットの姉にして優秀な武勇を誇る人物を任務の為やむ無く殺害。


 その際、付着した血を見ながら幼かった彼は絶叫した。意識をなくし、二度と日の目を見ることがない姉さんを抱き抱えるようにして……同時に普段子供の浮かべる表情と程遠い顔を向けていた事を。


 あれはなんだったのか? 一瞬ではあったがアビスの背中に悪寒が走る。


 彼はこの先私という不可解な存在に恨みながら生きていくと。今逃せば後で後悔するのは目に見えていた筈だと言うのに。


「あの時、逃したのは大きなミスだった。理性を押し殺してでもやっておくべき定めであったというのに、私は愚かな天命を辿った」


 感覚は五年。月日が流れ、ザット・ディスパイヤーは復讐の心を宿して、この戦場に立ち自分の命を狙っている。

 

 家族の仇を取ろうとせんと刃を向ける青年と何度か会ってはいたが奇妙な感覚に包まれる黒髪の青年。

 

 アルカディアの計画をスムーズに進行させるには一人たりとも通すことは許されない。

 自身の真理がいよいよ暴かれる以上彼等の妨害はもはや必然的であった。

 

「だが、それこれもお前のお情けで生かされたんだ。だったら、このチャンスを無駄にする訳にはいかねえよな」


「そうか……虚無に包まれし世界で感情を優先とするか」


「何をごちゃごちゃと!!」


 ザットはイライラしていた。度重なるアビスの謎の言動に。一方で当初から不思議に思っていたショウタ・カンナヅキだけは態度が違っていた。


「虚無に包まれしって……こんなに世界が慌ただしく動いているのに貴方は一体何を知っているのですか!?」


「こいつの喋る言葉なんざ殆どデタラメだ! 聞いているだけ時間の無駄にしかなんねえよ!」


 イライラの感情がピークになった途端、ザットから先に襲い掛かろうとした。

 しかし、それはショウタによって妨害を食らう。

 別に守ろうとしているつもりはないのだろう。

 彼は情報を拾いたいのだとアビスはすぐに察知した。


「おい、何の真似だ?」


「少し待ってくれ。個人的に聞きたい事があるんだ」


「蒼の騎士! S級戦犯を守るつもりですか!?」


「違います……情報を拾いたいんです、時間はありませんが」

 

 ショウタ・カンナヅキにある思惑が胸の中に秘めているのだろう。

 彼と向き合う時間は全員が静まり返っていた。


「アビス、貴方は世界について何か掴んでいるんでしょう!? 

 僕も最近になって……この世界に違和感を感じているんです!」


 違和感。アビスはこの世界に自然と馴れ合った頃から具体的な

言葉が思い浮かんでこなかった。

 それがようやく……ショウタ・カンナヅキの言葉から拾う事になろうとは。


「蒼の騎士。お前も私と同じ感覚に浸っているのか?」


「僕は実の所、二つの世界から行き来しています。アビスを含めて皆さんにとってはとても信じられない話だと思いますが」


「二つの世界……」


「一つはこのアグニカ大陸における三か国が中心となる世界。そして二つは日本という海に囲まれた国が……あるんです。僕はそこからこの二つの世界を軸に何度も行き来させられています」


 行き来というワード。二つの世界という言葉はこの世界と長く付き合っているアビスにとって不可解で証明のしようがない言葉。

 実際にそれが実行可能なのはショウタ・カンナヅキのみ。

 信じるか信じないかは個人の自由と捉えられる。


「お前と私はどこか似ている。そういう境遇がこの世界を起点に映している。なら……より一層急ぐべきか」


 蒼の騎士の証言から世界その物の疑問が浮かんだ。元来自分の存在と一緒に微かに抱いてはいたが、今日でそれは鮮明となった。

 

 静かに瞳を閉じつつ、アビスは武器を解放すると同時に亜空間のような物からモンスターが押し寄せる。

 半ば強制で連れてこられたのだろう。モンスターの視界はすぐさまアビスに映るが当の本人は全く焦る様子を見せない。

 

 それもそう……彼には、あの力があるのだから。


「私の存在意義は今日を持って知る。だが、その享受を妨害しようとする者達が真理を葬ろうとするだろう……しかし、お前達ならそれが可能と為しうる。奴等を食らいつくせ。目に映る全てを……永劫の闇に葬るのだ」


 右手の紋章から瞬時に支配下に置かれるモンスター。これで勢力は同等。

 話し合いは終わった……ザットは今にも斬りかかりそうな体勢で保ち、ショウタ・カンナヅキは蒼剣を再び呼び寄せる。

 かの形状は前に出会っていた時よりも大きく変更されているようであった……がアビスは平然を保った。

 

「お前達の信念を見せてみろ」


 具体的な目的を掴めないS級戦犯アビスの力は侮れない。辛うじて、ここまで運よく生き残っている兵士達は気を引き閉めていた。

 静まり返っていた空間が一気に戦場の舞台と化した瞬間である。


「今日で本当に終わらせてやるよ……てめえの人生その物を!!」


「僕は進みます。自分が思う道に辿り着く為に」

 

 三人がそれぞれ想う意志。激動の合図は天に舞う。

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