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エピソード71:バトンは決して手放すな

 二人を置いて、先に進めば最上階へと続く螺旋階段らしき物がそこに。

 見上げても続く階段。果たして、ゴールはあるのか? 何階まであるかは分からないがここで足を止めるつもりはない。

 イクモ団長とエレイナ将軍が繋げてくれた以上無駄には出来ないから。


 それはライアン隊長もザットも同じ気持ちだったようであり、団員もその他の軍人も上へ上へと遥かに続いている階段を見てもすぐさま駆け込んでいった。


「ここで俺等の足をくたばせるつもりか。だとしたら相当甘えぜ、アルカディアさんよ!」


「各自警戒を持って、進め。この先にはどんな罠が降りかかってもおかしくないからな」


「「了解!!」」


 気合いの良い返事。大勢でアルカディアの拠点に挑もうとしている身にとって、これ程安心できるとは思わなかった。

 やっぱり単身で乗り込むよりも何十人も居た方がモチベーションも保ちやすい。

 

 ちょっとした闇の中で足を進める僕。暗すぎたせいで思わず、転けてしまい場面がちらほらとあったけど、その出口らしき場所がようやく開かれる。


「周辺が空っぽ。ただ、照明とかはあるようですぜ」


「総員、戦闘準備だ。決して気を抜くなよ」


 そこは中央広場のような場所で奥にはまだ先があるようにも見える。


 敵の気配はまたしてもない。待ち伏せかとも思うがさすがにしつこ過ぎる。

 アルカディアが同じ手を下すとは到底思えないけど。


「あの時、あの場所で。お前を逃す事になったのはかなりの痛手だったが……ここでようやく心置きなく殺せる! さぁ! 覚悟は当然出来ているんだろうな? ライアン・ホープ!」


 平坦な床の中央付近から徐々に姿を現す片目の青年サイガ。彼の憎しみは片目を葬り去った張本人であるライアンをこの手で始末しない限り、永久に追いかけ続けるのだろう。

 

「一人で大勢に立ち向かうのかよ。悪いが、こっちは遊びじゃねえんだ……だから、兄貴一人に背負わせるつもりはねえぜ。恨むのなら単独で来たお前自身を恨みな!」

  

 数ならこっちが上。幾らなんでも単独で大勢に抗える程の力はないだろう。

 彼がどれだけ強いかはアルカディアと最初に顔を合わせていた時から知っているけど、さすがにこんだけの軍勢を相手にするなんて正気の沙汰とは思えない。

 だから、ここは数で攻めて突破するだけ!


 一回り大きくなった真・蒼剣を瞬時に呼び出す。サイズは完全に大剣のそれだが、真・蒼剣は以前のように身体の一部分と化しているので、別段重くもなく身軽に動ける。


「相手は一人! まとめて掛かれええ!」


 ゲネシス・オルディネ・スクラッシュの三カ国も勢いよく飛び出す。

 一人相手に情けをかけない一斉襲撃。普通ならこれで落ちる筈だ。


「ふん。雑魚が束になった所で俺を倒せると思うなぁぁ!」


 月と良く似た黄色の剣。紫の髪を揺らして、人を蔑むその瞳。

 紫の鞘から引き抜いた剣は一斉に襲撃を図る兵士達を

次々といとも簡単に無力化していくという同じ人間相手に容赦なき図。

 

 これは彼の過去あるい執念が心の奥で縛り付けているせいなのか?

 いずれにせよ常人とはかけ離れた変則的な加速が僕達を苦しめる。


「邪魔だぁぁぁ!」


 加速がもはや残像。僕の視界では捉えるのがやっとで。あの尋常では動きに対してまともに飛び込めない。

 故に頼りの先読みも思うように機能してくれないって、それは最近の事かも。

 なんか、使う度に痛みのリスクが伴うからあんまり頻繁には使えないんだよねえ。

 

「くたばれえぇ!」


 単独であろうとも、大勢相手に怯みもしない容赦なき斬撃が僕達を苦しめている。

 もはやチーターと化している。それほどまでに早い。


「なんつー奴だ。完全に化け物じゃねえか」


「大勢で攻めようが、俺に勝てない! 過去に受けた傷がこびりつく限りは!!」


 更にスピードを早める。捉えきれない加速で次々と兵士を切り殺す姿は酷く恐ろしい。

 こいつをどうにかしてやらないとアルカディアの元には辿り着けない。

 なんて、難易度が高いんだ。余りにもハードルが高すぎるでしょ!


 ザットは皆が地面に倒れ、死体が溢れる床に唖然としていながらもすぐさまサイガに飛び付いた。

 ライアンも様子を見計らって剣を振り払う。


「宗主の計画は完遂させる! それにはまず、この片目の疼きを招いた貴様と計画を阻止する障害を跡形もなく消し去る。全ては俺達が望む新世界の為に!」


 そうか、君には君の理想があるんだね。だとしても……僕はそれを断固として許さない!


「へっ、片目潰されただけで未だにご執心かよ! 兄貴も厄介な奴にマークされましたな!」


「あぁ、全くだよ」


 何人束に掛かろうと相手にならないなら、ぶっつけ本番だ! 二人がサイガとやりあっている間に僕は剣を頭上まで高く持ち上げる。

 すると、真・蒼剣の刀身全体から強く発光。祈りは力となって敵を振り払う最大の一撃となれと。


「二人とも下がって!!」


 程よくチャージが終わった所で振り落とす。その一撃はコンクリート製であろう地面をいとも簡単に切り裂く強烈な剣技。

 威力は前回の奥義「蒼天の舞・咆哮」の何倍も超えているという非常に恐ろしい技に仕上がっていた。


「相変わらず、危ねえな」

 

 これなら、さすがのサイガも五体満足で退けられないだろう。実際僕が放った一撃に対して、手持ちの黄色の剣で苦し紛れに防いでいる。


「真・蒼咆哮! 消し飛べぇぇ!」


 苦しそうな声で何としても被害を最小限にしようと己の身を固めるサイガ。

 最終的にはとてつもなく破壊力のある蒼い斬撃を手と剣を使って、向こう側に払いのけた。


 彼は苦しそうに床に背中を預けていた。何人か怪我を浴びた兵士達がここがチャンスであると奇襲を掛ける。 


 吐血しながら、それでも兵士をバッサバッサ切り落とすという何とも異常な耐久性能……あれだけの攻撃を受けてもなお、まだ立てるのか?

 

「ふん。それで俺を殺せると思ったら大間違いだぞ……クズども」

 

「あいつ……もう執念で立ってんのか」


「計画の阻止を許すまいと徹底的に俺達を捩じ伏せるつもりのようだ。あとは私の受けた傷の恨みも入っているのだろう」


「そう……俺は終わらん。最悪は貴様と相討ちになってでも殺さねば、この片目の痛み! 疼きは止まらない!」


 最初から目線はライアン・ホープにしか眼中になかった。その他僕を含めての連中はただの障害物という認識なんだろう。

 だからこそ、彼はしがみついている。執念といういつまでも取れない縛りに。


「ライアン! 正々堂々、一対一の勝負をしろ。俺は逃げも隠れもしない!」


 どうする、挑発に乗るのか? 判断はライアン隊長に任せるが。

 状況はややサイガの方が優勢。あれだけ多数居た兵士達も今やほぼ死体となって倒れている。

 

 残りは僕達三人と若干の兵士と国に仕える一部の側近。

 

 ただ、側近に限ってはサイガの余りの強さに顔がひきつっている。


「お前……手が震えているようだな。大層な服を着ていながら、実に惨めだ」


「貴様は許さん。部下の仇は取らせて貰う! 覚悟しろぉぉ!」


 待て、そんなに早まるな! それだと相手の思惑に嵌まーー


「消えろ」


 一言呟き、目にも見えぬ速さで近付く者の首を撥ね飛ばす。ゴロゴロと転がっていく首にもはや口なしである。

 非常におぞましい、溜まらず吐き気を催しそうになりそうだ。

 

 あんな一瞬で終わるなんて。


「覚悟を決めろ、お前達に逃げ場ない。」


「これではアルカディアの元に辿り着けないな」


「兄貴!! どうするつもりですか!?」


「どうするって……私はこいつとの一対一の勝負を受ける。これ以上戦力も時間も消耗させる訳にはいかんからな」


 貴方は僕達を先に行かせるつもりなんですか。

 もう、そんな事はイクモ団長とエレイナ将軍だけで懲り懲りだ!


「ふっ、他の身を守るためなら自分を犠牲にするか。その判断、死体の山と化す前にしておくべきだったな」


「後悔しても、もう遅いのは分かっている。だが! これから……それは巻き返せる!」


 ライアン隊長とサイガは互いに睨み合う。両者と共にもう僕達の事は視界に入っていないだようだ。


 今なら、アルカディアの元に急げるだろう。

 

 但し、その際はライアン隊長を置く事になるのでザットが許してくれるかどうかだ。

 

 何だかんだ言って、ザットはライアン・ホープを兄貴と呼んで慕っている。

 果たして……彼をそんな人を放っておけるのだろうか?

 

「ザット。お前は馬鹿な事はせず、ショウタ君と一緒にアルカディアの元へ行ってくれ! 早々時間も残されていないだろうからな!」


 彼の足が止まっている。本当ならまだ、ここで粘りたい。表情からしてそういうのが滲み出ていた。

 しかし、それはライアン隊長が決して許さない。


「行こう。今の僕等では足手まといになるだけだ」


「ちくしょう」

  

 拳をわなわなと震わせるもザットは僕を置いて、一足先に奥へと猛ダッシュした。

 では僕も行くとしよう。ライアン隊長の厚意をイクモ団長同様無駄に出来ない。

 僅かな戦力を引き連れてまだ見ぬ向こう側へ。この先に何が立ちはだかろうと僕等は進むしかないのだ。

 

 ……貴方の無事を願っています、ライアン・ホープ隊長。


「残ったのはお前と私だけになってしまったな」


「感謝するぜ……これで、やっと心置きなく殺し合える。俺の片目の奪ったあの日から憎しみは果てまで続いた。それがようやく晴れるんだ! もう邪魔する存在はない! たっぷり時間を掛けて……貴様を殺してやる!」


「良い心構えだ。しかし、私にはまだ生きたいという願望が残っている。あれだけ強気でザットを無理矢理行かせたのだ……それでおめおめと殺されては格好がつかんからな。本気で行かせて貰うぞ!」


「勝つのは俺だ!! 貴様は敗北の道へ堕ちろぉぉ!」


 後ろで爆音がした。何があったのかは戻ってみないと何とも言えない。

 けど、振り向いてはいられない。ライアン隊長が繋げてくれたバトンは離してはならないんだ。


「遅せえぞ、お前等。俺を待たせるんじゃねえ」


「ザット……」


「ショウタ。こうなった以上は何がなんでもアイツを袋ネズミにしても叩き潰すぞ、繋いでくれた人達の頑張りを無駄にしない為にな」


「あぁ、君の言う通りだ。必ず達成してやろう」


「けっ! んじゃあ、ちゃっちゃっと行くぜ!」

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