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エピソード70:片道切符。お通り願います

 天空に浮かぶ城の入り口から僕達を誘わんとする透明な床。

 そこに通すまいと全力で立ちはだかるミゾノグウジン教の一員。

 メンバーは魔法をこなしたり、近距離武器で猛威を奮う。しかし、こちらには圧倒的な戦力が存在する。

 その程度の脅威なんて楽に乗り越えてみせるよ。現に戦闘体勢に入れば狂人的な活躍をするザットが一番先頭に立っているし、今の所は何も心配がない。


「おらおら! 邪魔する奴は引っ込んでやがれ!」


「怯むな! この勝負が我々の明日を掛けた大決戦である限り撤退する道はない!」


「哀れな人達だ。そうまでしてアルカディアに指示をすると言うのか」


「敵の戯れ事など!!」


 数は同等だが、城の中の戦力は未知数。なるべくなら力は温存しておきたい。

 しかし、こんな最序盤で時間を食うわけにもいかない。まずは荒業で押し通る他無さそうだ。

 圧倒的なミゾノグウジン教に対して一泡吹かせてやるにはやっぱり強引さが必要となる。

 それがこの進化した真・蒼剣ならばどんな勢力も払いのけられる。安全な位置でぶっぱなせばね。


「蒼剣、銃形態!」


「おい……何のつもりだ? てか、いつからそんなヘンテコな機構が備わった?」


「真・蒼撃砲……発射! 行く手を阻む障害を全てぶち抜けえぇぇ!」


 剣の持ち手を銃の引き金に。瞬く間に溜まったエネルギーを解放するだけで、蒼に輝く粒子が一つの光となって目に見える前方を通りすぎた。

 その範囲に当てはまった者は悲鳴を上げて、溶けていく。上手く避けた者は蒼撃砲の恐ろしさに身を震える。

 ま、まさか……僕が放った一撃がこれ程恐ろしくなるとは。この剣は変に進化をし過ぎたみたいだ。


「あーれ? さっきまであんなに居たのに、滅茶苦茶減ったじゃんか」


「おいおい。俺が見ねえ間にどんだけ成長してんだよ……てめえは」 


「いつの間にか強くなっていたらしい。これはうかうかしていたら遅れを取りかねないぞ、ザット」


「はっ! 冗談は程々にして下さいよ。さすがにこんな奴と比べられると虫酸が走ります」


 また性懲りもなく襲ってくるか。君達がそういう態度で掛かってくるのならば僕も別の対応を取らせて貰おう。

 僕は先行して次に押し寄せてくる敵に対して剣を二本に分解し、華麗なる動きで捌く。


 相手はかなり狼狽えているようだ。これで、形勢はこちら側のペースになったというわけだ。

 二刀流から通常モードに相当する剣へと戻してから、襲い掛かる敵勢力にガンガン真正面に切り払う。


「しっかし、あの時のお前はどこに行ったんだ? 今のお前はやたらと剣の性能を引き伸ばしているようだが。何か切っ掛けでもあったのか?」


「ちょっと、いざこざがあってね。返って、それが僕を成長させる促進剤になった事には感謝しないと」


「そうかい。だったら! てめえ、ばっかり活躍させる訳にはいかねえな!」


 負けたくないのか何なのか、言うや否や前にしゃしゃり込んで自分の視界に入り込む邪魔者をばっさばっさと切り伏せるザット。

 敵として立ちはだかれば一切の容赦はしないというのか。腕も頭も首も自分の進む道に障害があれば薙ぎ祓う姿は実に恐ろしきかな。


「もうちょいで本陣だ!」


「あらら、ザットとカンナヅキ君のお陰で楽が出来ちまったなあ」


「城の中は未知数。部下が優秀だからと言えてど気は抜くなよ」


「お前に言われんでも、分かってんだよ!!」


 あの……こんな状況で喧嘩するのは止めませんか? 後ろから喧嘩声が丸聞こえです。


「そらあ! 邪魔すんぜえぇぇ!」


 下をなるべく見ないよう前方の敵に集中していたら、どうにか辿り着けた天空の城。


 目の前にある扉を警戒心なく堂々と蹴破るザットの姿勢にはある意味関心しかない。

 と同時に今がちゃりと扉が閉まった。手で引っ張っても押してもびくともしない。

 武器でやったら、扉を抉じ開けられるか……いや、どうにしても僕らは先に行かなければ。


 脱出するのはアルカディアを倒した後からでも良い。


 一方でライアン隊長はザットの姿勢に対し、隣で呆れ果てていた。

 このザットには今もそして、これから先も苦労を背負わされるんだろうと思うと何だかなあ。


「少しは慎重にしてくれ。ここは仮にも敵地のど真ん中なんだぞ……敵が待ち伏せていなかったら、良かったが」


 僕達が乗り込んできたのに中は完全に藻抜けの殻状態。さっきまであんなに部隊を送り込んでいたのに、何か嫌な静けさだ。

 それはイクモ団長も同様に感じ取っており、すぐさま僕達を制止させる。


 城の入り口もといエントランスは長い廊下が先に先に続いており、部屋が一向に見当たらないと言うよりは暗闇のせいで辺りが何も見えないと言い換えた方が正しいのかもしれない。

 しかし、現状では入り口の前まではあんなに敵を用意していだから急にパッタリと気配がなくなるなんて完璧に妙だ。

 この先に罠を設置しているとしか思えない。


「変だ。幾らなんでも、おかしすぎる」


「待ち伏せかよ。くそがっ、上等じゃねえか! そっちから来ねえなら、こちらが挨拶してやらあ!」


「待て待て。頭ごなしに話を進めるな……まずは落ち着いてあくまでも冷静に対処するんだ。お前がそんな調子だと団員が拒否反応を示すぞ」


「別に良いですよ、ここで降りてくれたって。そうした方が余計な事を背負わずに済みます……副隊長の立場としてはあるまじき発言だとは思いますが」


 ザットとライアン隊長の間に嫌な感じが。イクモ団長は頭を抱えつつも若干険悪になりつつある二人を止める。


「俺達は、何十人以上の団員を抱えて組織が成り立っている。お前はライアンも力に対しては上だが、精神面が劣りすぎている。だから、もう少し人の事を考えて行動しろって言ってるよな? 何度言わせたら良いんだ?」


 イクモ団長から叱りの言葉を受けるザット。その態度はどこか反省しているようで反応していないという半々の態度を醸し出している。


 この話はもう終わりだと皆より先導に立ったイクモ団長。ライアン隊長が制止させるように努めるも、俺が先に行って様子を見てくると聞く耳を持たない。


「恐らく……奴等は俺達を確実に待ち伏せしている。なら、逆に俺一人で堂々と行って先に何があるのか確かめた方が良い」


「イクモ団長。それじゃあ、やってる事はザットと変わりませんよ」


「ふっ。まぁ、俺もそれなりに部下を想ってやってるんだ。こんな初っぱなから犠牲を出すわけはいかんし」


 靴音が聞こえる淡々とした廊下内。イクモ団長に続くようにして皆は意識を研ぎ澄ますかのように進む。

 だが、エレイナ将軍だけは我慢ならなかったようで気づいた頃にはイクモ団長の隣に。


「お前……」


「カッコつけるのはよせ。そういうのはもう流行らない」


「たくっ、何がなんでも邪魔したいようだな」


 こっちからは暗くて見えていないけど、イクモ団長はエレイナ将軍が隣に居る事を邪魔臭いと思っているかもしれない。

 て言うか、治安団の団長として勤める以前は確かスクラッシュ王国の側近として勤めていたらしい。


 となるとエレイナ将軍とはそこの国で色々な戦場を駆け巡っていたのか。

 顔を合わせてからずっとこんな感じなので、いつになれば大人しくなるのやら。


 さてお互い我慢強く先に進めば。ようやく廊下から出た先にライトアップされた広場が。

 ここにも敵の気配がない。奴等はどこに潜んでいるのか。

 ただ、立ち止まっていると天井から異音がした。


「そこか!!」


 剣を抜いたと同時にぶち抜かれた天井。鼓膜が痛くなる轟音と一緒にとんでもない巨漢が舞い降り、更に何にもない壁がパネルのようにひっくり返る事で牙を剥き出しにした恐竜型のモンスターが一斉に襲う。


 戦力をこちらに待機させていたのか。罠だとは当に分かっていたけど、思わぬ所で出鼻を挫かれてしまった!


「こ、こいつ!?」


「うらぁぁぁ!」


 エレイナ将軍を守るようにして、巨漢に立ち向かうも余りの剛力になすすべもなく片方の壁に飛ばされるイクモ団長。

 僕もすぐに助けに行きたいところだけど、思わぬ以上にモンスターが行く手を阻んでくる上に次から次からへと待っていたかのようにミゾノグウジン教の一員がよってたかって襲い掛かってきた。


「ちぃ! これで俺達に勝ったと思うな!」


 襲い掛かる敵を薙ぎ祓い、巨漢に怒りの剣を勢いよく振り下ろすザット。

 だが、巨漢の男はそれを物ともせずいとも簡単にあしらってしまう。


「ぐはぁ!! ……こいつ、思っていたよりもやべえ」


「ミゾノグウジン教宗主アルカディアの最大の武器として、邪魔する者は全て抹殺する。命令である以上、悪く思うなよ」


「ふっ、それはお互い様だ。悪いがこっちも計画を全力で潰すにゃならん。邪魔をするのなら、計画阻止の為には……殺しちゃうかもな!」


 豪快に振るう剣。そして刃物であろうとびくとも怯まない巨漢の拳がぶつかる。

 僕はようやくモンスターを退けてザットと共に巨漢に立ち向かうとしていた。

 しかし、それはエレイナ将軍によって動きを止められる。

 

「こいつの相手は私がやっておく。こんな所で時間を取らせる訳にはいかない」


「何人か畳み掛ければ、巨漢は倒せます! だから!」


「それでも……行け。私とイクモならすぐに倒して追い付いてみせる」

 

 厚意を受けとるしかないのか。ザットは譲れないという心があるのか、殴られっぱなしであるイクモ団長の元へ行こうとするもエレイナ将軍はやはり行かせようとはしなかった。


「退けよ。団長がやられてんだ……先に進むよりもやるべき事がある」


「手遅れになる前に行け。まだまだ先は長い」


 エレイナ将軍はそう言うと、真紅の髪を揺らし、大剣を引き抜いてから巨漢に対して切り込む。

 別方向からの気配にすぐさま察した巨漢に隙はなかった。

 だが、圧倒的な敵に対しイクモ団長は再び起き上がり抗うのであった。


「お前らは部下を引き連れて、奥に何があるか確かめてこい! 俺達はこの巨漢さんを倒してから合流する!!」


「こんな時にカッコつけてる場合ですか!」


「ライアン! そりゃあ、俺だって何人かに力を貸して貰いたいよ! けど、こんな序盤で時間を消費すればアルカディアの計画が完成されかねない……だから、さっさと行け!!」


 この先にアルカディアが待っている。だとしたら、僕は行かないといけない。

 イクモ団長とエレイナ将軍を置いていくのは余りにも無慈悲だが、いつ何が起きるか分からない状況なんで急ぎ足で行かないとまずい。

 だから、ここは任せます。僕は素人だからエレイナ将とはまだしもイクモ団長とはそこまで話せている真柄じゃないけど、貴方なら必ずや合流してくれるでしょう。


「ザット、ライアン隊長そして皆さん! この場は団長達に任せて先を急ぎましょう! 僕達には時間がありません」


「くっ……すみません、団長」


「団長、アルカディアの計画は必ず潰してみせます。期待していて下さい」


「おう! 期待してるよ!」


 では、ここはお二人に任せます。必ず……合流してきて下さいね。

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