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エピソード69:僕等の願いと彼等の理想を掛けた大決戦

 遥か空中にある城はずーと身構えている。何も変化なしとはいえ動かないとは限らないが。

 とりあえず僕は今ゲネシス王国にある馬をお借りして空中に浮かんでいる城に目掛けて走り抜けている。


 道中では何事かとモンスター一同も注視していた。空に浮かんだあの城が異様に思えているのだろうか、通行人の僕すら目に留まらないよう始末で。


「あの城はアルカディアが作った物。となれば、奴はいよいよ計画を」


 もう止まるつもりはない。あいつの計画を潰すには話し合いではなく武力を持って根絶する他解決しない。

  

 だから……僕は貴方を倒して、あの城に捕まっているであろうマリーを助け出す。

 

「何としても、必ず君を見つけてみせる! だから、待っていてくれ」


 手綱を強く握りしめながら馬の速度を早めさせ、林道へと突入しながらもゲネシス王国を出発する際に頂いた地図を用いて治安団の本拠地であるアークスに目掛けて疾走。

 この場所の近くの遥か頭上にアルカディアが築いたと思われる城が堂々と姿を表していた。


 あいつはこうなる以前、地下か何かに姿を隠していたのかもしれない。

 そうなれば探しても探しても上手く見つからない。そもそも、魔術やら魔法やら駆使して存在その物を誤魔化していた可能性が極めて高い。

 

「なっ!? なんて事だ……」


 時刻は真夜中。眠気は多少なりともある危うい状態。林道等のややややこしい道を駆使して先回りした後に見える光景は酷く目が覚める物であって。


 かつて傲慢王との問題の際に一度だけ訪れていた立派な建物は無惨に崩壊寸前。

 襲撃者はエレイナ将軍からミゾノグウジン教だという情報を手に入れているけど、奴等が戦力を削ぐ為のがこの襲撃の狙いだとしたら……これはかなりの痛手だ。


「容赦ないな」


 本拠地として三ヶ国の許可が下りてから設置された本部アークス。

 世界の均衡と秩序を守る為に結成された派遣部隊の位置付けとなる治安団は見る影を失い、今や各箇所に仮のテントを設置して手当てを請け負っている者がちらほらと窺える。

 真夜中でも見えてしまう生々しい床。そこには血が月の明かりの影響で所々黒く染まっていた。

 

「悪いのはミゾノグウジン教だ。奴等の仕掛けた襲撃がこうも被害を大きくしやがった。俺は家族を殺したアビスと同様に……あいつらも到底許せねえ」


 久々に再会したザットの顔には焦りが見えた。今回の被害を鑑みて気持ちにゆとりがなくなったと窺える。

 自分のペースで進めるザットが珍しく団員の怪我を治療しているんだ。

 ミゾノグウジン教を沈めるその日まで、怒りの灯火は消えない事だろう。


「ザット……君の怒りはもっともだ。このままアルカディアの好きにさせれば世界の明日は保証されない。だからこそ、僕ともに協力して欲しい。あのてっぺんにあいつが今も僕達を見下ろしているとなれば、放置は出来ない」


「言われずともやってやるつもりだ。あんな連中に好き放題された挙げ句に負けっぱなしなんざ、いつまでも気分が晴れやしねえ」


「だと思ったよ」


 こいつが戦いを拒む選択を選ぶ訳がない。まぁ、だからこそ信頼して任せられる。


「やったらと賑やかだな~って、あれれ?」


「お久し振りです、団長」


 年はそれなりにあるのに、どこか覇気があるイクモ・マガツキ団長。

 そう見えてしまうのはやっぱり治安団を纏めている団長だからこそなのか。


「確か……あれ以来だったな。あの時も大層大変だったが、今回ばっかりはお互い様だよねぇ。本当に敵さんにはもう少し時期を考えろというか何というかーー」


「引っ込めと言った方が早いかもしれませんね」


「そう言いたかったんだよぉ。けどさ……あいつらは勝手気ままに空中に城を立ち上げ、あろうことか各方角に謎の現象を発生させた。あれに何があるかはしらんが、放置しても良い物はないだろう。だから念には念を入れて、向かわせてはいるけど」


 既に何人かの団員を向かわせていたのか。なら……それはそれで安心。

 とホッとしたのも束の間で、遥か空中に浮かぶ城の持ち主からの宣言で雰囲気が驚く程に静まり返る。

 姿も形も見えていないので、あの城から何らかの魔術を使用して全世界に声を広めているのだろう。


「こちらはミゾノグウジン教のトップに君臨する宗主アルカディア。これより……創造神ミゾノグウジンによる導きに従い、今ここに! 世界を作り替えるという偉大なる計画を執行する!! なお、我々は計画が実現するまで止まるつもりは毛頭ない。止めたければ……武を持ってきたまえ。私達が丁寧に、時間を許す限り遊んでやろう。但し、モタモタしていたら各方角に設置された女性達は神の再臨による犠牲となり朽ちる……しかし、各地には私の力を一部授かった同士達が行く手を阻む。各々がよく、考えて行動した上で私の元に来たまえ」


 アルカディアによる宣言。終わった後に天空に浮かぶ城からウェーブのような透明な床が地面に掛かった。

 覚悟が決まったら、来いって事か。宣言が終わり次第イクモ団長は大声で取り仕切る。


「動ける者は各方角に未だに光っている柱に至急向かってくれ! 早くしないと女性達の命も危ないからな。それと俺が申し立てる者はあの天空に浮かんでいる城に突撃する。命の保証も出来ないが、やらなければ世界はアルカディアの手に回りかねない。しかし、治安団の基地もボロボロでかつ被害も大きかったんだ……無理に協力してくれとは言わないぜ」


 そうは言っても続々と参加を表明する者達。イクモ団長の言葉を聞いて、息巻いて立ち上がる人が居る光景。

 治安団という組織はそんな簡単に折れてしまう程弱々しくないようである。


「けっ。どうやら、死にたがりの連中が多いようですね……この集団は」


「こんな状況下でまだ折れているようなら戦士失格だ。こういう時こそ、人は未来の為に立ち上がらなくてはならない」


 灰色の鞘から同様の色を施した剣を引き抜くザット。続けてライアン隊長も得物を晒す。


「よしよし。それでこそ、俺達治安団だ。ここいらは俺も本気を出すとしようか!」


「団長も戦線に出るんすか?」


「俺が黙って指揮するように見えるか? だとしたら、それは間違いだ。本来の俺は部屋で籠るよりも自ら戦場に立ちたいタイプなんで昔はよく死にたがりと同期に言われた事があるんだよ」


 偉いさんは普通部下をいつでも管理出来るように、安全な場所に座って指示をするのがセオリーなんだけど。

 この団長は前回の件に続いて、積極的に前に出るんだな。


「となると、突撃するメンバーは俺とこいつと兄貴と団長を含めて何人かの団員であの城に邪魔する感じですかい?」


「そんな感じ……と言いたいが事が事だったので使者を各王国に送ってやった。あの城の中身がとんでもない可能性もあるから念には念を用心して入れておくって奴だ」


 ウインクしつつ、遠くに人指し指を差し向ける。すると、僕達から見て北の方角にいかにも武装をしっかりと備えた者達が列を作ってゾロゾロと向かってきた。

 また、しばらくしてから二つの方角に各々の国が向かってきた。

 あの城の脅威を知り、そして今回の件の恐ろしさに国が腰を上げたと見えた。


 ゲネシス王国に関してはバルト国王の復帰で対応が思った以上に回復したのだろう。

 何がともあれ、これで戦力の心配は必要なくなった。

 東西南北にある光の柱の件については治安団の団員と付近に居る国が対応しているようなので、僕達は計画を推し進めようと彼等を倒す事に集中していれば良い。


「いや~、皆さんわざわざ来てくださってありがとうございます。色々とお忙しかったでしょうに」


「治安団の頼みが何であれ、今回の件についてはローマン・クロイツェフ代表から全力で対処に当たれとのお達しが下ったのでな……傲慢王のお陰で皆に迷惑を与えてしまったお返しを是非ともさせてくれ!」


 オウジャが滅んで、新たな国家オルディネになってからはかなり心を入れ換えたようだ。

 まさか、こんなにも頼もしくなるなんて。


「あぁ、来たからには終わるまで付き合ってくれよ。途中で帰るのはなしだぜ?」


「無論だ。我々の力、思う存分に使ってくれ」


「おい、私達は無視か」


 向こうのオルディネの旗が紫を基調とするなら、あちら側が掲げるスクラッシュ王国の旗は水色。

 揃いに揃った軍勢の中に真紅の女性が顔を出すや否や団長の表情が一気に引きつる。


「うげっ!?……お前、まだ働いてたの?」


「会って早々その態度とは。礼儀がなっていないな、イクモ」


「しかも、その感じだと……上の階級に登り詰めたか。あの頃と比べて表情が固くなったようで何よりだよ」


 エレイナ将軍とイクモ団長には何か関係がある。けど、そこは僕が口を出して良い了見じゃない。


「ショウタ・カンナヅキ」


「来てくれたんですね」


 赤の旗を基調とゲネシス王国の面々がここに。声を掛けられたのでそつなく対応しておこう。


「治安団の要請と現状を鑑みると、今回も黙って眺めている訳にはいかないのでな。それよりも……バルト国王より一言伝言を預かっている」


「伝言ですか?」


「内容は「君の殴った一撃が殻に閉じ籠っていた私を見事目覚めさせた。その事に大いに感謝する」と」


 バルト国王は一歩踏み越えてこれたんだ。アン王女の死を乗り越えて。

 あれは何者によって殺されたのか? そしてどういう動機で殺したのか? 意図も犯人像も掴めてはいないけど……彼女を殺した犯人は探さないと。


「不祥事の件については今は忘れよう。まずはお互いが無事に戻れよう願わせて貰おうじゃないか」


「はい。生きて帰りましょうね」

 

 ミゾノグウジン教を倒すのが一番の目的であると合致した僕達はひとまずは一旦休戦。

 あの不祥事については戻ってからか。果たして、僕の将来はどうなってしまうのやら。


「団長! 奴等集団で来やがったぜ!」


「あぁ、もう! お前が邪魔するせいでタイミングを失ったじゃないか!」


「私のせいにするのか?」

 

 城からうようよと! 最初はあいつらが相手になるという訳か。

 だったら、力で強引に押し通るまでよ!!


「皆さん、準備は出来ていますか?」


「途中ぐだぐたになっちまったが……俺はいつでも出来てる」


「私達スクラッシュ王国が圧倒的な武力を見せつけてやろう!」


「各軍、準備は出来たようだな。それじゃあ、あの宗教団体に目に物を見せてやれぇぇ!!」


 アルカディア……今から貴方の元に向かう。明日とマリーを取り戻す為に。

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