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エピソード68:さぁ、リベンジするぞぉ!

 新たな力に身を投じて、真紅の髪を持つ美女にして軍のリーダーの位置に据わるエレイナ将軍の指導を全てこなした僕は半時間のお休みを頂く。


「行くのか?」


「もう訓練が終わった以上ゲネシス王国の元に早く帰らないと。しかし、戻った所で今回の件が大分やらかしてしまっているようなので……蒼の騎士という称号も消えてしまうかもしれませんが」


 さすがに不祥事を起こしすぎたかもしれない。戻ったら、怒られるだけで済まさせないかも。

 資格の剥奪は覚悟の上だ。いかなる処分も受け入れる体勢で望ませて貰う。

 それにしても最後まで付き合ってくれたエレイナ将軍に感謝の念が耐えない。

 突然凶器を振り撒いた僕に対して独房に入れる事なく面倒を見てくれたのは本当にありがたい。


「ゲネシス王国の主要戦力たる蒼の騎士を抜けば、君の国は危ういかもしれん」


「彼等が国を攻めてくると?」


「最悪の可能性を踏まえてな。ただ、今回の暴動を招いたアルカディアの狙いが分からない以上は冷静に分析した方が懸命だ。傲慢王オウジャ・デッキと違って、直接的な武力行使は見受けられないが万が一の保険は掛けた方が良いだろう」


 早くも今後を見据えているのか。確かにこんな事をしている間にもミゾノグウジン教が何を仕出かすか分かった物じゃない。

 備えあれば憂いなしって四字熟語がよく似合う。まだ奴等は何もアクションを起こしていないけど。


「この数日、ミゾノグウジン教が動いていた情報はありますか?」


「いや……彼等は我々の居城を襲撃した後、沈黙を守っている。よりにもよって宗主アルカディアに侵入を許してしまうとは不覚ではあったが」


「それは仕方がありませんよ。彼は転移の魔術を用いて直接来訪してきたんですから。対策なんてやりようがないですし」


 ミゾノグウジン教のトップに君臨するアルカディア。立場も高いながらに能力もかなりの物。

 エレイナ将軍の指導期間中、空いた時間を使ってアルカディアについて調べてみた。

 

 すると、あの転移魔術は常人が何年間修行を重ねた所で不可能に近いだとか。

 確かにあんな芸当をいとも簡単にやってのけれるなら、世界が根本的に変わりかねないだろう。

 つまりはほぼ禁忌に近い魔術と言っても過言ではない……ん? だったら、あんなに器用に使いこなす彼は何者なんだろうか? 


 魔術使いにしては度が過ぎている。どうしてこうも世界の迷惑でしかない者ばかりがチートを授かってしまうのか? あの男もそうだったけど、この世界……よりにもよって厄介な人達が多すぎやしませんかね。


「いずれにせよ警戒は怠るなよ。何時いつなんどき起きてもおかしくない状況に晒されているからな」


「分かりました。重々引き締めて参ります」


「達者でな。また会う機会もあるだろうが……」


 鞭を打てば馬は声を轟かせ、軽快に走り抜ける。現時刻の詳細は掴めないけど、橙色の空を見る限りでは夕方に近いかと。

 幸い雨も降る気配は無いだろうからこのペースで進んでいけば一日あれば足りるかどうか。

 道中どこかに止まる事も視野に入っているが、この異世界にはモンスターという外来種がわんさか蔓延っているからおちおち眠れないのが唯一の欠点。

 

 現実世界ならセキュリティーさえ、しっかり整えれば野宿も難なく済ませられるがこちらでは一歩間違えれば死を招くのだ。

 そういうのは何としてでも避けなければならない。こんな所でコロッと死んでしまったらこの世界の僕は愚かあちらの世界の僕がどうなるのか……考えるだけでもおぞましいから。


「ふぁぁぁ」


 てな訳で眠るのは基本禁止。自分で馬は動かしていない物の揺られながら移動するというのはやけに体力を消耗させられる。

 が、しかし四の五の言っている場合ではないので我慢はしておく。


 本来なら車の助手席に持たれるか公共機関の乗り物で羽を休めたい所であるが異世界には当然そんな時代の最先端となる乗り物は皆無。

 あーあ、文句を言ったところで……どうにもならないけど。こんだけキツいと愚痴も吐いてしまう。


「ヒヒーン!」

 

「うおっ!」


 馬にも体力の限界が来たようだな。残念だけど、ここで休ませるしかないか……上手く身を潜めそうな林があるからそこに隠れてしまえばどうにかなるか。


 足の使いすぎで消耗を果たした馬とこれまでの疲労の蓄積をどうにかセーブしようと試みる僕。

 

 幾時か時間が過ぎ去るのを待ちつつ、再びゲネシス王国へと馬を用いて駆け抜ける。


 正直に言えば結構バテバテなんだけど。手紙を送ったとはゆえ、長らく待たせてしまった。


「怒鳴られるだろうな。まず間違いなく平穏にはならないかも」


 不安な気持ちが胸一杯。穴があれば今すぐにでも侵入したいその心を押さえ付け、久々の帰還。

 彼等には会議の結果を帰ってきた際に告げよとのお達しがあったけど、エレイナ将軍との一件で帰るにも時間が予想以上に掛かってしまった。

 

 しかも、一時期不安定な状態に陥っていた僕は街中で暴走行為を仕出かした。

 独房を行きを逃れたとは言え、悪い噂は何故かすぐに広まる。


「まじでやったのか」


「うわぁ。心から尊敬していたのになあ」


「しっ! 大きな声で喋ると剣を抜かれるぞ」


 これは……どうも、僕には行き場がなくなったようだ。帰ってきた所で待ち受ける物が僕に対する罵倒とは。

 そういうのはあっちの散々やられていたけど。またこういう羽目に逢わされるのは結構心が痛むじゃないか。


「帰還ご苦労。手紙でも拝見させて貰ったが、直接君の口から報告をして頂こうか」


 賑やかな街。と言うか僕を見て、すぐさま影口を叩く住民の声を嫌々耳にしながらも辿り着いた城の前。

 そこには僕の無事を祝う事なく帰還を待っていたかのように険しい顔をした武官が待ち構える。

 やむなしに王座へと連れていかれ、乱暴に突き放された僕に放つ言葉は。


「手紙は拝見した。代理として行かせたが、代表達と会議を進める最中に事件の首謀犯に当たるアルカディアが代理のお供であるマリー・トワイライトを連れてどこかに逃げ出したと。まぁ、ここまでの内容なら我々は何も咎める必要性はないだろう……が!!」


「お前は他人の国である将軍に武器を抜いて、あろうことか乱暴を働いた。その事実はいかに嘘をつけど、明白な情報が流れている。因みに聞くが……これは嘘ではないな?」

 

 何で、こんな事をしていられる? そんな追求をするのなら、先にアルカディアに対して防衛対策を念じるべきじゃないのか?

 僕に対する処罰はそれから後でも幾らでも受けるのに。彼等は明らかに順番を履き違えてしまっている。


「それよりも今は数日間身の守りを固めているであろうアルカディアへの対策をーー」


「質問に答えよ。さもなくば蒼の騎士であろうとも容赦はしない」


「嘘はありません。決して」


「そうか……なら、その事実を容認した所で改めて処分を下す」


 空気が凍りつく。国王の不在の中で勝手に独自に取り仕切る幹部達。

 いつまでもバルト国王が部屋に閉じ籠られていたらこの国のあり方が大きくねじ曲げられる可能性も無きにしもあらず。


 一人娘のアン王女を失ってから、表舞台にすら出てこなくなった国王の不在の悪影響はかなり大きい。

 早い所、どうにかしないと……最悪は部下に乗っ取られる可能性もあるんじゃないのかな。

 これはあくまでも予想でしかないけど。


 とはいえ覚悟は決めねばと。分かりきっていた処分の宣言に両目を閉じると……直後鼓膜が破れかねない程の轟音が響いた。

 

「な、何事だ!?」


「監視塔から四つの謎の光が天まで延びています! 更に遥か空の上に城のような物が浮上中!!」


 城が浮いているのか!? 慌てて、バルコニーから眺めると遠方からでも見える四角形の光が天まで届く。

 

 そして真ん中には巨大な城が目に嫌でも浮かんでしまう。


 異世界の地図の地形によれば、北はかつて傲慢王が仕切っていたオウジャ王国改めオルディネ。

 南東にはゲネシス王国と南西にはスクラッシュ王国がある。


 まるで三角形のように取り囲む地形のど真ん中で巨大な城がそびえ立っているという訳だ。

 そうまでして……アルカディアは目立ちたいのか。いや、これは僕達に向けての宣戦布告という意味合いか。


「処分は後からお願いします! 僕は王を説得するので!」


「待て! まだ話は終わってーー」


 呼び止められたような気がするけども、部屋から飛び出すようにして急ぎ王の部屋へ。

 もう、幾ら塞ぎ込まれようがいい加減うじうじと閉じ籠られても迷惑だ! 

 こんな時こそ国を束ねる貴方が動かなくてどうするんだ!


「バルト・アンビシャス国王。今だけは……このご無礼をお許しください」


「何の用だ。私はもう生きる気力がないのだ、放っておいてくれ」


「そうはいきません。ゲネシス王国が潰れかねない状況下にも関わらず、一国の代表である貴方がいつまでもうじうじとしていたら……この国は崩壊します! だから、今は立ち上がって皆を安心させて下さい!」


「無理だ。無理な物は無理だ」


 ……王がこんな弱々しい言動をするのか。はっきり言って幻滅だ。

 状況は刻一刻と迫ってくるというのに、余りにも逃げ腰過ぎる!

 こうなったら、立場が上か下かなんて関係ない! 多少の乱暴は承知の上でやってやる!


「ふっざけんな!!」


 顔面右ストレート。今のは僕個人の抱く感情であって、身分関係なくぶん殴ってやった。

 するとふらふらと弱気になっていたバルト国王は物の見事に吹き飛んでいった。


 片方の頬を擦りながら、立ち上がっているようだけど……多分これ見られていたら首が飛びかねないな。

 

 偶々見られなかったら良かったけど、ぶっちゃけやり過ぎたか。

 でも、やってしまった事はもう取り返せない。こうなった以上は自棄だ!


「世界が混乱してるのに、貴方はまだそうやって殻に閉じ籠るのか!! アン王女の一件は確かに僕にも責任はあったけど……仮にも王なんだから、何があったとしても切り替えろ!! 国を守り、そして民を守る貴方がずっとうじうじしていたら、国ごと消えるのも時間の問題ですよ! それを貴方は理解しているのですか!?」


 僕は王に対して思い込んでいた想いをほぼほぼ口に吐いた。王は痛々しそうにしながらも真剣に聞いているようで、話を切り上げた頃には謝罪の姿勢を示した。


「……そうだった。全ては君の言う通りだ。こんなろくでもない国王がいつまでも足を引っ張っていたら国は本当に潰れるだろうな。だからこそ、今は……今だけは奮い立たねばなるまい」


「ミゾノグウジン教宗主アルカディア。この世界の宗教トップに君臨する彼が最悪の計画を始動させました。王は万が一の為に備えて、国の防衛をお願いします」


「蒼の騎士。主はどうするつもりなのだ?」


「アルカディアとの決着をつけます。これが……蒼の騎士の最後を務めとなるでしょう」


「何を言っておるのだ?」


「国王の不在中、僕にも色々とありまして。幹部の人達から聞けば詳しくは分かるでしょう。それでは……後の事は全てお任せしますね、バルト・アンビシャス国王」


 さぁ、ミゾノグウジン教宗主アルカディア。今度こそは決着もといリベンジを果たして貰おうじゃないか! 

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