エピソード6:整理整頓大切
僕がふと見る異世界とその世界で暮らす住民。そして水面下で蠢く闇と不意に得た二つの力。
マリーと名乗る少女と共に異世界の旅へと足を踏み入れた僕。
次の目的地はマリーの個人的な事情によりスクラッシュとゲネシスが警戒するオウジャへ赴く事に。
ただし、オウジャに出向く一番の目的は聞いてない。もう一度異世界に出向いた時に聞いておかねば。
僕は粗方話をしながら次にやるべき方針を定めていた。話を最後まで首を縦に振る彰の表情の頭には疑問符があれよあれよと浮かんでいる。
「うーん、これはひょっとしてひょっとすると俺の理解が不足しているのか。それともお前が夢見過ぎているのか」
「夢じゃない。確かに僕は異世界でモンスターを剣で退治して、日本とは違う景色をこの目で一望してきた。この事実に間違いはない」
生きているという事は異世界転移を果たしたのだろう。転生ならトラックやら車に轢かれて死んで生まれ変わっている。
けど、どちらともそう簡単に現実へ帰って来れない筈だ。頻繁に起きているのも尚更おかしい。
その事実を彰に話したが案の定納得していない。話した所で理解を示す者は居ないのが普通か。
僕だって聞かされたら頭のおかしい奴だと思いかねない。
これは実際身体で感じたからこそ話せる事だ。実際問題異世界転移を体験しない多くの人は馬鹿にして終了。
と言うか小説の見すぎだと言われて次の日からやばい奴だと避けられる。
幼稚園の時から妙に付き合いの長い明に関してはその心配はない。
寧ろ安心して話せる関係だからこそ語れる。
「仮にそうだとして……どうしてお前はこの場所に戻っている? それに武器とか服とかその他諸々は現実に引き継げないのに現実世界では異世界に引き継げるんだ? 全く持って分からんぞ」
「確かに」
言われて気付いた。いや、でも服とかの装飾品ならそのまま異世界に反映する筈。
一方で現実に戻ったら異世界で得た能力や一部の服は引き継がれない。
現実は現実。異世界は現実の僕を引き継いで冒険するって事だろうか。
「しかし、異世界と現実を往復……か。話を聞いているだけでも随分と落ち着きないの奴だよな」
「あぁ、それに関しては僕も参っているんだ。異世界は夜でここは昼。どちらも昼夜逆転していて、現実で言う時差を体感している感覚に近い」
それと疲労感も段違い。現実で時間が止まると異世界で時間が始まり、異世界で時間が止まると現実で時間が始まるから身体が上手く追い付かない。
次はどのタイミングであちらに向かうのか? こっちの方では学校だから色々と調べられそうな時間も出来るから、異世界について調べておこう。
「そういや、ここの高校は読書感想文が春休みの宿題に付属するから丁度良いんじゃね?」
「何が?」
「タイトルは……えー、何度も疲れているのに行き来させられているから異世界と現実。交互に無理矢理行き来される僕に休みはありません!? って感じか」
「こっちは真面目に話しているんだ。ふざけないでくれ」
「悪い悪い。それで、まずはどうすんの?」
「どうするもなにも、ここでは最小限の事しか出来ないから異世界の定義をざっくり調べて、早めに就寝。突然の転移が来るまでには備えておく」
要するに暇潰しだ。今の状態では異世界に向かわないとはっきりと理由が分からない。
あっちの方で何故現実と異世界の交互を転移する最大の切っ掛けたる鍵を知れたら、一番都合が言い訳でして。
それまでは異世界で起きた出来事のおさらい……しか無理。動きたくても動けない。
「仕事が来るまでにスタンバっておきますスタイルか。なるへそ」
昼休みの終わりが告げる。取り敢えず話せる親友が居て良かった。
一人で抱え込むよりはずっと気が楽になったような気がする。
「そろそろ戻るか。五時限目は理科があるし」
たった一口のパンを放り込んで僕は早々に帰ろうとしたが明は何故か立ち上がらない。
やがて意を決した表情で僕の顔を覗き込む。
「今日お前が話していた事ってさ……」
「ん? 何か変だった?」
異世界と現実を往復していると言っても端から聞いたら馬鹿か小説の読みすぎだよね。
それを言いたいのかな。何回も言われるのは結構堪えるけど。
「あいつに似ているよな。事あるごとに不思議な力があると呟いていた希に」
神宮希。彼女は生前僕と明に対して不思議な力があると度々呟いていたがその具体的な内容は結局最後まで明かされなかった。
まぁ、正直僕は鼻から信じていない。
そんな胡散臭い話に乗っかる程僕の心は純粋ではないからだ。
インターネットにあれやこれやと自由に編集が可能なネット小説。
そこで現実にはない特殊能力を描いた作品を多数展開。僕は現実と妄想の区別を付けている。
現在置かれている日常は彰と他愛ない話と家族との雑談そしてネットで更新させていく小説の作成及び空いた時間のゲームだけが今生きている神無月翔太の唯一の楽しみ。
「異世界がどんな世界か興味あるの?」
「うん? それって、どういう意味?」
中学一年の頃、希が僕の家で小説を覗いていた時にふと発した言葉。
この辺りから執筆を開始していた僕は小説のネタ探しに明け暮れていた。
最初は確かボールペンを主軸にした物語で次はファンタジー寄りのお話し。
そして作品の模索の中で生み出したのが異世界。異世界って小説のネタとしては最高の食料でありどんなユーザーも面白ければ食い付く代名詞だった。
僕はそれを何となく異世界はああだこうだと妄想しながらパソコンにキーを叩き込む。
ネット関連には一切興味を持たない希が僕の書いた小説に興味を示している。
「答えなさい」
「ええっと……それは、その現実だと話が広がらないから異世界を書いてる訳でして」
「私は興味があるかないかを聞いているだけなの」
「いや、興味があると聞かれれば無い。ただ書いているだけだよ」
「ユーザーの感想目的? だとしたら止めておきなさい。いつか書いている内に筆が止まるわよ」
「うーん……だとしても僕は書くよ。今回書く小説は僕がやりたい事を思う存分鬱憤を晴らす為に執筆のが一番の目的だし」
「へー、鬱憤を晴らす為か」
何とか説得は出来たみたい。頷いた表情で僕のベットに戻ってごろごろしているようだし。
「それじゃあ。私の力でいつか飛ばしてあげる、異世界って奴に」
「いや無理でしょ。異世界はあくまでも空想だからこそ盛り上がれるって物であってーー」
「神の私に不可能はない。そう……私が本気になればね」
「ちょっと何を言ってるのか分かりませんよ、希さん?」
「あはっ! いつか分かる時が来るかもね。翔太」
あれって真実……なのかな? もし仮に現実では実現不可能だとして異世界に僕を引きずり込む力を持て余していたとしたら、彼女は恐るべき力を持っていたと言う事になる。
今もずっと一緒だったら、もっと踏み込めていたかもしれない。
「まぁ、前からあいつは変な所があったからな。俺は全く気にしていないが……って、おいおい俺の話聞いてます? もしもーし」
「あっ! ごめんごめん。少し感傷には浸り過ぎていた」
「やれやれ」
彼女のふとした言葉を思い出した所で昼休みの終了。さて授業に戻ろうか。
明と再び別れた僕は午後の授業を全て流れ作業のように終わらせてから、いつもの帰り道を真っ直ぐと歩く。
帰る時は大抵一人。中学まではほぼ毎日希が待っていてくれたけど今では誰も居ないし近寄ろうともしない。
だから、代わりに歩きながら小説に書き留めるネタを考える。
ふと思い浮かんだらアプリのメモに残して、思わず書きたくなったら無理の出ない範囲で執筆。
歩きスマホが禁止されている社会で堂々とやるのも気が引けるけど……書きたくなるのだから致し方ない。
「えっ、こんな時にメール?」
内容は……材料が足りなくなったから買ってきてか。
「ほうれん草、だしの素、鶏肉、人参、お茶1本」
この数は足りないってレベルじゃない。母さんは完全に僕をお使いとしてパシらせるつもりだ。
「仕方ない。さっさと終わらせて帰ろう」
丁度最寄りの場所にスーパーが。タイミング的にも神がかっていた。
夕方辺りに差し込む時間帯には多くの主婦層が蠢いている。
あの中に入り込むのは少々億劫なのだが、買わないと母さんかが怒りそうだから買い物と言う名のをパシりを迅速に済ませていく。
スマホのメール内容を見ながら淡々と入れ込んだ食材。かれこれ現実に戻ってから五時間が経った。
未だにあっちの世界に戻る兆候がない。また戻れば、あっちはあっちで忙しい事になる。
世界を救う旅……マリーはああ言っていたけど、あの世界で何か動き始めているのか。
そう言えば、オウジャは二つの国に警戒されていたようだ。名前はスクラッシュとゲネシス。
あっちに戻ったら戻ったで騒々しい毎日を送る事になりそうだ。
それはそれでやりがいがあるけど……ほのぼの生活を送りたかったな。
今更何を言った所でもう修正される事は無いのだろうけど。
「お客樣?」
「ああっ! ごめんなさい! 今すぐ出します」
考え過ぎて目の前の事に集中出来ていない。いつ向こうに行くかはっきりと分からない異世界。
早くどうにかして原因と解決法を導かないと。
いつまでも、この調子だと僕の精神が参ってしまう。
「最悪、どちらにか行って区別が付かなくなったら」
考えただけでおぞましい。全身がゾッとして落ち着かない。
母さんにメールをしておこう。
[お茶が重い……何故僕に頼んだ!? 他は軽いから別に何ともないけど!!]
↓
[ごめんなさいね。この頃、父さんが喉が渇いた喉が渇いたと連呼して飲むからつい止められなかったのよ]
父さん勝手過ぎるな。後で僕からきつく言ってやる!
[何がともあれお疲れ様でした。なるべく早く帰ってくるのよ(寄り道せずにね)]
「はいはい念押しかよーーうわっ!」
視界が!? 何の予告も無しに……
途切れた。僕は異世界に…………行けたのか?
「ショウタ、答えを聞かせて」
目の前にはマリーが。あぁ、また戻ってきたんだな……ショウタとして。
《現実》→→→→→《異世界》