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エピソード67:向かい出すカウント1、2、3

「諸君……長らくの時を経て、これで世界は私達に祝福を照らす。君達の望む明日を与えようじゃないか!」


 太陽そして天候を一切寄せ付けようとしない地の空間。ミゾノグウジン教の信者達は皆の中心に君臨する宗主アルカディアの言葉に耳を聞き入れ、奮いに立つ。

 一方でアビスはどうでも良い事だと蚊帳の外で待機していた。


「ミゾノグウジン。奴が目覚めるのも時間の問題か」


「君臨すれば世界をいとも簡単に作り替えてしまう創造神だ。ミゾノグウジンではない」


「世界の創造。その果てにあるは平等か差別か。貴様達の計画がどう選択に向かうか……」


 この男の考えは何日間共にしようが一切読めない。複雑な思考に意味不明な語らい。

 実力は確かと言えど、こいつを理解するには非常に難しいとサイガは心底思う。


「あと数日。それでこの腐った世界が一変する。お前がどうでも良いと思っていても」


 アビスが協力する理由は自身の存在意義。僅かな情報量から考察すると、彼は生まれながらにしてその容姿とモンスターを人形のように管理するという常人には不可能な能力を有していた。

 

 それなら普通モンスターを自由自在に蹂躙して好き勝手に暴れまわる物だが、彼は力による支配でもなく自分の生まれた意味を求めている。

 

 アルカディアと手を結ぶ前はあの傲慢王と手を組んでいたようではあるが、それはきっと自分の存在意義を探す為なのであろう。

 もっとも、常人は到底理解できぬ思想ではあるが。


「君達……少しは仲良くしたまえ。この関係も、もうじき終わってしまうのだよ?」


「挨拶は終わったようだな」


「あぁ、彼等には我々の偉大なる計画を阻害せんとする障害の蹂躙を命じた。しかし、来なければ勿論手荒な真似はおこなわない」


「歯向かってくる者は容赦なく地獄へ招くとも聞こえるが?」


「そう解釈しても良いよ」


 アルカディアの望みを現実に。いよいよ進むステージに喜びの表情を上げながら歩き出す。


「計画の中心点となる彼女に今から会いにいかないかい?」


「……マリー・トワイライト。彼女が神となる器に相応しいと、そう判断したのか?」


 答えは無言であった。黒のローブを基調とするミゾノグウジン教の者が計画の始動に取り掛かろうと動く中でアルカディア

はサイガとアビスを手招き、彼女の元へと向かう。

 閉鎖空間の廊下は非常に暗い物で足元を見なければ不安定になりかねない。

 そして、先頭を仕切るアルカディアは不意に足を止める。


「では……準備は良いかな?」


 何故か疑問形で訪ねるアルカディアに対して部屋に入るだけにも関わらず、何に備えなければならないのか。

 言葉の意図は分からず仕舞いである。

 無言を突き通すアビスに代わって、サイガが前に出向く。


「何の準備ですか?」


「すぐに分かるよ。言葉の意義がね」


 二人に向けたスマイル。小さな扉を開けた先にある十字架の装置。

 漆黒の物静かな、それでいて無駄に四角い空間に例の装置によって縛り上げられた白色の長髪が特徴的な女性がアルカディアに目掛けて唾を飛ばす。

 付着した片肌の唾を手で拭うも彼の表情は悠然と立っていた。これも余裕の表れだろうか。


「貴様ぁぁ!! 囚われの身でありながら、宗主に向かってその態度は何だ! 俺が修正してやる!」


「止したまえ。彼女の心情はいささか不安定なんだ。主に私がいきり立ったせいで……ね」


 十字架に固定されたマリーの首元を弄ぶアルカディア。嫌がる態度を全面に押し出そうとも、アルカディアにとってそれは無関係な事であった。


「やれやる私の顔に泥でも付いたら、彼が怒るんだから……少しは冷静になって欲しいね」


「お断りよ。それと、それ以上私に触らないで。固定した所でこっちにも考えがあるから 


「くくっ、可愛くないね。そんなに睨んでいると折角の美人が台無しになるよ」


「余計なお世話」


 アルカディアの話をとことん拒絶する姿勢にサイガは今にも剣を抜きそうになる。

 しかし、この場の主導権はアルカディアに存在する以上手出しは迂闊にも出来ない。

 堪忍袋の緒を溜め込むサイガとは反対にアビスは興味を示すことなく壁に背中を預けていた。

 

 マリーは事件の首謀者であるアルカディアに対し毒舌を吐きながらも離れた位置で黙々としているアビスをチラリと伺う。

 ミゾノグウジン教の信者達とは若干異なる黒のコート。やや暗い部屋でも目立つ銀色の短髪と青年の出で立ちを持ちながら、自分の達する目的の為ならどんな事にも手を伸ばす危険人物。

 

 アビスという人物像が今一つ抜けているマリーにとって、彼は気の抜けない者の一人。

 目の前で鼻高々に笑うアルカディアと怒りを抑えきれていないサイガも同様である。


「で、何のご用で来たのかしら? まさか、私の姿を哀れむ為に来た訳でないのよね?」


「まぁ……それは多少なりともあるが、本題は君についての事だ。これから計画を進める時に説明もなしに何かが起こってしまったのなら、当然びっくりするだろうからね。という事もあるので、ここは私が特別に計画の詳細について説明しようと思う」


「誰が貴方の話なんかーー!?」


 拒絶する姿勢に対し、アルカディアは有無を言わさず隣で構えているサイガに首の動きで合図を送ると秒速で剣の刀身がマリーの首先へ止まる。

 恐らく、これ以上歯向かえば命の保証は出来ないと……そういう意味合いなのであろうという事をマリーは素早く理解した。

 

「私の優しさが受け入れられないかい?」


「あら? 私を殺したら計画が止まるんじゃないの? そうしたら本末転倒よ、ア ル カ デ ィ ア」


「くくっ、君もいよいよ私を弄ぶようになったか。これはこれでぞくぞくしてきたねえ」


 剣を制するアルカディア。脅しをした所で無駄になるのは明白だと理解したのかなんなんのか。

 サイガが仕方なく武器を収めた所で会話が再開された。


「もう周知しているようだが、世界を再構築する為に創造神ミゾノグウジンをこの世に呼び込む。しかし、その偉大なる存在を召喚するにしても材料は必要不可欠でね。私達はどうしてもそれらを入手しなければならなかった。まず一つ目の必要条件が神を世界へと誘わせる際に必要な膨大かつ精錬された魔力。これについては大量の女性となる生け贄が条件として付いてたが、それはこの前クリアした」


 話を進める間にもウインクを飛ばすアルカディア。マリーは心底気持ち悪いと思いながらも、表情を固くする。


「二つ目は神がこの世に直接降臨する際に必要となる器。こいつがかなりの悩ませ物でね……最悪は使い果たした女性を組み合わせ、無理矢理器となれるような存在に合成させようと思っていたが……ひょんな場面で運命とも思える君に出会えてしまった。この事については神が授けて下さったお届け物であると感謝しよう」


「私を器に。計画がもし完成したら……どうなるの?」


「マリー・トワイライトではなく創造神ミゾノグウジンとして生まれ変わる。それでこの失意にまみれた世界は光に満ち溢れた世界として新しく誕生するという決定的な瞬間に拝めるだろう」


「貴方の悪ふざけで……罪もない大勢の人を殺す事に躊躇はないの!?」


「彼等については残念だけど、この薄汚れた世界を変えるには仕方のない犠牲なんだ。改革を実現するにも多少なり目を瞑るしかないだろう」

 

 怒りの感情を爆発させようとも冷静な口調で答えを返すアルカディア。

 彼からすれば、計画の実現に向けて必要とならない物は犠牲を払っても叶えたい物なのであろう。 

 それはサイガも同様の気持ちである。しかし、アビスに至ってはミゾノグウジンから自分が生まれた意味について追求するだけだ。

 

「どうせ彼女等には外の世界で君の魔力を更に高める為だけの増幅装置でしか利用価値がないからね。東西南北に置ける地点に設けて、ゆっくりと魔力供給をして貰うとしようか」


「貴方、狂ってるわね。私が素直に同行すれば彼女達を解放するって言っていたのに……平気で嘘を付くなんて」


「お褒め頂きありがとう。だが、これでも配慮はしている方だよ? だって、折角捕まえた女性達を外に……条件付きであるが、解放してやっているんだ。その事については感謝してくれても良いんじゃないかな?」


 上から目線の態度に腹を立てるマリー。どれだけ反抗的な態度を取ろうとも身体の自由が無い限りは無抵抗のままで終わる。


「長く築いた計画であろうとも、貴方の野望は必ず潰える」


「蒼の騎士ショウタ・カンナヅキにかい? くくっ、無様にやられたあいつが再び立ち向かってきた所でまた同じ目に逢うだけだよ」


「それでも彼は貴方に刃を向ける。貴方のような悪にまみれた者を決して許さないから」


「なら……期待して待っているとしようか。しかし! この舞台に花が舞うのは私達だ。それを頭の片隅に仕舞っておきたまえ」

 

 アルカディアはマリーに対して忠告を促し話を無理矢理切り上げる。

 もう、そろそろ準備が整う時間に差し迫ったという感覚が不意にやってきたからだ。


「サイガ、君は彼女を頼む。私はこの閉鎖空間から遥か天空の舞台へ移す儀式を進めなければならないのでね」


「承知しました」


「アビス……君については。まぁ、ゆっくりしていると良い。いずれにせよ、神から真理とやらも聞けるだろうしね」


 話を終えるとマリーを放置して、部屋を後にするアルカディア。

 残されたのは未だに敵意剥き出しのサイガと沈黙を守るアビスだけ。


「貴方は。アビスは。何故真理とやらにこだわるの? そこまでして知りたい理由は何なの?」


「突然生まれた、この身体。そして生まれ持ってから所有していた謎の力。私はその真理と前に向かえねばならない。その答えがいかに無情であっても、無価値であっても……存在する意味を知らねば私というアビスは何者か? 探求を拒めば永久に知る由もないであろう」


「会った時から不可解に思っていたけど……そうか、何となく分かってきたような気がする」


「……何を言っている?」


「別に」


 そうして揺れ動く閉鎖空間。アルカディアが儀式を開始した。始まるカウントダウンはもう止まらない。







































「この幕を見事に止めてみせて。それが貴方に課せられた勇者の使命……ふふっ、期待してるよ♪」

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