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エピソード60:どんどん興味が湧いてきたよ

「うわっ! すぐ起きたぞ」


「おや? 一瞬だったね」


 見知らぬ天井……という感じでもないのか。意識がはっきりと戻ってきた所で周囲の状況を再確認。

 そこは余りにも綺麗とは言いづらい部屋で主に使われていると思われるデスクには何冊か本が積み重なっている。

 二人の男が僕を見下げていた。この人達は確か、えと何だっけ? あっちの世界に長く滞在してきた影響で記憶が朧気になってきている。



      《異世界》→→→→→《現実世界》



「すいません。貴方達のお名前を教えて貰っても良いでしょうか?」


「はぁ?」


「さっき彼と僕は君に対して挨拶をしたばかりだがね……うむ、あっちの世界とやらの影響で現実世界があやふやになってしまったのかな?」


「そうかもしれません。未だにあっちの方が馴染んでいる位ですし」


 本当にここが今ある世界なのかと疑いたくなる。あっちの異世界の方がかなり馴染んでしまっていたから尚更だ。

 これ、何だがどんどん悪い方に流されているような気がしてならない。


「宮城警察署刑事課の須藤健作だ」


「心理カウンセラー兼オカルト大好き、この方魔法使いになれるかもしれない櫻井渡だ」


「いらん紹介を付け足すな」


 馴染めない。この場所に居るのも、彼等が仲良く喋りあっているのも。

 僕という人間が部外者に思えてならない。


「では早速、質問をしよう。君がまだあっちの世界とやらの思い出がある内に」


「本当にあんのか? そんな世界が」


 いまいち信用していない須藤。やっぱり、この現実世界に置いて日々悪党を凝らしめている警察にとってファンタジーな話は仮想としか思えないのだろう。

 けど、好奇心旺盛の櫻井は一味違っていた。彼はご自慢であろう眼鏡をクイッと音を立ててから、ノートなどの証言を記録する物品を構えて準備をしっかりと整えていた。


「それは彼の口から割らせよう。話の次第によっては、思いもしない壮大なスケールが聞けるかもしれない」


「被害者二件の関連性が出れば、大いに満足なんだが」


「うーん、残念だけどそっち方面は期待しないでくれ。多分、彼から出る口はあっちの方で何が起きていたのかという状況説明だけだと思うから」


 櫻井は話を聞く前から分かってる。今から話す内容が現実世界で起きてしまった二件とやらの解決法へと繋がらない事に。

 いきり立っている須藤とは裏腹に再び向かい側のソファーに座ってノートとペンをそれぞれ片手にリラックス状態で臨む櫻井。

 完全に話さないと解放してくれない奴だ、これは。まぁ、話さない義理はないから話すけども。

 

 ある意味割りきっていた僕は櫻井の要求に対して、嘘偽る事なくただあちらの世界で感じたままに告げるとノートの上にペンをペラペラと走らせる櫻井は僕の話に相槌を打っていた。

 けど、その後ろの方で壁に背中を預けている須藤はやはり信じていないのかどうかは分からないが首を斜めに固定したままである。


「以上が事の顛末で。こうして僕はあっちの世界の記憶を受け継いだまま戻ってきたのです」


「ふむふむ……これは実に益々謎が謎を呼んでいるねえ」


「どうした? 何か、引っ掛かるのか?」


「あれ、話を聞いていたんじゃないの?」


「半信半疑で聞いていただけだ。その神無月君が証言していたミゾノグウジン教の宗主アルカディア? がどうやら世界を神の降臨によって新しい世界に築き上げようって話の所はこっちの方じゃ、全く起きてもないし犯罪者がいなけりゃ平和その物の日本だから架空話かと思ったよ」


 架空……そんな一言で済ませないで欲しい。貴方の気持ちがどうであれ僕は最初に運命的な出逢いを果たし、そして肝心な時に助けられなかった女の子が今やどこかに拐われたのがどれ程苦しい事か。

 妄想話として聞いている貴方には一生分からないでしょうね、この気持ちが。


「健、それは言い過ぎだ。彼はこう見えて僕達の世界で起きてしまった事件への解決の糸口にも繋がるんだ。態度が悪いのはさすがの私も目に余るな」


「この目で直接見ないと信用出来ない性格でな。まぁ、悪く思うなよ」


「いえ」


 もうこれ以上須藤に突っ掛かるのは避けた方が良い。彼にどう話し掛けた所で納得しないのが結末だし。


「それにしたって……うーん、考えなくても実におかしいな」


 おかしい? 僕が貴方に伝えた内容が全部? 確かに、ありのまま包み隠さず話した筈だけど。

 何一つ嘘なんて吐いた覚えはない。


「どこか変な所がありましたか?」


「へっ? 分からないのかい?」


「勿体振らないで正直に話してやれよ。神無月君は意識が飛んでいる間異世界とやらを4日間過ごしていたようだが……実際君の意識が戻ったのは数秒も満たないってな」


 そ、そんな。あれだけ過ごしたのにも関わらず、こっちの世界になるとその体験が数秒として記録されたのか?

 仮にこれが紛れもない事実だとしたら……時の因果が完全に可笑しくなっている。


「相対性理論すら潰すか。さて、そうなると君は現実では起こり得ない超常現象を起こしてしまっているね」


 口を大きく開けて、やたらとテンションが上がっているようにも思えるその姿。

 どうやら興味に触れたようである。


「君が異世界で体験した期間は4日。1日は24時間で弾いて、簡単な計算をすれば96時間。そして異世界からここに来る時間も配慮すると大体84時間となって、それが君が身体で頭で体感した時間。けど、こちらでは君がたったの数秒……もしくは数えて間もない位で即座に目覚めている」


「ある時プツリと寝て即座に起きたように見えた、俺からしたら」


 異世界と現実世界では時間の概念が約束されていないか。だとしても、もはや滅茶苦茶な世界になっている。

 僕が異世界に行く間に現実世界が止まっているように感じたのは最初からだったけど、改めて人に言われると恐怖を受ける。


「ミゾノグウジンが異世界に命と概念を与えた神……ふーん、こいつに聞いたら、色々と分かるのかな?」


 神に会う前に、僕の思う謎を解かねばならない。まずは異世界ではかなり重宝する蒼剣とこちら側の世界に埋められた蒼天神村雲の繋がりだ。

 蒼天神村雲をモデルとして起用したのが希で、それを蒼剣に転用したならば。

 あくまでも想像にしか過ぎないが、ここは包み隠さず話してしまおう。

 という訳で僕は考え混んでいる櫻井に気になる点を伝えておく。

 話終えた辺りから目の表情がひとしきり変わっていた。


「神宮希が神宮神社にある蒼天神村雲をモデルとして起用し、君の武器を異世界として転送したのが仮に事実するなら……それって黒幕になりかねないのでは?」


 それは考えた。けど、彼女は命を落とした今どっかで僕を見ているとでも言いたいのか?

 悪いけど、死んだ人間は何をしても蘇って来ないんだ。その解答は立証されない。

 しかし対照的に櫻井は神宮希をホワイトボートに書き込んで、須藤と一緒に考えに考えている。


「蒼天神村雲。そして、それを知る神宮希。名字から察するにあの有名神社の関係者で間違いないのかな?」


「ほぼ間違いはないと思うぞ。神宮って言えば、日本人はおろか外国人でさえも参拝に来る程有名だしな」


 そう。神宮神社は日本の神社の中でもポピュラーな部類に入っており、数ある願いも確実ではないが叶った願いも多々あるらしくシーズンに入れば参拝客がわんさか訪れるとか。

 もっとも、神主の孫に当たる希の反応は素っ気なかったりする。


「私が考えるに……この子はちょっと怪しい臭いがしてならない。という事で神宮希を軽くリサーチしといてくれ」


「あいよ。調べとく」  

 

「よしよし。後は……翔大君に聞きたい事があるんだけど良いかな?」


「えぇ、どうぞ」


「単刀直入に神宮希との関係をお聞かせ願いたい」


「彼女とは幼少の頃からの付き合いです。希とは中学までずっと仲良くしていたんですが……中学卒業間近に車に轢かれまして」


「おぉう。何とも嘆かわしい」  


「ご冥福をお祈りする」


 切っ掛けは僕の暇潰しであれ、希と一緒に書いてきた小説。ほぼほぼ殴り書きで書いたかのような異世界ファンタジーの投稿を目標に目指していたけど、あの事故が良くも悪くも影響を受けて小説に対する軽いトラウマを抱えてしまった。

 以来、執筆はおろかログインすら出来ない始末でかれこれ一年は放置しているのが現状。  

 

 どうせ最後まで書いて、ようやく投稿させた所でこの駄作に誰の目にも触れることなくフェードアウトする位ならログインなんてしない方が懸命だろう。


「何か、考え込んでいるのかい?」


「希が消えた今や……あの小説はどうなっているのかとふと思いました」


「ほう、小説を書いていたのか。良い趣味してるね~、ちょっと軽く見せて貰っても?」


 関心を示して貰っている所悪いのですが……残念な事にここ一年ログインすらせず高校生活に明け暮れたお陰で、ユーザー名はぎりぎり思い出せるがパスワードが何も頭に浮かんでこない。


 多分、家の自室にある引き出しの奥にそっと仕舞っているから櫻井に見せるのはまた後日となりそうだ。


「すいません。それは機会があったらで良いですか? 生憎パスワードを忘れてしまいまして」


「そうかい。なら、楽しみは後に残して……期待して待つとしよう」


 評価が良い作品がろくにないから、プレッシャーを掛けてくるのは止めてぇ。


「じゃあ、今日は帰るぞ」


「まだ夕日も出てないのに帰っちゃうの?」


「俺もお前に言われた用事をちゃっちゃっと済ませたいし、それに何より彼の顔色が悪い。早く家に帰して、機会がある時に再び落ち合う方が得策だろう」


 向かいの方でビルが見えるガラスに僕の顔が。須藤に言われてから見てみると……うーん、確かに顔色が冷めていて体調が良くなそうだ。

 異世界から現実世界に戻った反動か。いずれにせよ、さっさと寝てしまった方が良い。


「分かった。それじゃあ、何か進展が傾き次第僕の事務所に。なるべく部屋と私は空けるように努力しよう」


「帰るぞ」


 言われたままに引き返す。今日は警察関係者に連れていかれ、途中で異世界で長らく暮らしてきた反動で疲れがどっと溜まった。

 これは、家に帰り次第風呂に入って早々に布団にダイブだな。気が滅入っているせいか腹も減りそうにないし。










「現実世界の神無月翔大そして異世界のショウタ・カンナヅキ。一見似ているようで相反する二つの存在の結末はどこに向かうか? こうなったら、とことん付き合ってやろうじゃないか」

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