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エピソード59:そんなこんなでリターン

「成長が足りないな。それじゃあ、いつまで経っても私を倒せない訳だ」


 無数の魔法陣から放射するビームが四方八方に、戦火を拡大させる。

 僕とマリーは避けるだけでも精一杯で反撃の隙をも与えさせない。

 アルカディアは自分のペースに乗っかって、調子良く大袈裟に魔法を放つ。

 彼のペースにずっと嵌まっていたら国王も代表も命の危険が危ぶまれる。

 早急に追い払わないと、被害は益々酷くなるだろう。


「だったら仕掛けにいく!」


 この蒼剣なら! 間合いが取れるだけでも威力相応。一撃でも与えられたら、幾らアルカディアも体力を根こそぎ持っていける筈!


「ショウタ!!」


「間合いを詰める! マリーは補助を!」


 僕は近距離で接近して薙ぎ払い、魔法を得意とするマリーには遠距離でサポートのコンビネーション。

 後方には実の所、王様を守る側近も在中しているけど自分の王から離れてまでサポートは出来ないので期待はしない。

 だから実質協力な魔法を豊富にこなすボスに対して、二人だけで挑むというハンデを背負っている。

 けど、それで怖じ気づく程僕の心は弱くない!


「恐れ知らずか。よくも、まあそんな技量で」


 魔法陣から放射する光を先読みの効力と蒼剣で払い飛ばす。それだけでも僕の体力は丸々削り取られていく。

 ここ最近、先読みを少し使用しただけでも限界を迎えるのが早くなってきている。

 もう乱発は控えておく方が吉か。こいつを頼りにしていたら、いずれ無理がたたりそうだ。

 そうなると……残りの希望は最初に運命の出会いを果たした蒼色の剣。

 これが失ったら最後の希望も同時に消え失せてしまいかねない諸刃の剣。

 使用には細心の注意を持って、所持しなければならない。


「やっぱり蒼剣は思う以上に強力か。他にもズル賢い力を持っていそうだ」


 見破られているのか? だとしても、そんな呑気に居られるのも今の内だ! 

 貴方の間合いはもう取れた! ここからが怒濤の反撃!?


「あら、残念。狙いがずれちゃったみたいだ」


「なっ!」


 確かに僕は実体を切った! なのに、アルカディアの身体から霧が広がり無と化した。

 そして……余裕の表情を浮かべながら、背後に現れた瞬間に背中に大きな衝撃が加わった。 

 一瞬何が起きたのか。それが認識出来たのはもう少し後の事だった。


「がはぁ」


 まずい、口から血がドバドバと床に垂れてしまった。背中の骨にヒビでも入っていないと良いのだけれど。


「ほらほら。まだまだ抗う姿を見せてくれよ」


「くそっ!」


「その程度で女の子を守れるのかな? 蒼剣しか取り柄のない騎士さん?」


 ふっ、随分と煽ってくれる……こうなったらやけくそでも多少のリスクは覚悟の上で反撃するしかない!


「剣だけに生かされている。そう言いたいのか?」


「君がそう解釈するのなら……それもアリだね」


 息を吸って、吐いて直後に詰める距離。これには余裕の笑みを浮かべるアルカディアも驚いたようだ。

 

「くくっ、こう来るかぁぁ!」


「追い詰める!」


 今度こそ実体を捉えた。有り余る力を持って、一撃・二撃・三撃と滑らかかつ流れるような速度で切り払い最後の止めとして胴体ごと縦に振り下ろす渾身のラスト。

 これなら、幾ら魔法をこなそうが勝ち目はない!


「蒼天の舞・三日月!!」


「ぐぁぁぁ!」


 パズルのように切り裂かれ、最後の末路は散り散りに。最初は相手のペースに乗せられてばかりで状況的にヤバかったけど、最終的にはどうにかなった。 

 あれだけ息巻いていたアルカディアがこうも散り散りになった瞬間に一気に静かになった。

 お陰で空間は沈黙と化し、安息が訪れる。これでもう一安心かな。

 ただ唯一問題点を上げれば、アルカディアが誘拐した女性の行方がまだ分からない。

 これについてはじっくりと調査すれば居場所とか特定出来るのかな?


「ほっ。これにて一件落着か」


「顔に似合わず恐ろしい奴だった。後始末がまだまだあるが、首謀者を倒しただけでも今は喜ぶとしよう」


 オルディネ代表ローマンはアルカディアが死んだのを確認するやいなや胸を撫で下ろす。

 それと同時にバートン国王も大いに喜んでいた。

 

 これにてアルカディアの襲撃による対処は完了。じゃあ、残りは扉に張られた強固な結界を破るのみか。


「な、なんだ……これ」


 どうなっている? 剣を振っても、振っても結界を打ち破った音がしない。

 物は試しで全身に力を込めて、扉に向かって一刀両断をしてみるも結果は悲しいかな……全然びくとも動きやしない。

 

「どうして破れない?」


「この程度の結界なら普通に武器を使えば、通れる筈。それなのに通る所か結界を破れないなんて……」


 さすがにこんな場所で長居する訳にもいかない。だから、ちょっと窓を開けて外からの脱出をしてみようとしたけどアルカディアは既に先を読んでいたのか、ここにも余計な結界が張られている。

 あの優男。意外にも用意周到であったか。


「何があったのだ?」


 あぁ、どうしよう。困っている様子を見かねて、王様が話し掛けて来ちゃったよ。

 

「どうやら……この結界。一筋縄では解けないようです」


 何度も何度も剣を扉にぶつけているにも関わらず、かなり頑丈。

 こいつを潰せさえすれば部屋から脱出出来るのに。最悪の場合閉じ込めを喰らいかねないぞ。

 剣で切ろうが、魔法を駆使しようが一向に破れようとしない強固な結界。

 時間だけ無駄に過ぎていく空間。次第に焦りを募らせていく僕達の背後で嘲笑う声が鼓膜に入る。

 恐る恐る振り返れば……こちらが必死で結界を潰そうとしている様子をにこにこと見ている奴がそこに居た。


「そいつは術者の気分もしくは数時間経過しないと壊れない仕組みなのさ。だから、どれだけ君達が脱出を試みようが……その扉は決して潰れやしない」


「アルカディア!? 貴方はさっきの一撃で確かに倒した筈だ! それなのに、何故!?」


 あれだけの攻撃を受けても、なお身体は正常。アルカディアの本体は一体どこに隠されているんだ? と聞きたくもなってしまう。


「創造神に選ばれた私がこのような戯れ事に負ける筈がない。ましてや、剣だけが取り柄の君には」


 慌てて、正面に振り向けばそこには幾重にも浮かぶ魔法陣。勝ち誇った表情で杖をかざせば無数にも折り重なる多種多様な光。

 一撃でも食らえば致命傷は間違いなく受けると僕とマリーは必死に守りを固める。

 だが相手は何度この手で沈めようが、すかした表情で立ち塞がる強敵。

 そう安易に反撃の手は与えてはくれない。


「無様だね、無様だね。余りにも未熟で実に滑稽だ!!」


「そう余裕をこいていられるのも今の内だ!」


 剣から蒼が発光して、力が段々と溢れる。蒼剣を握り締め縦に振り下ろす残光は一直線上に俊足の速さで穿ち、轟きの咆哮を上げると同時に大きく爆発。

 

「蒼天の舞・咆哮」


 威力を底上げし過ぎたお陰で辺り一面が全く見えていない。今辛うじて分かるのは隣にマリーが居る……それだけだ。


「これで終わってくれたら良いけど」


「アルカディアは相当強いよ。さっきの一撃で沈めれたら本望だけど」


 弱気な発言だろうが強気な発言だろうが……そうか、やっぱり貴方は。

 

 まだ優雅に、にこにこと両手を広げて! 僕達を挑発するのか!!


「くっくっ。あぁ、愉快愉快! そうやって歯軋りを立てそうな君を見ると、こちらは嬉しくなってしまう」


「お黙り!」


 光の鎖のような物がアルカディアの両腕と両足をがっちりと固定。

 身動きが一切取れなくなった状態にも関わらず、まだ余裕の顔付きで辺りを見回している。


「へぇ、さすがはミゾノグウジンの代わりの器となるに相応しい逸材。私の興味を益々持たせてくれるねえ」


「その口も未来永劫……閉ざしてあげる!」


 刹那、どこからともなく出現したワームホール。そこから降り注ぐ無数の矢。

 それは鬼が敵に対して棍棒を振るかのように容赦のない攻撃だった。

 しかし、あれだけの攻撃を受けてもなお身体は五体満足でいられるのか不思議でならない。


「いや~、良い技だった。寧ろ教わりたい位だ」


「な、なんでよ!?」


「選択肢を与えよう」


 アルカディアの眼光が変わった!? トーンがさっきよりも低く、近付くのは危険であるとすかさず距離を取ろうとするも時既に遅し。

 その時にはもう身体全体が宙に縛り付けられる上に後ろから金属のような音が響いている。

 もしかしたら、これって……脅しのつもりか。


「君の大事な人を傷つけたくないのであれば、私に協力しろ。ただし、返答を間違えれば!」


「ぐぁぁ!」


「このように……彼は路頭に迷う事となる」

 

 なんて卑怯な。僕を脅しの材料にして、マリーを強制的に引き込むつもりか。

 

「止めて」


「返答が違うな。それは私の求める解答では……ない!!」


 ぐっと堪えるには余りにきつい奇襲。例えるなら前しか見えていない状況下で背後から包丁をサクッと刺されているような感覚か。

 いや、現実では滅多に体験しないから説得力に欠けるけど……こいつはさすがに。


「ええい! 私の心配はするな! それよりも早く彼の援護をしろ」


「行きなさい!」


「ほうほう、蒼の騎士すら及ばない雑魚がご挨拶ですか。これはどうもご丁寧に」


 無数の魔法陣から放つ光が障害となって邪魔をする。もう、これで助けは見込めなくなってしまったと言うわけだ。


「早く決めてくれ。もう、君を待つ時間はそれほどない」


「そんなのってあんまりよ!」


 期限は一週間後と言っていたのに……何故、貴方はそうも急ぐんだ?


「神は告げた。唯一の障害が潰え、そして真なる世界を再生する時期は今であると!」


 杖から振るう雷撃が見事に直撃。彼の笑う顔が何ともおぞましきかな。

 もう抵抗する力も入らない。

 

「おっと、私に歯向かうのは止めた方が良い。私には君が大切にしている人質がここにあるのだから」


「マリー、僕の事は置いてくれ。君は一刻も早く! 脱走を!」


「脱走は不可能だ。二度も言わせるなよ?」


「……ふっ。前も後ろも行き止まりって事か」


 ど、どうしてだ! や、止めろ! 何故アルカディアの方に向かっていく!? 


「そうさ。それが私の求めた解答だ」


「こんな気持ち悪い奴に付いていくなんてヘドが出そう」


「なら、何故そうしたんだい?」


「抵抗なんてすれば……ショウタが傷つくからに決まっているでしょ」


「犠牲を押さえたいのかな。まぁ、合理的な判断と言えるね」


 こんな時に限って、力はもう入ってはくれない。唯一の武器も打ち上げられた際に床に落としてしまったので、戦える力は残されていない。

 

 ただ、僕はアルカディアの周囲に発する魔法の光を見つめるだけ。

 願いは叶ったと悦に入るアルカディアと僕に何かを訴えようとしているマリーの瞳が強く脳裏に焼き付かれそうになる。


「諸君。明日になれば、私達が拐っていた女性達は見事に解放されているだろう……もっとも場所は日当たりのよい広大な草原になるかもね」


「アルカディアァァ!」


「今日で自分の弱さを! そして余りにも自分が無力だと地の底まで思い知れ!」


「ショウタ、明日から私の事は忘れて。貴方はこの世界で、伸び伸びと生きなさい!」


 忘れるか。忘れてなる物か。まだ、この異世界でどこの奴か分からない僕に優しく接してくれた君に!

 

 現実世界であの子の印象を思い浮かばせてくれる君を失う訳にはいかない!


 だから……何にしがみついてでも、必ず連れて帰るんだ!


「マリー! 待ってろ! 絶対にそいつから引き剥がしてみせるから!」


「っ!? ……期待してるね」


「新たなる世界を築き上げし時。その時に君の顔をもう一度拝ませてもらうとしよう。それまでは、さようなら」


 粒子のようにキラキラと二人は消える。取り残された僕達と再び戻る会場。

 剣を拾い上げ、静かに現場から立ち去る。誰かが呼び止めているようだが形振り構っていられる状況ではない。

 

「アルカディア……待ってろよ。その余裕たっぷりの顔を潰してやるからな」


 これ以上にないくらいに握り締める拳。マリーを取り戻す事しか頭に入っていない僕にふと金槌で頭を叩かれた衝撃。

 

 それは予期せぬアクシデントのサインであり、はたまた異世界から僕のよく知る世界へ帰還を遂げるというサインでもあった。



    《異世界》→→→→→《現実》

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