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エピソード58:こう見えて、諦めが悪いんです

 主催者バートン国王による代表会議。

 集められた理由は勿論今日の今日まで黙りを決め込んでいたミゾノグウジン教がある日突然、宗主アルカディアの号令と共に各国の女性を拉致したのがきっかけとなって会議が始まったと言えよう。

 ただ、こっちの方では事件を起こした首謀者宗主アルカディアとその仕える部下が顔を見せた。 

 片目を潰されたサイガはともかくとしてアビスがあの首謀者と手を組んでいるのはあくまでも一時的な協力と見て良いのか。


 いずれにしても放置すれば、この世界は奴等の妙な計画によって書き換えられてしまう恐れが充分に高い。

 アン皇女を殺した奴は結局見つかっていないけど……せめて、奴等の野望だけは是が非でも止めないと。 


「では。アルカディアが女性を大勢……それも各国をも巻き込んだ理由を君は知っている。そうなのか?」


 創造神ミゾノグウジンを信仰する宗主アルカディアを一番に知っているのは僕だけ。

 マリーも一応途中から戦線に復帰してきたけど、最初から最後まで彼と会話を交えたのは僕であり多少のはぐらかしはされたが計画の内容を一部聞いてしまっている。

 だからこそ、この会議では仮の代表である僕が狙い撃ちされる訳であって。

 

 いや、しかしそれにしても……滅茶苦茶見てくるなぁ。そんなに見られると落ち着いて声も出せやしない。


「どうなんだ?」


「バルト国王。ショウタ・カンナヅキは今頭の中を整理しているのです。ご無礼を承知で言いますが、余り彼を追い詰めないようお願い申し上げます」


 ナイス、フォロー。やっぱりマリーは頼りになる。今の内に頭を整理しておこう。


「どう?」


「大丈夫、落ち着いた」


「では、改めて聞かせて貰おうか?」


 数多の女性を否応なしに連れ去ったのはアルカディアが心から崇拝しているミゾノグウジンの再臨をさせて、この世界を一から創造するのが狙い。

 恐らく、ここからは推測の域でしかないがミゾノグウジンを降臨する為には女性限定の血か何かが必要なのだろう。

 それしたって……そうまでして、この世界を一人のエゴによって大陸ごと作り替えるなんて。

 どこまで貴方は自己中なんだ。

 見た目優男だが、心の中は自分の理想とする世界を作る為ならばあらゆる障害をも平気で潰すサイコパスとしか思えないな。


「奴の計画を最終的に完結させれば」


「この今ある世界は呑み込まれ、別の新たなる世界が築き上げられるか」


 自分の行いを正当だと主張しているようにしか思えないアルカディアの言動。

 天地がひっくり返っても、そんな事は決して正しくない。

 寧ろ周りの皆をお構いなしに巻き込み、大変迷惑を被っている事に気付けと言いたい。


「こうなると、この事態を可及的速やかに終結させるとなれば……事件の首謀者であるアルカディアを始末する他ないか」


 オルディネ代表ローマンは今回の件に大変唸っていた。スクラッシュ王国のバルト国王も同様に唸る。

 それもその筈、彼はあの暴動を皮切りに人前で姿を滅多に見せていないのだ。

 となると、ミゾノグウジン教の実質トップに君臨するアルカディアを探そうにも探せないのが現実で次に姿を現した時は計画を本格に進めるのだろう。

 

 しかし唯一状況を打開出来るとなれば、誘拐された数多くの女性を救うのがアルカディアの計画を潰す最良の方法。

 これ以外の方法はあるにはあるけど、その事だけは彼等に包み隠しておきたい。

 それを告げた瞬間何かが大きく変わってしまう恐れがあるから。


「まずは女性の保護を最優先にする。そうすれば、アルカディアの計画も多少は妨害出来る」


 ミゾノグウジンを復活させる道具をこちらが奪い取れば、それだけで野望は完全に潰える。

 こうなってしまえば、これ以上に嬉しい事はないが残念ながら現実は早々甘くはない。

 

「いや……奴の消息が全く掴めんのなら手をこまねいて待つだけしかないのだろうな」


「無理な物は無理と。そんな簡単に吐き捨ててしまっても宜しいのですか? ハーゲン国王」


「何も諦めた訳ではない。今起きている事情を整理すればするほど、打開策を展開するのは現状困難であると判断しただけに過ぎないと言ったのだ」


 凄い……国と国で目線が互いにぶつかり合いながらバチバチと雷が見える!?

 幾ら仲が悪くても、もう片方の僕をガン無視しないで。


「では、方法があるなら提示して頂きたいですねえ」


「民主主義かなんだか知らないが、仮にもワシは王だ。その上から目線で喋るのをやめろ。それに対策は今考えておる! 貴様もその若い頭脳を働かせろ!」


「駄目だ、こりゃあ」


 状況的に考えて悪化の一歩を辿っている。このまま進行すれば最悪喧嘩は免れない。

 でも、止めるにしたって強引に止める訳にもいかないからここらのさじ加減が非常にシビアだ。

 うーん、どうやって進めよう……会議がやや混乱めいた中で頭を張り巡らせる。

 状況をよくする方法はあるけど、あれだけは絶対に無理なんだよね。

 嘘つきは泥棒の始まりって言うけど背に腹は変えられないんだ。


 それにしても、まだまだいがみ合いが終わりそうにない。いつになったら落ち着くのやら。

 

「バルト国王。突然の入室申し訳ありませんが、緊急の報告をこの場で申し上げます」


 各国の側近も対応に困っている中でドアをコンコンと叩き、入室する女性の報告で現場の状況はガラリと変わり果てる。


「治安団本部アークスにて現在ミゾノグウジン教による襲撃を受けている模様です」


「何!? あの治安団が襲撃を受けたと。して、イクモは……いや、奴ならそう簡単にくたばらんか」


「現場には何人か監視役が待機している状態ではありますが。どうしますか?」


「治安団の事は治安団に任せる。我々国はどう足掻いても支援する立場にはないからな……因みにアルカディアは確認出来たのか?」

 

 治安団は日本の警察のように国家が自衛隊を用いて捜査に介入する事はまれにない。

 となると、残酷ではあるが彼等の安否は祈るしかなさそうである。

 

 きっとあそこにはアン王女の一件でザットもライアン隊長も本部に戻っていると思うから、多分大丈夫だと思うけど。


「いえ、ミゾノグウジン教の首領は確認されてはおりません」 


「報告ご苦労。引き続き、この国を侵入させぬよう監視を頼むぞ……エレイナ将軍」


「はい、承知しました」


 真紅の髪の背中に金色の鞘。あの鞘は普通の剣より若干大きそうなので武器としては大剣か。

 あの女性、見た目の割りには随分とタフな人なんだな。


「治安団の連中も襲撃を受けた。となれば、奴等も本腰を上げたのか?」


「アルカディアが自ら腰を上げていないとなると、もしかしたらミゾノグウジン教の独断行動かもしれません」


 治安団を襲ったのは戦力の低下を狙って? それでも各国の兵士達が居るから戦力を削るには無理があると思うから誰かの個人的な恨みと取って良いのか。


「ええい。早くしなければ、本当に取り返しの付かない事態が待ち受けているぞ!!」


「うーん。アルカディアを抹殺しなければ、多くの女性の命並びに世界は崩壊する。奴が計画を実行する前に始末する方法さえあれば……」


 会議は思った以上に難航している。何もかもが止まった時間の中。

 丸型の机で向かい合う僕達にとって、予期せぬ者が魔法陣から顔を見せる。

 白いローブに指導者と思わせる高価な装飾。佇まいは静かに、それでいて悠然と。

 空のように青い髪が見た目だけ優男という印象を与え、僕から見て右目が緑で左目が赤のオッドアイ。

 それが奇妙な魔法使いという雰囲気に仕上がる。魔法使いの代名詞である杖も相まって。


「一つだけ方法はあるけど?」


「貴様!? どこから!」


「ん? 簡単だったよ。こんな守りの薄い場所なんて、わざわざ私をここに近付かせるよう招待してくれているような物じゃないか」


「包囲網すら相手にしないなんて!」


「驚いたかい? 魔法を熟知すれば、これぐらい芸当なんて容易く実現出来るのさ。例えば……こんな事だって」


 杖一本。ドアに一振りするだけで結界らしき魔法がいとも簡単に仕上がってしまう。


「ミゾノグウジン教宗主アルカディア。神に選ばれ、最高の幸せを授かった魂の子。見知らぬ諸君は今日という日を持って覚えて欲しい」


 これでは、援軍も呼べない上に脱出も不可能。彼に先手を打たれたのは深い痛手だ。


「それじゃあ、話の続きをしよう。蒼の騎士を除くお二人方が満足する方法の開示とやらを」


 優雅に舞いながら今度は会議室から一変して、神秘的な空間へ変貌させる。

 床は銀河のように、まるで宇宙空間に投げ出されているようで足元がかなり落ち着かない。

 これってアルカディアの気分で落とされたりしないよね?

 

 いや、それよりも真っ先にこの人の口を封じないと! あれを言われたが最後最悪の展開に進むぞ!


「おっとと、話くらいはさせて欲しいな!」


「やらせるか! それだけは絶対に言わせない!」

 

「しかし! 君達の力では圧倒的に無力! だからこそ、この心優しき私が解を告げようとしているのに……」


「優しい人は自分から言わない!」


「くくっ、それもそうだったねえ!」


 間合いは取れた。それなのに、アルカディアは剣の特性を熟知しているのか振っても振っても軽やかに回避する。

 だが、こっちには僕では一切使えない魔法を器用にこなすマリーが居るんだ。

 二人居れば、充分に勝てる戦場。魔法で支援するマリーを遠目でニタリと気持ち悪い表情を浮かべて。


「代表者諸君! そこに白く、美しく佇むマリー・トワイライトを黙って譲ってくれるのであれば無条件で拐った女性を全員解放してやろう!」


 この野郎。ついに言ってはならない事を吐きやがった! しかも狙ってやったかのような表情で僕を見ている。

 全ては計算通りだと言いたいのか。くそっ、言いように弄ばれている!


「仮にそれ承諾すれば、本気で釈放してくれるのか」


「勿論だとも。彼女さえ手に入るのであれば、計画を後に進めても良いしね」 


「計画も延長すると?」


「気分が乗ったからね、それぐらいはさせて貰わないと。あと元々これは創造神ミゾノグウジンによるお告げから始まった計画で期日は別に決まってはいない。だから、いつ実行するかは私の気分次第で決まるのさ」


 ミゾノグウジンからのお告げ? 神って言われて崇められているんだから普通死んでいる筈。なのに、アルカディアだけは創造神からお言葉を頂戴していたと? そんな馬鹿な話があるか!


「頭に血が昇ってきたかい?」


「えぇ、今僕は虫生に腹が立っていますよ」


 余計な言葉を吐いて下さった貴方には徹底的に絞り上げないと! だから……頼むぞ、蒼剣。


「マリー・トワイライト。人類の為にもーー」


「黙れええ!」


 やってしまった。無理矢理王の言葉を遮ってしまった。これが終わったら、後でとんでもない処罰を受けそうだけど……今は吹っ切れろ!


「さあ、切羽詰まった最悪の状況下! 増援も見込めず、はたまた脱出不可能な異空間で君はどう抗ってくれる?」


 どうもこうも……僕はこの場で今回の黒幕である貴方を撃破するだけだ!


「僕はいざって時は諦めが悪い方なんです。だから!」


「私も協力する。こんなキモ男に連れていかれるなんて、虫酸が走るから!」


「やれやれ、どうやら君達……いや、特に蒼の騎士には現実を叩き込んでやらないと分からないようだね!」

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