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エピソード55:緊張なんて……うん、してます

 翌日、本番の会議の舞台はゲネシス王国にあらず別の場所へと移る。

 夏のようなじりじりとした暑さでたまに吹いてくれる風が心地よく感じる真昼にて、馬車を用いてわざわざ向かったのは。


「貴方が……蒼の騎士で?」


「はい。そうですが?」


「縁の遥々スクラッシュ王国へようこそ。本日執り行う会議は、王城の二階にあります右側の角部屋ですのでお間違いなく」


 向こうは僕を見るや否や早々に蒼の騎士と視認してくれた。

 特に覚えられやすいような特徴はないに等しいけれど、アイツを倒した功績が予想以上に広まったお陰だと言い切って良いのだろうか。


「まさか、スクラッシュ王国に来れるなんて。ちょっと感動ね」


 目がいつも以上にキラキラしているマリーの反応は新鮮だが、僕からしてもそれは当然のように思えた。

 スクラッシュ王国は街に入ると、ゲネシス王国と違って色とりどりの花が幾つかの場所に置かれている……が綺麗な景色とは裏腹に街のムードはお葬式と言わんばかりに暗い。


「綺麗に整理された街で三大王国の中でも一番清潔を保っている」


「けれど、アルカディアが起こした暴動のお陰で街は」


「そうね。私達の住んでいる街以外でも被害は想像以上に広まっていったみたい」


 自分の目的を達成したいが為に人の幸せすら、躊躇なしに踏み潰すアルカディア。

 被害はもう出ないとは思うが、このまま彼の好きにさせる訳にはいかない。


「じゃあ、ここからは徒歩で行きましょうか?」


「うん。そうしよう」


 馬車は近くの門兵に委ねて、城に向かうまでの間はマリーと二人でゆっくりと街の細部をざっくりと眺める事で分かる事情。

 

 ある場所では幼い女の子達が泣きわめき、そして他の周辺にも項垂れている男性が多数。

 恐らく、この人達はあの事件を切っ掛けに母親と妻を失ったのではなかろうか?

 表情は窺い知れないほどに頭が下がっており、ある人は涙を床に落としているというドン底の状況。

 街の景観とは不似合いの光景に僕は胸が苦しくなる。


 貴方の目的で始まった野望の影響はこんなにも広がってしまった。

 自分の好き勝手で人生を狂わせられた人達にどれだけ迷惑を被っているのか、直接見ろ。

 

「もうおしまいだ」


「えーん、ママー!! どこに居るのぉぉ!」


 可愛そうに。ママはもう拐われているというのに未だ探している子供達が大声で張り叫ぶように泣き叫んでいる。

 とてつもなく、見ていられない上に今の僕達ではどうしようも出来ない。

 何も助けられないというのが、ここまで腹立たしいとは。


「今は私達で出来る事をやろ? そうじゃないとショウタの身が持たなくなっちゃう」


「苦しいよ。何も出来ない自分に」


 罪を起こしたのはミゾノグウジン教の教えを全世界に広めたとされるアルカディア。

 僕の国以外でも自分の為す願望とやらで街の女をほとんど拐っていくというエゴを越えたやり方を決して許してはならない。


「ショウタはやりきった。私が途中から合流するまで、よく持ちこたえたくれた。その点は大いに誇りを持って」


 彼女が微笑みを見るだけでドン底に沈む身体は輝きを持って、明るく振る舞えるようになった。 


「そう言ってくれると……楽になるよ」


 気が付いたら辿り着く大きな城。

 まずは正式な手続きを踏まえて、それから堂々と足を踏み入れる。

 城の中はごちゃごちゃした物は置いておらず、必要な物だけを置いてるように見える事からこの国の王様は綺麗好きであるとお見受けする事が出来た。

 まあ、外のスッキリとした景観からみればすぐにでも分かるけど。


 などと考えている内に、兵士に言われた通りの場所へと進んでみると何人かの人達は僕達を待ち構えているようだった。


「すいません。遅れてしまいましたか?」


「いえ、少し遅いような気はしましたが……今はまだ会議は始まっておりませんので、どうぞご安心下さい」


「では……行きましょうか?」


 ここからは真剣にならないと。今日始まる会議がどう転ぶかは分からないけど、物事はなるべく慎重に進めないと。


 バクバクと煩い心臓の音。学年発表会すら出ていない僕からすれば緊張が全然止まらないというアクシデント。

 いくら、隣にマリーが見守っていても偉い人達とこれから会話を交わすとなると舌がきちんと動くか心配だ。


「よくぞ、参られたな」


「バルト国王の代理人ショウタ・カンナヅキです。今日は宜しくお願いします!」


「同じく代理人のマリー・トワイライトです」


「ほう。まさか、蒼の騎士と謳われる者が来ようとは」


 白髪だらけで長老と言わんばかりの人物。この御方がスクラッシュ王国を現在統制しているハーゲン国王。

 来訪してきた僕に高い関心を示してくれているようなので、掴みに関しては成功って事にしよう。


「バルト国王は容態が今も優れてないので、代わりに私達が来た次第であります」


「話には聞いている。ゲネシス王国で世にも嘆かわしい大惨事が起きたと」


 アン王女が結婚式当日に殺害された、かの事件。必死の捜索も虚しく、無惨に散ってしまった死体は丁重に埋葬されていった。

 僕達がこうして、この場所に訪れている最中に国の者はアン王女の死を世間に公表して大々的に弔うのである。

 とは言え、その件は知らされる前から風の噂で国中に知られているのだが。


「バルト国王の娘であるアン・アンビシャス王女が亡くなってしまわれた件についてはご冥福を祈らせて貰おう」


「ありがとうございます」


 丁重なお言葉を頂戴して、促されるままに指定の席に座る。

 僕とマリーは何とか時間を合わせる事に成功を収めたけど、会議では代表という立場に立たされている者は三名。

 ショウタ・カンナヅキとハーゲン・スクラッシュ国王とその他もう一人。

 その御方がいつになったら、この場に顔を見せるのかは知る所ではない。


「遅い。どれだけ待たせるつもりだ?」


 重要な会議に数十分。指定された時間とやらはとっくに過ぎている。

 早く急がないとハーゲン国王の怒りが収まらなそうだ。


「では、後から来るかもしれないので……今から始めましょうか?」


「うーむ。そうするか」


 それにしても二人で進行するのか。お互い、各々に護衛が居る上に相手も一回りいや五回りくらい離れた王様に話し掛けるのは……かなり緊張しちゃうぞぉ。


「申し訳ない。かなり待たせてしまった」


 ドッタンガチャンと慌ただしい様子で顔の汗を拭う眼鏡の男性。

 その人は僕達に視点を合わせて。


「あちらの会議に時間を喰った。早めに終わらせようとはしたが、反対派からの抗議に思わぬ時間を割いた。それが結果的に遅れた件については謝罪をする」


 会議に相応しき真面目な服装といかにもエリートの道にまっしぐらな男性。

 ゲネシス王国からは代理人としてやって来たショウタ・カンナヅキ。

 スクラッシュ王国は会議のミゾノグウジン教宗主アルカディアが始めた暴動に対処するべく召集を一番に掛けたハーゲン・スクラッシュ。

 最後に残るのはかの侵略を最後まで止めなかったオウジャ王国となるけど……もう名前は変わっている。


 過去にあった国王が起こした暴動。償いきれない被害を生み出した者達はオウジャを永久に戒め、過去の汚物として処理され新たにオルディネという名前で生まれ変わった。

 

 それと同時に国王主義から民事主義へと変化した国家。この、いかにもインテリ感に長けている眼鏡の男性はオウジャ王国亡き後、皆からオルディネ代表として承認を受けた選ばれし人物である。

 過去に犯した反省から兵器を作らず・戦争を起こさないと誓いを立てるという平和に力を入れた事でオルディネはかつてない程の盛り上がりを見せているとか。


「君が……その、蒼の騎士だったか。噂で耳にはしていたが、直接こうして出会えた事に感謝しよう」


 僕に会うや否や挨拶を交わして、自ら手を差し伸べてきた。この場は礼儀として素直に握手を交わしておく。


「紹介が遅れてしまった。私はオルディネ代表ローマン・クロイツェフだ」


「ショウタ・カンナヅキです。今日はバルト国王の代理として参りました」


「バルト国王は娘であるアン王女を失ったショックから立ち直れていない」


「なるほど……それで、代表同士で集まる会議に彼が来たのか」


「会議を始めよう。こうしている間にもアルカディアは計画を進めているかもしれんからな」


「同感ですね。それでは可及的速やかに」


 ハーゲン国王の言葉に同調すると、ローマンはすぐさま指定の席へと着席。

 これにより、重要な会合が今まさに始まろうとしていた。


「それでは……始めましょうかね」


「議題はただ一つだ」


 ミゾノグウジン教を統べる宗主アルカディアが始めようとしている計画の阻止。

 未だに彼はあれから、一向に表舞台から姿を現していないが……次にまた暴挙を許せば街の被害は想像を絶する程上回るかもしれない。


「いつものペースで。あくまでも冷静に代表と向き合うのよ」


「うん、なるべく頑張るよ」


 なにせ相手は僕よりもお偉いさんだから、嫌でも緊張してしまう。

 だからこそ、こういう時はマリーの言った通り落ち着きを払って会議に望まないと。


「宜しいかな?」


「え、えぇ」

 

 ローマンに怪しまれたけど、何事もないかのように平常に再開された。


「我々が対処すべきはミゾノグウジン教宗主アルカディア。私としては万死に値する犯罪者として彼の行方を追っている。だが……そうなる以前に最悪のケースを想定せねばなるまい」


「本日の議題はアルカディアの対処という見解で?」


「うむ。事は急になってしまったが……なんとしても更なる被害が広がらないように徹底せねばな」


「オルディネもあの件以来、平和を貫いて参りましたがミゾノグウジン教の唐突な暴挙により罪なき女性が多数誘拐されてしまいました。我々はそのような事件が二度と起きないよう、ミゾノグウジン教と判断した者には独房へ連れ込むように指示を出しています」


 事態は予想以上に進んでいたか。平和主義のオルディネがそこまで乱暴にするなんて。


「張本人であるアルカディアを捕まえぬ限りは幾ら捕まえようが、平和は訪れんだろう」


「仰る通りです。だからこそ、私は貴方達とこうして意見を交わした上で早期解決を図りたいのです」  


 この会議……そう、簡単に一筋縄ではいかないかも。 

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