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エピソード4:空からの宅急便でーす

「ねえ。翔大は叶えたい夢とかある?」


 この声は……中学までずっと一緒に遊んでいた。そう腰まで届いた艶のある黒い髪に、油断していたら吸い込まれそうな魅力ある瞳。

 一見して美人でありながら人を一切寄せ付けない綾瀬のぞみ。

 幼稚園の頃から訳あって転入してきた彼女は初めは一人になる事を望んでいた。

 最初は転入生として誰もが彼女に色々ととやかく話を振ってきたが、彼女の放つ冷たい態度に対して皆は次第に話しかけなくなった。

 元々彼女が転入してきた時から幼いながらも恋心を抱いていた僕は一人きりの彼女に話を吹っ掛けた。

 まぁ、聞いた所でどうでもいい話が大半だったけど。

 ただ、彼女が僕の話を聞く時は前のめりで聞いてくれた。それからはずっと友好な関係であり続けた。

 いつの日かクラスが別だった親友の彰を紹介した際は嫌そうな態度を露骨に出していたけど、彰は誰にも対してもフランクな方だから彼女も折れた。

 僕は密かに彼女を想い焦がれて、あっという間の中学生。子供ながらに時の流れは早すぎると感じていた。

 今日は彼女と待ち合わせを交わしていた。遅れると連絡してきた彰と合流したら適当な場所にブラブラとする予定。

 だから、こうして彼女と二人きりになっていたらのぞみが藪から棒の言葉を投げ掛けてきた。

 正直困惑する。いきなり、そんな事を聞かれてもまだ中学生なんだからはっきりとは答えられない。


「どうしたの? お口が止まっているよ」


「いや、その……夢とか聞かれるとは思わなくてさ」


「夢ぐらいあるでしょ?」


 うーん。道徳の授業でもあったけど、夢についての具体性が浮かばないんだよね。

 もし、敢えて馬鹿げた事を言うのなら……


「私はあるわよ」


「えっ? 君にもあるんだ」


「失敬ね、これでも私は立派な中学生なのよ。夢くらいあるに決まっているじゃない」


 不思議だ。彼女はまだ中学生なのに、もう大人の一歩を進んでいる。

 もたもたしていたら置いていかれそうだ。

 せっかくの機会だから聞いておいても減らないだろう。遠回しに聞いてみようっと。


「だーめ。翔大に教えたら意味が無くなっちゃうわ。だから何されても教えません」


「そこをどうにかお願いします」


 時々、彼女は人の思考を鋭く読み取る力があった。にわかには信じられないけど、何回も経験してしまうと馴れてしまう自分。

 そして、もう1つのぞみは小さい頃から不思議な力を持っていると事ある度に口に出す。

 不思議な力に関しては一切信用していない。現実世界の人間がそんな不透明な言葉で本当に使えるのを直接見た事が無いからだ。

 

「ふふん。じゃあ、一部のヒントは開示して上げる。翔大の叶えたい夢を……教えてくれたら」


 耳元で囁くのは止めてくれませんか? 凄く興奮するので。


「うーん。強いて言うのなら」


「強いて言うのなら?」


 のぞみの吸い込まれそうな瞳を捉えて、口に出す。ただし、そこからの言葉が明確にシャットダウンされている。

 言葉を最後まで告げた後ののぞみの表情は花が満開に咲き誇る程のとても綺麗な笑顔。


「分かったわ、翔大の願いは必ず叶えてあげる! 私がどんな目に遭っても」


 ぼやけていた視界がうすらうすらと鮮明に。ここは森林の中……なのか。

 戦闘の最中に僕は木に寄り掛かって寛いでいたようだ。凄く命知らずな野郎だ。

 下手したらモンスターに食われかねない。


「はい、これ。あんまり美味しくはないけど栄養は取れるから食べなさい」


 ブルーベリーをぶつぶつにしたような果実がそこに。見た目が非常にグロッキーで洒落にならない。

 本来なら手を出したくはないけで、せっかくマリーがわざわざ僕が睡眠している時に採取してくれたんだ。

 食べなきゃバチが当たりそうだ。


「頂きます」


 一口試すように試食。うん……うん。ブルーベリーのプチプチした食感とは打って変わってガリガリ。更にそれでいて甘味よりも臭みが勝っている。

 これを一言で叫ぶのなら滅茶苦茶まずい!


「おぇ。これ……僕には無理」


「ちょっとちょっと。こんな場所で吐かないでよ」


「いやいや、揺らさないで。ただでさえ気分が悪くなっちゃうから」

 

 これ以上無意味に揺らされてしまったら、キラキラとした物が外に流れ出る可能性が高い。

 誰もがまずいと思われる味を美味しそうに食しているマリーに首を傾げながらも僕は一息つく。

 まだ、モンスターには運良く見つかっていない。それにしても静けさが立ち込めている。

 この地区って確かアウレオルスがうろついついるんじゃなかったの?

 嫌な感覚が次第に。背筋から一瞬寒気が運ぶ。恐る恐る振り向いてみたが、アウレオルスの姿は見当たらない。

 うろうろとしている僕に対してマリーは怪訝な表情で見ているがこの悪寒はそれどころではない。

 きっと、奴が近付いているんだ。何故、接近しているのかはこちらから聞きたいくらいだけど今はそうこう言ってられない。

 絶好調に不味い果実をばきばきに食べるマリーも忍び寄る小さな足音にいよいよ気付いた。

 もう間もなく接近する。頼むから……来ないでくれ! という希望は叶わないのか? 


「こっちね!!」


 手のひらから放つ強大な火の玉。激しくめらめらと燃え上がる球体を気配のする方向へ強く投げ込むマリー。

 しばらくして灼熱の炎が見事に命中。アウレオルスの叫び声がこちらの耳にも聞こえる。

 これはかなり怒り心頭。こちらから仕掛けしまったのなら機嫌を元通りにするのは叶わない。

 頼むから、その灼熱に身を包んで下さい。いくら先が見える能力を手に入れたってそれは不可能であると思われます。

 必死に願う想い。ただ、大抵願っても無意味になるのは常である。

 案の定遠くに足を進めたアウレオルスは灼熱の炎を命からがら振り切って、全速力で接近しているに違いない。

 こいつの暴走を止めるのなら、僕がやっつけてやろう。この貧弱……では無く頼りの無い剣で。全身全霊の思いで!!


「燃えよ!」


 アウレオルスの全身に見事必中。燃え上がる身体を振り切るとすぐさま前進を全速力で駆け抜ける。

 瞬時に働いた先読みの力で横へ振り切った直後に僕が一休みしていた木はドスンと音を立てて地面へ。

 重く感じる剣をがむしゃらにとやかく振り回す。アクションゲームで動かす主人公の動きを真似て、動いても悲しい事に現実はそう簡単に真似てはくれない。

 

「堅すぎ!」


 なんて頑丈……剣で実際切っているにも関わらず、傷すら受けない。これじゃあ、接近武器の意味が無い!


「ぎゃおおおお!」


 長い尻尾が身体に当たる。僕の身体は嫌な音を立てながら吹き飛ぶ。

 ひりひりとした痛みに飢えながらも立ち上がる時、かつてない激痛が全身に渡っていく。

 これは現実世界では今まで味わった事のない経験。まぁ、こんな恐竜と合間見えている時点で、無事に帰ってくる保証なんて何処にも無いような物だけど。

 本当にあの店主の人相が窺いしれない。何を考えて、僕にこんな非情な任務を……って!


「雷よ!!」


 マリーが放った電撃もアウレオルスには効果適面。こいつって打撃よりも魔法の方が倒しやすいのかな?  

 こっちの方がアウレオルスの動きが鈍くなっているような気がしてきた。

 けど、魔法を的中させたマリーの顔はどうにも喜ばしくない。


「やっぱり、とどめは魔法じゃ駄目ね」


「でも、打撃だと全然利かないよ!」


 寧ろピンピンしている。僕がやった限りでは打撃よりも魔法の方が断然良いんだ。

 それだったら……と思っていたけど、マリーの気持ちは違うようだ。僕に向けた表情がそれを物語っている。


「やるのよ。貴方ならそれを可能にする。どんな状況下に陥られようとも」


「くっ、無茶だ。こんな武器では永遠に勝てないし、僕は魔法を使える君と違って端から素人。アウレオルスを討伐するスキルが圧倒的足りていない時点で初めから無理だったんだ!」


「目の前に敵が居るのなら、全力で歯を食い縛って構えなさい。そして勇姿を私に見せて! 貴方ならそれが絶対出来るから!!」


 マリーは厳しい。現実世界から転移してきた素人に対して、恐竜相手に立ち向かっていけだとか正気の沙汰ではない。

 けれど、僕は紛いなりにも親の腹から男として生を授かった。

 今ここで力を振るおうがが、目の前で亡くした大切な希は決して命を吹き返さないけど。


「ショウタ、男を見せなさい!」


 僕はやるよ。出来る事は1つずつ着々とやっていくんだ。その為にはこの剣に代わる物を。

 

 威力最高。持ち手の僕に非常に馴染む剣が欲しい! 目の前で迫り来る魔物を押し退ける力を。引いてはどんな奴にも対抗出来そうな物でお願いします!

 なるべく登場は遠くの空から剣を何とかキャッチする形で。


「ぎゃおおお!」


 怯んでいたアウレオルスが復活した。こっちに足を向けて前へ前へ。

 一か八かの賭けに想いを託した時、奇跡が起きた。

 月から一筋の光。

 蒼き剣が地面に刺さる形で。


「それで切り裂きなさい!」


 襲い掛かるアウレオルスに対し、僕は重い剣を地面に投げ捨て代わりとなる剣を大きく振り払う。

 見事顔面に命中したアウレオルスは悲鳴を上げながら地面に倒れた。

 形成は結果的に逆転。この蒼き剣は初めから僕の物かのように馴染んでいて威力もそれ相応。


 しばらく待ってもアウレオルスの身体は全くピクリとも動かず。

 さっきの一撃で倒したのか? こんな細い形状をした剣と呼べなそう代物で。

 蒼き剣は月から照らされた光に反射して更に輝しさを増す。決着が着いたのを見て近付いてくマリーの顔は非常に美しい。

 雪のように真っ白な髪とうっかりすると吸い込まれてしまいそうな綺麗な瞳。

 彼女は嬉しそうな表情で僕の顔を見つめる。


「やったね」


「うん、この剣が僕を助けてくれたんだ」


 何故月から突如降り落ちてきたのかは知らないけど。今は感謝しよう。


「じゃあ、アウレオルスを倒した証拠に尻尾を切って帰りましょう! 店主には貴方が一撃で倒したと報告しとくね」


「いや……あれは偶々だと思うんだ。それに、この剣にはまだよく分からない事が沢山あるし」

 

 蒼き剣は僕が持つ限りではアウレオルス退治を押し付けた鬼畜店主から一時的に借りた剣と違って、持ち手どころか重量も軽くて威力も抜群。

 ただ、月から降り落ちてきたという点を除いては。

 僕は持ち主として選ばれたのか? だとしても余りにも唐突なイベントだ。

 危険が迫った時に運良く強い武器が舞い降りてくるなんて……


     


      都合が良すぎる。



「まあまあ、別に良いじゃない。何がどうあれショウタはその剣で私でさえも歯が立たないアウレオルスをばっさりと倒したんだし、さっさと帰りましょう」

 


「分かった。帰ろう」


 素人の僕におかしな力が……この世界に来てからは次から次へと手に入る。

 普通の異世界主人公ならこれに満足するのが常だろうけど。


 僕はただただ気味が悪いと思う。












「ふふっ」

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