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エピソード46:アクシデントは唐突に

「うーーん」


 疲れがどっぷりと溜まっていた。だから、一旦は屋敷に帰って気の休まらない就寝に入った訳だけど不意に目を開けてみれば。


「ベットが違うし、何より景色も変わっている」


 舞台は異世界から現実に戻ったのか。やれやれ……あんな事件が起きて、精神的にも辛いと言うのに神は何故僕にこうも無慈悲な試練を与えるんだ。

 

    《異世界》→→→→→《現実》


 文句ばっかりごねていても仕方がない。今は今の問題にどう抗うか立ち向かわないと。

 現実世界では異世界よりも事件としてはマシな部類に入るけど、結果的に全学年が参加していた講座が僕のお陰で台無しになってしまったのは紛れもない事実だからな。

 体育館であんな喚いた声を上げてしまったから注目もされたんだろうな……あーあ、皆の前で顔を会わせづらいよ。


「すいません。どなたか居られますか?」


 閉まっていたカーテンから顔を出して、小声で呼び掛けてみたけど一切の応答なし。

 全く、保健の先生はどこをほっつき歩いているのやら。周囲を探しても見つかりそうにもないから、どっかにさ迷っているのかな?

 

「もう夕方か」


 服装も高校に相応しい制服に戻っている。念の為にスマホを取り出してみると何件か残されていた明のメッセージが非常に目につく。

 体育館で気を失って以降、あれこれと心配していたようでメッセージからその気持ちが充分に伝わってくる。

 明のほんわかなメッセージに癒されつつ、簡単なメッセージとスタンプで済ませておく事にした。

 さて、ここで粘っていても保健教師が帰ってくるとは思えないから見回りついでに探しに行こうではないか!

 

 意気込みを掛けつつ、ドアノブを握ろうとしたその矢先に押してくるドア。

 あっ、これは! 間違いなくぶつかーー


「ぐえっ!!」


「おっと、すまない。まさかそんな場所に突っ立っているとは思いもしなかった。これからは、もう少し気を配る努力をしよう」


 勢いよく開けらたお陰で額の方が大ダメージを喰らったじゃないか。

 しかも、反省の色が見えないのが余計に頭に来る。


「保健の先生は?」


「今はどこかに出払っているようです」


「あんな事件が起きたら、学校も学校で大変だろうからね。事態の収束については今日中に片付きそうだけど」


 眼鏡をしている男性は額の痛みでヒリヒリしている僕に対し、出来る限りの手当てをすると一息ついてから僕がさっきまで寝ていたベットに考えもなしに座り込んだ。


「今日の件については本当に申し訳なく思っている。まさか、そこまでの痛みを背負っているのを知らずに興味本意で探っていくなんて……講師としては実に間違った行為だ。これからはもう少し空気を読めるようにしよう!」


「あっ、はい。そうですか」


 その決意、間違っても明日になって忘れないで下さいね。


「そういえば僕の名前は知っているかね?」


「確か……」


「櫻井渡。心理についての講座を開いている時もあれば、趣味全開のオカルトに手を出している。性格もこのようにひねくれているお陰で、この年になって彼女も出来やしない童貞という残念な道を突き進む男って所かな」


 何かペラペラと語り始める上に終いには魔法使いを目指すつもりなんてないんだけどね……とか謎のワードを使ってきた。

 この人、黙っていたらそれなりに良い感じに入るのに喋ったら自分のペースで進めていこうとするのが未だに彼女が作れない原因だったりする?

 

「失礼」


 悠長に語る櫻井の後ろでどっしりとした体つきを持つ男性が母さんを連れてきた。

 ピクッと肩を震わせてから申し訳ないと一言述べてから、そそくさと退散する櫻井。


「ではでは」


 彼は結局話すだけ話して勝手に退散していった。

 今後会う機会は訪れないだろうが、不思議な人であったという印象はこの先ずっと刻まれるに違いない。


「もう身体は大丈夫なの!?」


「うん、ごめんね。変な心配を掛けさせて」


 どっしりとした体つきをした男性が僕の熱を計測したり、さっき偶然ぶつかってしまった傷について問い掛けてきたのでそれについては詳細に述べた。

 と言うか、この男性は保健の先生だったのか……普通は綺麗な女性が担当するんじゃなかったの? 

 体育なら分かるけど、保健を男性がやるのは珍しいんじゃないかな。

 

「熱もないようですし、取り敢えず家で安静にさせておいた方が良いでしょう。病院に行かせるかどうかはお母様に一任します」


「分かりました。今日は私が責任を持って連れて帰ります」


 真っ暗になろうとしている校内。担任の教師と軽く話しあってから帰路につく。

 帰り道までずーと無言で何を話したら良いのか分からなかったけど、母さんも黙って歩いていたので結果的に居心地よく家に入った。

 自分の部屋に入ろうとした矢先に玄関から父さんがお出迎えしてきたのは大変驚いたけど。


「うぉー! おかえり!!」


「どわぁ!」


「あなた……これでも、まだ翔大は病み上がりなのよ。少しは場を読みなさい」


「すいません」


 しつけられている父を通り抜け、久々に入る自分の部屋は田舎に帰ってきたかのような気分になった。

 こうして自分のベットにダイブするのも本当に長らくぶりで、異世界の在宅期間が長過ぎた影響で僕の部屋かどうか分別も出来ないけど辛うじて僕と明が一緒に写っている写真から判断するに間違ってはいないのだろう。


「さてと、テレビを付けてみるか」


 ビデオはそれほど録られていないようで何より。今の時間帯のチャンネルは全部ニュースか。

 あんまり興味深い情報はなさそうだけど、一つ気になるとしたら女子高生が夕方の時間に自室で心不全で死亡か。

 今時の僕らの世代は心不全で亡くなる時代に突入し始めたのか。

 用心しても防ぎようがないじゃないか。あぁ、頼むから心不全でお亡くなりなんて止めてくれよ。

 そんな変な病で突然訳も分からず死にたくない。


「翔大。ご飯の準備が出来たら読んで上げるから、昼ごはんを食べているなら、歯磨きを済ませてから寝なさい!」


「はーい」


 母の言う言葉に一理あり。言われてすぐさま立ち上がって、とりとめのない平凡な一日を済ませた。

 今回起きてしまった事については学校から色々と説明があったと思われるのに両親はその件には一切触れなかった。

 寧ろ、家族団らんの賑やかな食事が出来たのは僕にとって大切な一日であり最高の瞬間であった。



 それから半日が経過した。その間は何事もなく同じようなサイクルで時計が刻まれ、異世界で釈然としていない謎があれど現実世界の生活に慣れきっていたある日。

 

「じゃあ、気を付けて帰るんだぞ。最近は夜な夜な物騒な事件が多発しているからな。くれぐれも帰り道で寄り道するんじゃねえぞ」


「はーい」


「やる気なさすぎだろ」


 気迫の抜けた返事でお開きになった。僕も明に続いて帰ろうとした時に後ろから担任に呼び止められる。

 どうしてかは分からない。別段注目されるような事はあれ以来一切やっていない筈だけど。


「最近、身体は大丈夫か?」


「大丈夫です。ただ、数日前は体育館でみっともない真似をしてしまいご迷惑をお掛けしました」


「気にしなく良い。神無月があんな風になっちまったのはどう考えてもあのインテリ眼鏡が原因だからな。ここだけの話し、他の教師陣もこぞって言っていたから何にも気にする事はねえ」


「そう言われると、ほっとします」


「誰だって掘られたくない過去はあるからな。教師の俺としては生徒の悩みも親身になって聞きたいが、神無月が嫌なら答えなくても良い。ただ、話せるようになったらいつでも相談してくれよ」


 肩を叩かれ、颯爽と立ち去る担任の教師の背中。このご時世、積極的に関わろうとしない教師が多い中で担任の取る行動は実に珍しい。


「帰ろうか」


 明も空気を読んで、先に帰ってしまったようだから実質一人で下校か。

 学校の玄関から一歩出てみると、放課後に残っている人達はは野球部をするなりサッカー部でパスの練習に励んでいたりと今の生活を謳歌している人達が沢山居る。

 その外れに属した僕は誰にも呼び止められぬまま正門を抜ける。

 最近の母さんは気を使ってか僕に買い物をメールを送り付けて来なくなった。

 これはこれで非常にありがたいのだけど、無理せず普通に頼ってきて欲しいのにと思ってしまう自分がいる。


「一人で下校とは……寂しい人生を送っているな」


 僕に聞こえるように立ちはだかるスーツの男性。いかにも煙草が似合う中年の男性は鋭い眼孔で僕を見下ろす。

 この人とは初対面だ。しかし、第一印象からして普通の人は違う何かを持っている。

 対応は慎重にすべきだ。下手な行動に移したら確実にやばい。


「貴方はなんなんですか? 僕にちょっかいを掛けにきたのなら警察に通報しますよ」


「おいおい。別に俺はそう怪しい者でもないんだが……んと、実際に見て貰った方が早いな」


 ポケットからがさごそと落ち着きのない様子でまさぐる男性からようやく現したのは二つ折りの形を司る手帳。

 パッと見てたら、POLICEも宮城警察署も印字ではなく刻印されているのでこれは間違いなく本物の警察である。


「宮城警察署、刑事課所属須藤健作。こうみえてまだ巡査長のぺいぺいだ」


「巡査長!?」


「10年経過していりゃあ、試験もなく昇格出来るありがたみもくそもない階級だからそう身構えるな。それよりも君には個人的に調査しておきたい事があるから一回警察署に来て貰おうか?」


「何も犯罪に手を出していないのに……それは横暴だ」


「別に君は犯罪者じゃない。これは一応、任意になるが俺としてはどうしても腑に落ちない部分があるんだ。頼むから、捜査の一貫として手を貸してはくれないだろうか?」


 犯罪者でないなら、まずは一安心……いやいや、こうして警察官に目を付けられている時点で安心なんてあった物じゃない。

 こうなったら素直に従って、捜査に協力するべきだろう。

 けど今から行っても帰りは真っ暗になる上に、両親にまたもや迷惑を掛けるのはもうごめんだ。

 

 どうにかしてバレないように済ませておこう。

 

 両親に対して秘密にするのは息子としてどうかと思うけど、事態が事態で形振り構ってはいられない。


「気は進みませんが……分かりました。貴方の要求に対して素直に受け入れます。ただしーー」


「今日は遅い上に君は青春ど真ん中の高校生。あくまでも任意だから日程は自由にさせてやる……それで、文句はないか?」


 僕の言おうとしている言葉を一部察したか。これが警察官のスキルとなると中々に末恐ろしい。


「俺の電話番号を渡しておく。君の連絡先も知りたいから、この紙に書いてくれ」


 あぁ、折角落ち着いてきたと思ったら今度は警察絡みの事件が発生とは。

 ある日突然異世界に行って、現実世界と行き来していたらとんでもない事件にばっかり遭遇するのは本当に何とかして欲しい。


「じゃあ、休日が訪れるまでは大人しく生活していろよ」


 犯罪者じゃないのにこの言われよう。異世界も現実も僕の周辺で巻き起こる事件のお陰でおちおちゆっくりと寝れなさそうである。

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