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エピソード45:狙われた蒼。始まりの始まり

「遅かったか」


「くそっ……無駄に手間取っちまったお陰で」


「身元の周辺を徹底的に調べろ。この付近は応援を呼んで、手当たり次第に証拠がないか探し出す」


「おい……おい! 聞こえてんなら返事をしやがれ!」


「うっ、どうしていつもこんな目に逢うんだ」


「ぶつくさ言っていないで現実を見ろ。今のお前の視界の中に浮かぶ光景を留めやがれ」


 説得をされた所で動揺は止まらない。ただ、目の前に浮かぶ悲惨な光景に口を固く結ぶ。

 それと同時に身体の震えが一切止まらないのは実に貧弱だと思わせる。

 例え……幾多のモンスターをこの手でねじ伏せようとも人が死ぬという光景に慣れていない身からすれば、心なんて簡単に折られる物であり大変言い訳がましいが、現実世界でぬくぬくと戦争を知らないで人生を進めてきた僕には耐えがたい光景であった。

 

「あんなに元気そうにしていたアン王女が自分の城で大それたの結婚式たる儀式の最中に何者かに拐われ、そして惨たらしく何者かの手に掛かってぶち殺された。この事から推測するに犯人は実行を移す前に、予め計画を作ってから本番に移した計画性の高い犯行だと思われる」


 犯人はどこの誰だ。いや、仮にそれを知った所で今はどうする事も叶わない。


「アン王女を狙う犯人……てめえは見覚えあるか?」


「いいや。全く」


「ならアン王女は誰からも愛される女性だったか?」


「そ、それは」


 国民に対しては足しかに愛されていたかもしれない。けど、バルト国王に譲渡された屋敷にアン王女を含めた三人生活で印象はゴロリと根刮ぎ変わってしまった。

 マリーだけに対するあの高飛車な態度を散々見てしまった僕からすれば非常に恐怖を感じてしまう。

 だから、そう簡単には答えを出さずに。


「てめえの顔を見ていると半分冗談にしか聞こえないな。素直な気持ちで言わねえと後々後悔してしまうのは結局自分だ。ここは正直に吐いた方が楽になるぜ」


 言葉に乗せられた僕は何の躊躇いもなく、実際に思ったアン王女の印象を具体的に伝える。

 始めから終わりまでしばらく真顔で聞いていたザット。

 話が終わるや否やザットは遺体と成り果てたアン王女を見て。


「なるほど……つまり、俺達の前に立っていたあの王女さんは実の所仮初めの姿であり本来俺達に見せていない方がとんでもない面構えをしていたと」


「正直に言うとね」


「にわかには信じられないって、普通の人ならそう言うんだろうが一目見た時から皮を被っているような気はしていたぜ。少なくとも俺はな」


 仕事柄か性格からか彼は常人とは違う鋭い感覚をお持ちのようだ。


「……後の始末は俺達治安団とこの国の連中で合同の調査を取り仕切る。しかし、この事件の犯人は証拠を消し過ぎているからお蔵入りに限りなく近いから期待はすんな」


「僕にも何か手伝える事はないかな?」


「そんな青ざめた表情で手伝われても邪魔なだけだ。てめえは自分の体調でも整えていろ」


 手で追い払われ、迷惑にされている事に対して素直に従う。どうにもザットの言うとおりで、今の状態では足手まといにしかならないと痛感した僕はこさぶりの雨に当たりながらひとまず城へと戻ると華やかな雰囲気から粛々とした雰囲気に変貌を遂げてしまった。 

 蒼の騎士なんて大それた称号を持っていてるのに関わらず、防げたであろう事件に防げていない時点で名前負けしている。

 この後悔は現実で体験してしまった出来事とほぼ同じであり、ショックは計り知れない。

 僕の知るアン・アンビシャスはやや強引で甘やかされた環境が影響しているのか中々のわがままっ子だった。

 結婚式までの進め方には多少怒りを覚えていたけど、こうして亡くなったのを直接この目で見ると……辛い物である。


「カンナヅキ卿」


「お務めご苦労様です。王様の容態は?」


「大きな傷もなく、容態については問題ないかと。ただし……」


 その言葉を続けるのも憚られたのか一旦閉まっている扉をチラリと確認してから。


「姫の訃報を知ってから、食事も喉に通らず話す事もままならい状態でして」


 体調については心配ないが、アン王女が殺された件を知ってしまい精神面が弱っているときたか。


「この状態が長引けば、最悪国の政治が回らなくなり代理で対応するという事態も免れません。一刻も早く、バルト国王には立ち直って頂きたい所存ですが」


 難しい問題だ。ある時期に兵から聞いた話によると、娘を出産して亡くなった母が出来事以来娘であるアン・アンビシャスにこれ以上ないくらいに溺愛していたとの事で娘があれこれ我が儘をこねていても何が何でも叶えるというバカ親っぷりを発揮していたらしい。

 

 そんな父親の立場に立つバルト・アンビシャスが娘が死んだと聞いて平然になれるであろうか?

 少なくとも、僕がその立場になるなら非常に耐えられない。


「バルト国王には安静にして貰いましょう。今はそっとしておく方が無難です」


 時間を掛けても、解決するかは分からないが必要以上に構えば精神面が更に悪化する可能性は否定できない。

 とにかく、バルト国王については時間を置いておくという方針で進めていきたい。


「そうですか。でしたら、カンナヅキ卿の指示を全兵士に伝えておきます」


「お願いします……それで、バルト国王の隣で気絶していたマリーの方はどうなっていますか?」


「マリー・トワイライトは現在回復の見通しが立っていない状態に置かされており、バルト国王とは別に病院の方におられます」


 両者共に回復の見通しが立っていない。アン王女の死がここまでの被害を生むとは。

 果たして、アン王女を城の山奥にある森で酷い殺害を企てた犯人の狙いは?

 いずれにせよ、犯人の正体を掴もうが掴まないがゲネシス王国の民達から今回の一件で大きなどよめきが起きる。

 それをこれからどうしていくのか、バルト国王が不在の状態であれこれ考えないといけないかもしれない。


「どうして、いつもこう……事態は悪化していくんだ!」 


 己の無力さを本日大いに知った。次は……いや、絶対に是が非でもアン王女を殺害した犯人をこの手で調べ上げる。

 例え、現実世界から移動してきた平凡な高校生であろうともやれる事は精一杯全身全霊で尽くすだけだ!


※※※※


「世間ではじゃじゃ馬姫の殺害の件で持ちきりになっているようじゃないか」


「えぇ」


「折角、邪魔な奴がようやく消えてくれて軌道に乗れそうだったのに……これはあんまりだな」


「しかし、計画を実行に移すのなら今が好機かと。ゲネシス王国は現在、バルト国王の不在により前までの覇気はありません」


「ふっ、そうか。だったら……大いに利用するとしよう」


 三つの国の領域に属さないとある聖堂にて二人の男がいた。一人は紫色の短髪にキリッとした瞳でいて、月の光と同様の色を施した鞘と剣を所持している。


「元々彼という障害が取り除けば、計画の実行を進めよと神のお告げが聞こえたのだ。尚更引くわけにはいかない」


 一方で軌道に乗れる瀬戸際でとんだ横槍が入った物だと半ば呆れている青年の髪はクールな印象を司る青。

 それでいて左目が緑で右目が赤という混じった瞳を宿す彼は聖堂の一番前にある銅像に、両手を広げて静かに瞳を閉じる。


「時は来たれり。始めよう、世界の根幹を創造するという偉大なる改革を胸に」


「邪魔をする者は排除します」


「頼んだよ。この希望に紡がれし壮大なる計画に光を照らす……それを拒み障害は必要としないからね」


 扉は開放され、ぞろぞろと二人の前で礼儀良く姿勢を正し黒のローブを着飾った者達。

 今では傲慢王と名を残し、全世界から嫌われ者となったオウジャ・デッキがようやく消えてくれた事により停滞していた計画の再開の目処が立った事実に彼は喜びを隠しきれない。

 

 その喜びが口から溢れつつも、彼の前で命令が出るまで待機する一同。

 計画を実行する為の障害は綺麗さっぱり除かれた。これにより彼の改革は前へと進む。


「さぁ、諸君! 随分と待たせてしまったが、未来ある計画を実行する段階にようやく移った! これより、この未来なき世界を閉めて、永久の安寧をもたらす誉れ高き理想を私と一緒に実現しようではないか!」


 聖堂に広く響く声の居心地の良さに浸りながら……魔法使いに相応しいと勝手に解釈して好んでいる白のローブ。

 それを着飾った彼は杖を構えてミゾノグウジンを心から愛する宗主として皆の前に立つ。


「この改革を前にして、邪魔をする障害は幾重にも面重なるであろうが……恐れるな。私達にはこの世界を零から今を作り上げた創造神ミゾノグウジンが天からお守りしているという事実を! そして、その理想を叶えんとする私の心が消えない限り敗北は決してないと!」


「全てはより良き世界へ生まれ変わる為に!!」


 ミゾノグウジンを愛する信教者を従えさせ、計画を執行する舞台はようやく整った。

 

 記念すべき一日が今日刻まれ、彼の心は胸踊る。

 

 その表情を隣で見ていた男は計画の実行に対して安堵の表情を浮かべた。


「宗主アルカディア。この世界を一から築き上げる理想高き計画に基づいて、アプローチを掛けておきたい者が居るのですが」


「ほう……積極性には欠けていると思っていた君がアプローチとは驚いたな」


「宜しいでしょうか?」


「好きにすると良いよ。君が目に掛けた者が一目置ける存在であると密かに期待させて貰うとしよう」


「必ずや戦力となるよう迎えさせます」


 聖堂に一人残ったアルカディアはこうであって欲しいと想像して魂を込めて作り上げたミゾノグウジンの姿を模した銅像。

 それをいとしむようにじっくりと眺めながら、独り言であろうとも関係なく囁く。


「どうか、私に導きを下さい。願わくば世界の創造の実現が叶う事を」


 神秘を込めた青の杖を頭上に持ち上げ、美しい姿を纏う銅像にニヤリと浮かべるアルカディア。

 この偉大なる計画に変更も中止も決して起きない。

 どんなイレギュラーが襲いかかろうとも彼が望むのは成功という事案である。


「私の理想を掛けた計画に置いて障害は全ては排除する。手始めにアグニカ大陸で名を急激に上げた青年に……挨拶を残しておくとしようか」

 

 ミゾノグウジンを愛する彼の計画が成功する先はまだまだこれからであるも不敵な笑みは止まらない。

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