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エピソード44:はい、さようなら♪

 ここはどこ。目覚めた少女の視界には草木が生い茂る密林で。

 少女はふらふらと立ち上がると全く見覚えのない場所をとにかく歩く。

 しかし歩いた所で脱出はおろか視界すら変わらない。ボロボロになったドレスを引きずるアンは一旦立ち止まって周辺を確認した後に大きな声で叫ぶ。


「誰か! 誰かいらっしゃいませんか!」


 大きな声で返ってくるのは一言も返りやしない無の空間。そこで、彼女は知ったのである。


「何が起きたのよ!」


 彼女のむしゃくしゃは止まらない。地団駄踏むアンはとにかく元の場所に戻ろうと懸命に出口を目指すも努力は虚しく、頑張りは無駄となって終わる。

 それがアンにとっては深い絶望へと誘われるのであった。


「誰がこんな事を仕掛けたのよ!」

  

 出口を発見出来ず、イライラが加速するアンは誰も居ない空間であろうとも泣き叫ぶ。

 それでも事態は一向に変わらないと嘆くアンに片耳で聞こえる何者かの声。

 その声はどこか聞き覚えのある声で彼女にとって馴染み深い物である。


「ようこそ……ここは貴方の罪を懺悔として追い払う聖なる場所よ」


 罪とは何か? 彼女にその声は届かない。それよりも言葉より先に働いたのは自分にこんな事を仕掛けた張本人への殺意。

 生きて帰って来られたら、兵士を一斉総員させて確実に捕まえてやるという意思の方が強かった。

 故にアンは彼女の声に対して、悪意を剥き出しにしていく。


「罪を懺悔? はあっ!? 貴方の方がよっぽど悪事を働いているように見えますが!」


「そう。まだ分からないようなら、痛い目をみてもらうしかないか」


「どこに居るのよ! こそこそとしないで出てきなさい!」


 アンの耳に囁く女の声に怒号を撒き散らした所で返ってくるのは薄気味の笑いだけ。

 どこかも分からない場所に取り残されるアンの心情は次第に恐怖に埋められる。

 その反応に対して更に笑う女の恐ろしさに益々絶句する。


「ふふっ、そんなに強がっていても後で絶望するのは目に見えるのよね」


「そ、そんな事はありません!」


「足が震えている時点で説得力に欠けますよ」


「……っ!」


 空はどこまでも黒に染まり上げて、星は無数を彩る。見えない恐怖に一人で立ち向かうアン王女の背後に忍び寄る足音。

 それは鋭利な牙が特徴的な四足歩行型のモンスターで体長は人間よりも小さいが、敵意を剥き出しにする姿勢には体長関係なく恐怖の方が勝る。

 

「さーて、始めましょうか♪」


「い、嫌ぁぁぁ!」


「くくっ、今まで散々好き勝手に暴れてくれたんだから……それなりのおもてなしをしないと姫に失礼に対して失礼に当たる。だから、もっともっと……楽しんで欲しいかな!」


「この悪魔がぁぁぁ!」


「幾ら叫ぼうが喚こうが助けは来ない。貴方が死力を尽くして、脱出しない内は」


 嗅覚並びに視覚の鋭さを誇ったモンスターは獲物である人間を必死に追い掛ける。

 その逆も然りでアン王女は勝ち目のないモンスターから追い付かれないように、障害物を駆使しながらも先の見えない出口を目指して全速力で駆け抜ける。

 だが、運動の経験がろくにない彼女が走った所で早々速くなる事はない。

 それでも……こんな訳の分からない場所で死ぬのはごめんだという抵抗が働く。


「良い感じね。そのまま、真っ直ぐ行ったら脱出も夢じゃないかも!」


「お黙りなさい! この私が見事脱出出来たら、ゲネシス王国の姫たる私を脅かした貴方を全力で探して血祭りにして上げるから覚悟なさい!」


「あーあ。手加減してやっているのに逃げれたら逃げれたで随分と調子に乗ってくれる。前々からそんな感じがとてつもなく……うざかったのよ!!」


「貴方は私を知っているの?」


 その言葉に対して鼻で笑う謎の女。答えのない反応に苛つきながら、脱出を目指すアン王女。

 モンスターの追跡から逃れて、順調に進む経路に笑みが溢れようとしいた矢先に不意に襲うのは一本の矢。


「ぎゃあああ!」


「あははっ! 良い反応! 私は……それを待っていたのよ!」


 お腹に食らい付く矢を引き抜くだけで溢れていく液体と激烈な痛みを押さえながら、何とか進もうとするアン王女。

 しかし、その頑張りは許されないと次の罠が僅かな体力を根刮ぎ落とす。


「悲劇ね。あれほど高飛車で何もかもが願う世界のお姫様なのに、こんな目に遭っちゃうなんて……これまでの行いが悪すぎたのかな?」


「あ、ああ」


「あれれ? さっきの威勢はどこに行っちゃったのかな?」


 挑発を止めない女の声はこれぞとばかりに罵倒する。地面に設置された鉄の牙のお陰で片足を見事に失ったアン王女は泣き崩れながらも、まだ生きている足を活用して匍匐ほふくする。


「へぇ~、結構頑張るじゃない……でも、その頑張りは無駄に終わるの」


 声のトーンが急に落ちる。そうとも知らずに脱出口を目指すアン王女。

 進んでも進んでも光が見えない景色の途中で辿り着く光景は一人の少女と最初に襲い掛かったモンスター。

 

「ほらほら絶望したでしょ? これで貴方の足掻きも終了よ♪」


 体力を根刮ぎ取られたアン王女に前に止めと言わんばかりに立ちはだかる少女を一目見た瞬間に全てが崩れ去った。

 少女はニヤリと笑うと禍々しい形状を誇る黒い剣が危険なオーラを放ちながら掲げる。

 

 勝利はもはや手の中にあると確信して。


「数ヵ月間ご苦労様でした。貴方のこれまでの悪行は私が清々しい位に成敗してあげる……」


「これは何の真似かしら? ねぇ、マリー」


「天罰ですよ。私やショウタに対する悪行の」


「悪行なんかしていない。それなら、マリーの方がよっぽどふざけていると思うわ」


 距離を狭めるモンスターに停止の命令を下すマリー。あと一歩の所で食い殺されたアン王女。

 薄汚い女であろうとも、まだ良心はあったかとほっとした次の瞬間にマリーは勢いをつけてアン王女を遠慮なく蹴っ飛ばすと清々しい表情で笑い転げる。


「くははははっ! あーあ、一国のお姫様がこんなに惨めだと実にいじめがいがあって楽しい!」


「狂ってる」


 睨み付けるアン王女に半笑いで見下げるマリー。勝ち誇っていたマリーは余裕の表情を浮かべつつ、スキップをしながらドレスも身体も全部がボロボロとなったアン王女の周辺をグルグルと回りながら。


「今まで、ずっとずっと貴方の我が儘に付き合わされてきたんだから……この位の報復は別段問題ないんじゃないかな。と言っても、私とアン王女が仲良く遊んでいた幼少期の記憶なんて殆どが嘘で塗り固められた物なんだけどね。本当に滑稽過ぎて笑いが止まらないね」


 思っていた言葉を全て出し惜しみなく吐き出したマリーはスッキリしたのか満面の笑みを浮かべている。

 反対にアン王女の表情は怒りに満ち溢れていた。


「嘘ってどういう意味よ! 説明しなさい!」


 幼少期の頃に会ったマリーと楽しく過ごした記憶が実は目の前に居る現在のマリーが作り上げていた物だと到底信じられる由はない。

 だからこそ、それだけは是が非でも追求しなければならないのだ。


「この世界に置いて、真のヒロインは主人公を影から支えるようにするのが目的で存在を多少薄くしても目立たぬようにしておく必要があった……しかし、それでは幾らなんでも異世界に来た意味がショウタが可哀想。だから、私はもう一人のヒロインとして妙にお節介で鬱陶しいアン王女を作り上げた」


「言っている意味が分からない。私は私よ……貴方なんかに作り上げられた人間でもないし、私はゲネシス王国の父であるバルト・アンビシャスの娘アン・アンビシャス! その事実に変わりはない!」


「嘘なんかついていないのに、貴方は変に意固地になるのね」


 見下ろすマリーと見上げるアン王女。立場が逆転した光景で今の状況下ではマリーが圧倒している。

 彼女は意固地になるアン王女の反応に苦笑すると、今度は息の根を潰そうと適当な片腕を剣でゴリゴリと潰す。

 悲鳴が大きくなる程に力を込めて、終わった頃には剣を引き抜く。 

 その容赦のないスタイルがアン王女の心を恐怖に染め上げる。


「私と貴方の関係を不自然なく作る為だけに幼少期の頃から友達であった記憶をわざわざ植え付けた。これは貴方とショウタにそれとなく自然に関わらせるのが目的だったけど……結果的に予期しない暴走を貴方が勝手に引き起こした。よって、この世界のルールに等しき私はアン・アンビシャスをこの場で始末します♪ 例え王女であっても身分はこの際弁えませんので悪しからずって事で!」


「ふざけんな、ふざけんなぁぁ!」


「私のショウタを苦しめた罪をあの世で永久に後悔なさい……腐った腐った人形さん♪」


「止めてぇぇぇ!」


「はい、さようなら♪ じゃあ、もう好きに殺してくれても構わないよ」 


「いや! 助けて、ショウタ様!!」


「最後の最後にヒーローの名前を叫ぶとは……哀れな女」


 バイバイと手を振りながら、最後の最後は待機していたモンスターに食われて身体を好き勝手に引きちぎられるという無惨な末路。

 以前ショウタ・カンナヅキだけに固執していたアン・アンビシャスは自身の物とする為に邪魔になる障害を潰して、最終的にショウタに選択権をなくして自分の思い描いたストーリーになるように運んでいくという傲慢さ。

 

 それが経った今無事に終了した事でショウタに降り掛かる問題は簡単にデリートされた。

 マリーにとってみれば、使えなくなった人形を排除しただけなので殺したという罪悪感はない。

 寧ろ、ある問題があっちの世界に影響しなければと。

 マリーは後々なってその部分だけを懸念していた。


「でも、ショウタを守るにはこれしかなったの。彼女を消してやる以外の選択肢は存在しない。だけど思わぬ問題が一つだけ浮上してしまうのも事実。これが色々とバレてしまったら、異世界のカラクリがあれこれ知られてしまうのは思わぬ失態だったかな。あちゃー」


 愛しきショウタを守るが故にあっちの問題も起きてしまう可能性をうっかり忘れていたマリーは殺り終えた後に自分の頭を思いっきり悩ませる。


「まっ、いっか。どうせ何とかなるでしょう」


 だが、もう殺ってしまったのなら致し方ないと最後の最後に吹っ切れたマリーの表情に焦りはない。

 

「まだまだショウタにはこの異世界を存分に楽しんで貰うんだから覚悟なさい。ふふふっ」

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