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エピソード43:皆で踊りましょう♪

 結婚。僕はまだ高校一年生なんだぞ? それなのに……いや、こっちの世界の人間が知る由もないのか。

 にしても、あのアン王女があれほど強引な行動を仕掛けてくるとは。

 あの衝撃的な出来事から二日が経った現在。結婚式を上げるなど嘘であって欲しいと願った僕は物は試しにバルト国王の元へ屋敷の報告はあくまでもついでで訪れ、それとなく持ちかけてみたら。


「ぬ? それなら、私の娘から直接やって欲しいと聞いたのでこちらで準備をしている最中だ」


 話が勝手に進んでいた。しかも僕が恥ずかしがり屋でアン王女が自分から持ちかけていたのだと。

 完全に嘘も良い所である。この場で必死に弁明をしたい気持ちで一杯一杯だ。

 だが、しかし雰囲気は完全に祝福ムード。とてもじゃないが弁明をした所で失敗するのは目に見えていたのだ。

 端的に言ってしまえば手詰まり。僕に残された最後の道は黙ってアン王女の希望となるだけ。

 

 正直、イライラが半端なかった。あと数日すれば望んでもいない結婚式が始まると想像するだけでも尚更。

 しかし、当の本人は全く気にしていない様子で僕にベタベタしてくる。

 それが大変苦しい。このまま出来るなら穴に閉じ籠りたい気分だ。

 

「はい、あーん」


「もう……いらないです」


「アン王女。ショウタが困っておられますのでこれ以上は」


「雇われの分際で私に偉そうに言うな!」


 最近になって、いや最初から分かっていたのに。この屋敷を提案してきたのは、きっとアン王女から。

 可愛い娘の為にバルト国王は裏の気持ちを知らないで、屋敷の献上を持ち掛けて来たのだろう。

 そうでなければ、あの贅沢暮らしを謳歌していたアン王女が城から離れて僕と一緒に住もうなどと考える筈もない。

 これは始めから作られた芝居だったんだ。アン王女が自分の思うがままに進めるシナリオの路線に僕は見事に釣られた。それだけで彼女はにんまりと笑っていた。

 くそっ、あれだけ楽しかった異世界生活が一気に黒くなってしまった。

 もう取り返したくても……安易に取り戻せないぞ。


「分かった。貴方、実は嫉妬しているんでしょ? ショウタ様が私の物になってしまう事実に」


「ち、違います。私はただショウタが迷惑そうにしているからで」


「はっ! それはどうだか!」


 くそっ、こんな滅茶苦茶な生活! あれだけ平穏に暮らしていたのに! 全部崩壊しているじゃないか!


「止めろ!!」


 こんなに自然と大声を出したのは久々だ。普段からあんなに引っ込み思案の僕が実に珍しい。


「あーあ。もう、白けたじゃない」


「原因は……貴方にあるんですよ? それを自覚してはどうですか?」


「何をどう言葉を作ろうとも、結婚式は決まっています。貴方はただ数日に行われる式典で愛を誓う夫婦になる事実は変わらないのです。だから、楽しみに待ってますね……」


 不吉だ、ただただ不吉だ。これがドッキリだったらどれだけ良いか。

 それにしても、アン王女は人がガラリと変わってしまった。

 まるで別人格を植え付けているのかと勘違いしそうだけど、これは現実なら認める他ない。


「ショウタは、その……結婚については納得しているの?」


 している訳がないだろ。納得していたら、今か今かと楽しみに待ち構えながら心が踊っている筈だ。

 少なくとも、こんなにギスギスとした雰囲気には決してならない。


「いいや。やり直せるなら過去に戻ってでもやり直したいレベルだよ」


 冗談交じりで言っているが、仮に過去に飛べるような機械があれば大量の金を注ぎ込んででも修正したい。

 それほどまでに僕は絶望に追い込まれている。助けが呼べるのであれば、全力で叫ぶ位には。


「過去か。そんな便利な魔法があったら色々と便利になるのかもね」  


「使い方を間違ったりしたら別の問題が起きかねないけど」


 タイムパラドックスとかバタフライ効果とか過去に戻るにも問題は常に付きまとう。

 こんな空想に浸っている時点で頭が死んでいるような物だけど。


「望まない結婚式を貴方は……本当に受け入れてしまうの?」


「それが避けられない運命なら受け入れるよ。僕は」


「そっか」


 辛い。これ程辛い経験を強いられるなんて。

 定められたレールに乗っかってしまった僕にもはや脱線は許されない。

 これからゲネシス王国の姫であるアン王女が満足に浸るまで、僕は便利な操り人形として踊らされるんだ!


「もう片付けるね? こんな状況で食べられないでしょ?」


「本当にごめん。今日の所は申し訳ないからさっさと帰るよ」


 逆らえない結婚に従いつつ、気がつくと始まる当日。楽しみもへったくれでもない式典が始まってしまう。

 僕は一生に一度も来た事がない真っ白な服装もといタキシードか。

 とにかく身を包んだ後は始まりの合図があるまでしばらくの自由行動で気を楽に。

 それからは白いドレスに身を包んだアン王女とご対面を果たす。


「どうかしら? 最高に良いと思うのだけれど」


 これは感想を求められているのか? 普通なら、ここではお似合いだねとか凄く綺麗だよとか気の効いた言葉が正解だと思うけど、それは断じて言いたくない。


「うん、まあ良いと思うよ」


「私の求めている感想ではありませんわ。もう一回やり直しです」


「くっ」


 なるほど。意地でも求めていない台詞は許されないと。君の思う言葉が出るまで一生やらせるつもりなんだね。


「とても似合うよ」


「あ、ありがとう」


 照れ臭そうな表情を浮かべても僕は何も感じないぞ。そう、これから先もね。


「では、これからお化粧直しに入りますので……カンナヅキ様は退去をお願いします」


「分かりました」


 お化粧直しに入るとなると、もう本番に突入するんだな。場内の方にはアン王女を祝福しようと身分の高そうな連中がごろごろと居るぞ。

 あーあ、これは変に緊張しそうだな。望まない結婚式とはいえ、本番で失敗するのは避けておかないと。


「ショウタ♪」


「うわっ!」


「ごめんごめん、驚かせるつもりはなかったの。ただ楽しんでくれるかなと思って」


 楽しむどころか心臓がばくばくなっているのですが。申し訳なさそうな顔をしていても許さないぞ。


「それで……コンディションはどうなの?」


「良くも悪くもって所かな」


「はっきりしないなあ」


「じゃあ、バッチリじゃないかな」


 すこぶる元気でもないのなら、これがある意味正解だろう。正直言って今日の結婚式は夢であって頂きたいとまだ思っている位だし。


「それでも……貴方はその選択を選んだ。なら、姫の為にも誓わないとね」


「ふっ、そうかもしれないね。じゃあ……僕は行くよ」


 唯一安心出来るマリーと話していても今日だけは気分のモヤモヤは晴れない。

 こうなったら結婚式が無事に終わるまで使命を全うしようではないか。

 

「逃げるのなら今の内よ?」


 それは提案のつもりか? なんにしても、マリーらしくないような気がするけど……考えすぎか。


「この前言ってしまったあの言葉に嘘はつけない。僕はもう運命に委ねるから、放っておいてくれ」


「そう。それなら何も語れないなあ」


 道はすぐそこだ。アン王女に敷かれたレールの流れに乗る覚悟が決まった僕は本番の結婚式に臨む。

 プログラムは大まかな流れに沿って進行していく物で会場には高貴な者達が着席しており、目立たない位置に各国の兵士達が睨みを効かせている状況である。


「あっ」


 久々にイクモ団長をお見掛けした。子供のように大袈裟に手を振るのがいかにも無邪気でその隣では呆れているザットも居た。


「それでは、新婦のご登場です! 盛大な拍手でお出迎え下さい!!」


 大きなパチパチパチと共に扉が開かれると満足げな表情を浮かべるアン王女とその横には娘の腕を優しく包むバルト国王の姿。

 今にして思うと、父親に当たるバルト国王に娘を下さいという挨拶すらしていないのに何故結婚式が唐突に決まったのかが本当に謎である。

 それに、今日も母の姿は見当たらない。これは幼少期の頃に既に亡くなっていたのかもしれないから何ら不自然でもないのだけれど。

 

「ゲネシス王国の姫さんがお前の年と変わらん青年と結婚か……ザットも早く良い人を見つけろよ」


「余計なお世話です」


 アン王女とバルト国王は共に歩む。皆に祝されて近付く一歩。

 いよいよ、これから始まるのかと思うと緊張が高まる。あぁ、静まってくれよお。


「くくっ。そんな事言っていると折角の出会いも逃……っ!?」


「なっ、煙だと!」


 周囲に瞬く間に広がっていく謎の煙。たちまち全体に込もっていく空間において、招待客は大混乱と化した。


「これは!」


「結婚式でも事件かよ。どこも、落ち着く場所がねえな」


「文句は言うな。今は事態の収拾に努めろ」


 この煙……普通じゃないな。いくら蒼剣で切り払っても視界が全く晴れやしない。

 

「皆は無事なんだろうか?」


 取り敢えずイクモ団長とザットの声が聞こえるから彼等は大丈夫。

 まずはマリーとアン王女それにバルト国王が無事でいるかどうか確認しないと。


「マリー! アン王女! バルト国王! 無事なら返事をお願いします!」


 一人ずつ名前を呼んでみて、見えない視界の中で会場全体の構造を思い浮かべながら辺りを探していく。


「敵は居ないか」


「くそっ! この視界が滅茶苦茶イライラする!」


「ザット、王女と国王の姿は見えていないかな!」


「確認はしている……ちょっと待ってろ!」


 捜索してそれほど経っていないにしろ、煙らしき物が晴れないとは。

 この煙は通常の物ではないと見受けたぞ。


「魔法か何かで作られた空間なのか?」


 今度は霧を晴らすのではなくて、視界を含めた全体を吹き飛ばそう。

 この会場にはまだ招待客が居るかもしれないけど、これは緊急事態。

 形振り構ってはいられない! この厄介な罠は今すぐにでも排除する!


「全員、伏せて下さい!」


 警告を済ませた僕は力に身を任せて、今度は大きく横に振り払う。

 すると蒼剣は美しき一閃を舞って視界が途端に晴れていく。


「なっ!」


 王女が……居ないだと!? 倒れているのはマリーとバルト国王だけで国王の方は命に別状はなさそうだが、マリーの方はすぐにでも医療に回した方が良さそうだ。


「皆さんはそのまま落ち着いて!」


「ちぃ、まじで何が起きたんだよ」


「姫が拐われた! 今から手当たり次第に探す!」


「待て待て。この状況下で手当たり次第に探しても犯人は完全に行方を眩ませている可能性が」


「そう悠長な事を言っている場合じゃない!」


 言われた反省したのか、ザットは平謝りをしてすぐさま捜索に移り出す。

 イクモ団長も続くような形で付いていき、何人かの兵士も一斉に動く。

 まぁ、こんな事態が起こっていた瞬間に外の兵士にも知らせが入っていて即刻事態の立て直しに注いでいるけど。


「アン王女」


 望まない結婚式でアクシデントが発生するなんて。これは僕密かに希望してしまった末路なのか。

 だとしたら、とんでもなく最低だな。


「間に合ってくれよ!」


 頼む……どうか、無事であってくれ!

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