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エピソード42:これが急でなければなんと呼ぶ!?

 マリーとザットの協力を得て整った屋敷は以前変わらず清潔を保っていた。

 今やもう何も事件が起こる事はなく長い期間に置いて僕は平和を謳歌している。

 代わりにザットは今頃忙しい日々に明け暮れているのだろうと思うと少々申し訳ない気分になるけど。


「ふぅ、今日も空気が美味しい」


 赤にまみれた残虐なる過去。そこから現実世界から離れて再び舞い降りた異世界では晴々しい程の美しき生活を送っている。

 これが僕の思う理想の生活。ここにはもう、モンスターや世界を脅かそうとする悪い奴は存在しない。

 いや、もしかしたら世界の片隅で機会を狙っている連中がどこかに忍ばせている可能性もなきにしもあらずだけど……そんな事が起きたとすれば僕が止めるんだ!


「いざという時は頼りにしているよ」


 手の平から再生される蒼剣は何も語らない。静かに流れる雲と青く透明な空の下にいた僕は心地良い風に浸りながらも気分転換を兼ねて一人で散歩をする事に決めた。

 

「どこかに出掛けるの?」


「まあね。ちょっと歩いたら、今日は三人で見張らしの良い場所に行きたいんだけど予定は空いてる?」


 本日は晴天で遠くに出掛けるにはうってつけ。マリーと僕は屋敷の中を自由に生活して、アン王女の方はバルト国王の付き添いでどっかに出掛けているらしいけど話に聞くと数時間で屋敷に戻るので出掛けるにも支障はないから大丈夫だろう。


「うん、私は全然問題ないよ。姫の方にも確認してみるけど問題ないんじゃないかな」 


「そうか。ならあとで合流しよう」


 外を出れば、仕事や学校へ向かう人達が居て。この街でも多種多様な人達が見える。

 屋敷の管理を名目にほぼ自由な生活を容認されている僕からしてみれば、こんなニートみたいな生活が許されていると思うと大変気分が爽やかである。


「神のお目示しを、神のお目示しを」


「あぁ……神よ。貴方はいつどこで会えるのでしょうか」


 まっ、多種多様だからこういう変わった人もなんら不自然じゃないよね。

 教会なんて現実世界の日本には仏教が昔から流行しているからか殆ど存在しないけどさ。

 こうして実際にそびえ立つ教会とその回りで何かぶつぶつと呟いている人達を見ると中々の景色であると実感する。

 なるべくなら近寄らない方が良いから、見ないフリをしながら別の場所へ。


「おや?……私は貴方の噂を聞いた事がありますよ」


 やばい、背中から変な人に声を掛けられちゃったよ。今なら走っていけばっ……て、悩んでいる最中に回り込まれてしまった!


「確かぁぁ、そう! 蒼の騎士と有名なぁぁ、ショウタ・カンナヅキではありませんか?」


「はぁ、まあそうですけど」


 変な人に話し掛けられ挙げ句の果てには帰らせようしない雰囲気を作られる始末。

 ここは帳尻を合わせて、適当にあしらってやるしかないか。


「私はぁぁぁ! 創造神であるミゾノグウジンを愛して全てを捧げる者の一部です!!」


 朝から声のボリュームが大きいですね。もう少しボリュームを低くして頂けると大変ありがたいんだけどなあ。

 ん? それにしても、今さっきミゾノグウジンを信仰していると言っていたけど……この神様って有名な者なの? 


「すいません。ミゾノグウジンって皆にどういうーー」


「何故、何故何故! あのようなる偉大なる神を知らぬのですかあぁぁぁ!」


 うわぁ、選択肢間違えた。僕の余計な一言でこんなにも荒ぶるなんて……この宗教人もといこいつは頭がおかしいよ!


「分かっ、分かったんで離して貰えると嬉しいです。出来れば……そのミゾノグウジンがどういう存在であるかを教えてくれたら助かります」


 基地外な人には下から目線で媚びると、どうにか男の怒りが収まったか首元は離して貰えた。

 はぁ、まさか朝からこんなに荒ぶっている人が街の中に居たなんて。

 何か今日は冴えていない一日だよ。


「ミゾノグウジンは我々の今を作りあげた創造神であり、絶対なる存在。この最高峰なる生みの親を崇める為にミゾノグウジンを心から愛する宗主アルカディアは私達一人一人を召集して現在もなお崇めているのです」


 ふーん。つまりミゾノグウジンはこの世界にある自然と大地を作り上げた張本人であり、一部の者からしたら神に等しき存在として宗教を作り上げられる程の絶対なる存在。

 それを一番最初に広めようとしたのは宗主アルカディアなる人物か。

 僕はこういう宗教じみた物は好きじゃないから、話を聞く限りではあんまり関わりを持ちたくないのが正直な感想になるなあ。


「そういう訳で……話を聞いたのであれば、是非ともぉぉ!」


「お断りします。僕は基本宗教にのめり込めないタイプなので」  


 止めようとしてくる男性を降りきって、どうにか撤退。相手が結構しぶとくて撒くのにはそれなりの苦労を強いられたので足がパンパン。

 今後また出くわしたら簡単に逃してくれそうにもないから次は予防線を張っておいた方が良いのか? はたまた徹底的に拒否していく方が良いのか。


「さーて、気を付けて帰るか」


 姿を見られないようにコソコソと屋敷へと戻る。やれやれ、気晴らしが目的だったのに変な奴と関わりを持ったお陰で余計な疲れが溜まっちゃったよ。

 

「お帰りなさいませ、ショウタ様!」


「うおっ!」


 逃げるようにして帰ってきたら、今度はアン王女に抱き付かれた!?

 どっかに出掛けてたと聞いていた筈なのに。もしかして、例の件で余計な時間を食っていたのか!


「今日は私とお出掛けをするのでしょ? どこで道草を食っていたのかは敢えて問いませんが、早速向かいましょう!」


 姫がこんな調子なので、おいそれと休憩をする暇もなさそうだ。

 早く行きたがる姫の意向に従い、多少の疲れを犠牲にして僕はある場所へと向かう。

 その傍らでマリーが心配そうに声を掛けてくれるのが唯一の救いだ。

 けど、どさくさに紛れてアン王女が乱入してくるからそれどころでもなかったけど。


「随分と山奥に向かうのですね」


「つい最近暇がてらに見つけた場所なんですよ。きっとアン王女も満足出来るかと」


「へぇ、楽しみ」


「ところでアン王女はバルト国王と一緒に先程どこか行かれてたとマリーから聞いていたのですが何処いずこに向かわれたのですか?」


 何となく気になっていたので質問を投げてみるとどうしてか照れ臭そうにしているアン王女。

 どうやら答えづらいようだ。これ以上追跡するのは止めた方が良いのかもしれない。


「それについては落ち着いた場所で話し合いましょう。勿論……二人きりで」


「えっ……私は?」


「将来性のある話に貴方は必要ないから。どっかに行っていなさい」


 早速重い空気が流れてきた。どうして、今日という今日はこんなにも異常なんだろうか。

 折角昨日の雨が晴れて良い天気になったというのに今日は本当に付いていない。

 

「あっ」


「あれですね!」


「ええ、まあ」


 街を広く見渡せる光景がここにある。二人を引き連れて、ようやく辿り着いた場所は重い空気とは裏腹に爽やかな風が運んでくる喉かな丘で。

 あの過密にある街は上から見下ろせば、本当にちっぽけに見える上にその街を束ねる城は国の代表としてドッシリと構えているのが印象的だ。

 この風景は何か心にグッと来る物があるな。記念に残そうと思った僕は有無を言わさず、現実世界から引き継がれたポケットの中にあるスマホを取り出してカメラモードに…………ん?


 何だ、これ? 全然ピクリとも動かないぞ。まさか故障してい……いやいや、それはない。

 あっちの世界で明とラインをしていたのだから。


「どうなってるんだ?」


「どうかしたのですか?」


「いえ! 別に何もありません!」


「そうですか……でしたら、そろそろお話ししたい事があるのですが」


 もう、早速!? 心の準備が出来ていないのですがぁぁ!


「大丈夫よ。私はどっかでふらついているから」


「マリー」


「それじゃ」


 追い掛けてももう間に合わない。その腕には既にもう一人の腕に塞がれているのだから。

 二人きりという希望が妙に胸をざわつかせる。これは覚悟して聞かなければならないか。


「アン王女……お話しとは?」


「実は」


 間を置いて、間を置いて。うむ、全く話が進まない。嫌だよ、このままじっとしているなんて。


「私と貴方の婚約を決めました」


「へっ? 婚……約ってあの婚約?」


「そうです! 私とショウタ様はいよいよ一週間後に晴れて挙式を上げて永久に愛を誓う夫婦となるのです! はぁ~、今から本当に待ち遠しいですわ!」


 いやいやいやいや! 僕から結婚式をしようなんて言っていないのに何でそんな勝手な! 

 バルト国王もこの王女も両者共にどういう頭の思考をしているんだ!

 しかも僕はまだ告白|(てか、そもそもするつもりもなかったのに)すらしていないのに段階飛ばしてけ、け、結婚って……


「すいませんが僕は貴方の事はーー」


「私は出会った時から一目惚れをしたのです。これは前から言っていたでしょう?」


「確かに……言ってはいましたが」


「貴方は私の物にする。しかし、今の煮え切らない関係ではあの子が邪魔になって前に進めないのです」


 その為に夫婦という合法を作り上げて、マリーを追い返そうと?

 この子はお人形さんのような可愛らしい顔とは裏腹にえげつない考えを持っていたのか。

 

 ほぼ強制的に決まった結婚式で僕に逃げ道を与えずに!


「くっ、貴方はそんなにも強情な人だったのですか?」


「立場が姫であろうと元は人間です。愛しき殿方を得る為には手段なんて考えていられませんわ」


 今までずっと僕に突っ掛かってくるから適当にあしらってはいたけど、いよいよ逃げられなくなってしまった。

 ただ僕はこの謎めいた異世界で穏やかに済ませておきたかったのに……何故、こんなにも世界は僕に平穏を与えないんだ!


「話は以上です。一週間後、私と貴方の運命が定まる愛しき日を楽しみに待ちましょうね」


 不思議だ。こんなにもときめかないほっぺのキスは。あの華やかドレスを着飾った金髪の王女の後ろ姿が全く持って恐ろしい。


「運命の日か」


 国が総力を上げて、王女と僕の結婚式の準備をしている以上逃げる隙間はない。

 ここはもう断念して受け入れる他ないのか。

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