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エピソード41:仲良く? お掃除です?

「んにしても運が悪いなあ」


「それはお互い様ですよ」


「ちっ。兄貴の言われたままに従ったら、こんな目に遭うなんてな!」


 荒れたいのこっちの方だよ。まさか屋敷清掃に力を貸してくれる人がこんながさつなそれでいてヤンキーに近しき人物が来るだなんて思ってもみなかった。


「おい、こら。余計な事を考えているんじゃねえ」


「何も考えていませんよ」


 そして無駄に鋭い。こういう面倒な奴に限って、何かに秀でているだよなあ。


「結局俺はこのでけえ屋敷で何をされるんだ?」


「話が早くて助かりますね」


「本当なら今すぐにでも撤退したいだがな」


「撤退でもしたら、後日ライアン隊長に報告しておきますけど……それでも良いのならご自由にどうぞ」


 罰の悪そうな表情を浮かべている。よっぽど兄貴に頭が下がらないんだろうなあ。

 過去にライアン隊長と何らかの事があったのだろうが、戦闘狂でいて言葉も態度もがさつなザットがそう簡単に口を割ると思えないから知りたくても知れないけど。


「勘弁しろ。それだけは困る」


「なら、ライアン隊長に言われた以上は素直に従って貰いますよ」


 取り敢えずザットをリビングに招いて、皆に挨拶をさせておこう。

 アン王女だけ面識はないけどさすがに態度を弁えるよね?

 内心不安なままにリビングのドアを開いてみると、どう考えても決して仲良くなさそうな雰囲気で食事を頂いている二人が僕を見て中断した。


「おいおい……修羅場か?」


「そんなんじゃないですよ」


「嘘つけ」


「ショウタ様、こちらの方は?」


 にこにこした表情を一切崩さないアン王女。僕は隣に佇むザットを端的に紹介してからアン王女の事も紹介しておく。

 すると、ザットはやや対応を……いや、大幅に変えて挨拶を交える。


「お初にお目にかかります。俺は世界の均衡と安栄を目的とした部隊である治安団の副隊長と務めていますザット・ディスパイヤーです。本日は屋敷の中の清掃に力を貸してくれと上からの通達がありましたので、特例として上がらせて頂いた次第であります」


「初めまして。既にご存じであるかとは思いますが三代目に当たるバルト国王の娘であるアンです。以後お見知りおきを」


 無礼な態度は打って変わって、王女には王女に相応しき対応にしてきたか。

 普段ががさつだから言葉がガラリと変わるとかなり変わってしまう物だな。

 いつも、そんな感じで話し掛けてくれたら喋りやすくなるのに。


「こちらこそ……宜しくお願いします」


「実に有能な方をお連れしましたね。さすがは私の将来の旦那様。目に狂いなしです」


「はははっ」


 これで男が一人増えた。だからと言ってペースが凄く早くなるのかと言えばならないというのが実情だ。

 さて、どうやって攻略してやろうかな。この膨大過ぎる屋敷を。


「じゃあ、挨拶も仕上がったしお前の食事が終わったぐらいで清掃をやらせて貰おうか」


 その言葉から自信がみなぎっているのか……いや企んでいるかのような顔付きだ。

 

「何か考えがあるの?」


「まぁ……ちょっとしたな。ここの屋敷からして相当の年代が経っているのではないかと兄貴から直接聞いていたから、清掃道具があるかどうか分かった物じゃねえからな。一応こちらでもそれなりの準備を済ませている」


「へぇ」


 顔に出さなくとも案外張り切っているんだな。少しは見直したよ。


「はっ、やるからには本気でやりてえだけだ。別に他意なんてねえよ。てかっ、俺の話は後でも良いからてめえはさっさと食いやがれ!」


「私のショウタ様に何という物言いを」


「うぐっ。大変失礼しました」


 やりづらい雰囲気の中で朝食を早急に終わらせてから清掃の準備を開始する。

 まずは動きやすくする為に服装をなるべく軽装に済ませて、ザットが予め準備をしておいた清掃用具から適度な物を拝借。

 そして、息を整えてからいよいよ僕達三人による本格的な清掃が始まった。

 今回もアン王女は例外として部屋に休ませている。王女としての立場もあるけど、何より本人にはやる気がないので無理矢理やらせる意味もないと思ったからだ。


「やれやれ。姫ってのは随分とお気楽な立場にあるんだな」


「それは仕方がない事だ。立場が上であるのなら、下である僕達が無理に言ってしまうのは無礼に相当する。だから、それだけは絶対に避けないとね」


「下は忙しなく、上は呑気に気ままに待つだけか」


 愚痴は溢さないでくれ。どこで聞かれているのか分からないからさ。


「で? 俺等はどこを重点的にやってくんだ? やる気があっても、的確な指示がねえと動けねえぞ」


 部屋の構造はまだしっかりと頭に残っていないんだよな。昨日の夜になるべく分かりやすいようにやっておいた部屋には丸印を付けて、残しておいた部屋には部屋名だけ記して欄には何の印も付けていない。


「ふーん。中々分かりやすいようにしてるじゃねえか」


「ザットにはこの正面玄関から左右にある空欄の部屋を徹底的に。僕は二階の全体を対応してマリーは適度な時間にアン王女のお世話とまだ印のない部屋を清掃。今回はこれで回したいけど、どうかな?」


「俺は意義なし」


「私も異論はないよ。やれる事ならどんどん率先してやるから、遠慮なく言ってね」


 二人の助力を得て始まる屋敷の清掃。前回の反省を生かしながら効率よくテキパキとやっていくと不思議とペースが早まる。

 ただ、全てが上手く進んでいくとは限らなくて時々思うようにいかなくてイライラする時もあった。

 

 けれど僕の知らない所で頑張ってやっているかと思えば、それは全く苦ではなくなった。

 それからは汚い所を重点的にかつ全体的にしていきながら床も内装もピカピカに仕上げていく事で時間は自然と流れていき、終いには昼休憩も挟みながらも続行する始末。

 たまに見回り目的でザットとマリーに気を掛けてみたら、両者共に真面目で僕なんか相手にされていない程に熱中していたけど去り際に階段から落下していくザットはごめん……何か笑えてしまった。


「痛えな、おい」


「大丈夫?」


 尻にダメージを負ったのか随分と痛そうにしているので、拾い上げようとして手を伸ばすと叩かれてしまった。

 威力はそれ相応あったので、少し痛みがある。


「顔が笑ってんぞ」


「笑ってないよ」


「頬の口角が明らかに弛んでるけどな……言い訳を止めるのなら、今の内だぜ?」


 言い訳はバレバレだったらしい。しかし、戦闘に関しては猛威を振るっていた彼がこうも清掃に力を入れてくれるとはありがたい限りだ。

 今回、ザットがこちらに来たのは正解だったかもしれない。


「何とか言ったらどうだ?」


「ありがとう、今日来てくれたのが君で本当に良かった。最初の内はガサツそうだし信用ならないなと思っていたけど、いざって時は頼りになるから色々と見直したよ」


「気持ち悪いな……そういうのは終わってからにしてくれ。慣れていない奴からお礼を告げられるとこそばゆくなるんだよ」


「なら終わってから、たっぷりと言ってあげますね」


「止めろ。絶対に……止めろ」

 

 談笑が過ぎた。そろそろ作業に戻って真面目に取り組もう。このペースで進めれば、何とか僕とマリーだけで終わらせられるかもしれない。


「じゃあ、僕はこれで」


「最初はハズレだと思っていたが、のめり込めば悪くないな。戦闘ばっかりしていて、気の緩みすら与えない時間が多かったからこういう息抜きも悪くねえと思う」


「ザット」


「今の独り言だ。出来れば、聞いていないフリをして清掃に戻りやがれ」


 治安団は僕達と違って多忙な日々を送っている。その中でも副隊長として務め上げているザットからしてみれば常に緊迫の状況に立たされているのだろう。

 しかし、こんな気楽でいて何にも張り詰められない一日を経て彼はある意味で充実した。

 もし……仮にこれを見越していたのならライアン隊長はよっぽどザットに対して愛着があるのだと思う。

 兄貴と呼ばれるライアン隊長もザットも互いに信頼しあう関係が実に微笑ましい。


「じゃ、頑張るとしますか!」


 話を戻して、僕はより一層清掃に力を入れた。ピカピカにゴシゴシにしてありとあらゆる埃を排除しながら二階の部屋を全体的にやってみせて。

 一見途方に暮れそうな仕事量でも本気でやってしまえば案外早く終われる物だと思ってきた。

 だって、一人でやっている訳ではなくどっかで今も頑張っている人が居るとなると手なんて抜いていられないだろ? 


「ショウタ。今日、指示された場所はひとまず終わらせたよ」 


「左に同じく、言われた範囲は仰せのままにやり尽くした。これで本日は終了って感じか?」


 皆にはお礼を告げないとな。この大掛かりな清掃は一人で出来た物じゃないんだから。


「皆、協力してくれてありがとう! これで八割は完了だ!」


「まだ二割か……どう、済ませてやるかな」


「いやいや、ザットはもう良いよ。これ以上されたら任務に支障が入るだろうし」


「副隊長権限でどうにかなるだろ。それよりか中途半端に終わらせる方がモヤモヤするんだよ」


 変にスイッチが入ったようだ。こうなった以上は清掃がしっかり終わるまでは帰れませんってか?


「あらら、彼は何かが火に点いたようね」


「僕も協力して付き合うしかないか。マリーはもう疲れていると思うから、ゆっくりしていてくれ。晩飯は最悪アン王女と食べてくれたら僕とザットで適当に済ませてくるから」


「そ、それは身体に悪いよ。私はショウタとそこの彼が終わるまでいつでも待つから……頑張ってね!」

 

 マリーの励みに笑顔で応えて、ザットと一緒に残りの二割を徹底的に片付ける。

 勿論終わるまではかなりの苦労と疲弊を費やしたけど、終わった後の開放感とやらは言葉に表しにくい程に気持ちが良かった。

 全てが終わった後は僕とザットで何故か向かい合って食べる形に。

 それはそれで滅茶苦茶気まずい空気が流れていたけど……最終的には雑談を交える仲になった。


「俺を動かしたツケはしっかりと払って貰うからな」


「まっ、丁度良いと思ったタイミングで借りを返しますよ。だからご心配なく」


「言ってくれるな」


 清掃の件とザットの意外な一面も伺えた件は僕にからしてみれば今回は良い収穫だったかも。

 異世界生活がいつも……こんな感じで送れたら良いのになあ。







































「待っててね、あともう少しで貴方を盛り上がらせるイベントを用意してあげるから。ふふふっ」

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