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エピソード40:えー、誠に唐突です!

 いてっ、固い感触が! これは……何だ。


「木?」


 もしかして慌てて走っていたからそれでぶつかってしまったのか。

 頭に強い衝撃を受けたけど、これタンコブになっていないだろうか?

 

  《現実》→→→→→《異世界》


「いてて」


 次に目覚めた場所は異世界か。この世界で置かれている状況は……確かバルト国王に献上された屋敷をアン王女と僕とマリーの三人で賄おうとしたけど、思った以上に屋敷生活が大変で理想の生活が出来ないという事態に陥り気分転換も兼ねてアン王女とお散歩をする事にした僕。

 手付かずの屋敷にどう挑んでやろうかと散歩の最中に考えを巡らせていた時にアン王女に買って上げたアクセサリーを引ったくる盗人が。

 そこで運良く再会したライアンにどうにかお願いをして同行という形で許可を取り付け、盗人が逃走したとされる街の中にある唯一の洞窟でモンスター退治をして今この状況に立たされている。

 じゃあ、現状僕がやる事はアン王女の安否を確認する所からか。

 そっから落ち着いたら、屋敷の清掃を本格的にしてみよう。現在、清掃に取り掛かるメンバーは僕を含めて二人だけだからこれは地味に辛い。

 何か手っ取り早く済ませる方法はなかろうか。


「せめて……もう一人」


 男手がいれば状況も少しは変わるかもしれない。こうなったら、無茶を承知で言ってみようか。

 幸いにもライアン隊長はまだ遠くには行っていないだろうし、くまなく探せば見つけられるかも。

 それに屋敷には既にマリーも戻っているから安否については心配する程でもないか。


「そうと決まれば!」


 急遽、屋敷の清掃の補充に力を入れる事となった僕は屋敷へ戻るのを一旦取り止めてライアン隊長の捜索に入る。

 洞窟を抜けた人通りの多い町並みを何とかくぐり抜けて、治安団らしき人物を探していく。

 まだまだ時間はそれほど経っていないから、撤収なんかしてないよね?

 全員撤収されたらライアン隊長の居場所が聞けなくなっちゃうじゃないか。

 息を荒らして、必死に走り回る状況で数分掛けるとようやく一人のめぼしき人物が。


「あ、貴方は」


「はぁ……はぁ。すいません、ここにライアン隊長はいらっしゃっていませんか?」


「隊長なら事件の報告に先立てて、バルト国王へ報告に向かっております」


 お城に向かったのか。だとしたら、こうしてはいられない! もっと走って行かないと!


「そうでしたか! 教えてくれて、ありがとうございます!」


「ち、ちょっと!」

 

 夕方でも人は異常に多いので、真面目なルートで通らず、屋根を足場にした移動で時間を大いに短縮させる作戦に移行。

 飛んでいる最中、じろじろと下から見られているような気がするけど誰もゲネシス王国に仕える側近だとは知らないからひとまず安心しても良いかな。

 運動を好まず、ひたすら適度な勉強で済ませていた僕にとって激しい運動は何よりも辛いが今は耐えるんだ。

 ライアン隊長を逃してしまえば、次にいつ会えるのか分からなくなってしまうのは非常に痛いのだから。


「お疲れ様です!!」


「ご苦労様です」


「用件はどのよ……って、あれ?」


 正門をくぐり抜けて、入場門をがらりと開けてからテクテクと階段を要して奥にある扉に向かうと案の定二人の門番に何事かと攻めよられてしまった。

 

「何かあったのですか?」


「そこまで大袈裟な事ではありませんが、バルト国王が献上なされた屋敷について少々お話しておきたいのです。何とかお通し願えないでしょうか?」


 これで通用するだろうか? ひやひやとする場の中で一人の門番が納得したのか国王に一声掛けてから僕に合図を掛けてきた。

 

「さあ……どうぞ」


「ありがとうございます」


 開けば、そこは別格の室内で。相変わらず扉から王座まで続く赤いカーペットが非常に魅力的である。

 二人の人物が驚いた様子でこちらを見ている。僕は二人に会釈を済ませてから、国王に相応しき態度で望んだ。


「突然のご無礼……お許し下さい」


「何やら忙しない様子だが、急用でも出来たか? 蒼の騎士よ」


「実は用件としましてはこちらの男性にありまして」


「私か?」


「はい。出来れば……その二人で」


 突然の訪問と二人で話し合いをしたいという言葉に疑問符を浮かべながらも、何とか了解を得られた僕は大人しく城の外でじっと立ち尽くす。

 

「しまった。いつぐらいで終わるのか聞いていなかった」


 このまま数十分経ったら、足がおぼつかなくなっちゃうぞ!


「頼むから……早く来てくれい」


 痺れと戦いながら、足の屈伸で誤魔化しつつ待ってみると申し訳なさそうな表情でライアン隊長が近付いてきた。

 ふぅ……何とか来てくれようだ。うーむ、助かったあ。


「待たせたな。どれくらい待ってたんだ?」


「結構待たされていたとは思いますが……正確な時間はちょっと分かりかねます」


「そうか……では、早速だが用件を聞いておこうか」


「実はつい先日、バルト王様から屋敷をただで献上されまして現在は僕とアン王女とマリーで賄っている次第なのですが部屋の余りの多さに清掃が全て行き届いていないという状態でして」


「ふむ。それで、簡潔に言ってしまうと屋敷の清掃に力を貸してくれる者をこちらから寄越して欲しいのかな?」

 

 ズバリと言ってくれるな。まぁ、端的に言ってしまえばそうなるけど。


「はい」


「治安団はご存じの通り、世界を均衡に保つのが目的とした組織であって自治管理をする部隊ではないと言うのは知っているね?」


 無論、それを承知で言ってる。だからこそ、見知っている貴方達から力を貸して頂きたい。


「そこをどうにかお願い出来ないでしょうか? 僕とマリーの二人だけで屋敷を整理するには難しいのです。でも、だからと言って国王から献上された屋敷を手放すのはさすがに……」


 あぁ、頭を悩ませているな。これは随分と身勝手な言葉を吐いてしまった物だ。

 だが諦めてたまるか! 僕はしつこく何回か説得を試みて、どうにか粘ってみると最終的には心が折れたのか、もしくは観念したのか……ライアン隊長は深い溜め息をついてしまった。


「分かった、分かった。もう、そこまで言うのなら今回は特別に対応しよう」


「本当ですか!?」


「男に二言はない! 人材については明日にでも送ってやろう。丁度手の空いている奴が居たしな」


 いやあ、助かったな。一人でも増えるのなら大歓迎だ! これで少しは楽が出来そうだぞ!


「あれ? ライアン隊長は?」


「私は各地に武力偵察しに行かなければならないからはっきり言って手伝えない。悪く思わないでくれよ」


「そうですか。無理を言ってすみませんでした」


「とにかく屋敷の清掃については、私からの根回しで一人だけ送っておく。くれぐれも仲良く励むんだぞ?」


「はい!」


 やけくそが溢れるライアン隊長。僕の粘り強さで了解を得られた屋敷掃除の件。

 この件を屋敷に戻ってアン王女とマリーに伝えてみると。


「あら、それは素敵ですね! これでもっと快適になりますわ!」


「治安団の人達も手伝うだなんて……何か申し訳ない気持ちで一杯だよ」


 と、このように意見はざっくりと別れてしまったが結果オーライって事にしておく。

 ひとまず報告を済ませた僕は空かせたお腹でマリー特製の手料理をご馳走になり、屋敷の角にある風呂場で身体を温めてアン王女の乱入もありながら何とか一日を切り抜けた。


「結構……大きかったな」


 想像するだけで。いやいや、女の子に対して何を考えてんの? それに相手は国王の娘に当たる御方だぞ。

 どんな誘惑であろうと上手く切り抜けていかないと、この先思いやられてしまうぞ!


 だから、しっかりしてくれ!


「やばいやばい。とにかく目を瞑るんだ」


 邪心は捨てろと言い聞かせながら頑張って追い詰めると……あら不思議。なんと、いつの間にか朝になった。

 

 全く眠れていない状態で。


 はい。昨日の風呂場でアン王女から密着されたお陰でいよいよ睡眠すら出来なくなったショウタ・カンナヅキとは僕です。


「くっ……まだ眠い」


 けど、王女より後に起きてしまうの騎士として何よりも避けねばなるまい。

 ぼやけた顔に対して、水道からしっかり引いておいた水をじゃばじゃばとぶっかけて顔をリフレッシュさせてから今日もおしとやかな服装を着飾るマリーに挨拶を交わす。


「おはよう」


「ああ、おはよう」


「何かあった?」


 お察しが良い。しかし、あの件について知られるわけにはいくまい。

 ここは徹底的に隠し通す!!


「いいや。別に何もないよ」


「そう」


 罪悪感が湧いてきたがこれで隠せるだろう。何せ、昨日の夜のお風呂場で布を巻いていたとは言え、アン王女が乱入してきたと知られればマリーからどんな目線が向けられるか……ひぃ、ゾっとする!


「それよりも今日は治安団から一人だけ屋敷清掃に力を貸してくれる者を寄越してくれるらしい」 


「もう来てくれるの!?」


「うん、まあね」


 結構な無茶ぶりだったけど、ライアン隊長は渋々承諾してくれたから何も問題はない。

 昨日の夜の出来事を避けつつ、治安団からの来訪者が来るまでリビングにしては異常な広さがある場所で朝食の準備をテキパキと済ませておくとアン王女が入室してきたのでそれとなく挨拶を交わした。


「おはようございます」


「ごきげんよう。昨日の夜の営みは忘れがたき思い出でしたね」


「はっ?」


 いかん、これはやばい。さっきまで辛うじてリフレッシュになっていた身体が一瞬にして重みが増してきた。

 折角どうにか誤魔化せていたのにぃぃ。王女から直接ばらす感じかぁぁ。


「ショウタ? 貴方は昨日の夜に姫様と……」


 う、うわぁ……目が笑っていないよ。それに異性に顔を近付けられたら男の心情としては嬉しいが勝る筈なのに怖さが勝っているのは何故だろうなあ?


「何をしていたの?」


「別に。ちょっと何もしていない」


「姫様、昨日の夜に貴方は何をしていたのですか!」


「貴方には関係ない事よ。夫婦となる間柄に口を出さないで頂戴」


 アン王女の強きの言葉にマリーは一歩引く。幼い頃、友人の関係であるとはいえ身分の関係でこれ以上強気に出られないと判断したのだろう。

 悔しそうな表情は浮かべていないが、無言でありながら自分の席についた。


「さぁ、これで円満解決したわね。めでたしめでたし」


 これのどこが円満解決なんだか。勝ち誇ったかのように朝食を嬉しそうな表情で食べていくアン王女とは裏腹にマリーのペースは落ちている。

 このままでは、マリーがアン王女の言いなりになって動く半下僕生活が送られる。

 何とかして両者共に仲良くさせる方法はなかろうか? 今すぐにでも浮かべられたら良いのに!

 美味しい朝食料理の中で悶々と頭を悩ませる僕。時をしばらくして屋敷の外に設置されているベルが屋敷中に響き渡る。

 

 広いのに、結構響く物なんだな。


「こんな時間に誰が?」


「ちょっと見てくるよ。もしかしたら、あの人かも」


 リビングから離れて、玄関まで猛ダッシュ。正直、リビングから出た廊下がかなり長くてバテそうだし埃が舞っているしで辛い。

 何故こんなにも廊下は長いのか……理解に苦しむと愚痴を溢した所でドアをオープンだあ! 


「「あっ」」


「おめえは……」


「あれれ……何かの間違いですか?」


 まさか、ライアン隊長から送ってきた人材って戦闘狂? 屋敷清掃には一番向いていない奴じゃないですか!


「間違いでも糞もねえよ。俺は兄貴に言われたままにこっちに伺いに来ただけだ。しかし、唯一の誤算は……」


「「どうして貴方(てめえ)なんだ!!」」

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