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エピソード39:そんな簡単に振り切れるとでも?

 現実世界へ帰投した僕に待ち受ける物は無。特にこれといったニュースやイベントは起きず、二週間の過ぎ日が去ろうとしていた。

 異世界の事を話しているのは加藤さんと今も頼れる親友である明。

 そして、神宮神社の神主でいて希の祖父に当たる神主。

 現状取り分け大きな変化は起きていない。唯一分かっているのは現実世界と異世界を移動する間は時の流れが止まって、ある程度の物は引き継がれたりされなかったりする。

 しかし服装については現実世界と異世界の区別がはっきりとした感じになった。

 異世界の時にスマホの時間が止まっているのはどういう理屈か分からないので腑に落ちていないけど。

 後は現実にあった蒼天神村雲なる剣が異世界で手に入れた剣と重なり合うという奇妙でいて、このリアルな社会にあり得ない現象が起きた事だろうか。

 あれのお陰で異世界では少なくとも希が関わっているという情報を手にした。

 それが果たして一体何を意味するのか……まだ、はっきりと分からない。


「お疲れ~」


「あぁ、お疲れ」


 昼間は変わらず、明と食事を取る。現実世界では塞ぎ込んでいる僕に対して、名前通りな明るさとジョークを兼ね備えた明はいつもこうして一緒に昼食をしてくれている

 それが例え、何人のクラスメイトが誘おうとも申し訳なさそうな顔で断るらしい。

 僕からしたらクラスメイトの方を取れば良いのにといつも思うが明曰く僕の方が楽な体勢で話せるからだとか。

 

「今日の授業はマジヤベーイな。特に英語と国語は最大の鬼門だったわ。あれは本当に眠い」


「そりゃあ大変だったね」


「他人事かよ」


 僕の授業に英語はなかったし、国語は1時限目に始まったから何も問題はない。

 まあ、強いて言うなら国語の中にある小説をぐだぐだと黒板に考察している時は超絶暇だったけど。


「俺なんか席が隅っこだから上手くやり過ごせたら丸々1時間も寝れるんだぜ。どうだ、凄いだろ?」


「それは自慢する事じゃないと思う」


 先生にバレたら後で怒鳴れるかもよ。少しは周囲に気を付けておいた方が身の為だと思うけど。

 

「とか善人ぶっているのも今の内だぜ。この昼食が終わって次の始まり、最後に待ち受けるのは……あれだからな」


「あれとは?」


「……? 朝礼の時に担任から聞いていなかったのか?」


 はて、何だったか。朝礼の時は頭がぼんやりしていたから、しっかり話を聞いていないのか。

 今更教室に戻ってクラスメイトから聞くのも癪だし明から話を窺うとしよう。


「うーん、聞いていないや」


「やれやれ。最近のお前はどっか抜け落ちてんな」


「そうかな?」


「異世界の話を聞かされてから、何だか顔色が悪そうなんだよな……どっか気疲れしているような感じがして」


 それは廊下を歩いていた時に何度か教師陣から指摘された事がある。

 体調は至って良好であり尚且つ普通にしているつもりだけど、やはり現実世界と異世界を渡り歩く事が現実世界に影響を与えている?

 しかし考えれば考える程に答えは出ない。ここは一旦後回しで置いておこう。

 

「仮に体調が悪くなったら早退して帰るよ。それよりも昼が終わった後の話を」


「はいはい、そう急かすなよ」


 彼から聞かされた内容は心を知る確かな方法。体育館で生徒を集めて、遠方から来てくださった講師を招いて内容に沿った授業を行う。  

 これを五時限目の後に開催するらしい。あんまり長引いて、帰りの時間が遅くならなければ良いけれど。

 

「講師の名前は…………うーーん」


 必死に頭を巡らしているけど、あの調子だと忘れているのかも。


「おーい」


「あぁ、ちょっと待て。あと少しで思い出せそうな気が」


 唸る明と校内に響くチャイム。昼休みはあっという間に過ぎ去った。

 この安らぎの時間が名残惜しいと思いつつ、残りの授業も受ける。

 六時限まで約一時間。それまでは頭の寂しい数学教師の授業を受ける。

 

「方程式には解答する前に順序がある。まずはこのXからこっちを代入して……」


 心か。そういや、最近は色々と考え事をしているから胸が苦しくなる時がたまにあるんだよな。

 この授業を通して、何か見つめ直せたら良いけど。


「ちょっ……チャイム鳴っちゃうかあ。それじゃあ、ここまでにしとくか」


 規則に沿った数字を淡々と書き綴ったノート。教師から指名されず無事に事なきを得た僕はぼんやりとした気持ちで体育館へとクラスメイト全員で強制的に向かう。

 行列の中の一部となった僕はワイワイガヤガヤとうるさい会話を嫌という位に聞かされる。 

 少しは静かにして欲しいけど、一人でどうこう言った所でどうにもならないだろう。

 時間帯は夕方に差し掛かる頃。全く止まない会話の中で教頭が話を切り出すとそこで一同は一斉に静まる。

 司会兼進行を進める教頭。校長が会場に上がる事により始まる無駄に長い会話。

 校長は何故にこうも会話を長くしてしまうのか? 

 その会話を3割位削ればもうちょっとスマートに終わらせられるだろうに。


「校長先生ありがとうございました。では、お次に本日のテーマである心を知る確かな方法を教えて下さる講師をお招きします……では、お願いします」


 教頭からやや放れた位置に座っている男性が腰を上げる。校長に頭を下げてから登壇した男性は祭壇にあるマイクを取り外すと笑顔で語り出す。


「やぁ、心を悩ませる皆さん! 僕の名前は櫻井渡! 君達人間の中にある深層心理を引きずって奥底から見つめ直す……まぁ、簡単に言ってしまうと心のカウンセラーのような者かな? とは言え、これを本業でやる趣味はないから暇ついでに研究しているのが実情だけど」


「海藤渡講師は陽門大学を卒業後、宮城警察署で刑事課を五年間勤めた上げた後に誰しもがある人の心を題材に研究会を設立。それからは多岐に渡りーー」


「あぁ、長話は結構ですよ。こうしている時でさえも時間は食い潰されますからね……それに」


 教頭の話をぶった切り鼻で笑う櫻井。生徒一同を見渡して、確認した後に質問を投げ掛ける。


「こいつは何がしたいんだ? もしくは糞つまんねえ授業なんてやってられねえぜと思っている子供達も何人かちらほらと態度に出てるのが……悲しいかな。それが君の心の答えってやつか」


 瞬間、場内が凍ったような気がした。生徒も教師も含めて。そこに、ただ陽気でいて平然とした態度で望んでいるのは海藤のみだ。

 

「心なんか簡単に読み取れる。君達のような、純粋さが目立つ年頃なら尚更態度が表に出てしまうのさ」


 言動が過ぎたのか校長と教頭は不快な表情を浮かべている。その表情に半分申し訳なさそうな感じで一言謝りを入れると、真面目な対応に切り替える。


「それじゃあ、ジョークもここらでこの辺から大変有意義のある講座にしていこう。では、まずは……うんとね」


 眼鏡をくいっと上げると同時に祭壇の後ろに設置されたモニターに映像が写る。

 それは心という物は何故そう呼ばれているのかというプロセスで櫻井講師の解釈を踏まえて、分かりやすく大雑把に描かれていた。


「心を読み取る事はそこまで複雑ではない。えっ、本当に? とか思っている人も居るかもしれないから試しにやってみせようか」


 祭壇から飛び降りて、ふらふらと意味もなく歩いていく。授業であるとは言え、ここまで自由勝手に動くとは。

 呆れを通り越して、無言で立ち尽くす教頭を無視して次々と気になる生徒に幾つかの質問を投げ掛けると解答を分析して生徒の特徴を言い当てる。

 その推理は的確に合ったっているのか質問をされた生徒は驚いていた。


「性格は大雑把。しかし、目の前で重要な選択に立たされた時に慎重になってしまう部分がある。だが、現状悩んでいる事はなさそうだから案外楽な方向に行くかもね。まぁ、人の話に流されないようにというのが僕からのアドバイスかな」


 これって講座なの? 今の所、人の心を読み取った後に心の解析をするアドバイザーにしか見えないんだけど。


「じゃあ……君の名前を聞かせて貰おうか」


「えっ?」


「そう身構える事ではないよ。もっとラフな体勢で望もうじゃないか」


 存在感を際立たせるかのような青色の眼鏡。そこから漂うハンサムな顔立ちと洒落た髪型が根暗の僕との差を痛感させる。

 うーむ、これが世に言われるイケメンって奴か。


「神無月翔大です」


「じゃあ、質問の問いははっきりと告げてくれ。そうじゃないと解析に手間取るのでね」


「は、はい」


 名前を告げた後に問い掛けられる数々の質問。具体的に言ってしまえば、最近あった嬉しい出来事と悲しい出来事。そして後悔した事や自分から見て思う印象や長所短所等々。

 気分はさながら面接官が語りかけてくる面接会場だった。ゆっくりと落ち着きのある感じで語り上げると海藤は満足したのか右手を頭上に上げて、言葉を遮った。


「……君には一つのテストを受けて貰う」


「テスト?」


「簡単な物だよ。君に限らず、ここの会場にお集まりの皆さんにも出来てしまう程のね」


「目を閉じて下さい」


 閉じてしまえば視界は光すらも遮断された光景。目の前はいつでも真っ暗な状態だ。


「貴方の思う大切な光景もしく大切な友人を具現化させて下さい」


 そう言われたら、数分もせずに具現化されるのが神宮希だ。この子は僕にとって何よりの幼馴染みでありそして一番大切にしていた少女。


「具現化させた事をもっと印象強く。そして、そこから感じた色を教えて下さい」


 止めろ。止めろ……止めていや止めて欲しい。来るな来るな来るな来るな!


 ご利益がありますように。貴方の願う未来が


 違う違う! こんな選択は心の底から望んじゃいなかったんだ!!





 残念。神はそう簡単に許してくれないようね



「赤……ううう、あああああ!」


「なっ!?」


 意識がぷっつりと切れた。恐らく、今の僕は場を弁えずに公衆の前で床に倒れている。


 とんだ迷惑行為だ。これで授業は中断になってしまったのか……次に目覚めた場所は保健室か異世界か。

 

「皆さん、下がって!!」


「神無月君。意識があるなら返事をするんだ!」


「ははっ、まさか……ここまで重症だったとは。彼の心は誰よりも重く他人から想像を絶する物であったか」

 

「櫻井講師、後でお話があります」 


「分かりました。然るべき処置はしっかりと受けましょう」


 とんだ迷惑行為だ。これで授業は中断になってしまったのか……となると次に目覚めた場所は保健室かはたまた異世界になるのか。

 

 その答えは視界が再び回復した時に分かるだろう。

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