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エピソード3:貰っておきます

「おぉ、お嬢さん! 男連れ込んで仲良く戦闘デートかい?」


 戦闘デートって。学校の女や一般常識のある社会人もそんな言葉を使う場面一度足りとも聞いた事が無いのですが。

 この世界じゃ、それが当たり前なのかな。僕はこの人達の流行についていけそうにないよ。

 しかも依頼屋の中に凄い武装をした連中達がクリップボードに貼ってある依頼を見つめているようだし。

 僕って場違いな場所に来たのでは? 学校から無事に家に帰るまでがモットーの帰宅部では即死しかねない。

 やばいやばい、どうやって振り切ろう。


「あははっ、まだそういう関係じゃないですよ!」


「おっ。まだという事はこれから発展していくのかな? このこの」


 このテンション。どこか父に似ている……やけに取っ付きにくい感じが。


「あの……なるべく、お手柔らかに済ませそうな依頼はありますか?」


 男の癖に弱腰だなんて言わないでくれ。これでも僕は有り余る勇気を振り絞って頑張っているんだ。

 逃げれる機会があったら、全速力で逃げている……が、実際そうなるとマリーを遠からず怒らせてしまう。

 ここは穏便に済ませておかないと。


「なんだ、隣の男性は随分と貧弱な言葉を言っているな」


「いやいや。モンスターになんてゲームでしか見た事が無いんですから当然でしょう?」


 えっ、どうしてこんなに固まっているの? まさか、余計な言葉を口走ったのか……あっ。


「ゲーム? 聞いた事の無い言葉を聞いたぞ。と言うかお前さんはこのムゲン大陸で一度も見掛けた事が無いのか? モンスターを」


 迂闊な言葉を口走った! 僕の釈明次第では刑務所らしき場所に連行される恐れが浮上した! 

 ここは何とか凌いでやる! 


「あぁぁぁ! ぼ、ぼ、僕は今まで引きこもりでずっと引きこもりでしたが、ある日と、突然マリーが僕をつ、連れ出してくれました! それから僕は性格諸々鍛え直されまして……今やこうして依頼屋に赴ける状態になりました!!」


 所々おどおどしているけど、引きこもりという状態ならこれで違和感は無いだろう。

 まぁ、モンスターを今まで見掛け無かったもぎりぎり説明がつく筈。


「ずーと引きこもりだったのか。お前は暗い人生を歩んでいたな。その前にどんな原因で引きこもりになったのかは……聞くべきじゃないよな。それは人の心を土足で踏みにじる行為だ」


 ありがとうニヒルなおじさん。僕の作り話が適当に通じてくれて助かったよ。

 さてはて話を戻して依頼を引き受ける事にしよう。まずは、手始めに卵を指定の場所に運搬する仕事から……


「それなら、徹底的に鍛えられそうな依頼をお前に授けよう。なーに、命の心配なら要らねえ。そこのマリーは魔法に置いては優れた素質を持っているから、安心して行ってこい」


 余計なお世話がここまで似合うとは。この場合はどう考えても僕の好きなように任せる所では? 

 

「あ、あの話を聞いてくれませんか?」


「お嬢さん。こいつの性格を叩き直す為にも一肌脱ぐべきだと思うぜ」


 お願いだ。ニヒルなおじさんが駄目な方向に行ってしまった今。君だけが唯一の頼りなんだよ。だからお願ーー


「分かりました。私がショウタを鍛えます」


 僕の切なる願いは彼女の一言で脆くも崩れ落ちた。もう、駄目だ……こんな恐竜みたいなモンスターに挑むなんて人生終了のお知らせだ。

 これはいよいよ遺言書の出番か。どうせ、書く文章なんて決まってないけど。


「アウレオルスか。普段はそこらにある生食動物を食い散らかす凶暴生物だな」


 4本の足に当たったら骨まで砕け散りそうな尻尾。極めつけには噛まれたら労災保険が下りる所ではない凶悪なお口。

 これを僕は強制的にやらされるのか。実質死刑宣告と変わらないのでは?

 震えが収まらない。可能であれば即刻逃げ出したい。うん? 

 そうか、今なら振り切って!  


「おい、男なら逃げずに戦え。せっかく店主が気を利かせてくれたくれたんだからな」

 

「一度も戦闘経験を味わった事のない僕には厳しいです」


 それなら、せっかくなんで協力プレイで一緒に倒しましょうよ。

 白いコートを羽織っている上に強者感に溢れているしで頼りになりそうなんで協力して下さい。

 何なら一狩りしませんか? 報酬の大半は差し上げますので。


「いや、遠慮しておくよ。俺達にはもっと優先すべき任務があるからね」


 モンスター討伐じゃないのなら何の為に来たんだろう。彼等の目線を折ってみると、そこには一人の人物。

 写真が張られているという意味合いは指名手配として受け取って良いのか。


「奴が潜伏していたら、知らせて下さい。なるべく急いで駆けつけますので」


「お、おう。そう簡単に見つかるとは思えねえが、万が一見つかったら連絡しておいてやる。鳥を飛ばしてな」


「助かります。それでは」


 結局目的は指名手配の人物か。見た目に関しての情報は真っ黒のコート。そして肝心の顔は普通にイケメン。

 問題はその表情から底はかとしれない物が読み取れるくらいか。


「犯罪者なんですか、この人?」


「あぁ、巷ではモンスターを活性化させてわざと暴れまわらせている非道な野郎。目的は一切不明だから余計にタチが悪い。さっさと捕まって欲しいぜ」


「ショウタ。そういう物騒な事件はクライム・ガードに任せておけば良いわ。私達は私達で出来る事をしましょう」


 これは剣か。ファンタジーで言えばポピュラーな部類に入るけど、こんなにも重いのか。

 いつもアニメやゲームだと軽そうに構えていたから楽なのかなと思っていたけど、現実問題かなり重いじゃないか。

 まるで鉄の重りを持っているよう……うぐっ。


「はぁはぁ……無理無理。重すぎてとてもじゃないけど持てない」


「頑張りなさい。これは貧弱な貴方を根本的に鍛え直す絶好のチャンスよ」


 教師顔負けの完全スパルタ鬼指導がここに君臨。万年帰宅部の僕が恐竜の容姿を司るアウレオルスに立ち向かったら果たしてどうなるのか? 

 心臓は期待0%の不安100%で一杯一杯です。


「ここから街を一旦出ると、森林地区の場所でアウレオルスがうろついている。仮に今から向かうとすると夜になるだろうから、準備をしっかり済ませてから行ってこい」


 剣を鞘に収めても背中に収納しても、かなり重い。こんな状態でずっと歩くなんて半分苦痛だ。


「行き先が決まった所で準備をしていきましょう。雑品屋へレッツゴー!」


 何故彼女は僕に依頼を受けさせる? 別にこの世界を案内をしてくれって言っただけなのに……今や肉食生物の討伐。

 

 一体僕はこの先どう向かっていくのか? 

 

 現実世界では淡々とした毎日を送っていたけど、この異世界では何が起こるか分からない日々が僕の心を驚かせる。

 良くも悪くもこの世界は僕にとって未知の世界であり神秘的な世界。

 こんなにも感情が剥き出しになるのは、この異世界だけだろう。

 だから、叶うのであれば僕はつまらない現実世界よりもこちらに留まり続けたい。

 しかし……それを許さない。


「僕はどうして……こう、取っ替え引っ替えに世界を行き来するんだ?」


 教えてくれ、現実世界と異世界を行き来させる訳を。何故僕はこんな不可思議な力を持っている?


「ぶつぶつ言ってるけど、何か不満なの?」


「いーや。別に……」


 危ない危ない。とにかく、今はこの異世界で出来る事をしよう。

 まずはニヒルなおじさんが勝手に押し付けてきた任務のお片付けといこう!

 やや、急ぎ足で向かった雑品屋。マリーは僕の態度に困惑しているようだけど、言葉で無理矢理丸め込む事にした。

 必要な物は最小限に。安く買える物はなるべく安く済ませた僕達は依頼に記されたアウレオルスの討伐へ。

 夕日が綺麗な草原で数あるモンスターが通行人のように歩いている。

 僕は慌てて武器を手に携えたけど彼女は手で制止させた。

 どうやら、このぷよぷよと上下に動くモンスターは保護対象として大事に扱われているようだ。

 モンスターは全て敵という事でも無いみたい。


「あそこにお試しのモンスターが居る。あれでショウタの力を試してみましょう」


 見た目が完全に骸骨。あんなすっかすっかな状態で歩いているなんて……理科室の骸骨ですら動かないのに。

 あれは一歩間違えたらホラーの出来上がりだ。ホラー大好きの人間もこんな奴が居たら震えるに違いない。

 それでもマリーは驚いていない。この世界ではああいうモンスターはどこでも存在しているのだろう。


「ほら、剣を構えて」


 再び重い剣を力だけで構える。可能であれば、どこか遠くに放り投げたい。  

 要らない雑念は捨てよう……今は目の前に集中だ。集中集中。


「やー!!」


 我ながらダサい掛け声だ。自分で聞いていて情けないし正面の骸骨モンスターにかすりもしない。

 いやはや、その身のこなし。実にお見事であります。


「避けて!!」


「っ!」


 相手の骸骨は手持ちの武器で横殴り。僕は一瞬の隙をついて後ろに後退。

 今のは自分でもびっくりの動き。僕にもこんな身のこなしが出来るんだ。


「そりゃあ!」


 当たっても全然痛そうな表情を浮かべてくれない。これって命中しているんですか?


「ぐっ!」


 さっきよりも動きが乱暴になってきた。こんな動きが激しいと僕も対処しきれない。

 やはり、この重すぎる剣だと僕の相性が余りにも悪すぎる。

 もう無理かもしれない……男なのになんと情けない。


「ショウタ、逃げちゃ駄目! 戦いなさい!!」


「うぐっ!!」


 痛い痛い痛い! 頭をバットで立て続けに殴られている感覚だ。

 それなのに……自然と何かが僕の頭の横を通りすぎていく。何故か忘れていた懐かしい思い出を。

 僕が馴染みだった彼女にある想いを告げた。それを彼女がにこやかな表情で僕の片手をそっと握る。

 はっきりとした言葉は残念ながら聞き取れない。

 走馬灯のよう過ぎ去り、鮮明になった視界。その時、微かに見えた敵の動き。

 それを読み取り次の手に移った時。

 敵は地面に倒れ伏せると、しばらく経とうが身体をピクリとも動かさない。


「こ、これは……」


 一瞬いや直前に見えた敵の動き。こんな平凡な僕が信じられない力を手にした瞬間だった。


「凄い……凄いじゃない! ショウタ!」


 彼女には僕の力が見えていないのか。敵の動きを読み取った事に対して。


「平凡な人間なんて真っ赤な嘘ね。これからは私の優秀な部下として働いて貰うわ。うんうん」


 先に見える敵の動き。僕はこの力を“先読み”と名付ける事にしよう。

 これさえあれば、どんな状況下でも切り抜けられそうだけど……異世界って、異能力も手に入る物だっけ? 

 うーん、謎は益々広がるばかりだ。

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