表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/121

エピソード35:人数足りる?

「「「……えっ?」」」

 

 いやぁ、まさか開けた瞬間に。


 埃とかが舞っているとは。いやはや、これはこれは驚きを通り越して唖然ですね。はははっ……はぁ。


「ようこそおいでくださいました。私はこの屋敷のオーナーを務めているローマンにございます」


 貴方がオーナーですか。よくも、抜け抜けとこんな埃まみれの部屋を紹介しましたね!

 これはもうお礼とかじゃない! ただの押し付けです!


「あの……屋敷にしては」


 どうしよ? 正直に言って良いのかな? オーナーの前ではさすがに言いづらいんだけど。


「けほけほ。こんなゴミまみれな屋敷では、とても住めませんわ!」


 いや、おーい! 僕が言い切る前に言っちゃったよ! やっぱりアン王女は色々と正直に動くタイプだなあ。

 別に誉めているつもりはミジンコ程にもないけど。


「……はぁ、アン王女様の仰る通りです。この屋敷はどうしようもなく埃まみれでございます」


 嘘っぱちの泣き顔が始まった。この人って見た目はそれなりにダンディーなのに中身が完全に残念な人になっちゃってるな。 

 やれやれ、これは会話をしている内にこちらが疲れてくるパターンに嵌まるぞ。


「貴方はこの屋敷に何年も住んでいないのですか? 失礼ですが周囲を見渡す限り、随分と整理が行き届いていないようなので」


 辺りをくまなく探索しながら、気になる点を問い掛けるマリー。

 玄関に入ってから、もう色々と調べているようだ。埃の煙たさに立ち往生している僕等とは一味違って。


「五年前に当初お一人暮らしの男性が入居しておられましたが、つい二年前に退去をなされており……それ以来、残念ながら清掃が滞っているという状態でありまして」

 

 だからって巻き込むのはお門違いでしょ。とか正直に言えたら良いけど、雰囲気が雰囲気だけに言いづらい。

 正直に言いたい口を固く結んでオーナーからの話を聞いておく。

 アン王女は退屈そうな表情で玄関の周りをウロウロとしているけどマリーは聞き耳を立ててしっかりと聞いている。


「まあ、色々と思う所はあるのでしょうが屋敷全体の清掃を頼みたいのです」


「この屋敷を3人でですか?」


 3人で清掃していたら、全然終わらないかもしれない。それに内一人は清掃もろくにやった事がないと思われる王女様。 

 任せたら何をされるか分かった物ではないし、身分的な問題で彼女が自主的ではない限り掃除もさせにくい。

 第一、部屋の清掃用具とか現実世界同様にあるのかちょっと謎。

 この世界には魔法とかあるみたいだから、それで少しはマシになるか? 

 そしたら全然屋敷を楽々に掃除出来てめでたしだけど。


「マリー。この世界には部屋をぴかぴかにする魔法とかある?」


「うーん……ごめん、そんな魔法は多分ないと思う」


 はい、オワタ。どうしよどうしよ、こうなったら馬鹿正直に掃除するしかないのか!


「少しずつやっていくしかないか」


「そうね。少しでも終われるよう頑張りましょう」


「ありがとうございます! それでは清掃の件及び屋敷については貴方達にお任せしますね」


 いや、ちょっと! そこで爽やかな顔で逃げても誤魔化せませんよ!


「えっ、少しでも掃除を早く終わらせたいのに手伝ってくれないのですか!」


「バルト国王からこの屋敷をただで献上する代わりに全ての事を彼等に一任せよとの申し伝えがあった筈ですが」


 王様とオーナーの間でそんな話があったのかあ。


「となると、私達で屋敷の管理をするという事ですね?」


「はい。早い話がそうなります」


 屋敷生活の第一試練はこの長さも広さもえげつない部屋全体の清掃。

 仮に掃除機が幾つあっても、全然まかないきれない状態の中で僕達三人だけで終わらせられるのか? いや、二人だな。


「マリー、まずは私の部屋を塵一つ残さない状態にしなさい。勿論個室で、日当たりの良いかつ何人でも充分快適な部屋を至急ね」


「承知しました。すぐにご用意します」


 早速先行きが暗くなりました! 二人だけで屋敷の中を清掃するのはハード過ぎ! 

 心の中の絶叫を押さえ込んで、アン王女を抜いた屋敷掃除が幕を開ける。

 まずは手当たり次第に掃除したいけど、若干我が儘なアン王女の部屋の作成。

 雑巾とか箒とか基本的な清掃道具は揃っているから、これはこれでオーケー。

 あとはコンセントに差して使用する掃除機とかあったら、かなり助かるんだけどなあ。

 異世界には何一つコンセントのような物はないし、掃除機なんて生み出されている訳もないのでこれは潔く諦めるしかないか……仮に現実世界へ行く時に一部の服と持ち物が運び出せるのを利用して、部屋の掃除機を持っていく事が可能であれば話は別になるけど。


「はぁ、まずは一人で出来そうな場所を清掃するか」


 家の顔に相当する玄関。これは一番大事だから、取り敢えず手に届く範囲でやっておく事に。

 最初にゴミをまとめる用途がある塵取りとゴミを集めていく箒を使って、出来る場所を丁寧に。

 

「隅っこ……掃除機の隅取りさえあれば」


 手広くやっておいた後は、お次に雑巾の出番です。バケツの代わりになる筒に雑巾をダボダボに浸して、水を切った雑巾で埃の部分を排除!

 床も手すりも排除! うーん。玄関すら広過ぎて、一人ではあまりにも回りません!


「やばっ、目が回ってきた」


 かれこれ何分経ったのかな? 結構床を往復して拭いているから、ゆっくりしていたら肩の疲れがどしんとのし掛かる。それがどれ程辛いか。


「ごめん、ショウタ! 遅くなっちゃった!」


 あぁ、やっと来てくれたか。これで少しは助かるなあ。


「だ、大丈夫? 何か、疲れているみたいだけど……無理してもあれだし、後は私の方で少しずつやっていくから少しは休んだら?」


「いや……何とかやるよ。今日は今日で片付けたい事もあるしね」


「そう? なら、一緒に頑張りましょう。あまり根に詰めない程度に」


 途中参戦してきたマリーが加わった事で多少の範囲は行き届いてきた。

 しかし、一人増えた所で屋敷の広さを考えるとたかだか知れる。

 まあ……出来そうな箇所だけを集中的に清掃しておく。必要そうな場所は何とか頑張って、後でも良さそうな所は後日という形という手法でいくと結果的に夜遅く掛かったけど最低限のまあまあ完了。

 二人にしては上出来だと思う。これでも、庭とか一階の長い廊下等その他諸々……あと二階とかまだまだ片付いた様子はないけど、取り敢えず本日は終了で決まり。

 

「夕飯は簡単な物で構成するね。姫様がお気に召して頂けるか不安な部分もあるけど」


「さすがに大丈夫だと思いたいね」


 いつも城生活を嗜んでいるアン王女は豪華な部屋に厳重な警備。

 それに何よりも最高級のディナーに口を付けている事が安易に想像出来るからこそ、マリーの作った料理に拒否反応を示す可能性も捨て置けない。

 どうにもマリーとアン王女の関係はそれ程友好って訳でもなさそうだからね。

 ただ、ここに来たからにはなるべくなら大人しく従って頂きたい。

 城と同様の生活は間違いなく困難になるのだから。

 因みにマリーが簡単な物でと言って調理したのは身体が芯から暖まるほかほかのスープとパンとリゾットらしき物。

 料理具材や調理器具は清掃の最中に最寄りのお店で購入したとの事。

 現時点ではマリーの方が明らかに大助かりである。


「なによ、これ」


 屋敷特有の長い棒状のテーブルに置かれた料理を見て、唖然とした表情をしていた。

 本人からしてみれば、もっともっと豪華な料理がずらずらと並んでいたのだろう。

 僕からしたら、マリーはかなり頑張って作った方だと思うが。

 この良くない感じを放置しておくのはまずい。ここは僕から諭す方向で。


「アン王女。ゲネシス王国の王女からしてみれば、こちらは相応しくない料理かもしれません。ですが、屋敷の清掃という慌ただしい状況下でもマリーは溜め息を吐かずに取り組んだのです。だから……一度食してみては頂けないでしょうか?」


 僕は今、下から目線でお願いしている。慣れもしない敬語を駆使して。

 アン王女は黙って座ると礼儀良く、そして正しい作法で料理を食べていく。

 特にこれと言った感想はないようだ。僕も続けて食べてみるとしよう。


「あっ、やっぱり料理のセンスあるね。凄く美味しいよ!」


「ほんと?」


「うんうん。このスープとか具材がしっかり活きていてーー」


「お粗末様でした」


 淡々と食べて、淡々とした態度で自分の部屋に戻ってしまっている。

 これからも三人で暮らしていくとなれば、どうにかして関係を良好に持っていく必要がありそうだ。

 

「もう……どうしたら良いんだろう。最近、アン王女の心が読めないよ」


 結局、あの大戦争を防げたとしても世界中にある小さな問題はやむなく起こってしまう。

 今回の件については非常にデリケートで肝心の相手はアン王女。

 身分も考えると、かなり慎重に対応しなければならない。

 

「マリー。君はアン王女と仲を戻したい?」


「出来るなら……と言いたいけど、こればっかりは難しいかも」


「何故?」


「それは……まぁ、色々とあるの。ショウタでも話しにくい事情って奴が」

 

 心休まる食事がどうしてか心が休まらない。やっぱり胸の奥でつっかえるあれが気になってしょうがないからだろうか。


「上手くやっていけるかな、僕達」


 まだ一日も経っていないのにこんな調子では先が思いやられる。

 これからは屋敷全体の掃除に気を向けるばかりではなく二人の件に足を進めないと。

 こんな状態では屋敷の息も詰まって仕方がない。


「考え過ぎは身体に良くないな。とにかく寝よう」


 気持ちを切り替えて、前に進まなくちゃならない。後悔先に立たず……この屋敷が快適な生活に出来るように頑張っていこう! 

 小さな決心を胸に抱えて、今日は睡眠を取る。何時何分かも分からぬ場所で。

 どうせスマホは現実と異世界がごちゃごちゃに入り交じって、正確な時間が取れないだろう。


「狭い」


 一階の周辺を一通りしただけで自分の部屋は作れなかった。今日は倉庫らしき部屋を確保しておいた。

 これで、どうにか寝てみるつもりだけどマリーの方は大丈夫かな? アン王女の部屋しか作れていないから心配だけど、本人は心配しないでって言っていたから僕がこれ以上どうこうする訳にもいかないし。

 

 ふぁ~、ともかく今日は寝よう。明日からは本気でやっていくぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ