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エピソード34:今日から贅沢暮らし!?

「うわぁ、僕が住むにはやっぱり場違いじゃないかな」


「そんな事はありません。これから、この屋敷が私達の住む愛の巣となるのですから♪」


 はぁ、にしても彼女はさっきから僕に猛烈なアピールをするしで正直困った物だ。

 それで縮こまっているマリーに目線を送ると無言で何も助けてくれない。

 何か、色々とお手上げだぞ。


「さぁさぁ、行きましょう!」


 屋敷とかアニメだけの世界だと認識していたけど、僕にも体験出来る日が来ようとは……って、感慨に耽っている時に腕を引っ張るのは即刻止めて下さい、アン王女!

 てか……どうして今誰も住んでいない屋敷来ちゃったのか。それを説明する前に事の顛末をつらつらと。

 

 あれから蒼の騎士として兵士に知れ渡り、やがては大陸の全土に知られた頃。騎士という仕事は全く持っての重労働で何というか一言では言い難い疲労がどっと押し寄せた。

 名前が知れる頃には兵士にうやまわれたり、はたまた突然入ってきた者が称号を貰うなどと実力という名の勝負を古参組押し付けられたりと散々な目に。

 まぁ、結果的に実力で黙らせる事でどうにか収拾したので良しとしたいけど……それにしたってゲネシス王国の兵士達は妙に血の気が多すぎるような。


「お疲れのようね」


「マリー」


「昼ご飯、良かったら私と食べない? 自分の為に作ったんだけど、ちょっと余っちゃって」


 ここ唯一の癒しはもうマリーと他愛もない話をする事が習慣になってきた。

 今日はマリーから話し掛けてくれた。何か美味しそうな食べ物を運んで。

 最近大木が生えた庭でよく雑談をしている。因みにあっちの世界での事は詳細には告げていない。

 どうせ、話した所で余計に混乱を招くだけだ。マリーは僕が異世界の人間だと唯一知る女の子。

 最初に出会った子であって、何かと信頼出来るから色々と言葉が自然と出る。


「まさかフルボッコにしちゃうなんて……さすがは蒼の騎士。名前は伊達じゃないね」


「何か色々と疲労が溜まってきた。どうして、こう僕にちょっかいを掛けたがるのかな?」


「兵士の試験も受けずに王様から直々に城の兵士として置かれ、あまつさえ傲慢王を倒して栄冠なる称号を授与されたからじゃない?」


 原因は完全に僕か。あぁ、異世界の僕は敵を作りすぎたな。


「やっぱりか。はぁ~」


「まあまあ、今日はこれを食べて元気を出して。このパンには色々と味を仕込んでいるから楽しめると思うの」


 ふーむ。これはいかにも形状がサンドウィッチだ。どれどれマリーが作ったパンを一口。

 おぉ! 口に入れた瞬間に広がるシャキシャキ感と香ばしい肉の何とも言えない食感が僕の空腹を一瞬にして満たしてくれる。

 うーん、まじ最高!!


「凄いよ。これ店に出したら売れるんじゃない」


「えっ、本当? 冗談じゃなくて?」


「本当だよ、マリーが作る料理は味が格別だ! これは何円でも払えるね!」


 大見得切っているけど、1000円以上だったら……払えるかな?


「じゃあ、これからは暇を見つけたら貴方の為に何か作ってみるね。一応、リクエストがあったら聞いておくけど?」


 リクエストならいっぱいあるけど、この世界だとあっちの世界の料理は恐らく存在しないだろうから……


「マリーに任せるよ。その、あっちの世界で欲しい料理がそっちにあるとは思えないし」


「内容とか教えてくれたら努力はするけど?」


 健気過ぎる。でも、女の子から料理を作ってくれるのなら正直何が出ても美味しいから良い。

 ましてはマリーが調理するのなら尚更。

 

「いやいやマリーが作ってくれる料理ならなんでも歓迎さ。勿論忙しくない時に頼むよ。僕のせいで倒れたら取り返しがつかないからさ」


 何にも言ってこないけど……ニコニコしているから一応答えとしては正解か?

 隣にマリーが見つめているお陰かいつもより早口で食べている。


「もう、ゆっくり食べた方が良いよ?」


「大丈夫大丈夫」


「あら? ショウタ様ではありませんか!」


 下手したら喉が詰まるかもと心の中で葛藤が始まる最中に背後から不意に声を掛けれた。

 うごっ! 危うく詰まる所だった。何とか奇跡的に止まれたのでセーーフ!


「げほげほ。アン王女!?」


「はい! 貴方様の王女です!」


 いかにも豪華で高そうなドレスに愛らしい瞳。それで繊細な金髪は見た目からして王女に相応しい……が、最近僕へのアプローチが結構な頻度で迫ってきており正直困っている。

 僕にその気はないと蒼の騎士という称号を承ってから何度か伝えているけど、全く折れてくれてないのでこっちが泣きそうになる時もしばしば。

 はぁ、早い所僕の事は諦めて良い男を探してくれないかな。


「マリー。何か余計な事をしました?」


「い、いえ。私は特に」


 アン王女がチラチラと僕が手を付けていた料理の箱を見ている。

 マリーは何だか元気がなくなったかのように萎縮している。


 これは……嫌な雰囲気だ。


「はぁ、貴方は下がっていなさい。これから私が直々に完成させた料理をショウタ様に召し上がって頂くのですから」


 縮こまっているマリーを払い除けて、アン王女は堂々とした態度で料理を差し向ける。

 

「さぁ。お腹も空いている事でしょうし、こちらでお腹を満たして下さい!」


「ええっと」


 どうする? 箱から明らかに危ない紫色の蒸気、いや煙? とにかく蓋を開けた瞬間に口から泡を吹いて倒れてしまうかもしれない料理が今そこに。

 一口食べ……いや、何か理由を付けて上手くかわそう。これは食べただけで天国に行きかねない!?


「はい、召し上がれ!」


「うっ!」


 危ない煙が漏れている蓋を開ければ、余りにもおぞましい食べ物? がある。

 嫌だ嫌だ! やっぱり食べたくありまーー


「遠慮せずにどうか……あっ、そうか」


 ちょっと? アン王女。それは何の真似で……ぐがぁぁぁ!


「えっ、えっ? ショウタ様! ショウタ様!」


「気をしっかりして、ショウタ!」


「私のショウタ様に気安く触れないで頂戴!」


「アン王女。そんな事を言っている場合では!」


 あーあ。僕が倒れたせいで喧嘩が始まってしまった。どうにか止めたいけど、意識が……無理だ。もうなくなってしまう。


「応急処置をします。アン王女は危険ですので、下がっていて下さい!」


「何よ、カッコつけちゃって」


 僕のお城住まいは最近こんな感じで大きな事件もなければ小さな事件がちょこちょことある程度。

 あの大きな大戦争がなくなってからは世界はある意味大人しくなっている。

 その代わり、僕の身に何かある事が多々あるのが引っ掛かるけど。

 蒼の騎士として異世界を過ごしてはや一週間。あれから現実に戻るという現象はぱったりとなくなってしまった。

 仮に戻ってこれたら、蒼剣の強化に成功した祠に戻る。帰ってきたら、希の父親である加藤さんと明には礼を言っておかなければ。

 

「あれ?」


「意識が戻ったみたいね……はぁ、良かった」

 

 あまりのあれで走馬灯が走ってしまった。もう、アン王女から食べ物を無理矢理食べられないように細心の注意を払って置かねば。

 

 命が今度こそなくなりそうです。


「イノチヲダイジニシナイト」


「ショウタ!?」


 食べ物は調理を少しでも間違ってしまうと死に追いやられると知ったのはうん、為になったね。

 あれから、やっぱり治療を続けて翌日。料理で泡がぶくぶく事件が終わった朝方、兵士の一人が王座に入室するようとの伝言が。


「うー、まだ意識が遠のく」


 どんだけ強烈な食材を入れたんだ、あの王女は。疲れが取れていない状態で僕はいつもの支度。

 ゲネシス王国で幹部しか装着出来ない騎士専用のバッチ。下には戦闘時に役立つポシェットが後ろにも横にも付属するズボン。

 そして、最後にはこの異世界に訪れた時に購入したいつもの白シャツとお気に入りの青色のコートを羽織って終了。

 今日も今日もとて王様から頂いた勲章がばっちりと輝いている事を確認してから王座に向かう。

 

「一体何の話を聞かされるんだろう?」


 正直不安でたまらない。現状朝一からお偉いさんのお呼び出しを食らっているので余計に緊張してきた。

 とにかく、おぼつかない足取りで王座へ続く道を黙々と歩く。

 僕の寝ている部屋から大分遠いのが距離が長く感じてしまう原因だけど、幹部以外の者はもっと遠い宿舎から来ているからそれを考えると僕は優遇されている方か。

 おっとっと、ぐだぐた文句を垂れている間に到着してしまった。

 ここからはごほん。気を引き締めて……いざ参る!


「お呼び出しにより参りましたショウタ・カンナヅキです」


「おおっ、朝早くから呼び出しをしてしまい申し訳ない。姿勢を楽にして、こちらに来たまえ」


「はっ!」


 あー、今一つ慣れないなこの軍人みたいな動き。いつもはだらだらとしながら授業を聞いていたから変に固くなって疲れが増える。


「今日ここに来て貰ったのは理由があってな。平たく簡潔に述べてしまうと、蒼の騎士として名誉ある成果を遂げるお主に私から褒美を授けたいのだ」


 褒美か。うーん、ここに住まわせて頂いてから何不自由なく暮らしていけているから別に要らないんだけど。


「折角の話ですが私としては丁重にーー」


「まぁ、そう事を急かすな。話を最後まで聞けば気持ちが変わるかもしれんぞ?」


 なにやら自信があるようで。そこまで頑なに申すのなら、とことん聞いてから考えようじゃないか。


「なんでしょう?」


「ショウタ・カンナヅキ。この国を代表する勇敢なる騎士としてお主には領主が退去した屋敷を献上したい」


「……どぇぇ!」


 や、屋敷って。あ、あのあれ? あっ、よく何かゲームに出てた建物の事? 


「やりましたね。ショウタ様! これで私との夢の生活が始まります!」


 待て待て、話が急なのにアン王女が乗っかってくると更にややこしくなってくるから今は集中させて。


「兵士や側近に睨まれている僕が王様から頂いた領地で過ごしているなんて知れたりでもしたら」


 益々嫌われるぞ。あぁ、ただでさえ目立ちたくないのに!!


「うーむ。最近の彼等は君に対して、一物あるようだな。私から後で言及しておくとしよう。それで少しは収まると良いのだが」


「ありがとうございます」


「では、早速だが行ってくれるかね? 屋敷を所有していた前の土地主と直接会って屋敷の概要を知って欲しいのだ」


 断る雰囲気を作ってくれないなぁ。まあ、拒絶した所で僕にメリットはなさそうだから受けるけどさ。

 

 あくまでも仕 方 な く!


「はい、お引き受け致します」


「じゃあ、早速私と一緒に屋敷生活をしましょう! これから貴方とはそういう関係になるので。では、お父様! ショウタ様と屋敷生活を営む許可を!」


「えっ?」


「おおっ、そうかそうか。アンがそう言うなら許可を出そう!」


 娘も娘なら親は親もだったか……これから先がいよいよ心配になってきたぞ。

 

「ありがとうございます! お父様!」


 やばーい。アン王女と屋敷暮らしをしていたら間違いなく命の危機だ。

 ここは僅かながらの抵抗を図らなければ! じゃないと、もれなく料理とか料理とかで死ぬ!

 

「あの……もう一人付き添いとして、連れていきたい人が居るのですが」


「うむ。何なりと申せ」


 苦肉の策だが、これで不安な生活を乗り越えてやる!

 頼むから僕に付いてきてくれえ。


「身の回りの担当としてマリー・トワイライトをお願いします。僕達二人で屋敷の管理をするのも大変ですし」


「ほう、確かにアンだけでは少し頼りないかもしれんな。よし、マリーには二人の付き添いとして屋敷に向かえ……良いな?」


「はい。喜んでお受け致します」


「そ、そんなぁ」


 こうして僕達三人の先行きの見えない屋敷生活が始まる訳だけど……マリーが来た事には感謝しないといけない。

 ほぼ巻き込む形で連れてきたのだから。


「じゃあ、いよいよ開けるよ」


「はい♪」


 さぁ、外見を見た限りでは立派な屋敷だったけど肝心の中身はどうかな? いざ……拝見!

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