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エピソード33:知らぬ間に進む、次のシナリオ

 暗闇。上を見ても辺りを見回しても何も映らない景色の中で一人の男性が地面に横たわる。

 もう、幾ら経とうが起き上がれない身体。口だけは辛うじて動かせるという状況で覚悟を決めたのは死であった。

 この先に辿り着くのは部下をも失い、果てはアビスという利害の一致で結ばれた者が消える末路。

 世界を恐怖のどん底に貶めた罪は日の出を浴びる事なく禁固刑という形で幕を閉じる。 

 これまでの行いを考えれば、さも当然の報復。


「まだ……終われん。俺様にはやる事為す事、沢山あるのだ」


 意識はあれど身体は石のように動かない。首も動かない状況では自分が今どういう状態に立たされているのかも分からない。

 やはり、決めては最後に突然奈落の底に落ちてしまった衝撃。

 禁忌を使わなければ、底に落ちようが上手く着地していたであろうにとオウジャは今更ながらに嘆く。


「ふはっ、よもや幕は閉じたか。俺様の人生も呆気ない物よの」


 死を覚悟した時、ふと音が聞こえる。ツカツカとブーツのような音がこちらの方へ。

 首が動かないオウジャは誰が来たのかさえ分からない。ただただ、耳を立てるだけである。


「どうだった? 貴方の野望は?」


 人の姿は映らない。唯一分かるのは女性らしき声。戦意の欠片すら喪失したオウジャは黙々と口を開く。


「あぁ、失敗した。俺様の計画は無下に終わった」


「折角最初のボスとして貴方には色んな技を体得させてやったのに……随分と期待はずれね。まぁ、彼の意識が少しでも別方向に向いてくれたのなら結果は上々か」


 会話の中に含まれる技。あれは小さい頃から自ずと取得した技量であった筈。

 それを女はぬけぬけと体得させてやったとの主張。

 一瞬、何を血迷っているのか検討もつかない。技の全ては世界を統べる為に築き上げた物を他人から体得した覚えは一切ないのだから。


「世迷い言を」


「あら、疑っているの? 確かに体得させてやったと呟いた所で説得力には欠けるけど」


 首を曲げてでも確認せねば。しかし、意識とは裏腹に身体は全くピクリと動かない。

 女はそれを分かっていて、余裕な態度で接する。


「オウジャ・デッキ。2年前の誕生日に父のグラスの中に毒を混ぜて暗殺。それからは自身の野望を実現する為に兵力を増強。その際に力を高める目的で槍の扱いと剣の扱いを数年で極める。こうして、身体の全てが体得され計画が絶賛進行中の時に蒼剣の使い手と後世に伝えられるショウタ・カンナヅキと出会う。程なくして計画を最終段階に回した貴方は全力で振るうもショウタ・カンナヅキに敗北。そして、最後は完全なる奈落の底へ」


「何が言いたい?」


「これ、実は私が築いたシナリオなの」


「はっ。俺様の計画がお前の作ったシナリオ? 貴様、妄言を吐くのはそこまでにしろ」


「この世にある万物をも超えた存在となれ。手始めに、世界の頂点を極めて全てを従えるのだ。己の内なる心に従って」


「それは!?」


 国王になる前、何度も夢で聞こえた言葉。思えばオウジャは何者かの言葉に吸い込まれて計画を進めていく事にした。

 この言葉に嘘偽りがないと信じて……しかし、こうして女に聞かされた今思う事は一つ。


「異世界において、悪者が動くシナリオってどうにしても必要なの。だから、最初に貴方を利用した。そうした方が彼のモチベーションに繋がるから。ふふふっ、それだけの為に私は何度も何度も……決心するまで囁き続けた。私にはこの世界の表裏を見渡せる力があるからね。貴方の心はお見通しなのよ」


「認めん。認めん認めん認めん認めんぞぉぉ!!」


「悲観的ね。その絶望に染まった表情は何ともそそる。けど、このシナリオはまだ序の口なのよ。だから正直に言うと貴方は……」


 目に見える武器はなんと禍々しい剣か。あの蒼い剣と見比べて、形状が鋭く所々に赤い線が走っている。


「もう邪魔なの。次のシナリオに移す為にもさっさとあの世へ逝きなさい」


 身体はずたぼろに裂かれようとも女は容赦なく切り捨てる。どれだけの血が自分に振り掛かってこようがお構いなしに。


「はぁ。それにしても……やっぱり、あいつの正体を掴まない限りはシナリオが少しでも狂ってしまう。早めに息の根を止めてやらないと駄目ね」


 顔は叫ぶような表情でいて身体は赤にまみれた無惨な遺体を蹴飛ばして、用がなくなると女は出口を目指す。

 

「ふふっ、これから先が楽しみね……貴方は私のシナリオに沿っていく主人公。それを邪魔する存在は全て私が消さなくちゃ。でもでも、ヒロインの私は奥手でならねばならない。あんまり活発に攻めていると、攻略のやりがいが感じられないしね。けど待っていたら、あの目障りな女が積極的に動くから実に面倒ね……まっ、要らなくなったら捨てればいっか♪」


 スキップしながら立ち去る女の表情。それは、どこまでも冷たく薄ら笑いを浮かべる悲しき乙女。


※※※※


 敵はもう居ない。王座から戻ってきた僕が見えた光景は何もない玄関。

 あちこちに瓦礫が散乱していて塞がれている扉も多々あるけど、他に目ぼしい物は特にないけど玄関先で戦っていたマリーの姿が見当たらない。

 あの子は無事に脱出しているのだろうか? 無事で居てくれたら良いのだけど。


「下に行く道は」


 この城は地下に繋がる道があるのかな? くまなく探しているけど、それらしき箇所は……

 

「ん? あれは」


 隅っこの部屋。そこには誰かが通過した痕跡があった。


「誰か入ったのか?」


 瓦礫はどかされ、扉のあった箇所も剥き出し。僕は急がず騒がす落ち着きを払って降りていく。

 この下に繋がる螺旋の階段を一歩一歩踏み締めて。


「暗いなぁ」


 灯りらしき物は設置されていないがまだ辛うじてスマホの光が使える。

 現実世界の時に持ち込んでいた道具がこうして使えるのも非常に助かる。

 スマホのありがたみを改めて再確認しながら降りていく事で辿り着く光景。

 それは一本の道がただ真っ直ぐと伸びる道であり仕掛けのような物は現時点では確認出来ない。

 用途は脱出かな? 多分攻め込まれた時に王様だけが逃げれるように設置したのではないかと思う。 

 

 ただ、戦闘を楽しむオウジャ・デッキが地下から脱出する様子がどうしても浮かばない。  

 何て呑気に考えてながら歩いている最中に見える異様な景色があった。

 天井に穴が開いていて、その下にある一人の人物が。


「あ、あれは!」


 ここにオウジャが居たのか! まだ、息があるとは思えないけどしぶとく生きているかも!

 急いで駆け寄り、安否を確認……どころではない。

 もう、彼はとっくの前に。


「し、死んでいる」


 だが明らかに落ちた衝撃による死ではない。

 真正面は誰かに刺されたような跡や切り裂かれた跡が目立っていて、出血量も酷い。

 これは他殺か。一体誰がこんな酷い真似をしたんだ? 

 幾らなんでも、犯人はやり過ぎだぞ。


「何ヵ所か切り裂かれた跡がある。なんて惨い事を」


 僕が駆け寄る前に殺されていたとなると犯人は事前に付近で待機していた。

 もう、殺されしまったから犯人を探そうにも手遅れか。

 

「結局罪を償わずして死ぬのか。貴方は一体誰に殺されたんですか!!」


 死体に喋った所で答える訳もなく、虚しく自分の声が響くだけ。

 

「馬鹿でけえ声を出していたら敵に見つかるぜ。とは言え、敵なんざほぼほぼ消えてたがな」


「こ、これは」


 後から追いついてきたマリーとザット。死体を冷静に観察するザットとは対照的にひきつった様子で僕の後ろに回るマリー。

 あの世界征服を企む王様は死体となって息耐えた。結果的に考えれば、これでこの国はある意味救われたという訳だ。

 ただ償うべき罪が死で閉ざされてしまう事を考えると何とも報われない結果に終わった。


「オウジャ・デッキの死亡を確認。こんなに切り刻んだのはお前か?」


「いや。僕はここまでやっていない」


「そうか、だったらイクモ団長には事件性が極めて高いと伝えておく。調査を進める内に見えてくる物もあるかもしれねえし」


「貴方のやった事は歴史に刻まれる。あの暴君を倒した聖なる騎士と。だから、もっと誇りに思いなさい」


 このやる切れない気持ちはどこへ向かう? 無事に五体満足で終わったとしても……こうも、望まない方向で終わってしまうなんて。

 心は満足に終われなかった。だが、歴史は止まらない。オウジャ・デッキの死亡が確認された戦場で残るのはモンスターの無惨な遺体とそれでも抗う兵士。

 状況が落ち着いていた時に治安団から窺ってみると君主が亡くなった頃には最初にあった威勢は嘘のように消滅していたらしい。

 それから数分も経たずにサレンダーをした兵士もちらほらと出てきたとなんとか。

 君主が死んだ国オウジャは名前を代えて、今は戦争を起こさず、兵器を作らずとオウジャ・デッキに起きてしまった過ちを反省して穏やかな国を築き上げているらしい。

 

 そして、オウジャを結果的に倒した僕はと言うと……歴史の名前に残された騎士となった。

 あっ、いや目立ちたくないのに残ってしまったのか。


「おめでとう。君はあの世界征服を企む傲慢王オウジャ・デッキを成敗した勇敢なる青年とし、ショウタ・カンナヅキを今日を持って蒼の騎士たる称号を与えん。これからもゲネシス王国の発展に益々貢献するように」


 あちゃー、何か兵士の立場でもない僕がいきなり昇格しちゃったよ。

 何だがどんどんややこしい事になってきた。


「おめでとうございます、ショウタ様! 私は貴方様が昇格されて大変嬉しいです!」


「ははははっ。あ、ありがとう」


「ショウタ。もっと心の底から笑いなさい、何か今凄く不自然よ」


「あれ? そう見えちゃう?」


「えぇ。とっても」


 蒼の騎士。偉大なる称号を掲げて、僕は城の外から観客を一望。

 観客の殆どが盛大な拍手で歓迎している。


「ふぅ……何かえらい事になってしまったな」


 朝日に照らされた蒼剣を天に捧げて、誓う。ゲネシス王国の発展を願う蒼の騎士となって。

 例え、始まりが滅茶苦茶で今もこうなっているのが不思議でならないとしても……皆の期待に応えるのが僕なんだ。

 

「おぉぉぉぉ!」


 ……ん? 気のせいか? 何だか、さっきまで背筋に酷い悪寒が。

 いやいや、後ろを振り向いても敵なんてどこにも居ないんだ。

 あんまり馬鹿な事を考えるのは止めよう。





























「そうそう、その調子よ。もっと……これからも期待通りに動いてね? ふふっ♪」

 序章に位置する起点の章はこれにて完です。皆様ここまでお読み頂き誠にありがとうございます。

 引き続き次の章を閲覧して頂ければ作者としては嬉しい限りです。

 では、挨拶はこのくらいにして……本題としてはこの小説を作った理由と小ネタ紹介です。

前者に関してはまず異世界で物語を作りたいと前々から願っていたのと実際に作成する際に頭の中で完結が出来そうな題材として作る必要がありました。

 この時点で普通に冒険ファンタジー的な何かを作るのもありでしたが、それでは作者的に終わりのイメージが頭の中に浮かばなかったので趣向を変えて現在の形に落とし込みました。

 しかし、現実世界が出張るのも少々考え物なので若干修正してやや異世界を多目に出しているのが現状です。

 

 最後に後者の小ネタ紹介。


 主人公である神無月翔大の神無月は10月という意味合いになっておりまして、こちらは私の生まれ月を関連して以上のように名付けました。

 またオウジャ・デッキは物語の始まりとしてスケールが大きく、印象を根深くしておきたいのが理由でわざと態度とかうざくしてます(笑)

 因みに分かる方には分かりますが彼の名前の元ネタは仮面ライダー龍騎の王蛇です。

 デッキはカードデッキから許可なく取ってます……許してorz

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