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エピソード31:抗って、抗って

「いつまで追い掛けごっこをするつもりだ?」


 オウジャの槍はどう動くか捉えるのは先読みの力で可能だ。しかし、ここで問題が発生する。

 それは宙に浮いている槍の方ではなくオウジャが構える剣の動きが読めなくなってしまう。

 つまりはどちらかに先読みの能力を使用すると、がら空きになった方に漬け込まれてしまう訳だ。

 これが相手の動きを先回りして逆にチャンスを作れる先読みの思わぬ弱点と言っても良い。


「この部屋の中でどのように動こうが槍の矛先からは逃れられぬ。ついでに俺様の奇襲にもな!」


 能力はほぼほぼ封じられているような物。しかも相手はよりにもよって後には引けない最重要人物。

 下の階では今も懸命にマリーが戦っている事も考えるとおちおちと逃げ続けてはいけない。

 何処かで叩き出すチャンスを作れれば!


「どうした? 口が一向に開かないではないか! まさか、この俺様の実力に震えたか!」


 いつまでも調子に乗らせてはいけない。こっちから、攻め込んでいかないと! 

 守りの体勢を崩して攻めの体勢へと移行。その際にオウジャは得物である剣を自在に振るう。


「お前を倒せば、世界は俺様の物となり……やがて中心に君臨する。この大陸の絶対なる存在として」


「そうまでして世界を滅ぼす貴方は実に自己中だ。皆の事を考えずに、自分だけが求めるなど国王と名乗る資格もない!」


「国王とは全ての民に怯えられ、恐怖の象徴。俺様の力に貢献しない者は全員理想の為の生け贄に相応しい!」


 先読みが写す視界。そこから先に仕掛けていけば有利な位置が取れるのに後方で舞う槍が妨害をする。

 それだけで手先が狂ってしまう。もう少しで良い線に辿り着くのに。


「俺様は世界の全てを統率するという偉大な野望がある。だが、対してお前は何の為に来た? まさか、報酬を受け取らずして剣を振るっているのか?」


「いいや、お前のような悪の塊を滅ぼす為にここに来た。報酬なんてなんのそのさ」


 求める物はない。ただ、僕は皆を困らせる元凶を沈める。それが一時の平和をもたらしたとしても。


「自分が満足すればそれで良いと? ふっ、随分と吹っ切れた心構えだ」


 剣の乱舞は先読みですら厳しくなってくる。ついでに降り掛かる槍の奇襲も。

 そろそろ瞳の方に痛みが走ってきた。これ以上能力に頼りきると身体に異常が起きかねない。

 ここからはど素人の僕が国王に挑む図になる。さぁ、どのくらいの確率で勝てるかな?

 正直、自信がないんだけど弱音ばかり吐いている訳にはいかないか!


「背中は金色の槍。そして真正面には誇り高い俺様の剣戟。黄金色に染められた屈強な肉体に誰も敵う者はいない! ふははははっ!」


 完全に自分を誇っている。ここまで清々しいと逆に呆れを通り越して、無になる。


「あんまり自惚れていると、痛い目に遭いますよ!」


「ふんっ。それはどうだか……な!」


 互いにぶつかる剣と剣。力の押し具合で分かる殺意に飲み込まれないように足で踏ん張る。

 それでも、力に押されてじりじりと下がる僕は唇を噛み締めて大きく振り上げる。

 蒼剣は呼応に応えるかのように力を増していく。次に追い上げるようとした時の身体能力は異常な程に早くなる。

 通常ではあり得ない速度で一気に振り上げられたオウジャに急接近した僕が次に移した行動はとにかく弱らせる事。

 唖然とした表情を浮かべるオウジャへ素早く振り下ろした剣は見事なまでに直撃して身体ごと着地した床と一緒に流れていく。

 先程までとは変わって表情に余裕がない。


「くそがっ。何故お前のその蒼剣は尋常になく強いのだ!?」


「さあね。初めて出会った頃から、こんな調子さ。因みに先程までの動きは自分も初めての経験だったりする」


 恐らく、考えられる原因は現実にある蒼天神村雲とこちらの異世界で存在する蒼剣が互いに邂逅した結果にあるのだろう。

 だから、次に使う時は僕の身体能力が異常なまで進化した。蒼剣に隠されていた力を引き出す事により。


「物はついで……お前を殺して、その蒼剣を頂くとしよう! 金色の槍とのコレクションにもなるしな!」


 言葉よりも身体が先に動く。横払いを仕掛けるもオウジャもそれとなく反応。

 さっきから動いても動いても、全く進展のない平行線か。


「往生際の悪さは世界一か。ふははっ、お前を俺様を心から笑わせてくれるな!」


「こんな事をして何になるんだ! どうせ貴方の叶える計画が仮に成功したとしても、その先に待つのは幸せを奪われた国民の反逆だぞ」


「例え、そうだったとしたら俺様が力ずくで分からせてやる。どれだけ、懲りずに抗おうが何度も何度も国王である俺様が直々に制裁を下してやるさ! だから……お前は何も心配する事はない。俺様の待つ理想が未来永劫栄える事を願って朽ちていくが良い!」


「誰が朽ちるか!」 


 その前に貴方を倒せば、この理不尽な戦いも終了するんだ。

 

 こんな所でへばっていられるかよ!


「貴方の野望は潰す。この世界を放浪しているショウタ・カンナヅキが!」


「威勢だけは良し。後は態度で示して貰うとしようか!」


 語り合う事は終わった。無駄話を打ち切った僕とオウジャがやる事は戦闘という、もっともシンプルで分かりやすい様式。

 どちらが勝つまで撤退する事は愚か敗北宣言であるサレンダーも当然の如く使えない。

 何度も何度も何度も振り下ろす剣に対して防御の姿勢を取りながら、反撃の手も緩めないオウジャ。

 攻防の繰り返しが幾重にも重なり、最後の最後にどうしても決まらないのが更に苛立たせる。

 やはり槍が邪魔をしてくれる。こいつから先に片付けてしまおうか。

 そう決めた時には足が自在にゆらゆらと舞っている槍の方へ。

 一方のオウジャは何かに勘づいたのか、追い掛けてきた。

 邪魔をされる前に潰しておかねば!


「そこだぁぁ!」


 気合いを入れた一撃が意思を宿す槍にダイレクトに当たる。その一撃は確かに槍の棒状の部分にひびを入れた。

 そうして、ひびは徐々に広がって粉砕する。

 あいつの動きは人間の僕からしてみれば到底予測出来ない動きだったとしても先読みの力をフルに使えば才覚は発揮する。

 迅速な動きで消沈した槍はピクリとも動かない。

 これで余裕綽々のオウジャに息を吹かせられた。

 よし、ここで一気に叩き込む。


「貰ったぁぁ!」


「おのれ! ちょこざいな!」


 流れるような速度で振り切って、がら空きになっている左腕に一撃。

 溢れ出す血は床にへばりつき、オウジャは激痛のあまり唇を噛み締める。

 それでいて反撃をする姿は実に往生際が悪いと言えよう。

 

「このぉぉぉ!」


「世界の頂点に登り詰めるまではただでは死なん!」


 火花は床に溢れていく。一線をも引かぬ激戦にて僕とオウジャは互いに武器を振るう。

 その最中に相手は人間の動きを逸脱した速さで迫り来る。僕は激痛と戦いながら先読みで動きを見計らう。

 だが、いい加減にしておかないと目に負担が大き過ぎて手元が狂ってしまう。

 便利な能力もいつかは限界を迎えるのではと内心思っていたけど、それが今に至るなんて。

 

「俺様の動きを見破る力も限界を迎えたか。これで勝ちは貰ったも同然。では……お前を存分に解体して、アグニカ大陸を平定する準備を進めるとしようか」


 僕の瞳の力は実質消えた。これに気付いたオウジャは勝ち誇った表情で槍を両手に持ち直す。

 しばらくの間、両目を閉じて息を整えるとふとした瞬間に両目を見開ける。

 赤いカーペットを蹴っ飛ばして縮まる距離。その時の僕は何故か平然と居られた。

 何故かって? それはこの剣が画していた力を証明してくるからさ。


「……今だ!!」


 タイミングを合わせて、振り下ろす蒼剣。悪しき王様を滅するという想いは更に蒼剣の力に伝わって、更なる輝きを増していく上に力も向上。

 消し炭にされそうになったオウジャは武器を守りの体勢を崩して床に膝をつく。


「ぐはっ!この短期間でそれほどの強さになるとは……いやはや、畏れ入ったぞ」


「まだ死なないか」


「王様はそう簡単に死なん。特に俺様はな!」


 膝が床に付こうが、息を切らそうがまだ立ち上がるオウジャは実に諦めを知らない。

 そんな自分勝手な国王が次に移した行動。それは僕に見せつけるように掲げた左手の甲にある不思議な紋章。

 

「ふふふっ」


 不敵な笑いが焦りを募る。オウジャは一体何を仕出かすつもりだ? 

 何を仕出かすつもりか知らないけど、早急に止めよう!


「これを使うつもりは一切無かったが……状況を変えるには!」


 距離が再び狭まった時には既に遅し。オウジャの周辺に謎の光が壁となって弾かれる。

 

「俺様は生まれた瞬間から王になるべくして育てられ、そして万物の頂点に達する存在として手始めにあらゆる生物をも踏み越える。その為には、この禁忌もやむを得まい」


 床が激しく揺れ出した!? 気をしっかりしておかないと足元をすくわれそうだ。

 うぐぐっ、この揺れは辛い。


「何が起ころうとしている!?」


「計画の邪魔をする蒼剣の使い手には究極の力で分からせてやるとしよう。俺様がどういう存在であり、どれだけの力を隠し持っているかと言う事を!」


 揺れが少し収まり、光の壁が消失していく内に信じられない光景が目に映った。

 それは、この世にあるとは思えない人間とは思えぬ巨大な物体。


「さぁ、準備は整った! この強大なる力でお前の剣を含めて全てを壊してやろう! 俺様の粋な計らいに感謝して死んでいけぇぇぇ!」


 とうとう人間の姿を捨て去ってまで、僕を消し炭にしようと動いたか。

 あの不思議な紋章を媒介にして完成された力は人間の容姿とは異なる姿で真正面に立ちはだかっている。

 足元は数多の金色の蛇がぐちゃぐちゃに混ざるようにして蠢き、元ある金色の鎧は溶かれて裸のままで蛇が首元まで巻き付くようにしている。

 とにかく外見からして歪だ。慎重に対処しないと大怪我を負いかねないぞ。

 

「死ぬつもりはありません。僕にはやる事一杯ありますので」


 こっちの世界もあっちの世界も。どっちも大切にしたい。

 現実の世界ではあの出来事の影響でさいなまれながら生きていてもなお。


「まずは貴方を破壊して、この国に平和を取り戻します。自分だけしか考えていない者に国王は務まらないので!」


「知ったような口を開くな! ただ戦場を駆け抜ける奴に国王の立場が分かる物か!」


「少なくとも自分が満足するように進めている国王に言われても説得力に欠けますが?」


「黙れぇぇぇぇ!」


 じゃあ、最後の戦を始めるとしますか! 僕なりの抵抗って奴を見せてやりますよ!

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