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エピソード28:帰るよ。あっちへ!

「到着だ。皆、降りてくれ」


 加藤さんの協力あって、二時間で到着した。電車とかバスとかを使えば大分時間を食わされていたから、これは実にありがたい。


「へぇ、随分大きい神社だな」


「ここが蒼剣をモデルにしたとされる……蒼天神村雲が奉られている場所か」


 あとは神社に奉納されている蒼天神村雲を手に取る段階にきているが、そう簡単に上手く運ぶとは思えない。

 なにしろ祠は厳重にされているらしく、神宮家の属する一部の方のみが立ち入り出来る場所。

 無断で入っている所を見られれば、間違いなく警察に引き渡される。

 まだ、この年齢で警察の世話になる訳にはいかない。ここは正々堂々と祠の中に入れるように話を持っていくしかないだろう。


「じゃあ、行くとしますか」


 神社の鳥居を潜り抜け、長い石段を一歩一歩地道に歩く。これはこれで結構身体に堪える。

 僕はゆっくりしたペースで行っているけど、石段を一歩飛ばして颯爽と駆け抜けようとする明は途中でくたびれたのか完全に足が止まっている。

 

「やべっ、飛ばし過ぎた」


「ここから先も石段が続いている。余り飛ばし過ぎると痛い目に合うから、慎重にな」


「はーい」


 神宮神社は思っていたよりも広かったようだ。希って意外と凄い家系に生まれたのか。

 神社の子供と言ってくれないから、全く分からなかったよ。言動から態度から何まで普通の女の子だったし。

 いや……僕から見たらそう見えるだけで、普段の人からしたら話を掛けれるようなオーラを寄せ付ける事なく自分が許した者以外は口を開こうとしないミステリアスな女の子か。


「なんか静かですね」


「この時間に参拝客は早々来ないだろう。まぁ、人が居るよりはマシだな」


「ぐはぁ。まだ続くのかよ、おい!」


 長い石段を2回突破する先に見える参道。そこを真っ直ぐ歩けば本殿が見える。

 ここでは祠がどこにあるかはっきりと分からない。祠はもっと奥にあるか、それとも意外と身近な場所に隠されているのか……いずれにせよ、しっかり探してみないと。


「一回お参りしような」


「折角来たのなら、そうした方が良い。だがその前にやるべき事がある」


 加藤さんが手を清め出したので後に続く形で明も真似をしている。

 

「お前も参拝しようぜ」


 結構だ。僕には参拝をする事より優先すべき事がある。参拝をしている加藤さんと明は一度無視するようにして周辺を散策。

 幾つかの周辺には何人か神主に雇われている巫女さんが昔ながらの箒で地面に散らばっている木の葉をかき集めているのを発見した。

 時間帯は15時半。この時間だと巫女は掃除に勤しむらしい。

 

「何かご用でしょうか?」


 立ち止まっていたせいで目をつけられてしまった。ここは試しに祠がどこにあるのか聞いてみようか。

 神社で働いている人達なら誰でも知っているかもしれない。


「すいません。実は蒼天神村雲が奉られている祠を探しているのですが、どこか心当たりはありますでしょうか?」


「い、いえ。そのような物も知りませんし祠なども耳にした事がありません」


「そうですか」


「これから用事があるので失礼します」


 逃げるようにして立ち去った。あのおどおどしい反応は黒と見るべきだな。

 となると……祠は確かに存在していて、きちんと探せば発見は可能か。

 しかし、まずは力ずくで探すよりも神主から直接祠の在処を伺った上で入れるようした方が都合が良い。

 最悪の場合は考えないようにしたいけど、なるべく穏便に済ませるんだ。

 この作戦にはあの蒼剣と蒼天神村雲の繋がりを立証するという大事な役割がある。

 もし、それが立証されたとなれば。


「希、君は」


 あくまでも、あくまでもだ。これが成り立てば、僕の行き来している世界の正体は希が創造した世界? になるはず。

 いや、それは偶々という可能性もあるから鵜呑みにするのは禁物だけど。

 

「この時間に神主が居れば良いけど」


 アポは取っていないから、もしかしたら帰宅しているかもしれない。 

 

 これは一か八かの賭けになる。

 

 ひとまず祠探しを中断して本殿に戻ると本殿の場所で何やら誰かと話し込んでいる加藤さんをお見掛けした。

 明は欠伸を上げて、どうでも良さそうな表情でお空を眺めている。

 

「久しいな。まさかお前から直接此処に来ようとは」


「お久しぶりです、お父さん」


 お父さんと呼ばれている相手は巫女とは違うようなそれでいて同じような服を着こなしている。

 一言で言い表せば神秘的な格好で普段の生活には取り入れないような服装だと言って良い。

 それにしても、今さっき加藤さんは相手の男性に向かってお父さんと呼んでいたな。

 親子だとしたら、どうにも他人行儀のような気がするしこれはもしかすると希の母さんの父と判断するのが正解か。


「うむ、元気そうで何よりだ……今日はそこの二人を引き連れて参拝か? いや……それとも何かを嗅ぎ回っているのかのう。特に後ろで様子を見ている君は」


 うげっ! 気配を悟られないように隠れていたのにあっという間に見つかってしまった。

 さすがは大きな神社の運営を担う神主の力と言った所か。敵に回したら実に厄介この上ない。


「見られていましたか」


「私を欺くのは20年早い。己の未熟さを知れ」


「ぐっ」


「時に君はどのような用件で参られた?」


 明らかに疑った表情で見ている。ここは正直に答えるか。


「蒼天神村雲が祠の中にあるとの情報を加藤さんから聞いて、この神社に来ました。僕としては貴方から祠の中に入る許可を頂きたいのです。どうしても」


「理由を聞こうか」


「到底信じられないとは思いますが、僕がこの日本に居る最中に見たことのないのような世界。つまりは魔法や剣などを頻繁に使う異世界に立っている時があるのです。そして、その世界を巡っている時に入手した蒼剣。それが加藤さんから聞いた蒼天神村雲を希が蒼剣としてモデルにしていたという情報を伺いました。もし、これに明確な繋がりがあるとなれば蒼天神村雲を一度でも直接この目で確認しておきたいのです」


「話を聞いた限り、君の自己満足にしか聞こえん」


 くっ、バッサリと切り捨ててくれる。こんな場所で折れて堪る物か!


「あの世界で僕は蒼剣の唐突な光を見たんです。あれが何かの共鳴だとすれば、触れない手はない!」


「祠の立ち入りは原則神宮家の中でも一部の者のみが許される神聖な場所。そこに君を入れさせる訳にはいくまい。どんな虚言を並べても」


「虚言ではありません! 全て真実です!」


「孫娘を会話の中に出せば、入れるとでも思ったか! 何と浅はかか。全く持って話にならんな」


 頑固爺が! どうにかして入りたいのに、ここで邪魔をされるなんて! 

 このままでは話が一方通行になってしまう。

 出直して、何度か説得するか考えたくはないけど最悪無理矢理にでも立ち入ってーー

 

「お父さん。私が仕事で生活は愚か希をも蔑ろにしていた時に一番寄り添ってくれたのは彼、神無月翔大君です。そこの明君も同様に……」


「神無月だと?」


「えぇ、希は幼少期の頃から四六時中彼の事を気に掛けていました。例えば……彼はこの時間帯に何を食べて何を考えているのだろうとか、困らせた時に浮かべる表情がクセになるとか」


「はっ?」


「何を言っているのだ、晴彦よ」


「うわぁ、さすが希。考えている事が常人通り越してやべえ」


 だからあんな困らせるように話を持ってきていたのか。幼少期から小学校の時までちょっかいを掛けられていたからなぁ。

 中学の頃は少し収まったとはいえ……にしても希の性癖がやば過ぎる。


「あの時は仕事がやや落ち着いていたので、夜の時は一緒に生活出来ましたが……独り言のように聞かされていた私は当時堪った物ではありませんでしたね。勿論話の対象にされている神無月翔大君については可哀想な子だと思っていたと同時に随分と気に入られた子だと思いました。希は積極的に人と関わろうとする性格ではありませんから。だから、今回はその希が許した翔大君を特別に祠の中へ立ち入らせては頂けないでしょうか? 説得にしては少々弱いかもしれませんが」


「俺からも翔大の友人としてお願いします」


「うーむ」


 僕も頭を下げた。それはそれはもうこれ以上ない程に。しばらくの間、神主であろう御方は唸り声を上げて答えを口にしなかった。

 しかし、三人が頭を下げている光景とさっきの説得が通じたのか遂に心が折れた時は溜め息を深くついていた。


「分かった。今回はあくまでも特別に孫娘の相手をしてくれた君を祠の中へ連れて行こう。これで異存はないかの?」


「はい! ありがとうございます!!」


「はぁ~」


 気苦労が堪えないだろうが、神主さんを協力まで漕ぎ着ける事に成功した! 

 これにて目的の一つは達成。あとは蒼天神村雲をこの目で拝むのみ!


「加藤さん、明。二人ともありがとう!!」


「言っておくが、持ち出しは堅く禁じる。少しでも妙な真似をすれば君の命はないと思え」


 若干脅迫のようなメッセージを受け取り、僕と神主だけで祠の中へと入る事に。

 入り口は本殿からやや離れた神主専用の屋敷の後ろにある場所でまず入るには鍵がないと難しい。


「それにしても……このような日が訪れようとはな。孫娘も大概私を困らせてくれたが、君は同等いやそれ以上の厄介を運んでくる男じゃの」


「うっ、何かすいません」


 ぶつぶつと文句を言っている。これは相当怒りが溜まっているようです。


「だが、うーむ。あの希がなついたのであればそれはそれで珍しいと言えるかの」


「そんなに彼女は人見知りが激しいのですか? 少なくとも僕達の時ははっきりと物を正す女の子の印象があるのですが」


「一言口にすれば、やれ自分は世界を1から作り出す事が可能だの神のお告げが聞こえるなど明らかに飛び抜けた発言が多かった。生前私の娘も不思議な言動で反応に困った時があったが、孫娘はそれ以上で手をつけられなかったのう」


 お祖父ちゃんすら困らせていたのか。誰に対しても容赦がないな、希。


「はぁ、そんな孫娘が突然亡くなったと知った時どれだけ涙を流したか。せめて……せめて、あの日に巫女の装束を無理矢理にでも着させたらこれ以上の幸せはなかったと言う物を!」


 巫女の装束を着せられなかった事に後悔か。うーん、今の発言って明らかに自分の願望だよね?


「あの?」


「なんじゃ!!」


「い、いえ何もございません!」


 深追いは危険だ。ここから先は黙って付いていこう。ただでさえ印象が悪いのに余計な追求をすれば思わぬ報復を食らいかねないし。


「ん? よしよし、見えてきたぞ。ここの水溜まりの足場を上手く飛ばして行けば蒼天神村雲は目の前じゃ」


「いよいよか」


「蒼天神村雲は神宮家に古来から伝わる悪しき闇を断ちきる光の宝具。君が異世界に行き来する事という発言は到底信じらぬ物ではないが、晴彦の説得と君の友達の願いに準じて許されていく事を肝に命じておけ」


 闇を断ちきる光の宝具。足場を慎重に掻い潜り、刀が置かれた仏壇から僕は恐る恐る取り出す。

 見た目は本当にただの刀。だが実際に片手で持ってみると肩が妙に重い。

 これ上手く引き抜けるのかな? 錆びてたら全然取れないぞ。


「……でも、こんな場所で立ち止まる訳にはいかない」


 ここで踏み止まるのはなしだ。進め……壁にぶつかってもなお進め!


「うおぉぉぉ!」


 鞘を片手で固定しながら、もう片方の手で引き抜いた刀身は目映く発光する。

 それはライトのように真っ白な光で。


「なっ、なんじゃあ!?」


「こ、これは!?」


 僕の視界に見えるは現実世界の剣……それと宙に浮いた異世界の剣。

 それらが互いに反応して重なりあう光景は僕にしか見えないのだろうか。

 後ろに立っている神主に振り返っても、特に反応がないとなれば。


「剣が融合したのか」


 確かに融合したそれは蒼天神村雲のままで別段変わってはいない。

 

「なんだったのだ……今のは」


 摩訶不思議な光景だった。これは現実では解析出来ない現象だろう。

 ともあれ、これにて異世界の蒼剣と現実世界の蒼天神村雲には繋がりがあると立証された。

 

「あの世界は、希と何か関係があるのか?」


 疑問がまた一つ増えた時、不意に視界は消え失せる。もはや、慣れきってしまった光景だ。

 次に見える景色は戦場のど真ん中。

 異世界に戻る覚悟なんて鼻から出来ていたのさ。


    さぁ、帰るよ……あっちへ!

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