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エピソード26:この感覚は既に慣れていた物

 雲に隠れた太陽は落ち、変わりに広がるは闇の空。この日を持って、まさに今大きな戦いが火蓋を切ろうとしている。

 ゲネシス王国とスクラッシュ王国の二か国が手を取り合う中で治安団と戦力については全く問題ないと言えるが果たして相手はどう迎え撃つのか? 

 僕の心臓はドキドキと鳴り響いていて落ち着かない。


「距離……まあまあ。こっちが出向けば相手も撃ってくるかもしれやせん。俺達はそんな距離に居ます」


 望遠鏡のような物を用いて敵地の様子を遠くから見守るザット。

 誰もが皆緊張に包まれる中で意気揚々としているのは治安団を率いるイクモ団長ただ一人。

 やはり彼はこういった戦場に場馴れしているのだろう。人一倍落ち着きを払っている。


「さぁ、世界の明日が変わる大戦争の時間だ。この戦場に居る以上手を抜かずにやってもらうから覚悟しな」


「へっ、スパルタ方式ですか。今更流行りませんよ」


「違えよ、やるからには必死になってやれって事だ。じゃあねえと余計な死人が出る。無駄死になんて勘弁願いたいからな」


「この作戦。幾ら戦力に置いてはこちらに秀でているとは言え、油断は出来ません。相手の出方次第ではこちらに被害を被る可能性も捨てきれませんし」


「後ろは向くな。こうなった以上は全力投球でぶつかれ! 大丈夫、ザットと古くから付き合いのあるお前ならやれん事はないさ! と言う訳で期待させて貰うぜ、ライアン隊長!」

 

「ははっ、そこまで言われたら退くに退けないですね」


 ライアン・ホープが防衛したスクラッシュ王国の領内に置けるブレインは辛くも侵略は防いだ。

 しかし、被害は想定を越える物であり成果を併せてもそれほど見合った物ではないと言う。

 だからこそライアンは部下を失った重さから、今回の作戦に後ろめたさを感じている。

 そこはザットとイクモ団長が繋ぎ止めているお陰でどうにか復帰を果たしたらしい。

 こうして後ろから眺めていたら、本当に仲の良い親子に見えてしまうのは……きっと気のせいではないのだろう。

 彼等は僕が知らない所で強い絆に結ばれているのかも。


「奥に見えるは無数の軍勢。私の視力ではモンスターも確認している」


「それは……つまり」


 あいつも城内で待機しているのか。となるとオウジャを討ち取る前に立ちはだかるのは避けられない。

 可能な限り、迅速な対応で終わらせておきたい所だけど。やはり、貴方は僕達の行く手を阻むか。


「でも大丈夫。格好良い上に強い力を持つショウタなら必ず勝利を持ち帰るって信じてる。私は貴方の邪魔をする者達を全て薙ぎ倒してみせる! 今まで小さい頃から培ってきたこの魔法に力を込めて!」


 マリーのやる気は充分だ。ここまで言われたからには全力でやってやろう。

 随分と過度な期待をされているのが少し荷が重い気がしてならないけど。

 て言うか……格好良いって言われたらこそばゆくなるから止めて頂きたい。何か恥ずかしい。


「ちょっとちょっと、顔が赤いよ? 体調でも崩した?」


「いいや、全く問題ない! この、決戦どうにか頑張ろう!」


「あっ、うん。余り無理したら駄目よ?」


 よしよし、どうにか悟られずに済んでいる筈だ。ここは誤魔化しで終らせる!


「たくっ、お前達は気が緩み過ぎだな」


「ディスパイヤーさん」


「何か、名字で呼ばれると気持ち悪いな。これから会う機会があったらザット副団長って呼べ。そっちの方がまだましだし」


「そうですか。じゃあ、次からそっちの名前で呼びます。ザットさんって」


「はっ? おいおい……副団長は付けろや、せめて」


「じゃあ、もうザットで」


「敬う事を知らねえのかよ、てめえは」


 治安団に所属してもいないのに副団長呼びは明らかにおかしいと思う。

 今後会う事があったら、こっちの方が良いしザットはどっちかと言うと副団長のオーラをまるで感じない。

 良くて、そこらのチンピラの中で勢いのある団員って感じがする。


「全員、こちらに注目」


 戦場にいながらも呑気に語らう周辺。武器を構えたり、準備をしたりと多種多様の兵士が居る状況にてイクモ団長の一声で雰囲気が一気に静まり返った。


「ごほん。それでは本日半月の夜が照らされた真夜中にてゲネシス王国並びにスクラッシュ王国の一任で任された治安団の力も用いて悪の限りを尽くすオウジャ王国に鉄槌の裁きを下す。私は今宵双方の国の指揮権も一時的に委譲された代理の指揮官も兼ねているが、最終的に連携が取れないと判断された場合は各国の指揮官に委ね最悪の場合は個々の判断で動いて貰う事とする。私から言いたい事は他にはない……しかし、敢えて言うとなれば全員無事に帰投! 人一人の命でさえもそいつには家族、或いは恋人も居るかもしれない。そんな状況下で命を落とせば、お前以外の人が悲しむ事だって有り得る。だからこそ、どんな時でも決して死ぬんじゃねえよと残しておく。俺から事前に伝える言葉は本当に以上……後は前日に伝えた概要を主に進めてくれ。勿論、想定外の事態になったら枠に捕らわれないで臨機応変な対応を宜しく」


 これが組織を束ねる団長の実力か。あのおおらかな雰囲気から一変して随分と変わる物だ。

 現場の空気も一気に変わるのが、それを物語っている。


「では手始めに俺とザットとライアンそれと……白の可愛い子ちゃんとショウタ君で猪の如く突進だ! じゃあ、頼んだぞ」


「えっ、私もですか?」


 マリーは自分が前方に出る事に驚いていた。それもその筈、そんな陣形なるなんてイクモ団長から一言も聞かされていないから。

 本当にやる事が唐突過ぎますよイクモ団長!


「君の魔力はゲネシス王国では優秀であると聞いている。となれば、この力を使わない手はない。マリー・トワイライトには彼等と共に前衛の敵を露払いする役を一任したい。勿論その他の奴等は俺達で対処する手筈で道を開ける……さーて、ここまで言ったんだ。無論出来るよな?」


 断る機会は与えないか。ここまで説得されたら承るしかなくなる。


「はい、やってみせます。この戦場に居る以上女として振る舞うのは足手まといに繋がりますし……それに、何よりショウタの役に立ちたいので」


「ひゅー。熱いね」


 口笛を鳴らして僕にニヤニヤするのは即刻止めて下さい、お願いします!


「では参りましょうか?」


「もたもたしていたら相手の方に動きがあるかもしれやせんぜ?」


「はいはい。それじゃあ、気付かれる前に初手を打ち込むとしますか! ゲネシス王国とスクラッシュ王国は各部隊の隊長の命令に基づいて……いざ、出発!!」


 元気な声が大きく届いた時、僕は土の断層をまるで滑り台のようにして華麗に滑っていく。

 続いていくように後の部隊が続いていくと、暗闇に溶け込む一点に忍ぶ何人かの兵士。

 馬のリードをどうにかこうにか引っ張りながら部隊を連れていくのは新鮮だった。


「敵だ! 撃ち殺せ!!」


 さすがは戦闘兵。暗闇でも視力は遥か遠くの影を捉えるか!


「もう気づいたのか!」


「このままの速度を維持しろ。死にたくなけりゃあ!」


 前方の敵が進むと操り人形にされているモンスターも続いて進む。

 僕は馬を走らせながら蒼剣を呼び起こし、横払いをしようと振りかざしたまさにこの瞬間。


「うっ!」


 視界はぐにゃりと変わった。これはまさか……あのパターン!!

 なんだって、こんな大事な場面でぇぇぇ!


「危ねえだろうがぁぁ、横にふらっと出るんじゃねえ!」


「す、すいません」


 あっちの世界に集中し過ぎた結果、こちらの世界では足元が疎かになっていたようだ。

 気が抜けた瞬間に横に流れて車道に入ったから、危うくトラックに轢かれそうになった。


 はぁ……それにしたって、怒鳴るのは大人げないだろうに。


    《異世界》→→→→→《現実》


「今の時間は」


 スマホの電源は異世界と同じく入っている。こちらでは電波が通っているので、時間の流れは至って正常。

 2月23日の10時半過ぎ。あっちの世界では真夜中の状態だったのに、こちらの世界ではお昼も過ぎていない。


 もはや異世界と現実を常に行き来している僕からすれば、不意打ちで帰還する以外はもう慣れてきてしまった光景。

 こちらの世界に一時的に帰還を果たした神無月翔大が取るべき行動は一つ。


 それは今となってはトラウマの種としてある交差点で失った神宮希の墓参り。

 たとえ平日であろうとも、2月23日という日付を忘れてはならない。


「……」


 あの忌まわしき交差点を通り過ぎ、道なりに続いて徒歩では厳しい山頂をバスで向かう。

 そうして数駅しか存在しないバスを抜けた先にあるのが希の遺骨が収められたお墓で。


「バケツを汲むか」


 小屋らしき物からバケツを一時的に。後は形式通りに墓参りの準備を。

 花は予め花屋さんで購入した物を筒に挿しておく。


「これが嘘であって欲しかった……けど、現実は非情だった」


 この世界に神が存在するのであれば。今すぐにでも、助け出せなかった希の元へ戻りたい!

 そうしたら……どれだけ僕は楽になれるか。


「駄目だ。現実から逃げてはいけない」


 僕は一体どこで選択肢を間違えたのだろう? 答えの出ない葛藤が脳内で忙しなく動く。

 

 ここに留まっていては精神が持ちそうにない。明には悪いけど、先に帰るというラインを打ち込んで……


「翔大君?」


「えっ?」


 声がした方に振り替えると黒のスーツを嗜んだ中年の黒髪の男性。

 人生に疲れきっているかのように元気がない男性はとぼとぼと希の墓まで歩いていき、僕と向き合う。


「やはりか。こんな時間帯に希の墓参りをする人は早々居ないからな。いつも申し訳ない」

 

 加藤晴彦かとうはるひこ。希の父親にして金融業界では大変名の知れている大企業の部長クラスまで上り詰めていたエリート。

 しかし、娘を亡くしてからはついに心が折れて現在はフリーターとして生きているらしい。


「いえ……申し訳ないのは僕の方です。彼女を殺したのは僕なんですから。こんな物はただの贖罪しょくざいです」


 生きている事が事態が苦しい。今の僕は見えない何かに首を絞められていて、ぎりぎりの所で踏ん張っているだけに過ぎないんだ。


「うぐっ!」


 なっ、この感じは……はぁはぁ。頭が割れそうだ!


「どうした、大丈夫か!」


 視界が安定しない。また、異世界に移動するかと思えばそうでもないようだし……一体何が起きているんだ?


「げほげほ。どうやら収まったようです」


 身体に異常でも起きているのか。すぐに直ったけど、こんなのがまた来たら頭がおかしくなりそうだ。


「……どこか身体に異常があるかもしれないから、私に付いて来なさい」


「いや、でも」


「とにかく付いて来なさい。後から重病にでもなったら、君の両親に顔向け出来ないからね」

 

 半ば強引に連れていかれてしまった。明には事情を説明して、墓参りが終わったら帰って貰うようにしておこう。

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