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エピソード25:支配から逃れるには

 雲が覆う空。今でも雨が降りだしそうな雰囲気。空の下では多勢無勢。

 気耐え抜かれた兵士が今日も今日とて主君オウジャ・デッキの忠誠を使い、城の外を頑丈に固める。

 これでもこれでもかと言わんばかりに弓兵を柵の周辺に配置、その周りを守るようにして前線を配置。

 そしてとどめには脚力に秀でたモンスターと空から監視するモンスターを接地。

 オウジャ・デッキが想定する大戦争。準備に余念はないだろうと確信した。

 少なくとも、この決戦で明日の未来が変わる。ここで手を緩めるつもりは一切ない。

 やれる事は全力で。野望を完遂させるオウジャは今宵開催される大戦争に手は抜かない。


「ご苦労。奴等の動きは?」


「はっ! 現時点ではゲネシスとスクラッシュの気配なし。治安団の方にもそれらしき気配は見受けられません」


「監視は怠るな。もし、動きがあったら迷わず先手を打て! 俺様に連絡するのは後からでも構わんからな」


「御意。引き続き、監視を続けます」


 徹底した守り。オウジャ・デッキは堂々たる態度で部下に引き続き監視を行うように命令。

 ここ数日前に国王に宣戦布告したその日から侵略行為を中断して、己の国を守るようにしているのはいずれ奴等が奇襲を仕掛けると踏んだからである。

 その為まずは国を襲撃すると思わしき者達を凪ぎ払い、落ち着いた頃にはオウジャ王国を潰す為に使う戦力が薄手となっているのを睨んで侵略。

 あっという間に野望は果たせる。この世界を我が物とする壮大な計画を。

 

「しかし、まずはゲネシス王国とスクラッシュ王国を潰さなければ話は前には進まんか。やれやれ、俺様の叶える野望には実に障害が多い」


 問題はこの戦に勝利するか否か? 勝ってしまえば二つの国を自らの領地として収め、強者だけが貪れる弱肉強食の国家を築き上げるが逆もしかり……負けてしまえば、国は崩壊。全てを失いかねない大戦争。

 メリットもありデメリットもある戦いにオウジャは所構わず笑い出す。

 例え、周りに見られていようと自分が満足するまで淡々と。厳重の監視体制及び強固な守備を固めている兵士達に労いの言葉を掛けながらも国の入口に当たる門の中へ。


「終わらせるつもりか? お前の計画を」

 

「いいや、これからさ。俺様の奏でる壮大な野望は」


 そこに一人。全身を真っ黒のコートで纏う銀髪の男性が存在感を際立たせている。

 オウジャは彼の語る言葉に否定する。自分が織り成す計画は終わりを迎えるのではなく、これから始まっていくのだと。

 王の言葉にアビスは返さない。ただ黙って後ろに付いていく。


「嫌われているな」


「ふんっ、奴等は何も分かっていないのだ。一体誰のお陰でこの素晴らしき国に住ませて頂いているのかと言う事を」


 国民はオウジャ国王の通行に見て見ぬフリ。オウジャ国王に噛み付けばどうなるのか? その先を知っているのだろう。だから誰も語らないし見ようともしない。

 恐ろしく怖い。ただただ恐怖の印象でしかないオウジャ・デッキを。

 ところが当人は気にも止めない。それどころか今の置かれている現状に満足している。

 表は綺麗な街並み。裏では国王に一泡吹かせてやろうと時機を見計らう連中。

 オウジャ国王に雇われていたアビスは嫌が上でもこの現状を見てきた。

 一度でも衝撃を加えただけで、土台がドミノのように崩れ去っていくオウジャ王国を。


「俺様の財力でこの国は活きているも同然。ならば、本来街並みを歩いている俺様に対して頭を下げて感謝の念を捧げるのが当然であろう。それなのに愚民は目を合わせようともしない。なんと浅はか! なんと傲慢か!」


「お前のその性格が災いを招いているのだ。因果な湾曲を描いて」


「ふんっ、この俺様に対して性格を正せと申すか? つくづく耐えがたい連中だ」


 傲慢にして頑固。性格を変えない国王に対しアビスは気にも留めない。

 アビスは自分の目的を完遂する為だけに一時的に配属しただけの関係。

 この国の行く末や世界がどう向かうなど知った事ではなかっかた。

 寧ろ、現在の状況で自分が求める真理を得られるのか? 状況次第ではこちらから切ってしまうのは最早時間の問題。

 今はただ身を寄せる。見切りをつける……その時まで。


「どうした? いつにも増して暗い顔をしているではないか。そっちがそうだと、俺様も少しは気分が萎えるぞ」


「時機は近い。関係を別つ日は」


「ほう? つまり……俺様との主従契約を切りたいと。こんな大戦争の前でよくもぬけぬけと」


「何度も言った筈だ。私は私の為し得る真理に基づいて動くだけと。お前の野望その物に対して興味の欠片もない」


「ならば、この決戦で目にも見せてやろうじゃないか。貴様が従える永遠の主君は俺様にあると」


 両手を横に広げ、大袈裟な動きで笑うオウジャ。アビスはそれをただただ黙って見つめる。

 やがて笑いが止まる時。オウジャは背中を向けて歩き始める。

 自らの居城へと。


「いや、先程の言葉は取り消しだ。俺様が死のうが生きようが好きにすれば良い。ただ脱退するのであれば、二度と俺様の前で面を見せるなよ。誤って手が滑りかねんからな」


「お前との契約はここでは切れない。少なくとも、この大戦争がどんな形であれ幕を打つまでは付き合おう」


「ふははははっ、ならばお前には期待する。大戦争の勝利をもたらす要因として」


 オウジャの城には少数の兵士で固めているだけ。他の者は全て大戦争の肥やしとして人員を割いている。

 彼はアビスを王座に連れ込んで、一人静かに椅子に座る。時は緩やかに進んでいく。


「ようやくだ、これで俺様の念願が叶う。父が王であった時から叶えようとしていた計画は今まさに手に届こうとしている。この日この時この瞬間……俺様はどれだけ待ったか。よもや日にちすら数えてるのを忘れた位だ」


「お前の計画がどうあれ、計画を遂行させる事に力は貸そう。それが雇われた最低限の礼儀だ」


「最後の最後まで喰えん奴だ。では……時間も時間もだし、そろそろ参るとするか」


 再びオウジャは前へ前へ進む。これから起ころうとする計画の全貌を予め召集させた国民に打ち明ける為に。

 王座を後にして、向かった先は大勢の国民が集う中心地。どよめきの声が喚きあう中で存在感を際立たせるように舞台へと上がるオウジャ。

 空気が一気に静まり返る。人がひしめく合う街並みで場は沈黙。

 国王を守る兵士は殆んどが出払っている。頼る者はもはやアビスしか居ない状況でオウジャは気丈な振る舞いで語らう。


「者共よ、今日はよくぞ俺様の召集に応えてくれた。まずはその礼を軽くするとしよう……では、ここからが本題だ。今日を持ってしてこの怠けきった世界は革命的に変わる! 平和ボケを貫く二つの国を俺様が力でねじ伏せる事で! 結果的に世界は強き者だけが生き、弱き者が挫くという本来の世界に移し変える! 俺様の発案した偉大なる計画を前に! 楯突く奴等は死滅するのだ! この偉大で! それでいて高貴な! 恐れたかき俺様の手によってなぁぁ!」


 誰一人拍手は起こる訳もない。それもその筈、ここに集う国民の殆んどが戦争を引き起こす国王に怒りを覚えている。

 だが、残念な事に批判すればその先に待ち受けるの死だ。多くの国民はこの悪意ある言葉に唇を噛み締める。

 オウジャの眼差しは拍手を求めている。屈辱になりながらも形式的な拍手を捧げる。

 舞い上がる国王に対して何かもが終わったかのような暗い顔を浮かべる国民という無情な光景にアビスは呆れていた。

 もはや、ここまでいくと国すら己の道具とする国王の行いは滑稽こっけいであると。

 国王オウジャによる思い思いのスピーチを語らう最中、誰もが沈黙を守る中で突如事件が起きた。


「ん?」


「国王オウジャ・デッキ! 我々国民の生活を貶める貴方に物申す!」


 多くの国民にとって、それは驚愕の光景であり見方にとっては救世主が現れたかのような光景。

 後からぞろぞろと駆けつけた集団の中のリーダー格と思われしき人物は激怒寸前のオウジャを前にしても、気にせず前へ歩み寄る。

 兵士は剣を抜き去り、集団のリーダー格である人物に切りかかろうとするも国王の一声でそれは事なきを得た。


「ほう? お前達を養っている俺様に対して随分と殊勝な心構えをしているとみた。ふははははっ、折角だから余興を楽しむとしようか」


 壇上に上がってこいとオウジャは分かりやすく合図を送る。その合図に従って望む所だと息巻くリーダー。

 舞台へ上がった時、リーダーとオウジャは互いを見る。


「で? 俺様に楯突くからにはそれなりの言い分を用意しているのだろ?」


「オウジャ国王。あんたはモルガン国王の後継者となった日から我々国民を貶めている。その証拠に今は経済が廃れ、軍力だけが増強される由々しき事態。人一人支えられない者が王の器に相応しくない! あんたに少しでも良心があれば……今すぐ、この戦争を取り止め王の座を降りろ! それが現時点の最悪を回避出来る唯一の手段だ」


 国王に歯向かう態度。空気はもはや尋常ではない。今すぐ処刑されてもおかしくない状況で王は相手を馬鹿にするかのように笑う。

 自分が快く満足するまで時まで。


「な、何がおかしいのですか!」


「ふはっ、いやいやこれは実に面白い。まさかここまで器の高い俺様に反抗してくるとは。お前のその無下な怒り……些か殺意が湧いてくれる!!」


 宙を高く舞う金色の槍は無駄のない動きで曲線を描き、リーダー格の人物の頭の中心点に突き刺さる。

 

「光栄に思え。この誇り高き国王の手によって沈められた事に」


 赤い雨が噴水のように広がる。その惨殺なる光景は多くの国民を絶望に至らしめる。

 誰が意見しようとも、異に削ぐわぬ者であれば即抹殺。オウジャ国王の攻撃的なやり方と方針に誰も逆らえないという事を改めて認識された瞬間であった。


「そこの後ろで俺様に反抗心を見せ付ける者共よ。リーダー格が死んでもなお態度を改めなければ即刻消してやる……良いな?」


「うわぁぁぁ!」


 散り散りに立ち去る反対勢力に王はご満悦。どれだけ抗おうとやはり無駄。

 悟りに悟った国民の表情は浮かばれない。


「態度だけは立派であったか。しかし実力に対しては足元にも及ばない。俺様に反抗してくる組織は口先だけしか動けようだな! 貴様は惨たらしく死んでいくが良い」


 太陽が沈む。こうしている間にも時の流れが進む様に国王は話を切り上げ、最後に高らかに宣言した。


「俺様のお陰で住まわせて貰っている者共よ。今宵も盛大なるパーティーが始まる。世界の根幹を揺るがす史上最大の大戦争を! だが、しかし勝利をもたらすのはこの俺で変わりはない! 今後の未来を見通す者さえもなぁぁぁ! そういう事で、これからもありがたく……感謝しろよ? ふははははっ!」

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