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エピソード22:そして、立ち向かう時が訪れる

 到着した頃には時既に遅し。事態は最悪の状況下で終わっていた。

 辿り着いた基地の内部は崩壊の一言に相応しくまた足跡にも人間の物とは思えない箇所がちらほらと映る。

 大抵の人達は息を失い、身体全体が冷めきっていた。そこらの遺体は五体満足とはなっていない。

 地面に大量の赤い液体を残して、顔以外の遺体。そしてある部分が欠損され放置されている者も。

 腐った匂いが増してえづきそうになるのを堪えながら周りを見渡す。

 何もかもが手遅れに終わった跡地を。


「っ、もう終わっていたようね」


「まだだ、まだ息をしている者が横たわっているかもしれない。僕はもう少し周辺を探ってみる!」


「なら私はここの処理を。あとで兵士の皆も駆け付けてくるから手分けして済ませておくね」


「うん、そっちの事は任せるよ」


 どれもこれも無惨に晒された焼け跡。この基地ではアン王女からモンスター及び国を狙う敵に対しての防衛という役割を担っていたそうで、完成した当初は強固な守りに固められていたそうだ。

 ところが時代の流れが進む内に基地の強固な防衛は他の拠点に回される事により守りは退化の一歩を辿る。

 モンスターからの奇襲を国へ侵入するまでに未然に防ぐというスタンス。

 しかし、それらは無意味に終わりを告げた。オウジャなる国が戦争を起こすべくして総攻撃を仕掛けたのだ。

 この件はあの男も絡んでいる。基地から飛び出してきた伝令からの情報によれば多数の軍隊の中に黒コートを着飾った銀髪の者が居たと聞いていたから。


「誰か、誰か居ませんか!」


 この荒れ果てた場所ではもう誰も息をしていないのか。いや、まだ探して数分も経っていないじゃないか! もっと、周囲を見渡せば誰か横たわっているかも。

 だから、そうそう簡単に諦める訳には!


「返事をして下さい!」


 モンスターに荒らされた基地。崩れ去った外壁や障害物があちこちと広がっている中の懸命な捜索。

 邪魔な物は蒼剣で蹴散らしつつも探していくも周囲には意識を失い既に死した遺体だけが視界に入る。

 もはや、これまでか。これだけ探しても見当たらないんだ。ズボンのポケットは落下したら危ないので青のジャケットに避難させて置いたスマホの時間は残念ながら正常に動いていない。体感的には何分か探しているような気がするけど。


「はぁ……はぁ。頭が痛いから大声で叫ぶんじゃねえよ。こちとら深傷を背負って身体も録に動いてくれない始末に晒されているんだ。もっと声のトーンを落とせ」


 瓦礫から飛び出してきたのは以前砂漠にて目を会わせた事のある青年。

 名前は確か、ザット・ディスパイヤー。まさかこんな形で再会するなんて。

 もしかしたらしなくてもアビスを追ってここまで来たのだろうか。


「足は?」


「あぁん? あっ、そいつは無理だ。痛みがさっきから増しているもんで身体中が言うことを効いてくれやしない。と言う訳で少し休ませろ」


「分かりました。僕は魔法を使える身ではないので治療魔法を使えるマリーを呼んできます」


「助かる」


 前に会っていた身からすれば、いつものような覇気は出ていない。

 寧ろ空元気って感じだ。早く安全な場所で安静にさせないといけない。

 ここで休めるような場所はなさそうだから休養させるとなると街の方に連れていかないといけないな。


「まさか……喧嘩を売ったお前に助けられるとは」


「あらあら、あの前の雰囲気はどっかに消え去ったようですね。いつもそんなに丸かったら、話しやすくて助かるのに」


「それは無理な話だ。幾らお前が金を注ぎ込んだとしても」


「治療……止めますよ?」


「ちっ、はいはい。さっさとやってくれ」


 完全に嫌がっている。しかし、どこか心の奥底では満更でもないような顔を浮かべている。

 本人は多分気付いていないようだけど。言ったら言ったで抹殺されそうだから、ここは黙っておくに限る。


「お前達は何の用事で来た? まさか適当にブラブラしていたら到着したのか?」


「それは違います。僕達はゲネシス王国からこの基地が襲撃を受けていると聞いて、急いで駆け付けて来た次第です。しかし」


「僕達って事はこの女もゲネシス王国……あっ、痛たたたた! てめえ。俺はぼろぼろの傷を受けてデリケートなんだよ! もう少し優しくしろや!」


「あら、そこまで元気なら大丈夫で何より。もっとも私はマリー・トワイライトって名前があるから、この女呼ばわりは何か苛立つが募るなぁ」


「わわ、分かった! 大人しくするから、今だけは治療に専念してくれ……頼む」


 ここまで焦った表情を浮かべるのは何だか新鮮だ。いつもは減らず口を叩いている印象が深かっただけに尚更。

 皮膚を回復させる魔法のお陰で段々と調子も良くなっているようだし今なら色々と聞けるかも。


「僕がここに来るまで一体何があったのか詳しく聞かせて貰えませんか?」


「治療をさせたツケか。まぁ、今日助けられた身としては文句をぶつくさと言うのはお門違いだしな……良いだろう、昨日の夜に何があったか覚えている範囲で語ってやる」


 外面は面倒だと主張しているが、今回の件にて恩義を感じているからか渋々と詳細を語り出す。

 

 聞かされた内容は真夜中に襲撃を決行した部隊の一部の人物であるアビスがモンスターを呼び寄せ、数だけの暴力で基地を大破させた事。

 そうして駆け付けてきた時には手遅れに近い状態で奴は基地の内部に佇んでいたという。

 指名手配アビスを確保最悪は始末も任されていた治安団の団員たるザット・ディスパイヤーは周辺を他の団員に任せておいて単身突撃。

 どれだけ振り回そうとも動きの早いアビスに上手く攻撃が出来ない。

 やがて反撃のターンはザットに降りかかる。この機会を逃すまいと懸命に潰しに掛かる。

 だが。残念ながら相手が相手なだけあって、じりじりと受ける傷跡。

 自分達の戦力を半分以下となりよもや敗北寸前に近い状態でさえも振り回す。

 ぼろ負けの決して勝ち目の見えない戦闘に単身突撃するザット。

 結果的にモンスターは大半片付けたもののアビスからの奇襲を受けて深傷を背負った。

 しかしアビスは手加減をした。深傷を受けて立ち上がるのもやっとな状態で殺すのも安易な状況下で。


「とまあ、ベラベラと語ったがこんな物だ。俺にとっては絶好の機会にも関わらず、最後の最後でしくじった。次は上手く立ち回れるようにしねえとな」


「今回の全ての源はオウジャ・デッキにある。早い内に摘んでおかないといずれ世界はオウジャに掌握されかねない事態も」


「どうにかしないと……こうなってしまった以上はやっぱり」


 戦争か。本来ならこんなやり方で事態の収集をするのは誤っているかも知れないけど、相手は力を使って二つの国を奪おうとする略奪者。

 もう形振り構ってはいられない!


「奴等の侵略行為は本格的に始まった。こうなった以上は俺も立場なんて物に縛られる事はない」

 

 ふらふらと立ち上がるザットに対して僕は肩を貸す。申し訳ない表情で肩を借りる。


「どうやら借りが出来た。俺もそれ相応の礼をしてやるとするか」


「具体的には?」


「まずは治安団の本部に帰投する。それからはオウジャという国がいずれ近い内に世界その物を牛耳ろうと企んでいると話を通す。まだ、それは予見にか過ぎないがゲネシス国の領地とスクラッシュ王国の領地を襲っているんだから限りなく黒に近い。だとしたらこの仮説は一応成り立つ……筈だ」


 治安団の協力を借りてオウジャを討つ他ない。僕達の心は決まった。


「マリー。君は兵隊と一緒に帰投したバルト国王にこの事を伝えておいて欲しい。僕は僕で用事が出来たから」


「へっ、付いてくる気か?」


「この事態を早急に収めないと。最悪世界はーー」


「奴等の手の中に……それだけは絶対に避ける必要があるな。俺としても、あんな糞金ぴか野郎の奴隷にされるなんて真っ平御免だ」

 

 互いに意見が合致した。これからこの世界でやる事は主に二つ。

 治安団と一時的な協力関係を結ぶ。そしてオウジャ・デッキを国王としたオウジャ王国をゲネシス王国とスクラッシュ王国の力も借りて、元首を倒す。

 オウジャ王国が全勢力を惜しみなく投入すれば被害はどれだけ昇るか想像にかたくない。

 ならば、こちらもそれ相応の勢力を持ってして挑めば被害は少なく収まる筈。

 ただし向こうには指名手配犯のアビスが潜んでいる。見た感じ彼はオウジャの正規の部下には見えない。

 果たしてどういう目的で手を取り合っているのかは知らないけど遭遇したら慎重に立ち向かわないと。


「マリー・トワイライト、そっちの馬を一体寄越せ。今から本部に直行する」


「少し待っていなさい」


 兵隊と話し込むマリー。大まかな事情を話しているのだろう。

 余り納得はしていないようにも見えるがマリーの説得に概ね承諾したようだ。

 栗色の馬に乗り込むマリーは手慣れた手付きで持ってきた。


「はい、どうぞ」


「何もかも悪いな」


「どういたしまして。ショウタ、この先の事はお願いするね。私は私で出来る事をしてみるから」


「うん。アン王女には帰りが遅くなるからと伝えておいて」


「分かった。道中気を付けて」


「たくっ。俺が入り込む余地なしかよ」


 先に先頭部分に乗り込んでリードを構えるザット。僕は別れを惜しみながらも後頭部分に乗り込んだ。

 馬特有の声と共に全速力で走り出す。走っている最中もかなり揺れ動くしで安定した動きを見せない。

 アン王女から馬の操作方法を教えて頂いたからある程度は乗り慣れていたつもりだったけど、やっぱり後ろの部分に座ると結構きついです。


「治安団は方位磁石を使うと北西部を差す。こっからだと道沿い走って……まぁ、一日も掛からずに到着するだろ」


 こんなに激しい動きをして何十分も揺れ動くのか。これ乗り物に弱い人は酔い止め薬必須だね。


「本来なら関係者以外の立ち入りは禁止している。にも関わらず、こうして俺が引き連れている事自体異例だ。その事を頭の隅っこに押さえつけておけ」


 地面を駆け抜け、野原を走り込む馬。天候は日の出が落ち着き太陽の位置が安定している。

 この調子なら雨なんて降りそうもないか。それにしてもこっちの世界だと晴れが多くて羨ましい。


「移動しているのも暇だな。何か質問とかあったら適当な範囲で答えてやる」


「でしたら、治安団の構成員を教えて下さい」


 いつも二人で行動しているイメージが多いから、ここで具体的な数字を知っておきたい。


「あー、数えた事がねえ上に聞いた事もねえから分かんね」


 聞く人を間違えた。到着するまでの間は質問とか何か考えとこ。


「他に質問ーー」


「大丈夫です」


「……あっそ」

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