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エピソード21:王の一人勝ち

 真夜中。全てが静まり返った場所に今宵王様同士による話し合いが始まろうとしていた。

 対談の内容は今日まで平和に保たれてた世界がオウジャ・デッキによって秩序が乱れつつある事。

 ゲネシス王国代表バルト国王とスクラッシュ王国代表ハーゲン国王はこの許しがたい事態に対処すべく、互いに協力関係を結んだ上で対談に望んだ。

 しかし、幾ら待てど姿を一向に現そうとしないオウジャに怪訝な表情を隠しきれない。


「若造め……いつになれば来るのだ。かれこれ何分か待たされている始末。よもや私達を暗殺しようとしているのか?」


 六つの地方を束ねる高年のハーゲン国王。彼もまたオウジャのやり方に異を唱えようと国に駆け込んだ勇気ある者。

 白髪かつ低音の声量。顎髭を弄りながら、まだかまだかと機会を伺う。


「いやそれはないだろう。もし、仮にそうだったとしたら国の中に入る前に真っ先に始末されている」


「うむ。確かに……そうであるなら私の側近も殺られていた筈だ」


 ただ時だけが進む空間。三人だけが座れる円卓に肝心の一人は不在。

 互いが互いを牽制しあう二人に足音が忍び寄る。コツコツとリズムよく刻む音は扉の前で1度立ち止まると静かに部屋の中へと入る。

 若干20歳に近い青年は先に着席している王達に軽い一礼を済ませた後に空いている席に着席。

 今回の事態において全く悪びれた様子を見せないオウジャはひとまず話を進める。

 気だるくそして怠い態度で。


「まさか本当に来訪するとは。お前達はつくづく国を大事にしているらしい。実に良い心掛けだ」


「上から目線もそこまでだ。本日はこの平和に満ちた世界に喧嘩を始めるお前に忠告を言い聞かせにきた。父の意思を受け継ぐどころか自分勝手の政治を始める愚かな王よ」


 ハーゲン国王の言葉に武器を振り上げようとする側近をオウジャは素早く片手で制止するだけで後ろに下がる側近。

 訓練された兵士に心の中では心臓の音が鳴り止まない。しかしオウジャはこの事を機会にずけずけと入り込む。


「これはこれは! ハーゲン国王の言葉は実にお厳しい! 俺様は国をいや……世界その物を進化させる為に、崇拝たる計画を実行したに過ぎないというのに!!」


 自身の存在を大きく主張する黄金色の鎧。金色の眩しい髪にハーゲン国王はやれやれとした表情で酷く呆れている。

 一方でバルト国王はここの対談に入る前に知らされたある情報に怒りを震わせていた。


「おや? さっきからだんまりとしていると存在感がなくなりますよ? ゲネシス王国を治めるバルト・アンビシャス国王」


「ここに向かう直前にある情報を伝兵からの知らせで聞いた。にわかには信じがたいが……貴公は私の所有する領土を武力で制圧したと」


「ほう。もう、情報を掴んだのですか? お仕事が早いようで何より」


「貴様……やはり武力介入を図ったか。自分だけの領土に飽きたらず私の国やバルト国王の所有する国にも手を出すとは! 血迷ったようだな!」


 怒りの沸点が限界を超える。どうにか穏便に対談を終わらせたいバルト国王はハーゲン国王を宥めるように持っていく。

 対してオウジャ国王は二人に挟まれた状況であろうとも遠慮なく存分に笑う。


「ふははははっ! 血迷っているのは貴様等であろう! この戦に相応しき時代を無視して、拳を握らん上に歳を重ねるだけの国王共が! どこまでも時代遅れな連中で呆れる」


「なっ……」


「良いか? 俺様とお前達を含めて王は民にとって気高く、傲慢で、恐れられる存在であらなければならない! それをお前達はあろうことか互いを牽制しあう。俺様はそんなまどろっこしいやり方が嫌いだ! 王である以上、気に入らん国はとことん握り潰す! どんな手を使うとしても」


「先代の王はそれを望んではいない。我々は三つの国に分けられた他者同士であったとしても手を取り組み、連携していこうと……そう宣言して下さった。貴公は故人となった父の遺言を破棄するつもりか?」


 よもや両国に喧嘩を売った以上戦争は免れないと悟ったバルト国王は現時点に置いての切り札を使う。

 この言葉の返答次第で変わる選択。果たして眉を潜めたオウジャはなんと答えるか。

 理想の言葉を期待するバルト国王。願いも空しく奈落の底へと落ちていく。


「平和などとうつつを抜かした親父なら俺様が直接この手で下した。血のたぎりが少ない時代に、平和主義などあってはならないと判断したからな。遺言なぞ王として君臨する前から捨ててやった」


「モルガン国王を殺したのは息子の貴様であったか! 自分が王になる為なら、どこまでも堕ちるか!」


「俺様は王たる器に相応しい資格がある。しかし、あの人は別の者に委ねようとしていた。だから、殺してやった。思い通りにならない者が存在していても目障りでしかないからな!」


「親殺しの若造が……世界を壊すつもりか。この世の中を戦火の炎に包むなどと! 馬鹿げている」


「俺様は俺様が満足する世界を築き上げる……古びれた老人共は椅子に座りながら、ぼんやりと眺めていろ。俺様の国が全てを覆い尽くすその姿を!」

  

 交渉は最初から決裂していた。決まっていた結果に変える事は不可能。

 バルト国王とハーゲン国王は互いに見合わせた。こうなってしまった以上は力を合わせて討たねばなるまいと。

 平和な世界を脅かし、自分が望む世界に塗り替えようとする外道を。


「ふっ、その目付きを待っていたぞ。俺様の首を取ろうとする憎悪の瞳をな!」


「貴公は我々の敵として認識させて貰おう!」


「若造……貴様の悪辣非道なやり口は捨て置けん。モンスターを操る指名手配犯を雇っている事実も含めて」


 世界を混沌に陥れる黒コートを象徴とする銀髪の指名手配アビス。

 彼の目的は現在もなお不明瞭で野生のモンスターを操り人形にして使役するというおぞましき能力に国王達は警戒していた。

 もっとも、その指名手配は今やオウジャに雇われているとの情報を既に聞かされていた時点でオウジャ・デッキに不信感を抱いていたのである。


「あいつについては利害の一致で組んでいるに過ぎない。本音を含めると俺様の右腕として傍らに置いておきたいのが実情だが……奴は少々難癖があって取り組むには厳しいというの答えだ」


 指を鳴らして瞬間に集まるは選りすぐられた側近。バルト国王並びにハーゲン国王のそれぞれの立場にある兵士も身構えた。

 合図を下せばいつでも始まる状況下にある中でオウジャは下さない。

 

「さてと……これから俺様の国を含む三か国同士による大戦争を始める! まずはその礎をとしてお前達の街をそれぞれ一つ破壊する。それが戦争開始の合図となるだろうな」


「今なら引き返せる! すぐにでも部隊を退かせるのだ」


「決断は決して何があろうと覆る事は一切ない。何度俺様に諭してもな」


 我が道を貫く者の考えは安易に言葉だけで止まろうとはしない。

 緊迫した部屋の中。兵士同士の睨み合いが続く最中にてオウジャだけに聞こえるように耳打ちする伝令。

 しばらくしてから両手を介してリズム良く叩くオウジャの表情は実に晴れやかである。


「ゲネシス王国最有力基地であるスマートが崩壊。そしてスクラッシュ王国の領地に置けるブレインは奇しくも抵抗が続いているらしい。ふはははは、これにて戦争は始まったも同然だ!!」


「貴様の凶行。ただで済まされると思うな……全勢力を持ってして国ごと叩き潰す!」


「威勢の良い長老だな。精々俺様を飽きさせないようにしてくれよ。もたもたしていたら俺様の軍隊がお前達の国を先に潰しかねないからなぁ!」


 オウジャの気紛れで召喚された槍は激しい光で目映い。その矛先は二人の王に向けて挑発をしている。

 

「これより……オウジャとゲネシスとスクラッシュの三つ巴の大戦争を開始する! 最初に言っておくが俺様は国を全て掌握する為ならば徹底的にやらせて貰う。お前達高齢もそれに準じて挑むが良い!」

  

 オウジャに従う側近は固く閉ざしていた扉を開けると両者の王に合図を送る。

 ここで戦うつもりはないと言い張るつもりか? 不安げな王様に対してオウジャはやれやれとした表情を浮かべた後に睨みを効かせていた。


「どうした? 早く出て行かなければ俺様の気分が変わるぞ。己の身が大事なら即刻退去しろ」


「本来三つの国は互いに謙遜しあい協力関係にならなけばならぬのが常だ。それを貴公は王様としての立場を利用して自らの国すら野望の礎にして侵略を開始する行為は実に傲慢であるぞ」


 冷静な口調で最後まで諭すように語るバルト国王。この悟りに対して、こめかみを押さえながら苦笑するオウジャに言葉は届かない。

 それどころか馬鹿にした表情で見下げる態度にバルト国王は怒りを抑えきれていないのか拳をわなわなと小さく震わせていた。


「下らん言葉を吐いている暇があるなら、さっさと自分の巣に戻って防衛したらどうだ? 自らは腰を上げず、部下を足のように使う国王さん?」


「ぬぅぅぅ」


「悔しかったら、俺様の築き上げた国をいかにして潰すか練り上げる事だ。時間が過ぎれば過ぎるだけ俺様のペースに嵌まってしまうぞ? まぁ、最悪軍隊の力を使って攻めても一興か……確かな軍隊の名前は治安団とかいう輩がいたよな」


「貴公は我々に対して喧嘩を売った。その戒めは受けて貰う! あとで後悔しようともな!」


 二か国の王と戦争の火種を切った王の沈黙。真夜中の対談は戦争となる形で決裂した。

 それぞれの国へと帰投する王を二階の城から見下げる形でオウジャは嘲り笑う。


「舞台は整った。これにて武力による制圧が始まり、やがては世界統一となるその時を待とうではないか」

 

 王座に座り、極上のグラスを月まで持ち上げ優雅に飲み上げるオウジャ。

 計画の完成が徐々に近づく事を夢見て数年。野望を築く為に親でさえも躊躇なく毒殺したオウジャに迷いはない。

 統一される世界に己が頂点となる日を想像するだけでも笑いは抑えきれない。


「三つ巴の国が一つの国として築き上げ、血のうめきが止まらぬ世界を完遂させた時……俺様は最強の国王として君臨する! 未来永劫に永遠にぃぃぃぃ! ふははははっ!」

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