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エピソード1:僕の異生活が上手くいかない

 異世界。よく、ご想像される方はトラックに轢かれたりやらで向かう世界を一般的にこの言葉が使用され現在も異世界として定着しているかと思われます。

 そうして長らくファンタジーやらを好む私がようやく上記の単語を題材にした際意外と筆が進まない事に難儀し、一時期止めてしまおうとも考えましたが……挑戦するからにはとことんやってやろうと予め起承転結を大雑把に組み上げ、一癖あるキャラクターも作ったりしちゃって(笑)

 

 今回の作品のタイトル無駄に長いんですが、そこに出来る全てを落とし込めましたので何卒宜しくお願いしますm(_ _)m


 それでは挨拶が長々となりましたが……どうぞ!!




 耳に響く。ピーポーピーポーとこれは誰も聞いたことのあるサイレン。

 信号のある交差点に僕は目の前に抱き抱えた女の子を一点に見つめる。

 僕と同じく黒い髪で優しい瞳を兼ね備えた白ワンピースの少女。

 少女の息はもうしないし脈もない。どうあっても助からないことは明白だった。

 水色の服装をした人たちが一斉に駆け付ける。その慌ただしい中に取り残されていく僕。

 その少女との思い出の最後に刻まれた物はどれだけ濡らそうとも取れやしない赤い液体。

 中学生でありながらも美しくそして凛々しい容姿をしていた少女との淡い思い出のパズルは突如として崩壊した。

 集められた一つ一つのパズルを粉々に砕いていくかのように。


「あ、あぁ……嘘だ。こ、こんな」


「君、大丈夫か!! 気をしっかりするんだ!」


「あぁぁぁぁ!」


 何とか飛び起きた。はぁ、僕は何ておぞましい夢を見ていたんだろうか。

 学校でも特に目立たないように暮らしているというのに、こんな夢を見せられたら息が苦しくなる。

 さて、もう一回。そう思って就寝しようと試みたが何かに違和感を持つ。


「あれ? 布団……は?」


 さっきまでここの布団で寝ていた。これは確かなんだ。僕はよくある一軒家の二階の自室で毎日睡眠している。

 そのはずだったのに、布団はおろか目の前にある景色は朝であり草原。

 後ろにあるゴツゴツとした物はよくよく確認すると岩。


「夢の延長戦か」


 試しにほっぺを……って痛い痛い。これ以上やったら両方の頬が腫れ上がる。


「えっ? そんなことってあるの」


 まことしやかには信じられないけど、これは小説家たちがこぞって言うあれだよね。

 

「異世界」


 それ以上の言葉は出ない。他に表現するとなればどうなるのだろう?

 

「携帯も無いから時間も分からないな」


 参ったな。しかも、パジャマ姿で異世界に来たとなれば異世界の人たちに不審な目で見られてしまうではないか。

 せめて、僕が私服を着替えてから異世界に案内してほしかった。

 これじゃあ、不審者として牢屋にぶちこまれかねない。


「良い風だな」


 目に見える景色は緑せせらぐ草原。周辺には不思議と人が居ない。

 この場所にはモンスターも通行人も居ないのか。それにしても丸腰なのは割とまずい状態だ。

 異世界でずっと暮らしていくのであれば剣や薬草などの道具は必須。

 裸のままで歩いていたらモンスターの餌食になって死ぬ。それが目に見えて怖い。


「誰か居ませんか!」


 モンスターが居ないのは幸いだ。今のうちに誰かに援助してもらわないと。

 初めての異世界なら、普通はてんぱったりするのが常なのに僕は至って冷静。

 適応力もとい呑み込みが早いのかな。

 こんな状況下でも酷く落ち着いてるし。頭の中はどうやって、切り抜けてしまおうかと考えを巡らせていた。

 一直線に歩いていた僕に何かが硬い物が触れ合う。


「きゃっ!」


 考え事を巡らせていたお陰で人に気付かなかった。


「ごめん。怪我とか汚れとかは無い?」


 小さな掌を掴み取る。白い肌に空色と呼ぶに相応しい髪の色を持った綺麗な女性。

 女性は服装が乱れていないか軽い確認をしながらも咳払いで誤魔化す。


「ええ、大丈夫です」


「それは良かった」


「けど、前を見ていながら考えるのは今後止めた方が身のためよ。これは私からのアドバイスとして受け止めなさい」


 内心怒っているからここは謝り倒しておくに限る。

 一先ず懇切丁寧に謝り倒す作戦を決行。その結果、彼女からの許しは貰ったので良しとしよう。

 それにしても……これはチャンスじゃないのか? 喉かで誰も居ない草原でこんなに綺麗な女性に出会えたんだ。

 ここは仲良くしていこう。見ず知らない世界を一人で歩き回るにも限界があるから。


「こんなに謝り続けてくるなんて、君って随分と変わり者ね。名前は?」


「神無月翔大。それが僕の名前だよ」


「カンナヅキショウタ……何か言いにくいな」


 大きく飛翔するという意味で名付けられた翔大。別に格好いい名前だとかダサい名前だとか思っていない。

 この数年間大切な少女を失った僕は不透明で真っ暗な生活を歩み続けていた。

 偏差値もそこそこの高校でやる気の無い僕はよく担当教師に叱られ、三者面談では授業中に上の空で聞いていないと言われてしまう。

 窮屈な世界に閉じ込められている僕に代わって両親は全力で庇う。

 そうする理由は事件の詳細と僕の人生を大きく変えてしまった彼女を父と母は知っていたからだ。

 目の前で僕の名前の言いづらさに深く考え込んでいる女性はある少女に瓜二つだ。

 決定的に違うのは髪の色と恐らくは彼女の名前。

 現実で大切な人を失ったからって……少女と重ねるなんてどうかしている。


「ショウタでいい?」


 わざわざ下の名前で呼んでくれるとは。異性ではこれで二人目になった。

 因みに母は含まない、いや含んではならない。

 殆どの人達は僕のことを呼びづらそうに上で呼んでくる。唯一の例外は幼稚園の頃から切っても切れない関係に当たる親友になるけど。

 

「うん、それでいいよ。ところで君の名前を聞かせてもらってもいいかな?」


「えっ? あ、ああ! そうね、貴方の珍しい名前を聞いてしまったお陰で名乗るのを忘れるところだった」


 うっかり屋さんなのか。随分と天然な所があるな。


「わ、私はマリー・トワイライト。宜しく」

 

 僕、神無月翔大はある日突然異世界に転移するという形で導かれた。何の音沙汰も無しに。

 異世界大好き小説家達ならこの状況下でいったいどうするんだ?

 まだまだ見ず知らない女性と一緒に街を訪れ、まるで恋人のように買い物を満喫? 

 それか、異世界自体を満喫するために現実を捨てて楽しいリアルタイムを過ごしていくのか?

 そうなったらそれはそれで結構楽しいかも。


「そうか。そうなんだね」


「君はどこから来たの? 服装がずぼらなのが凄く気になっちゃうけど」


 これって隠しても仕方が無いのか。あーあ、こんな時はどう対処すれば良いのか教えてよ……グーグレ先生。

 と心の中で叫んで置いといて肝心のスマホは僕の机でおやすみ中。

 言うしか無いか。言っても分かってくれるとは思わないけど。


「世界でも珍しい島国である日本に住んでいるんだ。日本って名前に見覚えはある?」


「いいえ。そんな国の名前は恐らくどこを歩いても存在しない……いったい貴方は何者なの?」


「君から見れば異世界人かな。僕は至って普通の人間で何もできない」


 魔法も武器も小説の中でファンタジーだと決めつけている。どうせ、現実にこんな不可思議な現象を起こせやしない。

 掌から炎を出したり稲妻を出したりとそんな超常現象を引き起こせているのなら全世界の科学者から大注目を浴びて視線が集まりかねない……と、この世界に来るまでの僕はそのような固定観念に囚われていた。

 しかし、残念ながら固定観念はすぐに取り除かれる。何故なら目の前に居る彼女はいとも簡単に手から炎を生み出しているから。

 

「う、うわぁ!」


「えっと。例えばこういう魔法もできないの?」


 いやいや無理だよ。と言うか、どうやったらそんなことができるの!?

 熱々! 近付かないでくれ。

 

「魔法なんて僕の世界では使われるどころか現実的に不可能だよ」


「嘘!? それじゃあ、どうやって暮らしているのよ」


「古典的であればマッチ。現代的にいけばライターとかガスコンロとかで暮らしているよ」


 駄目だ。頭の中に疑問符を沢山浮かべている。このままだと彼女の頭がパンクしそうだから話を元に戻すとしよう。

 まずはパジャマ姿からこの世界に見合う服装に変えて、新しい生活に馴染んでいかないと。


「とにかく今の僕はどうすれば良いのか分かっていない状態なんだ。こうやって、肩に触れ合って会えたのも何かのご縁。世界の紹介ついでに案内をしてくれないかな?」


 という感じで下から目線で頭を下げれば、大抵の人たちは文句を言わずに言うことを聞いてくれるだろう。

 彼女マリーも頭を悩ませながらも、頷いたような表情でこちらを見ているし。


「分かった。それじゃあ、ここから歩いていけば村に到着するから早速行くよ」


「ありがとう。感謝するよ」


「別にいいわよ。それよりも……ここで生きていくのなら名前はショウタ・カンナヅキとして通しておきなさい。あと不用意に異世界から来たと言わない方が良いわ。場合によっては連行されかねないから」


 それは確かに。相手が僕に向かって、どこから来たの? と言う質問に対して「日本という島国から来ました」なんて言葉を吐いたが最後、どうなるのか想像できちゃうのが怖い。

 

 マリーが優しい女の子で助かった。今日の僕は本当に運が良い。


「ありがとう。初めて異世界出会ったのが君で良かったよ。何か運命を感じちゃうな」


「そ、そう。そんなにお礼ばっかり言われると、あまり悪い気はしないわね」


 彼女マリーとは街まで歩いている最中に多くの雑談を交わした。

 何のたわいもないお話を。話している時に窺える横顔はどこか現実世界で失った女の子に見えて仕方が無かった。


「ん? 私の顔にゴミとか付いているの?」


「いや。どっちかと言うとマリーの横顔があの子に似ていたから。ついつい見ちゃった感じかな」


「へぇ……その子は貴方の世界ではどんな存在なの?」


 その子は艶のある黒色の髪に綺麗な瞳。繊細な身体をしていて、どこか小悪魔みたいな性格をしている女の子。

 君はその女の子とは少し違う。髪は白色で瞳は黒そして極めつけに動きやすさを重視した純白のドレス。雰囲気だけはあの子とそっくりだ。


「大切な存在だよ。それでいて初めて恋を――!?」


 景色は真っ黒。横を見てもマリーの姿は居ない。どうなっている……僕の状態は。

 このまま音もしない視界も見えない世界に閉じ込められたら僕は孤独死になりかねない。

 それだけは……それだけは。

 無重力に立たされた真っ黒の空間で不意に音が運んでくる。その音は近くに行けば行くほど耳を塞ぎたくなるほどの音で。


「うわぁ!」


 タイマーの音がうるさいうるさい……ってあれ? ここは。


「どうして。さっきまで草原に居たはずなのに」


 パジャマ姿であることに変わりは無い。ただ、唯一違うのは今僕が立っている場所。

 棚に散らかっている本と半分の頻度で使われていない机。そして何より決定的なのがカーテンを開けた先にある沢山の一軒家と早朝特有の眩しい朝日。

 開いた口が塞がらない。つい、さっきまで僕が歩いていた景色とあの子は夢物語だったのか? 

 

 いや、それは違う。

 

 あの時確かに僕は頬をつねって、嫌と言うほどにあの世界は現実だと実感した。

 そして僕の初恋だった女の子によく似ていた子と運命の出会いを果たした。

 だが、突如としてにわかに信じられない……が、異世界転移をしてきた僕は戻ってきた。

 現実の世界へと。


   《異世界?》→→→→→《現実》     

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