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エピソード18:気に入られちゃったみたいです……

「よくぞ、参られた! 今回の一件に関しては感謝しても仕切りない物である!」


「いえいえ、私はマリー・トワイライトと共に付き添いとして同行していたに過ぎません。道中でオウジャに匿われている子供達を救出して欲しいと聞かされた時は驚かされましたが」


「なんと……それは真か?」


「はい。今回の件に付きましては全て私の独断による行動です。本来国の立場として敵国に誘拐された子供達を放置しなければならないのでしょうが、我慢ならずに出てしまいました。国に対する処罰に関しては全てを受け入れる覚悟で御座います」


 ここは愛と平和を掲げる人々に愛された王国であるゲネシス。

 四つの地方に別れた場所の一つ、エナジーは国王が住まう最大の地方と言える。 

 あの砂漠だらけのオウジャから馬車を拾い上げ、時々はしゃぐ子供達を眺めながらも数日。

 どうにかこうにか渡り歩く事でようやく辿り着いた。無論、その間に現実世界に行った記憶はない。

 僕は何時間か経てば行ってしまうと想定していたけど、その読みは大きく外れたみたいだ。

 

「いいや。本来ならば私があの国の王と話し合い、きちんとした取り引きで取り戻すのが妥当であったものを……下手な事を仕出かせば戦争の火種に繋がりかねないという臆病な心があったばかりに無邪気な子供達を危険に晒してしまった。あと少しでも遅ければ子供達はコロシアムの勝者に奴隷あるいは道具として好き勝手に扱われると思うと、私は一生の傷を受けかねなかった。全く……愛と平和を謳う私がここまで貧弱になるとは。王の資格を疑いたくなるものだ」


 エナジー王宮のトップの座に君臨するバルド・アンビシャス王は今回起こしてしまった件に非常に頭を悩ませている。

 一方でそれを宥めるマリーはいつもの優しい表情をしていて落ち着いた声で諭している。

 聞く人によっては大変癒される声帯。彼女の声は僕にとって癒しの存在として認識している。


「この国を築き上げた国王は貴方です。お気をしっかりとなさられて下さい!」


「ふむ、そうであったな。国をまとめ上げる私がここで弱気になるのは王としては失格であった」


「バルド国王。ショウタ・カンナヅキからオウジャ・デッキがいずれ近い内に戦争を起こそうと企んでいるとの情報を入手しました」


 あれはハッタリなどではない。あのオウジャは着実に戦争を始める準備を秘密裏に現在も進めているに違いない。

 手遅れになる前に王が動いてくれないと場合によっては国全体が焼け野はらになりかねない事態に繋がる。

 この世界に住んでいない僕からしてみたら、他人のような物だけど……エナジー地方を歩いている途中にあった豊かな街が焼け野はらになり一般人が悲鳴を上げている世界になるのを黙って見過ごす程に心は腐っていない。


「なんと言う事だ。それが、事実となれば早急に奴との対談をハーゲン国王と共に三人の真摯なる話し合いをせねばなるまい」


 知らない名前が出てきた。ハーゲン国王はスクラッシュの王と言う認識で良いのだろうか?


「マリー・トワイライトそしてショウタ・カンナヅキよ。子供達を救出した件については真に大義であった。オウジャで往復し疲れきった身体をこの街で思う存分に寛ぐが良い」


 話を切り上げると、バルド国王は椅子から立ち上がり近くに置いていた武器となる鞘を腰にセットすると一瞬にして立ち去っていく。

 王室に取り残された僕とマリー。何人かの側近が佇む中でただ王の椅子の隣に座っている女の子と視線が……合った?

 金髪でいてエメラルドの瞳を宿す女の子は可愛らしい表情でこちらを見つめている。

 それでいて、こっちに歩み寄ってきましたよ!?


「ショウタ・カンナヅキさん。良いお名前ですね!」


 はにかむ表情が凄く可愛いです。これは並の人間なら悩殺じゃないですか。


「アン・ゲネシス。バルド国王の娘にして民からは王女として認識されております。以後宜しくお付き合い下さいね」


 小さな手は僕の手を優しく握る。何秒か握り返していると隣のマリーからの視線が痛い。


「ちょっと、デレデレしすぎよ」


「いやいや、これは違うんだ!」


「何が違うのだか……」


「ふふっ、ショウタさんは素直ですね。私、貴方の事がもっと好きになれそうです!」


「えっ!」


「アン王女!?」


 慌てふためているマリーを放置して僕の腕をぎゅっと掴むアン王女から匂う花の香り。

 い、いかん……こんな状態が長く続いたら男としての理性が持たないって。


「それでは、時間もある事ですから私がこの王国をご案内にしましょう! 街の子供達を助けれてくれたお詫びも兼ねてお礼をさせて下さい!」


 マリーの表情が心無しか暗い。これは巧い言葉でかわして置いた方が無難か。

 折角案内して下さる王女には悪いけど。


「折角ですが丁重にお断りします」


「あら、どうして?」


「そ、それは……そのゲネシス王女とあろう者が私のような身分が低い者を案内など相応しくないーー」


「いいえ、貴方は私の相手に相応しいのです! 少なくとも私を一瞬にして虜にしている時点で」


「うぇ? おわぁぁぁ!」


 腕をがっつりと掴まれている時点で振りほどける筈もなかった。

 いや、本気でやれば出来ない事もないけど王女相手に手荒な真似は不可能。

 この王室に佇む側近に何をされるか……考えるだけでも背筋が凍る。


「マリー、ご苦労様でした。貴方は長旅の疲れを癒してください。私はショウタ様にこの街の魅力についてご案内して行きますので」


「勝手に外を行かれる事は許されておりません。それゆえ貴方は王女の立場にあらせられておりますゆえに、どうか冷静な判断を」


「貴方達は引き続き王宮の警護を。私は何かありましたらショウタ様を頼りにしますのでご心配なく」


「アン!! ショウタが嫌がっている。その手を離して上げて」


 懇願にも等しきマリーの悲痛の叫びにも関わらずアン王女の考えは決して変わらない。

 それ所か僕の腕を更にきつく握り締めてきた。


「マリー……ここは王室よ? 幾ら私達が小さい頃の仲だったとしても場所は選びなさい」


「うっ、申し訳ありません」


「私の願いを聞き届けてくれた貴方には深い感謝をするわ。ただ、これ以上の邪魔はしないでくれる?」


「はい……」


 早足で去っていくマリー。床に落ちた一滴の雫。急いで追い掛けたかった。

 けれど、それは握り締めてきたアン王女に拒まれてしまった。

 

「さぁ、行きましょう?」


「うん」


 マリーの話し方から鑑みて、小さい時から友達の関係だったと思われるアン王女。

 どのような過去があったのかは詳しく聞いてみない事には分からないけど、僕からみて現在の彼女達の仲はそれほど良好そうには見えない。

 どちらと言われれば王国の姫の立場に立っているアン・ゲネシスが部下のマリー・トワイライトに冷たく当たっているような。

 あの現場を直接見ている僕からしたら友達かどうかすらも怪しい。


「ここはゲネシス家とそれに支える者のみしか入る事が許されない庭園になります。一週間に何回から手入れをされているので常に清潔な状態で寛げます。私自身、疲れた時に何回か訪れていますの」


「へ、へぇ」


「さっきから上の空。何を考えているのか当てましょうか?」


「いや別に考えていないよ。この庭園はよく手入れされているなと」


「私とマリーについてでしょう? 庭園を紹介していた時、貴方の目線は屋根を向いていましたから。嘘をつくのが下手くそなんですね」


 エスパー並の実力。まさか、僕の考えている事を読み取られるとは。

 このお姫さまは侮れない。


「あの子は幼少期の頃から、それこそ学園で魔法の勉強を嗜んでいた時からのお付き合いでした。彼女は私よりも魔法を覚えるのが一段と早くて皆からは注目の的で……立場が姫である以上他の者から話し掛けられたりはしましたが、やっぱり才能の面に置いては彼女に追い抜かれて嫉妬したりもしました。今ではバルド国王の隣に座っているだけで、挨拶とか行事や秘密の外出をしたりする王女の立場を利用して地位を確かにする卑怯な女です」

 

 地位は確かあっても才能は生まれた時に定まる。身分はあるが才能が埋まらないアン・ゲネシス王女と身分はなけれど才能は元から発揮していたマリー・トワイライト。

 双方の尖った凹凸おうとつの相性は例え小さい頃から仲が良かったとしても年を重ねる頃には次第に溝が出来てしまう。

 それが、僕が間近に見てしまったあの光景に繋がる訳だ。


「ですが貴方には正直に言います」


 アン王女は僕の身体に身を預ける。その重みはそっと優しく。

 とても引き剥がすような雰囲気ではない。彼女の頬が僕の胸に当たる。

 そんなに近くに来られたら心臓の音がバレてしまう。静まってくれ……煩い鼓動よ!


「一目、王室で貴方と目が合った時から運命を感じました。この想いは正しく恋であると……貴方にとってはいきなりで困惑してしまうでしょうけど、私は貴方と結婚を前提にお付き合いしたいのです。答えを聞かせては頂けないでしょうか?」


 さすがにいきなり過ぎだ。1日も経過していないのにそれはあんまりにもおかしいと思うの僕だけか?


「ふふっ、ごめんなさい。私って言いたい事は先に済ませておきたい性格なの。こう言うのはもっと沢山の時間を掛けてから言わないといけないのに。これからはゆっくりとお話ししていきましょう!」


 何と言うか……彼女は独特のペースを握っている気がしてならない。

 可愛らしい容姿でいながらも与える時間すらも遮断する性質に自分のペースに乗せていく小悪魔な彼女。

 

 王女とは大分かけ離れた腹黒さが妙に引っ掛かると。


「あら、顔がお疲れのようですね。長旅でお疲れみたいですし、私の部屋にご案内しましょう。きっとお気に召して頂けまーー」


「まだ大丈夫。もうちょっと観光しようよ」


 まずい、その部屋に入ったら安易に出られないぞ。今の彼女のペースに嵌まれば行き着く先に未来はない。

 どうにかこうにかして避けるんだ!


「そうですか。でしたら街の中を案内しましょう。ここに到着する前に色々と見て回られたとは思いますが」


「門番とかに止められたりはしないの?」


「それについてはご心配には及びません。王室でも言いましたがいざとなったら貴方が私を助けて頂けたら済む話ですので」


 僕は何かのヒーローだと思われているのか? こんな武器がなければ頼りにならない男を盾にするのは間違っていると思うけど。

 彼女の気が済むまで付き合うしかないのか……はぁ。

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