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エピソード14:パワフルオブパワフル

 観客席からの熱狂。冴えやまぬ環境に置いて、一人の王がほくそ笑む。 

 多種多様の挑戦者がこのコロシアムにおける頂点という名の称号と褒美を求めて。

 しかし、王はこの試合に面白味を感じない。ただ唯一求める物はアビスさえも唸らせた蒼剣の青年。

 コロシアムを急遽設立したのはこの青年の力を己が試さんとする為。


「ふははっ、奴も中々どうして逸材がある……そうは思わないか、アビスよ?」


「お前の懇願は何処にある? それを成し得た先に何を見る?」


 王を前にして対等な態度に部下は人相を変えて睨みつけるも、当人の王は邪魔をするなと言いたげな合図を送る事で部下は王を見守る体勢で距離を取る。

 それでもなお警戒の視線を感じながらもアビスは堂々とした態度で望む。

 質問がまさかの質問となって返ってきた事に王は舌を巻きながらも切り返した。


「質問に質問で返すとは……ふむ、そうだな。強いて言うとすれば己の欲を満たす事にあるか。今の俺様はお前を苦戦させた青年の力を試す事に意義があるのさ」


 流れ作業の見物する王は時折欠伸をしながら退屈そうに眺める。 

 その中で自身が興味を持った挑戦者は二人。一人は1回戦目に置いて優れた力を持ってして対戦相手を敗北におとしめた例の青年。

 そして二人目はハンマーという扱いにくい代物を容易く扱う赤毛の青年。

 どちらとも王の目を注目させた資格ある人物。もし、仮に彼等とぶつかり合えば試合はどの結末に向かうか。


「ふっ、俺様の妄想は現実となったか」


「決勝は蒼剣の使い手と鈍器使いか。双方の力は相応となるだろう」


「小難しい話は抜きにして、お前も楽しめ。この決勝……俺達を楽しませてくれるかもしれん」


 白熱する試合の舞台に立つは二人の男性。観客席の周りを一望出来る特等席から目立たぬように眺めるアビス。

 その瞳は蒼剣をしかと捉えて。


「これが終われば俺様の番になろうな」


「行くのか?」


「戦の準備は王であれど万全に望まねばなるまい。なにせ俺様が挑む挑戦者は……貴様を怯ませた好敵手に当たるからな」


「まだ勝負すら始まっていない」


 始まりの合図すら鳴っていない場内。戦闘はこれからだと言うのに王は席を立つ。

 決勝戦の結果が分かりもしない状況に置いて王は蒼剣を構えた青年を凝視してから、その場で苦笑した。


「結果なぞ俺様が確認した時点で決まっているような物だ……この勝負はあの青年が手にする。そうなったら俺様の楽しみが一つ増える!」


「楽観的だな」


「そうだな。俺様も少しは興奮しているようだ……胸の高鳴りが止まらんよ」


※※※※


 準決勝も何とか勝利した僕に何者かの視線を感じる。


「考えすぎか……どうせ、観客席の観客だよね。それよりも」


 この決勝の舞台に立った瞬間に足がどうにも重い。対戦相手は当たらない欲しかった選手だ。

 ハンマーを背中に担いでニコニコとした表情で舞台に這い上がる男性。

 僕と年相応なのが分かる。違いは髪が存在感を際立たせる赤毛と男気のある服装を羽織っていて、瞳がヤンキーかの如く厳ついぐらいか。


「精々数分で倒れるんじゃねえぞ」


「いきなりの上から目線ですか」


「へえ、俺を見ても腰を引かないとは」


「生憎僕にも意地があって、この舞台に立っているんです。そう簡単に倒れる訳にもいきませんよ、アマツ・ノワールさん」


「名前も覚えていたのか……物覚えが良い奴だな」


 いつでも掛かってこいか。


「お前の戦闘スタイルは中々だ。しかし、俺相手に上手く立ち回れるかお手並み拝見と行くぜ!」


 マリー、僕はこのコロシアムで景品に掛けられた子供達を救う。

 如何なる相手が悠然とした態度で立ち塞がろうとも……負けたりはしない! 

 その想いに応えよ、蒼剣!


「パワースタイルを好むアマツ・ノワール。決勝戦の相手としては充分過ぎる強敵……しかし、僕には逃げれない理由があるんだ! ここは勝たせて貰うぞ!」


「決勝戦、ショウタ・カンナヅキVSアマツ・ノワール。戦闘開始!」


「はぁぁぁぁ!」


「おらぁぁぁ!」


 ほぼ同時のタイミングで武器はぶつかる。乱れに乱れる火花は地面を波打つ。

 相手側のハンマーは剣よりも体積が遥かにある重量に置いては大変優れた武器で威力も申し分ない。

 下手して一撃でも当たれば、致命傷は免れない。だけど、残念ながら僕にはチートと呼べる最強の力が瞳にある。

 それさえあれば何とか耐えられる。相手が次に移る行動を瞳は見せてくれる。

 僕はその両目を頼りにして有利になり得る行動を起こす。最初の時は剣を振るわせないように何度も何度もハンマーで叩きのめす行動をしていたアマツ。

 それが何分かぎりぎりまで耐え忍ぶと次は距離を取って、周囲に炎の龍を何体か誘き寄せる。

 燃え上がる息を吐き散らす龍の視線は当然僕に向けている。合計4体の龍が次に移す行動は……どうにか捉える事に成功した。

 そして、その隙に僕の背中に回り込もうとするアマツの算段すらも。

 

「さて……どう対処しようか」


「こいつらに掛かればお前も丸焦げ! 熱々の肉になりやがれ!」


 壁の方に走っていく。上手く成功するかは一か八かの賭けに入るけど。

 

「燃やしてしまいな!」


 4体の龍が声を上げて、追ってきた! これに一度でも当たれば身体は一瞬にして丸焦げと化す。

 美味しく丸焼きになったお肉なんて考えるだけでぞっとするよ……それだけは是が非でもお断りです!


「いけぇぇぇ!」

 

 全力失踪で壁へと足をつけて何mかはある無機質の壁を廊下のようして走り抜ける。

 これが忍者伝統? の壁走り! あっちの世界ではこんな走り方出来る訳がないけど魔法もある世界だったら何でも叶う。

 化学の概念すらもねじ伏せてしまう異世界の力ならね。


「壁を使って走るとか正気かよ!?」


 相手の次の行動が変わった! だけど、こいつを倒す前に龍を倒しておかないと本丸が倒せない。

 ここは正面突破を止めて、一体一体確実に切り払う!


「相手の動きが止まった! さっさとやっちまえ!」


 4体の龍が一斉に襲い掛かってきた。ここでお前の出番だぞ、蒼剣!

 剣の先は龍の瞳に向けて。次に移す行動を先読みで脳内にインプットしてから勝利の法則を作り上げる。

 顔面から降り掛かる龍には横切りで、二体目の龍は一体目の龍を土台にして勢いをつけて顔面ごと振り下ろし。

 三体目は二体目が地面に倒れた瞬間に真空波のように軽く剣を飛ばす。


「俺ご自慢の龍が……こうもあっさりと」

 

 4体目の龍は主の方に戻っていったというよりは戻したんだな。


「残るは君だけだ」


「へっ、こいつは骨がある! ここは本気で行くとするか!」


 ハンマーを豪快に振りかざす。相手のパターンを目で読み取りながら、上手い具合に相手をしている内に地面は穴だらけ。

 アマツは鬼で僕は鬼に追われる標的。良い具合に避け続けると相手の鬼は痺れを切らしている。

 よしよし、程良い具合になってきた。そろそろ終わりにしよう。

 

 勢いをつけた蒼剣はハンマーと互いに音を打ち鳴らす。アマツはこの機会を逃すまいと僕の方に押し付けてきた。

 ここが最後の山場か。


「いい加減……沈めやぁぁ」


 コロシアムの賞品に無理矢理当てられた子供達は必ず救う! 君がどれ程の理想を掲げてきたとしても。

 マリーに約束した以上は後に退けない!


「僕はあっちの世界では内気であの時を境に殻の中に閉じ籠もる性格でうんざりしていた。この世界では色んな刺激があって、その上で色んな経験が出来ているけど……まだまだ、確かめないといけない」


「ちっ! 当たらなさすぎだろ!」


 眉間にしわを寄せたアマツは埒が明かないと判断したのたか、距離を取ってからハンマーを頭上で何回転か振り回すと力一杯地面へ叩き込む。

 激しく揺れる振動とひび割れ寸前の地面をアマツの足は再び僕の元に飛び込む形で振り上げる。

 ピシリと静まる空間。頃合いを読んだ後に脇腹を蒼剣の矛先を持ってして程良いタイミングで切り裂く。

 

「おいおい……」

 

 脇腹から出血した身体を無理矢理手で押さえようとするアマツ。

 徐々に広がり出した血は地面の一部を赤色に染め上げる。致命傷を喰らわしたのに関わらず、それでもなおハンマーを持ち上げ振るう姿は中々にしぶとい。


「そこらの野郎のようには弱くねえんだ。俺は絶対的に強い……なのによぉぉ!」


 君の一手がこの視界を捉える限り、僕は回避する。どれだけ猛威を振るおうが何をどうこうしようが、瞳に宿した先読みの能力が存在すれば君は勝てない。

 

「諦めるんだ。この戦いに君の勝利は約束されていない」


 動きが鈍くなった刹那。僕が突き上げた剣先は丁度腹部に当たる寸前。あと少しでも動かせばアマツは終わる。

 彼の敗因はいつまでも仕留められない僕を何としても倒す為に無我夢中で追い詰めてきた事。

 血に上った者はその目的以外の認識力が薄まる。そこを僕がつついただけって話だ。


「はっ、こいつは一杯食わされたな」


 この勝負に勝ち目は無いと悟ったのか武器を落として審判に分かりやすく両手を高い位置に。

 

「そこまで! 勝者ショウタ・カンナヅキ!」


「何故だ、何故俺が……くそっ」


 落としたハンマーを拾い上げ、去っていく後ろ姿はどこか寂しさを感じる。

 彼の優勝を果たそうとする決意はこの僕が壊した。ただ、申し訳ない気持ちはこれっぽちもない。

 僕には目指すべき目標がある。マリーの為にもそして何よりもそれを叶える為にはこのコロシアムの優勝を目指す他ない。

 けれど、それもようやく終われる。苦労が報われる時が訪れたんだ。

 審判は表舞台から立ち去る。取り残された僕は場内で見物を決め込む観客からの拍手喝采を受けた。

 後はオウジャが景品に設けた子供達を救出して、この国を脱出。

 それで一つの目的が終われるとこの瞬間まで終わっていた。場内に踏み入れる者の足音を聞き入るまでは。


「やはりお前が勝ったか。俺様の見立てはあながち当てになると立証されたな」


 目がチカチカする位に輝いた黄金の鎧。赤の瞳はこちらを捉える。

 あいつがオウジャ。このオウジャなる国をまとめあげる王であり二つの国から要警戒されている人物。

 金髪のざらついた髪と危険な雰囲気を帯びているから、間近で目にした僕からしてみれば恐ろしく怖い。


「貴方が」


「オウジャ・デッキ。この国を象徴とする王であり尚且つ世界を我が手中に治めんとする最強の王として名乗り上げよう」

 

 金色の槍が僕の方に。あの人は優勝を確保した僕に対して戦闘を挑んでいるかのようだ。 

 

「では、始めるとするか。あやつを退かせ更には決勝相手も退かせたお前との純粋なる試合を」

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