エピソード13:攻勢、攻勢、劣勢
王主催のコロシアムはなんと本日の夕方に開催。急過ぎた為にコロシアムの参加者は取り敢えずエントリーを済ませて、慌ただしくあっちらこっちらと世話しなく動き回る。
「ショウタ・カンナヅキ、お前のエントリーを確認した。ささやかながら健闘を祈らせて貰う」
「どうも」
エントリーは僕で全員。総勢合わせみると12人の挑戦者が舞台に立つ。
このコロシアムで勝ち抜くには何度か倒して優勝を手にする他あの子達を救えない。
もしかしたら別の方法だってあったけど無理矢理子供達を留置所から夜な夜な忍び込んで救出するとか。
しかし、それは僕にとって危険な賭けに出る上に万が一にでも子供達に怪我をさせてしまったらと考えればこちらの方法が一番の策だ。だから、今はオウジャが用意した舞台に乗っかってやるのがベストだ。
精々堂々と相手に勝って取り戻す!その為にも頼むぞ、蒼剣!
「やっぱり私も参加する。見ているだけなんて、只の人任せよ」
この舞台に参加したい気持ちは僕よりも強いのがマリーだ。
それもその筈、彼女は拉致された子供達と認識があるのだから。
実際どれくらい仲が良かったのかは彼女の口から聞かない限り分かりかねるけど、殆んどが男性の舞台に飛び込もうとしているのだから人一倍勇気があると思う。
「残念ですが、女性のエントリーは受け付けておりません。それに舞台の制限人数が超過している以上受ける訳には……」
コロシアムの参加条件は全員男性。オウジャが用意する舞台に女は邪魔だという事か。何たる偏見だ。
「マリー。君の気持ちも乗せて、僕はこのコロシアムに出向くよ。大丈夫! やるからには全力で勝ちを狙いにいくから、君は会場で応援していてくれ」
「あの子達は小さい頃からお姉さんとして遊んであげた、とても優しい子供達なの。だから、出来る事なら私がこの手で助けて上げたかった。この舞台で何十人の挑戦者を薙ぎ倒してでも」
拳の握り具合で分かる。彼女は参加出来ない事にかなり悔しい気持ちで一杯のようだ。
こうなった以上敗北は認められない。どんな強豪が相手であろうとも絶対に倒す! マリーが喜ぶ顔を見る為に。
今の僕にはたったそれだけでも充分だ。難しい事はまだまだ分かっていないのだから。
「貴方に任せます。あの子達をどうか宜しくね」
「うん」
試合開始まで三時間。僕に出来る最善はただ出向かってくる相手に備える事。
まだ敵と沢山渡り合えていなかった僕は戦闘経験がそれなりにあるマリーに武器の対処について教わりながら最終的に身体で覚えていく。
始めは覚えていくのに必死で中々大変だったけど、馴れていく内に身体は自然とした反応で回避する。
所謂条件反射って奴か。これだけスムーズに動けるのならコロシアムで大いに役立ってくれる事間違い無し。
まぁ、練習と本番は大分違うみたいだから上手く行ったとしても安心出来ない。
やはり、力に頼るしかないか。これさえ使えば大抵上手く物事が進むし。
「コツは掴めそう?」
「ぼちぼちかな。最悪先読みの力で相手の動きを読み取ってしまう手も有効だけど」
準備はほぼほぼ済ませておいた。後は本番で成果を発揮させるだけ。
「私は応援しか出来ないけど……この大会、貴方が絶対に勝ちますように祈るね」
「あぁ、期待していてくれ」
高鳴る鼓動を抑えて、いざコロシアムの舞台に舞い上がる僕。
見渡す限りに多い尽くす観客を見ている僕の心臓は更に音を鳴らす。
ドクンドクンと緊張感が高まる鼓動を手で収めつつ、いよいよ火蓋が切って訪れる第一回戦。
総勢12人の中で僕の該当する回戦は一戦目。まさかの初っぱなから。
うへぇ、いきなり僕とか。緊張しまくって身体の震えが止まらないよぉ。
「へっ、こりゃあ優勝は貰ったも同然か」
一回戦の相手は斧を肩に担ぐパワータイプ。隙を見て叩き込めば勝利は見えるが、果たしてそう簡単に倒せるのか。
このコロシアムに挑む相手は相応の実力があってエントリーしているから油断はならない。
「お手柔らかに」
「悪いが腕を折るレベルで殺らせて貰う。死にたくないのなら今サレンダーしな。何秒か待ってやる」
「生憎僕には果たすべき役目がある。だから、そう簡単には折らせないよ」
「口だけは一丁前か。ならば力でぶつかりあってやるとしよう」
さぁ、落ち着いていこう。まずは息を整えてから自然な形でグーからパーへ。
武器が掌から現れるイメージを脳内で妄想してみれば……よし、出てきたぞ。
「手品か。粋な演出をするもんだ」
「この一回戦、やるからには勝利を目指す!」
「どちらかが倒れるまで戦闘を続行とする最初の第一回戦、ショウタ・カンナヅキVSアレクサン・ルーズ! 戦闘……始め!!」
「お先は俺からだぁぁぁ!」
一気に振り下ろすか! 猛ダッシュで駆け寄ってきた斧使いアレクサンの大きな振り下ろすしに反射して避けるも束の間。相手は続けて振り回す。
先読みで見えた動きに合わせて、タイミングが重なりあってきた時に蒼剣を手前に構えて防御の行動へ。
奴は本の一瞬、眉をピクリと動かしていた。そうなるとあれは動揺か?
そうなれば、こっちのパターンで沈めてみるとしよう! 上手くチャンスを掴んでいく方向性で!
「うぜぇぞ! こらぁぁぁ」
先読みで見えてきた早送りされたイメージ映像。斧を振り下ろすタイミングと場所を頭で理解しながら、どう攻めていくかという事を決めかねていた。
余りに早すぎてしまうと僕の能力が周辺に浸透して騒ぎを新しく生み出す恐れも高い。
ここはあくまでもタイミング良く冷静にやっておかないと。
「くそくそ、なんで当たらねえ!」
「敵が見えた途端に捻り潰すパワータイプ。パターンとして大胆かつ豪快に。標的を直に捉えて重たい斧を軽々と使いこなす貴方の腕前は相当と見える。しかし、僕から見てしまえばそれは全て単調。振り下ろす瞬間にラグが見える攻撃程事前に避けられる物はないんですよ」
「くっ……調子に乗るなよ、クソガキ!」
残念、それも見えていた。貴方の攻撃パターンはこの先読みで見切っている。
次の攻勢は僕から畳み掛けるぞ。
「貴方はここでリタイヤです!」
「リタイヤするのはお前だ。俺は負けねえ!」
がら空きの位置に横払い。一瞬だけ怯んだ時に数回の斬撃を。そうしてトドメにななめ切りでフィニッシュ! これで上手く物事が運んでくれたら……倒れてくれる筈。
「俺は……まだ、ここで倒れる訳にはいかねえんだ」
どうして、立ち上がる。いい加減に倒れてくれよ。
一回戦は蒼剣の力を発揮するだけで僕の身体は随分と重くなってしまった。
これ以上の長期戦は出来る限り抑えておきたい所だけど。
「へっ、お前も一回戦目からふらふらとした動きで落ち着きがないじゃないか。これなら俺もお前に勝てるかもしれないな」
「そう簡単にリタイヤはしませんよ。僕ってこう見えて黒いG並みに生命力はある方でね」
蒼剣から凄まじいオーラが宿る。力も込めていない状況で自然に出来てきたのか……この剣は僕の意識とは関係なく動いてくれる。
「じゃあ、こいつでお仕舞いにしてあげますよ」
「はっ! ふざけろ!」
剣と斧。二つの武器が互いに金属音を撒き散らせると残ったのは持ち手の部分が転がり落ちた斧の先端。
アレクサンはここでようやく崩れ落ちた。こちら側からは顔がよく伺えないが……きっと自分の武器を失って気力を失っているかもしれない。
今はそっとしておいた方が逆に良いだろう。
「アレクサン・ルーズ、武器の損失により戦闘続行不能。勝者、ショウタ・カンナヅキ!!」
まずは初戦を通過出来たけど、まだまだ気は緩めそうにない。
身体が重くてどうにかなっちゃいそうだけど観客席から伺えるマリーの笑顔だけが僕の唯一の癒しだ。
さて、次の試合も初戦と同じく全身全霊を持って挑むとしよう!
「お前のインチキ手品は何処で手に入れた? 俺が振った攻撃を殆んど目で追うようにして回避した攻撃。あれは普通に考えれば予測しようのない回避だった筈。なのに意図も容易く避けれた理由……教えてくれよ」
先読み。この力は突如手にした超能力の類い。そして敵にはインチキかつ不思議なトリックとして捉える力の種明かしを僕はそう簡単に教えない。
これから先、何があったとしても。
「君は弱かった、だから敗北という戦績を残した。今度は武器と自分の相性を考えて舞台に立てば良いよ。そうしたらおのずと強くなれる」
次の相手はどうなるんだろう。表の二回戦を見る限りでは……軽量の武器を嗜む挑戦者との戦闘。
そして、その表の遥か上の観客席の位置から見下ろすような形で僕を見下ろすオウジャ。
ニヤっとした表情と小さく叩いているようにも見える拍手。眼光は完全に僕の方へと向いている。
何か背筋がゾッとしてたまらない。あれは良からぬ事を考えている目付きだ。
ゾクリとした僕は急いで挑戦者専用の休憩室兼見物室へ。
「二回戦の挑戦者はこちらに」
司会者の声と同時に二回戦が幕を明ける。激しいぶつかり合いと息を付かせぬ戦闘は場内の観客を熱狂させ、初戦を超えたヒートアップに挑戦者達もまじまじと見つめる。
ただ唯一の例外を除いては。
「お前じゃ相手にならねえな!」
「この……野郎」
背中に背負ったハンマー。自分に注目させるかのように目立ったパーカーにやや落ち着きのない赤髪を掻き上げ、悠々とした態度で去っていく。
12人目の挑戦者アマツ・ノワールは11人目の挑戦者を試合開始と同時にパワーにインフレを回した力で完膚無きまでに叩きのめした男性。
その強固なハンマーは彼の技術力も相まって末恐ろしい力を遺憾無く発揮する。
勝負の最中は観客達は一回戦二回戦を超えた怒濤のエールだったのが耳に新しい。
終わってみれば皆が一気にシーンと静まり返った空気と化しているけど。
「前座はそこの地面にうずくまっていろ」
視線があった。彼は僕を見ながら合図をしている。
「俺は負けない……か」
それはこちらも同じだ。向かってくる以上僕も真剣にやらせて貰うぞ。
「僕も負けないよ。君に言われて、はいそうですかと潔くはないからね」