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エピソード11:まだまだ前途多難です

 勢いが止まないモンスターの大群。その勢いに押されつつある人達。

 しかし、一人の男だけは違っていた。モンスターとの戦闘に入った途端に手持ちの武器で暴れだした。

 僕は完全に取り残されていた。いやそれを言うならマリーもそうなるのか。手が明らかに動いていない。

 唖然とする戦場に置いて黒の鞘から引き抜いた灰色の剣を得意とする彼は獲物を見付けると怒濤の強襲でモンスターを一体一体着実に切り裂く。

 その時、付着する血に服が飛び散ろうとも全く持って相手にしない。

 この男はアビスと違ったベクトルで狂っている。


「ザット・ディスパイヤー。彼は一度戦闘モードに突入すると命令通りに聞いてくれやしない困った奴でな」


 部隊の問題児か。僕にしてみれば、手のつけられない野生児に見えるけど。

 ザットの世話を任されているこの人も随分と大変な役割を持たされているんだな。


「まぁ、スイッチが入れば終わるまでそう簡単に止まってはくれないが……いざとなれば私の言葉でザットは動きを止める。だから安心して任せられる」


「は、はぁ」


 あんなに暴走して手を付けられそうにない状態にも関わらず本当に止まってくれるのかな? 真しやかには信じられない。


「ぎぃぃ!」


「ガタガタ言ってんじゃねえぞ、外来生物野郎!」


 灰色の剣から飛ばす一撃は相手の首をもぎ取り、或いは全身を真っ二つにして切断。

 モンスターを排除する為にあらゆる手段を用いて片付けているザットの表情は敢然たる殺人鬼。

 一言言ってしまえば相手に容赦がなさすぎる。

 さすがにモンスターは敵だけど、こんなに血祭りにしなくても良い筈だ。

 幾ら何でもやり過ぎとしか言いようがない。


「待ちたまえ。この戦はザットに委ねるのだ」


「あれは完全に暴走しています。いずれ人間相手でも容赦しないバケモノになりかねませんよ」


 これは忠告ではない、僕なりの予言だ。


「ザットはモンスターだけには一切の手を緩めない。ただ、俺達人間には敵意を向ける者以外は絶対に加えない。もし、仮にあったとしても私が命を割いてでも止めてやろう。だから……今は見守ってはくれないだろうか、ショウタ君?」


 そんなに説得されたら僕の立場がないじゃないか。


「ふっ、沈黙は肯定と捉える事にしよう」


「ザット・ディスパイヤー。彼にどんな過去があったのかしら」


 あれだけモンスター相手に冷酷になるのはそれ相応の理由があってやっているのかもしれない。

 いずれにせよ、どういう理由があったとしても今やっている行為は退治よりか殺戮にしか見えない。

 

「おらぁ、次で終わりにしようぜ!!」


 あっという間に半数のモンスターが塵となって消えた。ザットは周辺のモンスターを完膚無きまで片付けた後に残る敵に刃を切りつける。

 モンスターと乱闘し合う姿。その表情は戦いを楽しむよりかは憎しみを込めるかのように剣を振るう。

 ザットの無双により全てが終わった戦場。唖然とする兵士達を余所に彼は安堵の溜め息を吐くと、武器を収めて僕達の方へ歩み寄る。

 数は10以上の30以下。最初の方は僕達の力で追い払ったとは言え、途中参戦を果たしたザットはグランドオアシスを死守せんとする兵士が倒しきれなかった分を彼一人だけでカバーしている。

 それだけで既に驚愕とも言わしめる能力を誇っている。間違っても、こいつとは戦ってはならない。

 もしやりあったら自分の命も危険に晒されかねない。


「やれやれ、雑魚掃除は何とか終わらしてやりましたよ。兄貴」


「結果的にグランドオアシスを守れたな。本当にご苦労だった」


「いーや、指名手配犯を逃した時点で失敗に終わっています。これから、また捜索しねえと」


 うんざりとした顔でライアンに話し掛けるザット。その外見は白を基調とした制服に上からローブを羽織っている。

 髪は控えめな茶色で形が不均等。言動はややDQNに近い感覚で瞳は黒。

 一方で話に耳を傾けている男性ライアンは均一に揃えられた水色の髪で丁寧な口調が特徴的な真面目系男子。

 言動と態度から見るにリーダーの可能性もありか? 武器を取り出した姿は今の所一度もお見かけしていないけど、腰に鞘がある事から武器は剣と推定出来る。


「付近に潜伏している可能性もあるかもしれん。ザット、この周辺をくまなく探すぞ」


「了解しやした。しかし、こうも砂漠だらけだと探すのにも一苦労っすね」


 やれやれとした表情を浮かべながら、モンスターの返り血が付着した灰色の剣を鞘に戻して付近の捜索に入るザット。

 こちらの事については丸っきり無視を決め込んできた。この男はろくに挨拶もしないのか。

 一方でライアンは罰の悪そうな表情で捜索に移るザットを見ていた。

 

「すまない、彼はいつもああいう感じでな。興味のない事は関わろうとしない奴なんだ」


 何事にも無頓着って感じか。部下があんなタイプだと上司も大変だと今実感出来た。


「それで君達はこれからどこへ向かう予定なのかな。もし、私達で良ければ安全な場所まで案内しよう」


 モンスターの多い砂漠に戦力は欠かせない。オウジャに辿り着くまでの間はクライム・ガードの二人を守備に回すのは良い提案だと思う。

 まぁ、問題はさっきから暇そうに砂を蹴っているザットに果たして協力してくれる姿勢を見せるかどうかだけど。


「オウジャに到着するまでの間、私達を警護してくれると助かりますが」


「なっ、オウジャだと……」


 マリーの言葉に表情が一瞬で曇った。やはり、オウジャはクライム・ガードからも危険視されている国だったか。

 これじゃあ、協力は期待出来なそうだ。表情を曇らすライアンを遠くで見ていたザットは砂蹴りを中断して、こちらに近付く。

 興味があったのかな? 若干ではあるけど口角が緩んでいる。


「ここから北を数Km先に進んでいけば鉄壁の城門。その奥に佇むはオウジャ・デッキ。そいつは民から言葉遣いが横柄な事から傲慢王と密かに揶揄され、尚且つ本人は二つの国を掌握する準備に勤しんでいるとか言われてますぜ。しかし、そんな危険地帯に二人だけで入国。入国許可書があったとしても下手に動いたら二度と出られない監獄にぶちこまれる。お二人さんにその覚悟はあるのかい?」


「ご心配には及びません。その為の事前準備は既にこの手に存在していますので」


「随分と強気じゃねえか。言っとくが、あそこは戦争勃発犯になるかもしれない超特大爆弾だ。下手に刺激したら俺はお前達を容赦なく殺ってやる。それでも断固行くのならお前らだけで仲良く行ってろ。俺はお守りよりも遥かに大事な任務があるんで関わるのは御免被るぜ」


 要約するに俺達はオウジャの国について関わる事はしない。勝手にやりたければお前達でやっておけと。

 結局話すだけ無駄に終わったと言う事か。それなら話は早い。


「任務第一な貴方達は勝手に任務をやれば良いじゃないですか。元より私は貴方のような野蛮人と手を組みたくありませんので」


 マリーも強気だな。男と対面しているのに関わらず姿勢を全く変えようとしない。

 言いたい放題言われているザットの拳がわなわなと震えている。

 最悪、殴りかかるんじゃないかと思っていたけどザットは拳を上げなかった。

 しかし、その表情は決して穏やかではない。

 

「へっ、そうですか。だったら俺等は放置しておけば世界を壊しかねない危険人物の確保を最優先に動きます。そういう訳なんで道中気を付けて」


「ご忠告どうも」


「…………」


 雰囲気がピリピリしている。ライアンは申し訳なさそう表情で立ち尽くしている。

 このまま居てもしょうがないから早急に別れよう。これは険悪な雰囲気で主に僕が居てられない。


「そ、それじゃあ僕達はこれで失礼します」


「あぁ。気を付けて」


 気まずいまま別れてしまった治安団の二人。目的地へ向かう前に僕とマリーは一先ずグランドオアシスへ。

 戻ってみると疲労困憊の長老モースが泉の前で座り込んでいた。

 一通り話を聞いてみると、このグランドオアシスにも何体か出現してきたようで撃退するのに体力を根こそぎ奪い取られかねない魔法で撃退したとの事。

 僕とマリーが力を合わせ、後から合流してきたクライム・ガードの二人組の力を借りて何とか退いたと告げるとモースは安堵の表情を浮かべていた。

 報告を終えた後、速やかにオウジャへ。準備はグランドオアシスで軽く終わらせておいた。

 オウジャに拉致された女の子達の奪還。ここでいつまでもチンタラしていたら、あっちの方で何か手遅れになってしまう恐れがあるかもしれない。

 そう思うと自然に足が進む。マリーも同様の気持ちで足を早めていた。


「待ってて。必ず、お姉ちゃんが助けに向かうから」


 傲慢王オウジャが待ち構えるオウジャはもう少し。気を引き締めていこう。


※※※※


「兄貴」


「どうかしたか?」


「少し話しておきたい事が……まぁ、7割方どうでも良い話だったりしますが」


 砂漠は異様な広さで、徒歩で歩き回るには困難でありましてや人探しには不可能。

 救援信号を受け取ってから馬を介して派遣地に急ぎ向かった彼等はまたしても逃したアビスの行方を追う事に。

 この広大な砂漠。ひたすら探し回る作業に飽きが回ってきたのか欠伸をしながら目を凝らすザット。

 対してライアンも同じように目を凝らしていた。その最中で話し掛けるザットにライアンは否応なく片耳を立てた。


「さっき別れ際に居たあのガキについて、ちょっと気になる点がありまして」


「簡単に聞こうか」


「あいつの剣って特注品か何かですかね? 俺は武器に関しての書庫を色々読み漁った思い出がありますが、今日まで一度も見掛けた事がなかったので」


「私も同様に見掛けた事はない」


「あれって、やっぱり特注品ですかね?」


「いや……特注品にしては神秘的な力が剣に帯びていた。それに色に関しても通常の武器防具を売る商売人と違って、あの特殊な色は職人であろうとも早々簡単には作れない。あの剣は神の宝具に近い何か……私はそう勝手に解釈しているが」


 アビス捜索に途中の目印となるようなで地点で東と西に別れる二人。

 東に向かうライアンとは反対に西に向かうザットは溜め息を一つ。


「ショウタ・カンナヅキ、あいつ等とは嫌が上でも会いそうだな。何かそんな気がしてならねえ」

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