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エピソード116:想い出を大切に閉じ込めて、今日も僕は人生を生きる

   《ーーー》→→→→→《現実》


 あの忘れられそうにない事件から……もう数ヵ月。7月16日という月日の流れには毎回びっくりさせられる。

 目覚めた時には既になかったかのように、緑の惑星は綺麗さっぱりとなくなり今や日本の日常はかくして一時の平和を取り戻したのだ。


 無論、それで完全に平和になったという訳ではない。僕の住む日本以外では国同士が兵器を用いて戦争という名の悲劇を繰り返し、また国に不満を抱く市民の一部はテロなる過激な行いをしている。

 日本も例外に漏れず、今日も今日とて犯罪を繰り出す日々の中で警察である須藤を主とした犯罪捜査のエキスパートが忙しい日々を送っている。

 

「ひぃ、もうこの階段は若者でもきつすぎるって話だ」


「だから早足で行くのは止めといた方がいいよって言ったのに」


 病室から目覚め、言葉では表現しにくい程の地獄のリハビリを何とか潜り抜け警察でありながら協力してくれた須藤に事の顛末を僕なり伝えた後に季節がすっかり夏へと傾きだした今日。


 希と一緒につるんでいた親友影野明と共に再び神宮神社に訪れた。


 今回の目的は呑気に賽銭を入れた後に手を合わせて参拝などではなく、事件の一部始終を洗いざらい神宮家の皆様にお伝えしようと来ていた。

 神宮希に永遠の別れを告げて目覚めてからリハビリを終えた辺りに再び事態が落ち着いたと見舞いに来た須藤から幾つかの報告をした。

 それで終わったら終わったでようやく解放される訳だけど……あの異常現象とも呼べる光景について僕一人で秘密裏に隠すのも気が引けた。


 だから神宮希が犯した罪をあの人達に話そうと、加藤さんに連絡を取り合い神社の神主との話し合いへの折り合いを付けておいた。

 なお、そこには一応希の肉親である父の立場であった加藤さんも来てくれるので大助かりだ。 


「はぁ、激しく不安だ」

 

 こっちの方が待たせているのかな? 待ち合わせの時間までは結構持たせている筈なんだけど……うーん、どうだろうか?


「……あんまり無理したら、息が切れて喉がカラカラになっちまうわ」


 一応明が一緒に居てくれるからそれなりに過度な緊張をしないで済むけど、やっぱり変に神経が研ぎ澄まされる。

 神主だけに事の全てを話せれば、それはそれで変に緊張せずに済んだというのにあろうことか事が大きかっただけに神宮家の親戚も集合しているという驚愕しかない事実。


 出来るなら、後ろに振り返って逃走したいのが本音ではあるが事件の発端となる原因の一部は僕にある。

 おいそれと関係ないとしらを切るなんて今更ながら出来ない。


「お待ちしておりました、神無月翔大様。そして、貴方は?」

 

 案内役の女性か? 見た感じ、巫女って感じの清潔な服装でいて立ち振舞いを非常に綺麗である。

 その上で僕に対して乱れのないお辞儀を交わしてから、隣に突っ立っている明に向かって名前を聞いてきた。

 さて、聞かれた本人はと言うと。これ、また立派な鼻の下が伸びているようだ。

 しかも若干クールにしようとしている。今頃皮を被った所でもう手遅れだろうに。

 

「あぁ……こいつの付き人としてやって来た影野明です。別段余計な言葉を挟むつもりは毛頭ないので同行をお願いしたいんですが」


「そうでしたか。では、念の為神主様へ確認に参りますので少々お持ちを」


 元来であるなら、この身内話に部外者は通せないと加藤さんからメールで拝見してはいるけれど一人相手に何人も囲まれた状況で話を切り出すなんてとんでもない地獄だ。

 そういう理由もあって明には食堂代一日だけ奢るという条件を提示して付いて貰って来ている。

 まぁ、本人は食堂代関係なしに引き受けてやるって自信満々に言っていたけど……さすがに僕の勝手な都合でプライベートを壊しているのだから、そればっかりは譲れなかった。


「同行を許可するそうです。但し私語は慎むようにとの伝言を承りましたので何とぞ宜しくお願い致します」


「了解。なら部外者は部外者らしく、端っこに居座るとしますか」

 

 巫女の装束に身を包む20代に近い女性に案内された場所はなんと、いつも参拝の客がお参りする建物の奥にあった。

 ここはどうやら本殿と呼ばれている物で中には神を模したとされる仏像が設置されているとの事。

 どうしようか? 何だか、始まる前から鼓動の動きが中々収まりない。


「おぉ! 君が神無月翔大君であったか。大変優しい瞳を宿しているのぉ」


 老いぼれであろうと、風格がかなり伴っている。只ならぬ人生を歩んでいそうに見える老人が僕を見てから早々に誉めてきた。


 さて、そんなご高齢の方が有象無象ではないにしろ多くの人達が僕を待っていたようだ。

 

 案内された部屋は妙に神妙な香りが鼻につついて、真面目な話自分の部屋とは明らかに違うと痛感させられる。

 そしてその中心と言うよりも神宮神社の代表と思われる仏の前に静かに着席している人物こそが……神宮希の祖父に当たる神主。


「翔大君、君はこっちだ。それと明君は私の隣に座ってくれ」


 まさに始まろうとしている空気で。僕達以外は誰一人とも私語を挟んではいない。

 こんなにも息が詰まるとは。僕が語る内容が内容なだけに雰囲気が完全に厳かである。


「では……内容の程を話して貰おうかの、神無月君」


 先に僕が息を落ち着かせる前に話を進めようとする神主。まだ、心の中で整理が出来ていないのに。

 ここに来てから、ずっと緊張ばかりで緩みがない。ただ隣で加藤さんも明も陰ながらでは僕を見守っている。

 駄目だな、さっきから余裕がなさすぎる。少しは余裕を持って、構えるとしよう。


「はい。それでは早速始めたいと思います」


 内容というのは当然神宮希についてで。この概要を説明するに数分で話が終わるという程に楽観的ではない。

 

 僕神無月翔大はある日を境目にして異世界と現実世界を不定期ながら交互に行き来を繰り返し、その異世界の中では結果的に神宮希の掌で弄ばれながらも事ある度に降りかかるアクシデントに対して解決してきた。

 

 例え、それを解決したとしてもあくまでも異世界の中での枠組みだと思っていたのに……僕が最初の頃に何かと絡んできたアン王女の死が良くも悪くも現実世界での不可解な心不全の死へと直結させてしまう。

 

「その時から僕は宮城警察署にお勤めの須藤健作に例の事件で声を掛けられた事から関わっていき、最終的には心理学カウンセラーを職に持ちながらもオカルトも興味とする櫻井渡と一緒に異世界の謎について考えていく道を選びました」


 やがて、異世界で過ごしていく内に起きた最大たる障害のアルカディア。

 異世界を作り上げたと語られるミゾノグウジンを愛する彼の存在がまさか僕を異世界へと招いた犯人を特定してしまうとは。

 今でも、あの出来事には開いた口が塞がらない。


「拳銃から犯人を特定してしまうとは。そして、それが我が神宮家に深く関わりを持つ希に該当すると……」


 現実世界にしか知らされていない武器だからこそ、妙に希に面影があったマリーが彼女であると判明した。

 その上で連続で発生した不可解な事件も同時に解決した。但し、後の方が予想以上に大変な出来事で希の魔の手からザットとアビスと一緒に力を合わせて追い払ったのは今でも記憶が新しい位で。

 

 きっと、金輪際この出来事を忘れはしないだろう。一方で異世界など所詮はファンタジーだと割り切っている人達はどうせ何年経てば自然と忘れていくに違いない。

 人は自分に関係ない出来事にはすぐに頭の中は別の事で手一杯になるのだから。


「こっちでは宇宙空間による何らかの時空の歪みにより発生した現象だと、各専門家から予想されてはいるが結局は希の仕業だったという訳か」


「あの小娘め、よくも神宮家に泥を塗りよったな!」


 こいつら……もっともの原因は小さい頃から希に対して神宮家に押し付けられた責務だというのに。

 全然悪びれもせず、平然と怒っているのも大概にしろよ!


「既に死人とは言えど、私の娘に無礼な言葉は止めて頂けませんか?」


 表情は穏やかにしているが、言葉を読み取る限りでは奥底で怒りに満ちているようだった。

 親戚の人達もそれを読み取ったのか、すっかりと黙り込んだ。それもまた良い気味である。


「私の孫娘の非道。お前には私の知らぬ間に沢山の迷惑を押し付けてしまっていたようだ。今回の件については神宮家の代表並びに孫娘の祖父に当たる者として……」


 立ち上がって、それからは咎める人達を払いのけて自らが頭を下げた。

 その行為だけで僕のもやもやの全てが消える訳ではないが、肩に押し付けられている荷物がちょっとだけ下ろせたような気がした。


「大変申し訳ございませんでした」


 希。これから僕は事件が終わってもなお、これだけ大きく騒いだ出来事を年が経つに連れて忘れていくのだろうか?

 多分僕の答えは……無理かもしれない。どうしても、大切な物で神無月翔大を踊らされる計画だとしても君の全てを嫌いにはなれない。

 やっぱり好きだという感情をずっと引きずっているのかもね。いくら別れを綺麗さっぱりと告げたからって早々簡単に忘却出来る物じゃないや。


「なんと」


「えぇい、馬鹿馬鹿しい。やってられるか!」


 神宮希が犯した行為は何も万人に許される訳ではなく、僕の告白した行動の多くは彼女を悪と捉えるのだろう。

 それでも、ある意味では正解だ。僕はそれに対して反論する余地は見当たらない。


「はぁ~、あいつら勝手にお開きにしやがったぞ」


「所詮は血の繋がりのある親戚だからな。希を思う感情は悪でしかないのだろう」

 

 人生は後先に否応なく続く。神宮希としての生きざまは僕の中で永久に残されて、神無月翔大としての僕は間違いなく君の言葉に影響を受ける。

 明日は良いこともあるかもしれないし、もしかしたら逆に悪いことが起きてしまうかもしれない。


「希。これからも、ずっと僕を導いてくれ」


「……翔大。あいつはもうーー」


「止めたまえ。彼にとって希の存在は……」


 でも、僕は進むよ。そこに道が敷いている限りはね。























「もはや……呪縛じゃな」

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