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エピソード112:俺達のラストまで、あと少し

「どうする? これじゃあ、いつまで経っても良いように弄ばれているだけだぜ!」


「奴の死角から一撃を仕込む。願わくば誰かの力を貸して貰おう」


「ならば、私が動きを一時的に止めてみせよう」


 暴風のように吹き荒れるジェイド。立ち向かう者を薙ぎ倒し、安易に止まらぬ災害と成り果てた男に対してアビスとライアンは敵同士ではあったものの一時休戦を打ち込み団結して執り行う。


「お前は私を許すのか?」


「いいや、どんな状況に置かされたとしてもお前は治安団にとってのS級戦犯に変わりはない」


 すぐさま剣をちらつかせて、潔く構えるライアン。その刀身からは大量の稲妻をバチバチと放ち、膨大なる量を披露する。

 ザットも同様の技を所持していたが、どうにも奴から継承していたとアビスはそこで知る。


 佇まいは静かに、言葉も交わさずほぼ同時に左右から挟み込みを掛けるようにする展開。

 ジェイドは声を上げながら、二人を相手にして狙いを徹底的に絞り出した。


「しばらくは持つかな?」


「願わくば奴が自滅してくれるとハッピーなんですけどね」


 一方で暴れまわる対象にどう叩き込もうか考えるザットとイクモの二人。


 こうしている間にも時間は経過していき、次々と団員の命が散らされる。


 軽口を叩くザットとは対照的にイクモはどのようにして追い込んでやろうか頭の中で模索させる。


 数で攻めてみた所で、水を自由自在に変化させる事を得意とするあの水色の剣はジェイド以上に厄介な代物。

 それをどう封じさせてやろうか? 頭を悩ませるイクモとは別にザットは一人前線に歩みだそうとしている。


「でも、まあ……あれこれ、考えても奴は落とせない。だったら力ねの限りを尽くしてでも、実力の差を教えてやらないとな!」


「おいおい。それじゃあ、強引丸出しだろ」


「奴に論理的な思考は通じませんよ。幾ら言葉を重ねた所で、ジェイドは剣の力に呑み込まれるって話です」


「……はぁ、確かに考えても無駄に時間しか過ぎねえか。だったら!」


 力でぶっ倒すという単純明快なやり方。そこに異を唱えようとする者誰一人おらず。

 もしかしたら、この世界において団長としての務めは最後になるのかもしれない。


 万が一の予備戦力として本部にも筆頭事務官一同やらをお留守番させてはいるが……結局それらは今更呼び込めないだろう。

 許せと思いながらもイクモは堂々態度を持って、戦場の前線へと舞い上がる。


「お前ら! 今から言うのもあれ過ぎるが、手加減なしで徹底的に追い詰めろ! それが組織の敵と成り果てたジェイドの末路だ!」


 ミゾノグウジンに囚われた哀れであり残酷な男。約一年前から献身的に組織を支えていたとされる最後の結末がこれである……が、実を言うとジェイドに関しての詳細が書類には書かれていない。

 何を言っているのか分からないかもしれないが、それが事実として残っている。


 つまり、この男はイクモの頭の中には治安団を作ろうとする初期から所属していたような感覚があるのも嘘だという事。

 そうなると……ジェイド・スタークという存在は果たして。


「私は副団長だぞ! 何故、上に逆らおうとする!」


「お前は副団長以下の存在だ。そこらでのたまっているウジ虫と同じなんだよ!」


 下手をすれば、操られただけの一般市民。あの偽りの冷静さはあっという間に化けが剥がれて、今や暴走をするだけして制御が効かないマシン。


 自分の思い通りにならない存在を切りつけ、我が物の道へ行くジェイド。

 いつから奴は腐っていたのか……いや、もしかしたら始めから根本的に終わっていたのかもしれない。


 怒濤の水流。動きの早い水の竜巻が迫る中でザットは見切りをつけて回避する。

 そうした中で剣を引き抜き、限りある力を剣全体に込める。


「ザット・ディスパイヤー! お前は会った時から気にくわなかったんだよ!!」


 随分と最初から嫌われていたらしい。まぁ、それは顔を見合わせていた当初からザットはとっくに感じていた。

 しかし、こんなにも病が進行しているのは想定外でしかない。


「ちぃ! 最初から最後の最後まで世話が掛かって仕方がねえ!」


 心のどこかで……ジェイドの印象が掘り返されない。何故? 記憶を振り返っても、あっさりとした断面しか再生されないのがとてつもなく違和感を与える。

 これもミゾノグウジンもといジングウノゾミが仕掛けた弊害として残っているのか?

 謎が謎を呼んでいて、たまらなく落ち着かない。やっぱり、この世界はどこかおかしいようである。


「くそっ、マジでどうなってんだよ! この世界は!」


「死ねえ!」


 距離はゼロ距離。己の鍛えた力比べは比べるまでもなくザットが上に君臨する。

 剣を振り下ろすタイミング。そして……反射速度。これらが全てを上回るのはジェイドにはなくザットである。


 ばっさりと躊躇なく切り捨てるザット。切られてもなお、抵抗を続けようとするジェイドに止めの刃が三方向から突き刺される。

 引き抜かれた身体からえげつない液体が溢れる。止めどなく流れ行く液体のままにピクリと動こうともしない遺体を皆はただ見つめるだけであった。


「あばよ……もう、そのうざったい面を見せんじゃねえぞ」


 戦場を混乱させる存在を一人浄化した。だがザット達からしてみれば、それが終わりであるとは思っていない。

 

「ミゾノグウジンが作り上げた存在。その二つが終焉の彼方へと消え去った現在、まだ蔓延る存在はあり続けるであろう」


「後はショウタに似た奴とやたらと遠巻きから仕掛けようとするねちっこい奴か」


 残る敵は二人。それが無事に片付けられたとすれば先に進んでいったショウタと合流が出来る踏んだザット。

 しばらくして、静寂を取り戻した空間に異常が発生する。彼等の反対側にミゾノグウジンの駒の一人が表に姿を現したのだ。


 顔が青白く、とてもじゃないが正常とは呼びづらい状態で。


「ミゾノグウジンの駒は急速な終わりを告げようとしている。もはやお前が生き残ろうとする道は絶たれたと言えよう」


「私は私は私は私は……己の望まんとする主の願望を叶えようとする為にこの身を捧げてみせるのだ!」


「あ、頭がやられてんな。あいつと同様に」


 これらの現象はミゾノグウジンが意図的に操作して出来上がってしまったのか。

 それとも追い詰められたが故の発狂か。


 分厚い本を投げ捨て、自暴自棄と化したガンマ。全身は瞬く間に焦げ落ち、最終的に自分の顔をも意図も容易く犠牲にし始めた。

 魔術というには自分の存在を消耗せねばなるまいとする大きすぎる代償。

 よもや手段を選んでいられる状況にはあらずと言った所なのだろう。

 

 静かに落ち着いた様子でアビスは黒い長刀を立派に構える。その横では逆に落ち着かない様子で目をピクピクとするザット。

 

 やがて、完成された姿は前の人間の姿は大きく掛け離れて別の何かへと形を宿した。


「サァ……コノチカラデオマエタチヲメッシテヤロウ」


「イカれてやがる」


「お前の選択は永遠にある苦しみを選んだか。どこまでも残酷な道であろうと、それを受け入れるか」


「アルジノタメニ、キサマラハワタシニコロサレルノダァァ!」


 皮膚を悉く犠牲にして出来た骨抜きに身体。まるで骸骨が喋っている感覚で実に奇妙でしか感じられない。

 武器はあの投げ捨てられた本……という感じはどうにもなさそうで、どちらかと言うと力業にて沈めてきそうな感覚ではあった。

 

 人生の全てをミゾノグウジンに支えて、自らをも棄てたガンマ。

 そこに立ち向かおうとするアビスとザットに加えてボロボロに服が汚れた治安団の団長イクモは他の団員を鼓舞して、立ち上がらせる。


 この奥には決していかなる理由が存在すれど通さない。たとえ、そいつが今ある世界をぶっ怖そうとしていたとしても。


「やるしかねえか……まだ休憩を要求したい所ではあるが」


「ぶつくさ言うよりも、素直に力を貸してくれた方がありがたいんですが?」


 後ろでふらふらと揺れて横に立つイクモ。同じく反対側に立とうとするライアン。

 ザットの感覚にしてみれば、実に久し振りの治安団の面子。この関係はもう二度とならないと思っていたが、違っていたようだ。


「あいよ、確かにその通りだ。けどな、ザットもお前さんもこのガイコツより優先すべき事があるんじゃないのか?」


 前に出向くのはイクモとライアンとその他の取り巻き。彼等は皆が皆、ザットとアビスを守るようにしてガイコツに成り果てた対象に攻撃を仕掛けようとしている。


 アビスは意図を組んだのか、一言礼を告げるとイクモは何だか気味が悪くて仕方がないようで表情が苦々しい。


「気持ち悪いなぁ。今まで散々追い掛けていた犯人から言われただけで寒気が立つぜ」


「私の人生に置いて、お前達は悪と捉えて刃を向け続けていた。とすれば……その認識はあながち間違いではないのだろう」


「少しは突っ込んでくれよーん」


 いつも表情が固いアビスにおふざけは通用しない。何とく関わりを持って以降、その生真面目さが何となく分かり始めたザットは以前まで敵対関係にあったアビスとイクモの会話に入らずライアンに一言だけ告げる。


「頼みました……俺らはあいつを出迎えに行きます」

 

「あぁ、ここは任せろ」


 余計な言葉を交えず、奥を塞ぐガイコツを相手にアビスと一緒に強行突破を試みる。

 

 その傍ら、ミゾノグウジンを裏切り今やアビスとザットに対してバックアップを試みる治安団の補助のお陰で結果的に楽に潜り抜ける事に成功。

 

「オノレェェ! ノガシテタマルカ!」


「おっとと、追いかけるならまずは俺達の相手をしてくれよ」 


「とは言え……我らは全力で抵抗させて貰うがな!」


 さて、これで目指すは決戦の地に出向いたあいつを迎えに行くだけ。

 ただし……彼の世界が救われると同時に自身の存在はイレギュラーな存在として抹消される展開がお約束通りになるのだろう。


 だが決してそうなろうとも恨まない。それが様々な運命に抗った青年達が納得した判断だからだ。


「首を長くして待ってろや、ショウタ!」


「お前の運命。逆光を受けようとももがき続けてみせろ!」

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