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エピソード107:所詮我々は神に操られた前座でしかなかったのだ

「ここが?」


「終結の地として刻まれるであろう」


「本当にこの下に奴等が潜んでんのか? 見た所、何も怪しい物は見当たらねえが。周辺にある崩れた柱を除いて」


 そう。ようやく半日休憩を挟んで訪れた場所がよりにもよって何も特徴的な目印がないのだ。

 ザットはこれに怪訝な表情で唸っていた。対照的にアビスは静かに回りを見渡しているようだけど。


 因みに僕はザット同様に何も感じない。ただ、あのアビスが無意味にこの場所に訪れたとは到底思えない。

 

「微かに魔の流脈が掠め取れる。恐らくは時間さえ要すれば底にある空間に干渉が可能となるだろう」


「アビス。時間を掛けても、良いからやってくれ」


「承知した」


 黙々としながら作業が始まる。魔法陣を崩れた4本の柱の下に置いて何らかの干渉を執り行っているようだ。

 これはアビスにしか出来ないであろう魔術。普段から魔法ではなく力で沈めようとするザットと魔法の知識が一切入っていない僕では余りにも話がならなかった。


 場に自然と弾き出された僕達は呆然とアビスが行う儀式に魅了されつつ、ただただ刻を待つ。

 現状、運が良いのかは分からないが敵からの待ち伏せとかはないらしい。


「奇襲はして来ないようだな」


「もしかしたら……この下で待ち構えている可能性も充分考えられるんだけどね」


「そうなったらそうなったで返り討ちにしてやれば良いんだよ」


 こんな時に追い討ちを掛けてくるんじゃないのかと若干肝を冷やしていたけど。

 それはよもや杞憂という言葉が相応しくなってきそうだ。一方でザットに関しては奇襲もしくは待ち伏せ上等らしく、気持ちが荒ぶっているようだ。


「干渉完了……これより、深淵の底に存在する空間へと転移する。各々、準備は出来ているか?」


 僕達に未練はない。落ち着いて会話を交わした時から、神宮希の計画を阻止しようと一致団結した中で誰一人として迷いはない。 

 この先に何があろうとも、僕は邪魔をしようとする者に対して武力介入を躊躇なく決行する。

 例え、その行為によって希が僕を嫌ったとしてもだ。


「さっさと終わらせて、神なんざに弄ばれている腐った世界を丸ごと消してやるとしようぜ!」


 彼はああ啖呵を切ってはいるけれど、実際それはずっと世界を壊して、自分自身の存在を消そうとする代償が大きすぎる行為だ。

 それをあろうことかザットは気にも求めず、神宮希の撃破に力を貸してくれる。


 だから、その行為に心の中では感謝しながらも……何も言葉を語らないようにした。

 折角の覚悟を余計な一言でモチベーションを崩したくなかったからである。


「四方の魔柱よ。転移を心から望みし、三人の者達に祝福の天啓を与えん」


 身体の回りに謎の光が目映く発光した。みるみるうちに粒子となって綺麗さっぱりと消えて行く僕達。

 向かう先は考えなくともはっきりしていく……きっと、底に存在された静まり返った空間だろう。

 

 目映い光から一変して、落ち着いたと思った時に視界を開けた先には案の定紫の灯火が闇を照らす静寂なる建物であった。

 恐らく、この灯火がなければ辺りが真っ暗で何も見えやしなかっただろう。


「シンプルな空間だな。ここが以前言っていた場所で合ってんのか?」


「間違いない。私の記憶の限りでは幾ばくかこの空間の下に浸っていた」


 そこで神宮からアビス自身の真相を語られたというのか。それにしても……よく受け止めれたね。

 僕が仮にアビスで神宮から人間ではないと遠回しに言われたら、ショックを受けて立ち直れた物じゃないよ。


「ジングウは必然的に私達の手を読んでいる。それ故に……奴はそれ相応の駒を待ち伏せているであろう」


 半日休憩して間もないのに、大戦力との戦闘か……身体の疲れが実を言うとすっきりとは取れていないけど、弱音を吐いている場合じゃないよね。

 

「来るべき敵は凪ぎ払う。ただ、それだけだ」


 僕達の声が反響する空間。雑音の流れない場所を進めるだけ進むと準備を事前にしていたとしか思えない集団が武器に手を付けようとしている。

 その中で中心となる人物が三人。顔を何度か合わせているライアンと性格がいかにも腹黒そうなジェイドとその団員を纏めている団長イクモが待ち伏せをしていた。


「やはり……期待は裏切りませんか」


「なんだ? 来たら来たで都合が悪かったのか?」


「いえいえ。こっちもこっちで動ける戦力を根刮ぎかき集めてきたので、そっちの方が遥かに都合が良くて助かります」 


 序盤は戦力を集めてきた治安団との戦闘。それと合わさって、幹部の者と決闘か。


「久々に元気そうな顔を見れて良かったよ……もっとも、こんな状況でなければ笑えたんだがな」


「それは俺も同意件ですよ、兄貴」


「俺達は退くに退けない場所まで来てしまった。我々はあくまでもミゾノグウジンに用意された前座として、目的を阻害しようとするお前達を撃退する!」


 全員が全員、武器を抜き出した。戦いの舞台は四角形の広場は充分広々としたスペースなので思う存分武器の成果を発揮出来る。


 さて、僕もやってやろうじゃないか。三人と取り巻きなら若干ハンデはあるけど、三人であれば何とか撃退出来る筈。

 だと言うのに、僕を差し置いて前に出向く二人。これは……先に行ってこいという合図なのか?

 

「早く行けっての。こんな序盤で時間を喰っても仕方がねえだろ」


「ジングウは私の理解を超えた強敵。無駄な力を消失する前に、蓄えられる力はなるべく温存した方が無難であろう」


「……なら、君達の優しさに甘えるとしよう」


「そうと決まったら!!」


 問答無用で集団の中に突っ込んでいくザット。突然不意に突かれた団員は対応しながらも、俊敏な動きに翻弄されていく。

 すかさずフォローを入れようと幹部達もアビスの介入により、現場は入り乱れる。

 

「よし」


 二人の厚意をわざわざ無下にする意味はない。いつでも捻り出せる真・蒼剣を手に構え、集団の中の合間を避けて先を進む事にした。

 きっと彼等なら無事に合流してくれるに違いない。特に、ザットはケロッとした表情を浮かべながらしれっと帰って来そうだ。


 後ろで聞こえる武器同士で響く金属音と声。先に進んでいくに連れて段々と音は当然ながらはっきりとは拾えなくなってきた。

 この先廊下ばかりで何も特徴となる場所が見えないけど、奥で希は待っているのだろうか?

 もしかしたら、僕をマークしていたあいつが代わりに待ち構えているという可能性があるけど。


「止まれ。ここから先は我々がお相手する!」


 大きなホールに出てこれたと思ったら、この戦力……。どうやら、希はこの事を予め見越していてわざとこちらの方に戦力を集中させてきたか。

 全く持って、上手い具合にやってくれるね。


「エレイナ将軍。どうか、一つ見逃してはくれないでしょうか?」


 戦って無事に僕を撃破したとしても、最後に待ち受けるのは神宮希が生涯支配する鎖の世界の生誕だ。

 そんな、自由の欠片も等しくない世界で生きるなんて苦しくて仕方がなくなるに違いないのに……どうして、貴方達は頭の中で理解してくれないんだ?


「それは出来ない相談だ。ジングウに従わない限り、世界は為す術もなく君の力で崩壊を許してしまうのだからな」


 背中に収めた大剣を表に出した。どこまでも刀身に溢れる炎が今回の作戦に置ける本気度を窺えてしまう。

 本来なら、こんな場所で時間を取られたくはなかったのだが無理矢理にでも押し通らなければ道を譲ってくれやしないだろう。


 ならば、戦意を晒し出して道を阻もうとする相手を力で無力化させるだけだ!


「剣の新たな姿……その力は充分使いこなせているようだな」


 剣についてはそれ以外で様々な状況下で役立っており、今に掛けてもなくてはならない大切な武器……だけど、これを扱える期間はさほど長くはないのかもしれない。

 最初の頃よりも大分自分の手に収まりつつある相棒。これから向かう先は永遠の別れが僕自身を襲うのだろう。


「部隊を束ねている貴方と比べたら、まだまだですけどね」


「お前は充分素質があった。それなのに……敵として我々の未来を奪おうとする行為は実に残念でしかない」


 未来を奪おうとする希の方だ。彼女が作る世界は心地よく浸れる舞台ではなく、いかに自分にとって都合よく創造出来るという事。

 僕を止めれば、未来永劫神となった神宮希の支配を受け続ける。

 そうなれば誰にも止められなくなってしまう。手が付かなく前に絶対に止めないと。


「貴方の人生その物は始めから神宮希に設定されている。とても信じがたい事かもしれませんが」


 幾ら言葉を尽くそうとも、腰まで届いた綺麗な真紅の髪を持ったエレイナ将軍の耳には届かない。

 立場が立場で武器を仕舞えないのか……それとも彼女の頭が固いのかは定かではない。


「ショウタ・カンナヅキ。あの落ちぶれた頃から這い上がってきたお前の底力を私に見せてみろ」


 大剣の刀身が激しく燃えている。一切手加減なしで掛かって来いというレクチャーか。


 だったら……ここまで積み上げてきた全てを! この場所でぶつけるのみ!

 

 エレイナ将軍の周辺には何百人の勢力が背後に待ち受けているようだけど。

 皆まとめて、凪ぎ払うだけだ! もう手加減はしてやれないから、そのつもりで掛かって来い!


「意気や良しか。あの時と比べると、随分と根性が座っているようだな」


「あれから色々とありましてね」


 エレイナ将軍が付けてくれた推古を経て様々な出来事が身に迫った。

 アルカディアを倒した最強の拳銃が世界その物操作した真犯人を発見した事。

 それから、絶大な勢力を前にして快き理解者が集ったのが僕にとっての希望だ。


「将軍の貴方なら、もっと先を見越していてると思っていましたが……本当に残念でなりません」


「ふっ、それが本心だとはとても思えないが」


 将軍の後方に控えている兵士達が怒濤の勢いで迫り掛かる。無数襲う数は尋常になく手強い……が、今の僕なら数が幾らであれど簡単に押し切れる!


「お前の理想はここで砕く。私はあくまでも、ミゾノグウジンの駒ではなく自身の目的を完遂するだけだ!」

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