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エピソード10:こいつとは長い付き合いになる予感

 灼熱の炎天下。降りかかる太陽に照らされながら、僕は歩み寄る。

 グランドオアシスの重要財産であり国の要でもある泉を徹底して死守せんとする大人数の戦闘兵士を引き連れて。


「全員、歩みを止めるな! ここから先はモンスターの群れが予定通りであれば出没する! 各自油断だけはするなよ!」


「了解!!」


 問題のモンスターは姿を見せない。果たしていつになれば来るのやら。

 大勢の兵士と一緒に溶け込みながらクッションと化した砂を進む時、片耳から不意に音が聞こえる。

 聞こえた声は明らかに人間とは違った生物の声。それが幾重にも重なり大きな声へと変換された。

 眉間を寄せて、武器を各々各自に取り出す兵士達。僕は意識を集中させて蒼剣を振りかざす。

 物珍しそうな目線で剣を見ているようだ。やっぱり一般人には見た事が無いくらい珍しい武器なのだろう。

 視線は正面に戻しているけど、何人かの兵士は僕が構えた剣に意識をチラチラと向けている。

 

「見て、あれが噂のモンスターよ」


「あれか」


 結界を突破してきたと思われるモンスター。特徴は四足歩行の……なんと言うか乾いた土をごてごてに集めたような、それでいてお尻に生えた尻尾が強者感を増している。

 そのモンスターがおおよそ10体。いや、もしかしたらそれ以上の数を用意している可能性だって充分に考えられるかも。

 何しろ、グランドオアシスの泉を狙う真の敵は人間。結界を外す事は並大抵の実力を持たねば不可能との情報。

 気を引き締めていかないと。


「支援部隊は魔法補助。先制部隊は突撃を掛ける! 全員生きて帰るのだ!! 進めぇぇい!」


 モンスターと人間による熾烈な戦いが今ここに幕を開けた。その間、僕は押し寄せるモンスターを蒼剣で追い払うようにして進んでいく。

 こいつらは減らしたとしても恐らく終われない。真の敵はもっと奥でタイミングを図っているに違いない。

 そう考えるのは僕だけかもしれないがやってみなくちゃ分からない。


「追ってきた!?」


「行かせるつもりはないって事か」


「炎天下の砂漠。灼熱の炎を差し上げましょう」


 炎を渦を自身の周囲に撒き散らして、そこから螺旋を描いた炎がモンスターに直撃する事によって炎を纏うダルマと化す。

 余りの熱さの脅威に身悶えるモンスター。燃え咲かる炎を消しとるように転げ回るも振りほどけない。

 そうこうする内に焼き焦げた肉のような嫌な臭いと真っ黒に染まったモンスターの死体が砂漠の上に倒れ伏す。

 マリーの放った炎の魔法からは誰も逃れられない。何と恐ろしい女の子だ!


「ふふん。魔法使いを名乗るなら、これくらい出来ないと名乗れないってものよ!」


「魔法使いのハードルが高過ぎる件について」


「ぎぎぃぃ!!」

 

 モンスター一体撃破した所に浮かれていたマリー。その背後に襲い掛かるモンスター。

 先読みが映した映像を元にして僕はがら空きになっているマリーの背中を守るように瞬時に移動。

 投げりつける右手を先読みで避けるように心臓らしき部分を蒼剣で思い切って貫く。


「もう一丁くれてやる!」


 ごつごつとした感触。剣を力任せに引っこ抜いた後に右回りをしながらの斜め切り。

 首を持っていかれたモンスターの動きは僅かに怯んだ。その隙にマリーは炎の魔法で消し炭にした事で危機は去ってくれた。

 ふぅ、何とか凌げた。マリーに何かあったら責任取れないから結果的に助けられて良かったよ。


「油断してた。助かったよ、ショウタ」


「それはお互い様だよ。ここは力を合わせて行かないと命の保証はないからね」


「後ろには多くのモンスター。もたもたしていたら支援部隊と先制部隊の人達が持たない」


 彼等が全滅すれば泉を落とされかねない。それだけは絶対に阻止しないと。

 最悪の場合、一つの街であるグランドオアシスが崩壊を招く。


「行きましょう!」


 大量に迫り来るモンスターを剣で片付け、その先に潜む真犯人の足取りを追っていく。

 一向に姿を見せようともしない術師との追い掛けごっこ。アグレッシブな動きで追い掛けようとすれモンスターに悩まされながらも、足を進める。

 それと同時に見えるモンスターとその集団に紛れ込む黒い人影。

 そいつは追い掛けてきた僕達を一点に見つめていた。

 やがて人影はモンスターの頭から飛び降りるようにして砂漠の上に着地。

 

「追い付いてきたか。ここまで来れた事には敬意を払うとしよう」


 砂埃が舞う中に現す黒いコートの人物は頭に被っていたフードを取ると一線の傷と共に危なげな雰囲気を晒す。

 こいつは確実に危険だ。何だか知らないが僕の直感がそう伝えている。

 根拠とかどこにもないけどね。


「だが、お前達に命はない。そこを退かぬ限り」


「泉が目的か? 君がそんな事をする理由を聞かせてくれ」


「真理を追い求める。それを喰らえるのであれば、如何なる犠牲も惜しまない」


 駄目だ、話が通じない所か聞く耳を持ってくれそうにない。と言うか真理ってどういう意味さ……こいつ言っている事が本気で訳ワカメなんだけど。


「まずはお前達の力を示してみせろ」


 自分は敢えて前に出向かないスタイルか。だったら僕とマリーの力で引き摺り込んでやる。

 覚悟しろよ、黒コート野郎!


「沈めろ、息の根を潰すように」


 怒濤の足音を鳴らして急接近を掛けるモンスター。蒼く輝く蒼剣に力を込め、先読みの力を頼りに襲い掛かるモンスターを一体ずつ排除。

 時にモンスターに囲まれたマリーを補助しながら、そして後方支援に徹するマリーの力に感謝しつつ奥で静かに待ち続ける男に近づいていく。

 だんだんと男と僕の中間距離は狭まっていく。距離を掴み取れた僕は空高く跳躍。剣を縦に振り下ろすようにして急降下。

 気配を悟った男は閉じていた両目を開眼すると同時に自前の武器である腕型のナイフで防御の構えをすかさず前へ。


「うっ! 僕の一撃を食い止めた!?」


「天寿を下す」


 形勢がが男に回った。敵ながら鮮やかな動きで翻弄していく一撃は異常に重い。

 こちらには先読みの力がある。けれど男の動きには忍者かと錯覚しそうな程に俊敏な動きを見せる。

 これでは見切っても見切っても上手く太刀打ちが出来ない。つまり、こいつとの戦いに置いて先読みの力は無意味。

 乗り切るには剣の持つ本来の性能を引き出す。それが勝敗の鍵を握る唯一のチャンス。

 この男が隙を見せるかどうか分からないがやるっきゃない!


「虚無の果てに永久とわに沈め!」


「沈むのはお前だ!」


 火花を撒き散らす攻防戦に全く終わりが見えない。僕と男は

視線をずらさない。

 一回だけでも隙を見せたら、漬け込まれる。相手もそれが分かっているのか攻撃の手を緩めようとはしない。

 

「見えない虚構に躍らせるとは。貴様はどこまでも盤石だ」


「意味が分からないんだけど」


 さっきから何をごちゃごちゃと。迂闊に聞いていたら相手のペースに嵌まるかも。

 こいつの話に耳を傾けない方が良いかもしれない。どうせ、話が高度過ぎて付いていけてないし。


「目的が為せば、世界は一つの形へと姿を変えていく。それを観察する。あわよくば空っぽの私を生み出した世界の答えを同時に吸収する」


 勢いが更に増してきた!? これじゃあ、こっちが一方的に押されて最終的に男の方に軍配が!

 それだけはさせるか!


「……!! 何だ、何がお前に力を与えている!?」


 蒼剣から纏う蒼い粒子は剣全体を包み込むように。不思議と力が湧いてくる剣を振り払う事により男との間に距離を作る。

 形勢は変わった。後は僕が全力前進! 強烈な一撃を叩き込む!

 さぁ、お前に見せてやるよ。異世界に突如迷い混むようにして召還された異世界執筆作者の底力を!


「喰らえぇぇ!」


 蒼剣から放つ一閃。それは周囲に大きな光を穿ち、周辺で乱闘し合う人間とモンスターをも見とれさせる絶大なる一撃。

 この一撃はかなり重い筈だ。さすがにこれで相手もやられただろう……やられた、よね? 


「今の一撃は誉めておかざるを得ない。お見事だ」


「なっ! 嘘でしょ!」


「私は死ぬ訳にはいかない。真理を受け取るその日まで楽には死ねないのだ!」


 全身全霊で込めた力はボロボロの傷を受けた男によって無力化。

 あの大きな一閃を受け止めた男は血相を変えて僕の剣を弾き返す。

 砂だらけになった身体。口に砂が混じり込んだお陰で口の中が異物で気になる。


「蒼剣の使い手よ。貴様の名前を聞いておこうか」


「その前に貴方から名乗ったらどうですか?」


「アビス。真理を喰らい、その為ならどこまでも闇に染まる者だ」


「ショウタ・カンナヅキ。僕自身に大きな目的は無いけれど、世界を滅ぼそうと企む悪を許しはしない!」


 別に勇者でもないしマリーの言う騎士にも程遠い存在なのが神無月翔大である僕。

 だけど、世界を守る意思は持っている。別に異世界主人公でもないけど悪が蔓延る世界なんて真っ平御免だ。


「世界を滅ぼしはしない。新しく作り替えるのだ」


「それが世界を滅ぼしているんだよ!」


「カンナヅキ。お前は気付いていないようだな……この世界を纏う、底はかと知れぬ空域の果てを」


 もう駄目だ。こいつの話を真面目に聞いてたら頭がいってしまいそうだ。

 実際にアビスという男が現実世界に居たら、重度の中二病になっているな。

 さっさとケリを付けてしまおう。生かして置いても面倒になるだけだ。


「お前の妄想には付き合っていられない。今ここで……落とす」


「この虚ろな世界に存在する物質としてお前は生き続けるのか?」


「いい加減にしろぉぉ!」


 もう一撃だ。今度こそ、それでアビスを沈め落とす!


「そうか、それがお前の答えか。蒼剣の使い手よ」


 感覚を研ぎ澄ませる事により、剣は僕の想いを感じ取るかのように再び力を貸し与える。

 この力を持ってして、今回の騒動を起こしたアビスを倒す!

 

 さぁ、覚悟を決めろ!!


「そこまでだ!」


「ちっ、邪魔が入ったか」


 白いローブを着飾った一人の男はアビスの背中を狙うも当の本人は気配を感じ取るとヒラリとかわした。


「まだまだ居ますぜ!」


「……なるほど。そこまでして私を捕らえるか」


 もう一人が振るう太刀の一撃に怯む様子も見せず、二人相手であろうとも互角以上の戦いを披露。

 しかし俊敏な動きを見せながら、敵の動きを翻弄するアビスでさえも僕との相手に時間を割かれたお陰か疲労の顔が目に写る。 


「時間を強いられた。こうなると、こちらに部が悪いか」


「神妙にお縄につきやがれ」


「指名手配犯アビス。お前の為す悪行にピリオドを打たせて貰う」


「それは叶わない」


 男の背後にモンスターが続々と!? まだまだ、こんなに居るの!? これじゃあ、裁き切れないよ!


「蒼剣の使い手ショウタ・カンナヅキそして私の命を狙わんとする連中。次の機会がある時まで、この場は預けるとしよう」


「預けさせるかよ!」


 逃げられてしまった。くそっ、モンスターを置いて消え去るなんて。要らない物を残してくれたな……


「兄貴。不味いっすよ、この状況は」


「指名手配犯を逃した上にとんだ置物を残してくれたな」


「モンスターの狙いは泉です!」


「ショウタ・カンナヅキだっけか。人生長生きしてそうなじいさんから簡単な話は聞いている……要はゴツゴツとしたモンスターをザクザクに切り刻んでしまえば良いんだろう。上等だ、やってやるよ……このザットに不可能な事はないぜ!」


 分かっているのなら良いけど。この人、何か危ない臭いがするな。

 やっぱり大丈夫なーー


「そらぁ、遠慮無く死んで頂くぜ!! バケモノさんよ!!」


 僕が最初に依頼屋で見掛けた時とは偉い違いだな……あんなに大人しそうにしていたのに。

 人ってこんなに変われるんだ。

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