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エピソード101:裏切り者は始末しないと収まらない性格でしてね

 治安団の本部アークスはいつだって荘厳だ。ミゾノグウジンが裏で仕切って以来、団長の身として団員を統率している筈のイクモは肩身の狭い生活を余儀なくされている。

 彼等三人についてはミゾノグウジンの取り決めとして今もなお懸命な捜索が続いている。


 三人を仕留めきれずに終わった翌日の早朝。その中である会議が始まろうとしていた。内容は世界に仇なそうとする反乱分子の三人の対処。

 これはまだ理解を得られる。小さい時からずっと育てていたザットを切るのはとてつもなく辛い所ではあるが、団長であるなら四の五の言っている状況下ではなかった。


「じゃあ、そろそろ貴方に相応しい副団長を決めて貰いましょうか?」


 隣に居座るミゾノグウジンとやらの威圧。顔はにこやかだというのにかつてない恐怖が体の全身に伝わってくる。


「いや~、でもさ? 俺はその……副団長ってのは器がある程度大きくないと話にならないからさ」


「あら? アルカディアの暴動もあったけど、メンバーはそれなりに居るじゃない? そんなに簡単に副団長というのは決められない物なの?」


 それにしたって、何故この子はそう判断を急かすのかイクモには到底判断しかねる事であった。

 こんなミゾノグウジンがほぼほぼ制圧しているというのに、どうして治安団の内情にまで突っかかってくる理由すら曖昧にされている。

 団長室には四人。遠出から戻ってきた筆頭事務官サリアと自分とミゾノグウジンとショウ。

 

 中でもショウは屈指の実力でミゾノグウジンが言うにはかなり荒れている青年だとか。

 どうにも蒼の騎士であったショウタ・カンナヅキに敗北を許して以来機嫌が良くないらしい。


「おい、さっさと決めろや! 俺は早急に速やかに奴の首を取らねえと気が済まねえんだよ!」


 八つ当たりも良いところだ。こちらは完全にとばっちりを受けてしまっているではないか。

 腹に痛みが走ってきそうになる。こんな居心地が良くない空間は出来ればさっさと出ていってしまいたい。


「そっちがそうやって黙っているのなら、私から推薦したい人物を派遣しましょう」


「えっ、なんで外部のお前さんが。どうやって俺達組織の状況を知っーー!?」


「口の聞き方には気を付けた方が身の為だって、何度も言っているよな?」


 人様の部屋で乱暴に武器を振り下ろすショウ。間一髪の所で武器を抜いて、弾いたので命に別状はない。

 が、しかし筆頭事務官の表情はいつになく真剣その物。ここで仲を破綻させては元も子もない。


「いやいや口の聞き方は普通だって。俺は真面目にそこのミゾノグウジンさんに質問しただけだろ? そう、怒鳴るなって」


 イクモは組織を守る事を優先とし、その場でミゾノグウジンの提案に乗っかる形にしておいた。

 悔しいが、逆らった所でどうなるのかは自分がよく知っているからである。


「野郎。舐めた口を……」


「イクモ・マガツキ。貴方がそう口を閉ざしても事態は思うように解決してはくれない。私は、ショウタを除いた二人を始末する為ならあらゆる手を尽くすの」


「だから、推薦したい人物をここに呼んじゃうのですか?」


「彼は本部の復帰を強く望んでいるみたいなの。となれば、折角の空席を埋めておかないと勿体ないと思ってね」


 ミゾノグウジンが何か良からぬ考えに取りつかれている時だった。

 部屋にノックの音が響き渡る。こんな時にわざわざタイミングよく来る奴はもしかしたら……


「ど、どうぞ」


 ドアが開いた。ブーツの足底は床に響いて、凛々しい表情でこちら側に敬礼を送る。

 そこでイクモは凍りついた。ま、まさか組織としては一番の厄介者を遠方に飛ばして本部の枠から外しておいたというのに。

 よくも、まあおめおめと清々しい顔付きで訪れてくるとは。


 予想していた人物が全くの予想外。イクモは嫌な冷や汗が出そうになるが、ここはどうにかして耐えきる事に決めた。


「お久し振りです。この本部に訪れたのが、本当に懐かしい位には」


「いやあ~、君が来訪すると思ってもみなかったよ。確か……いつ以来だったけ?」


 黒の直線的なラインを描いたスリムな眼鏡を好む長髪を嗜む青髪の彼。

 清々しい顔付きでいかにも爽やかそうな人に見えてしまうのが、完全な罠でしかない。


「1、2年。幹部に昇進して貰えると思っていたのですが、やはり……あの異動通知が所詮左遷でしかないというのは実に嘆かわしい事です」


 冷静な振る舞いの裏には残忍性があった。過去にこの男の提案に乗っかった際にはテロ組織を壊滅する事に成功を納めた。

 それだけならまだ良かったのだが、その背景の裏には計画の成功率を著しく向上させる為に団長には内緒で人質用の住民が問答無用で利用された。

 

 無論、それを後で知ってしまったイクモは怒りを露にした。だから血の滲む思いでこの男を本部から支部送りにしてやったのだ。

 なのに、何事もなかったかのように正体を現しあまつさえ副団長という階級すらも居座ろうというのか。


「まあ、ひょんな所で再開を果たせて嬉しかったよ。それじゃあ……これからも組織の為に力を尽くしてくれよな? ジェイド・スターク」


 触らぬ神に祟りなし。変に突っ掛からないようにすれば問題は派手に起きない。

 ジェイドに限ってはこちら側の手続きで辞めさせてしまえば、後でどういった報復が待ち受けているのか分からない。

 だから、いつも肩の力を適度に抜いているイクモはジェイドに関しては最大の警戒を払う。

 しかしジェイドは至って帰ろうともしない。まさか、この帰れというジェスチャーが伝わらないのだろうか?


「ええ、勿論今後の組織の発展の為にも力を尽くしていく所存です。ですので……本日から隣に腰掛けていらっしゃるミゾノグウジン様からの推薦を持って、治安団副団長としての承認を頂きたいのです」


 何を言い出すかと思えば。一体どの口がそんな間抜けな発言をさせてしまうのか?

 前々から腹黒い一面がある奴に副団長という階級を与えるなど、あってはならない。

 それがジェイドを左遷した時から決めていた約束。なのだが、状況がこちら側に圧倒的に不利だと教えられる。


 拒絶すれば、この神共々一瞬で敵となって回るに違いない。そうなれば自分の命は愚か部下の命さえ見捨てかねない。

 仮にそうなってしまうのなら……納得は出来ないが承認に関しては首を縦に振るしかない。


 彼女をそれを知っていた上でこの男を招いたのか。とんでもない悪女だ。

 

「諦めて首を振りなさい。但し、横は却下よ」


「やれやれ。これじゃあ、団長の意味が為してないじゃないか」


 ジェイド副団長。まさかこうなる日が来てしまうとは。イクモはこれから先の事を考えていく度にゾッとする。

 出来る限り、こちらが圧力を掛けてやらないとジェイドは団員達を私物化する恐れが非常に高いからだ。


 願わくばライアン・ホープが復帰してくれたら。彼はサイガとの一悶着が終わって以降怪我の影響により療養生活を余儀なくされている。

 その彼がすれば、少しでも大人しくなるのでは? と思いつつもイクモはジェイド・スタークを副団長として認める書類を突き出した。

 

 これで誰が何を言おうとも、この男は副団長となり団員を仕切る。


「ありがたき幸せ。副団長として使命を全う致しましょう」


「くれぐれも無理のない範囲で頼むぞ」


 念押しした所で何も変わりはしない。奴は上の権力に固執し、組織の為に残忍な事も平然とやらかす。


「それでは手始めとして……裏切り者の処分を早急に下します」


 彼の口から語る裏切り者。そいつは恐らくジェイドが前々から嫌悪していた男の名前。


「具体的な居場所、分かってるの?」


「勿論既に奴等の動きはこちらで把握済みです」


 地図を取り出し、指を指す。その場所が彼等の座標となる訳か。

 一体どういう狙いでそこに行く意味があるのか? イクモと筆頭事務官サリアだけが場に弾き出される。

 

「そこに団員を配置するつもりで?」


「筆頭事務官、貴方には団員達への兵糧の確保を願いたい。きっと、私が想像するにはこの戦い……結構な長丁場となるでしょう」


 言い終えたジェイド。用が済んだのか、周りの者に軽く挨拶をして団長に対しては丁寧な挨拶と深々とした敬礼を交わしてから退室した。


「くくっ、彼女には思う存分感謝しないとな。まさか、こんなにも簡単に副団長へのしあがれる日が来るとは夢にも思わなかったぞ」


 本音を言うなら、療養生活で使い物にならないライアンを始末して一気に隊長として全ての団員を支配しておきたかった所であった。

 だが、物事には順序なる概念が存在する。幾年も突然の左遷をされて落ちこぼれの身と成り果てた自分に救いの手を差し伸べた彼女ミゾノグウジンには感謝しかない。


 狙いがなんであれ、こうも呆気なく彼女の力で本部に居座る事が出来たのだから。

 

「……貴方は!? ははっ、いやはや! ご無事であるなら少しは団長に連絡した方が宜しかったのでは?」


 廊下を歩いていた矢先、ジェイドにとって思いがけない人物がそこに。

 水色の髪に優しい目を持つライアン・ホープ。まさに腹黒い自分にはない圧倒的な優男。

 それが羨ましくと思うと同時にとてもねたましく思わせる。


「ジェイド、お前は遠方に飛ばされた筈だ。それなのに……何故!?」


「神の力でのしあがれたと言っておきましょう」


 身長を利用して、上から睨むよう体勢で接近するジェイド。それに対し身を退きそうになりながらも耐えるライアン。

 空気が完全に凍り付きそうな中でジェイドはとどめの言葉を送る事にした。

 

「それと……貴方に知らされているか定かではありませんが。組織の裏切り者となったザット・ディスパイヤーは我々で抹殺する手筈となりましたので、くれぐれも私情を挟まぬようお願い致します」


「なっ!?」


 過去。ザットは忘れているかもしれないが、あの模擬戦で自分をぼこぼこにした奴だけは許さない。

 あの強さとあの勝ち気な性格。それらのが全てが鬱陶しく目障りな存在。

 そんな奴をようやく正当な理由で葬れるのだから、これ以上願ったり叶ったりはない。


「ザット、貴様だけは私が丁寧に丁寧に始末してくれる。過去の恨みは鍛え上げた力で潰してやるから……ゆっくりと待っているが良い」

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