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エピソード100:僕の日常生活を取り戻したい

「静なる闇。紅き空の下で止まる刻の中で存在は有と解き放たれん」


 奴等の執拗なストーカーは異常だった。理性がなくなったら、どうなろうと標的である僕達を追いかけ続ける。

 それは身が果てるまで。彼等は哀れなる屍でしかないのか。この責任は僕にあるのかもしれない。


 あんな化け物に変えさせてしまったのは異世界の存在を拒んだ事にあるんだ。


 追っ手からどうにか逃れ、各王国からの目に入らないようにする為に地図の中心点から大分外れにある森林の中に潜り込んだ。


 その間もずっと……まだ理性のある治安団以外は追い掛けてきた。

 だから、三人だけで何とか僕達の存在を関知されないよう事前に沈めておいた。


「にしても面倒な連中だったな。まさか……あんだけ追い掛け回してくるとは」


「けど、振りほどけたのは君とそしてアビスのお陰だ。僕一人だけでは多分死んでたと思う」


 謙遜とかじゃない。ザットとアビスの力を借りていなかったら、ピンチに陥れていた時もあった筈。

 それが今やこうして彼等の協力を得たお陰で誰も住んでいない小屋の中で一息つけている。

 この上は感謝しても感謝しきれないだろう。


「結界の永続は厳しいと思え」


「一晩しか持たないの?」


「あぁ」


 魔を寄せ付けない結界。これで、僕達は羽を安心して休められる。

 リミットに限りがあるようだけど……ひとまずは状況の整理からかな。

 寝る前に積もる話を一つずつ話しておかないといけないし。


「お前。魔法くらい、もっと豊富に使えねえのかよ?」


「私はそう多彩ではない。魔法を使う位なら体術に力を注いでいた……それと、この力は世界の概念を覆さんとする創世なる物。決して魔法などではない。呼称するならせめて魔術と呼べ」


「はぁ、ああ言えばこう言ってくれるなあ。何だか気が滅入るぜ」


 欠伸をしつつ、そこらにあった古臭い木製のベットに堂々と寝転がるザット。

 小屋に入室する際、ザットが手先から火の粉を使って灯りを点していた為に一瞬ホコリのような物が広がった。

 

 さすがにこれはやばい。持ち主はかなりこの小屋を放置していたようだ。

 掃除とか全然しなかったんだな。逆に住んでくれていなかったので助かったと言えば助かったけど。


「で? これから、この先……どうしていくかは明確に決まってんのか?」


「私は世界を正す。その為の犠牲なら幾らでも受け入れる所存だ」


「ふーん。アビス、そういやお前は何で俺達に力を貸してくれたんだ? あの時、窮地に一生を得れた事は確かな事だが」


 それがザットの疑問でもあり僕も同様の疑問であった。アビスが戦地に飛び込み、手助けをしてくれたのはまさかまさかの想定外で。

 今まで、散々悪い奴等に力を貸していたアビスがああしたのは絶対に理由が存在するのでは?


 僕達はそう踏まえていた。ザットの疑問に対して、机に長刀が収められた鞘を置いてから窓を見つめるアビス。

 彼の口から直接語られるのは……まだらしい。


「その前に……私は蒼であるお前に問いたい」


「僕?」


「彼女ミゾノグウジンとは……どういう関係に成り立っている?」


「そういや、俺も知りたかったぜ。あの女はやたらとお前に肩入れしているようだしな」


 ザットとアビスは知りたいようだ。僕と彼女の関係性を。いつ、どこで彼等が希の本質に気付いたのかは分からないがありのままの事実を晒す。

 この世界とは別にある世界。そこで小さい頃からずっと遊んでいた仲であり僕らは死ぬまでかけがえのない存在として成り立っていたと。


「地球? 全く、分からねえな。そんなのアザー・ワールドにはどこにもないがな」


「二つの世界、お前は確かに以前にその言葉を吐いていた。あの意味をここで得るとは」


 アザー・ワールドに住む住人。予測では神宮希によって構成された存在。

 全てを洗いざらい話すのは勇気が必要な行為であり、話した直後はどういう反応が返ってくるか内心鼓動が落ち着かなかった。

 彼等の反応はというと、ザットに関しては顔が唖然としている。


 やっぱり自分の存在が本物ではなく紛い物であることに少なからずショックを受けているのだろう。

 一方でアビスは平然とした態度で凄く落ち着いている。自分も偽りの存在だというのに……何故こんなに冷静でいられるのか?


「最初から、この世界は作られた物ってか。ははっ、くだらねえぜ! まさか、お前をただ満足させる為にノゾミって野郎が裏でずっと嘲笑っていたのかよ! くそったれ!!」


「すまない。彼女が犯した罪は僕も同じように責任を取る所存だ! 結果的にこんな世界を作られてしまった元凶は僕の不用意な発言にあるから!」


 ザットはずっと歯を噛み締めていた。今まで、生まれた頃から育った世界は神宮希がただ僕という神無月翔大の思う理想を現実にしようと画策したレプリカ。

 自分達は神無月翔大を盛り上げさせるだけの舞台装置であると知ると怒りが収まりそうにない。


「ショウタ。お前が一番の元凶だったとしても……俺は切らない。切る相手は真に存在している」


 起き上がり、僕を見る。その赤い瞳は揺るぎなくメラメラと炎の燃え上がっているかのように錯覚させらる。


「ジングウノゾミ、そいつが俺の……俺達の敵だ。こいつを倒して、この間違った世界を潰す。それがザット・ディスパイヤーの最後のお勤めになるだろうな!」


「ありがとう。君の協力、恩に着る」


「それまでは休戦って所か。危うくお前の背中を切らないように注意しないとな」


「私に言っているのか? その言葉の本質は」


「他に誰に言うんだ?」


 本当に仲が良いのか悪いのか、この人達を眺めていると分からなくなってくる。

 ザットとアビス。いつ火花が散るのか? 見ているとこっちはヒヤヒヤさせられそうだ。

 さて。そろそろ手遅れになってしまう前に止めるとしよう。


「ところで……何故僕達に力を貸してくれるのか教えてくれないかな、アビス?」


「勿体ぶらずに話せ。一つでも嘘ついたらーー」


「私を殺すか。ならば、やってみるが良い」


「……話が進まないので、ザットはしばらく黙っていてくれ」


 また喧嘩が始まりそうだったのでザットを口で否応に黙らせる。

 そうして語るアビスの自分自身に関する情報。その言葉の一つが一つがとても信じられない事で。

  

「バグ。確かに希はそう言ったの?」


 語られる言葉にバグ。本来であればアビスは設定上、存在していなかったと。

 神宮希。君はとんでもない子になっちゃったんだね。人も動物もモンスターも四季も景色も全てが君の作った物だなんて。


 もはや神に等しき力だ。さすがはミゾノグウジンと自分を神に奉っているだけの事はある。


「彼女は蒼であるお前に執着している。物事の全ての優先が確実にショウタ・カンナヅキを持って意図的に操作している」


 僕を最優先に。そこまでしてくれって頼んだ覚えは何度もないって言っているのに。

 どうして君はこうも一人で暴走するんだ!?


「ふーん。お前ら二人……聞くだけで相当な事情を持っていたんだな。アビスに関しては話されたとしても到底許せねえ物だが」


 ザットは過去にアビスによって家族が居る。だから、明かされたとしても恨みはそう易々とは消えない。


 けれど、前に進むには。過去の恨みを清算し、協力しながらやっていくしかない。

  

「受け入れねえと進まねえなら、俺は恨みを断つ。アビス、てめえはこれからこの先俺達に何があったとしても力を貸して貰う! 無論金は出さねえからそのつもりで括りな!」


 過去を捨てようと思わない。しかし、ザットは今起きた現状を打開にするにはアビスの力はなくてはならないと判断した。

 だからこそ、私情に囚われず事態の改善を最優先に回す彼の行動が立派に思えた。

 あの暴れん坊の青年がこうも大人しく振る舞うとは。


「俺の顔に何か付いてんのか?」


「いや、付いていないよ。寧ろ君にしては利口だと思ったのさ」


 ありのままの本音を吐露した。言われて、怪訝に思うザットと静かに壁に持たれるアビス。

 この三人だけで僕達は神宮希に対して反撃を仕掛ける。その旅はとんでもなく厳しい事は承知の上だし、オウジャやアルカディアよりも敵のスケールは壮大だ。

 

 しかし、撤退という文字は存在しない。逃げたら……僕の現実世界は滅亡し、彼女の作り物の世界が永遠と存続する。それだけは許してはならないんだ。


「最終目標はジングウ・ノゾミって奴の撃破か。俺はマリー・トワイライトと呼んだ方がしっくりとくるが」


 異世界の呼び名としてマリー・トワイライトという偽名を使っていたノゾミ。

 ザットもノゾミという名前に違和感を抱いているようだ。僕は何ら支障はないけど。

 

「蒼の騎士よ」


 その名前はもう前に捨てたんだけど。一応、捨てましたと話しておくべきか。

 蒼の騎士という称号はとある一件で破り捨ててショウタ・カンナヅキという一般人になったと。


「では、これからはショウタと呼ぶのが理想か?」


 理想って……随分と謙遜されているなあ。前はあんなに敵対していたのに、何かこうしているのが不思議でならないよ。


「まぁ……そうしてくれた方が嬉しいかな」


「ショウタ。お前は、世界の裏の裏を想像させたジングウをその身で滅ぼせるか? 私の疑問に解を示すが良い」


 彼女が実際別の世界で全体的な顔とか服装は変わっていたのに関わらず、元気な姿を見せてくれたのは凄く嬉しかった。

 けれど誤った道に踏み出したのなら、その行為を未然に防ぐのが僕達にある!


「希は僕の手でケリを付ける。私情を挟んでいたら、彼女の思惑に乗っかるだけだからね」


「そうか。その選択に迷いがないのなら、私は世界の終わろうとする刻まで戦う。さすれば……これが最後の贖罪として完遂するだろう」 


「水を刺すようで悪いが、明日はどうする気だ? 何も道標がなかったら動きたくても動けないぜ?」


「道標なら既に検討は付いている」


 黒のロングコートの内ポケット。くしゃくしゃにされた地図のある地点に座標となる印をそこらにある破片で入れた。


「以前私はこの地点からの奥底で奴と垣間見た」


「となれば……ラスボスはそこでひっそりと待機しているって所か?」


「恐らくはな。だが、地点を奴に知られている以上……そう易々と通してくれないと知れ」


 これが僕にとっての最大のミッション。とんでもなく腕が鳴るじゃないか!


「それでも行こう! 僕達三人なら……恐れる物は何もない!」


「たくっ、どんな罠が待ち受けているのか分からねえのに随分と調子が良い事で」


「しかし……それこそが蒼の騎士と言えよう。ショウタは私達に希望を与えんとする賭けとなる」


「じゃあ、早朝に仕掛けるとしようぜ! 全てが終わってしまう前に!」

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