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エピソード99:三人それぞれ立場が違うけど、このメンツで上手くやっていこう

 事件の首謀者である神宮希と執拗に迫り来るショウを追い払った後でも戦場は未だに激化していた。

 その中で二人の男達が傷を受けながらも門となって、勢力たる勢力を削ぎ落とす。

  

 もはや本能のままに赴く哀れな兵士とそれに混ざるのさえも嫌になりながら団長の指示には従うしかないと割り切ろうとする治安団の団員。

 

 世界に喧嘩を売る一人の青年ザットは以前治安団の副団長に勤めるも希の傘下に入る事をよしとせず組織を抜け出し、役職も捨て去る。

 白いローブに包まれ、治安と秩序を目的としていた為に全体的に服装は白で統一されていたがここに来てザットは気分転換も兼ねて服装を丸ごと変えた。

 

「裏切り者がぁぁ!」


「覚悟しろ!」


「へっ、覚悟を決めるのはお前達だぜ」


 グレーの革ズボン。それと上に地味な配色を施したシャツを身に付け、仕上げに緋色のジャケットという若者風のスタイルに変更。

 均一に揃えられていない茶髪が相まって、やんちゃな雰囲気が醸し出されている。

 

 ザットは元来、敵として認識した以上は情けを掛けようともしない性格であった。

 それ故に元部下であろうと一切の情けはしない。襲い掛かる者は容赦なくぶったぎるだけである。


「がはぁぁ!」


「おらぁ、情けねえな!」


 長らく時間が経った。どれぐらい経過しているかは計り知れないが、これまで多くの団員を切り刻んだ血が灰色の剣のべっとりと付着している。

 イクモはその光景に何とも不甲斐ないと心の中で後悔しているようだ。

 団長という身でありながら、部下すら守れない事がとんでもなく腹立たしい。

 

「ザット・ディスパイヤー。どうも、お前は俺を怒らせるのがお得意らしいな」


「これは戦場です。世界の敵に成り果てたのであればとことん地獄の底まで付き合うつもりなんで」


「何が、お前をそう変えた? 幾らなんでも手加減しなさ過ぎだろ」


 家族もアネモネ姉さんも殺した男はアビス。だが、それ以前に仕向けたのはあの女。

 あいつが裏を引いていたから自分の人生はがら変えられた。 


 ザットはそれを断じて許さない。ミゾノグウジンが好き勝手にコントロールしていく世界でいきていくなんて真っ平御免である。


「強いて言うなら……あいつでしょう。俺はあのすかした女を生かしてはおけない。裏でミゾノグウジンの支配下に置かされる世界なんて、くそ食らえなんでね!」


「だが、そうしなければ世界は。俺達という存在が消滅するんだぞ?」


「理性もない町の住人。それにそっちの化け物のように成り果てるつもりはありません。俺は俺のやり方で反抗させて頂きます」


 悲痛の叫びを聞いた。多くの罪を自ら、自覚して尚も抗おうとする男アビスは腕型の剣から長刀を駆使して変則的な動きで襲おうとする連中を俊足で始末する。

 これまで自分を探す為に様々な者と手を組んでいたアビス。


 結末は望むべく物でもなかった……が、今までの罪を背負い続けていきながらこれからは裏の裏までことごとく支配していたジングウたる存在に立ち向かうべく武器を振るう。


 刀を振るっていく度に揺れるロングコート。長刀の一閃は周囲の者を軽く一掃する。


「支配に置かされようとする者よ。お前の力はその程度で終となるか?」


「貴様!! 何故これだけの量を使っても尚立ち上がれるのだ!?」


 エレイナ将軍は驚いた。まさか、あれほど入念に待機させていた兵士達が二人だけに潰されるとは。

 元治安団の隊長代行を勤めていたザットはそれなりの力を発揮しているが、内心疲労を浮かべている。

 

 にも関わらず、アビスは特に異質である。何故なら単身で迫ろうとする敵を一体一体全てを蹴散らし、それでいても顔の疲れはない。

 

 あんな長い刀を持っているのなら手の負担はそれなりに掛かる筈。

 だが、負担がそれでも掛からないというのであれば……アビスはエレイナ将軍の中で強敵の枠に填まっていた。


「魂の抜けた殻がどう立ち向かおうが、私の障害とはならない。例え世界の者をかき集めたとて結果は同じとなろう」


「ならば……私が前に出向くだけだ!」


 背中に掲げた金色の鞘。ずっしりとした紅の大剣を片手で振りかざし、アビスを殺すつもりで振りかざす。


 だが、しかしアビスは至って冷静に振る舞う。将軍相手であろうが臆する事なくあしらう。


 攻守ともに終わりの見えない戦闘。時間が経っていく共にアビスはエレイナ将軍のパターンを見出だし、タイミングを見計らった所で即座に背中に回り込み一撃を下す。


 それは余りにも一瞬で、エレイナ将軍にとって目で追う事すら叶わない程の俊敏であった。


「今のお前では……私には届かない。その邪念が留まる限りは」


「何を言っている?」


「意味ならいずれ分かる筈だ。後悔の底に沈む前に、自らの理に目覚めるが良い」


 もはや戦意のない者に対して気に向ける必要はない。エレイナ将軍はどうも望んで戦場に立っている訳ではないようだ。

 

 それを薄々感じたアビスはエレイナ将軍を無視して、まだ立ち上がろうとする屍同然の兵士達に向かって武器を向ける。


 奴等はミゾノグウジンによって、支配下に強制的に置かされた集団。

 何も手加減をする必要性はない。二度と起き上がれないよう徹底的に葬るだけに集中すれば良い。


「来い。感情を失った……哀れなる屍よ」


「ウォォォ、コロセコロセ!」


 数で押し寄せようがアビスに撤退の文字はない。ただ、こちらに敵意が存在すれば間違いなく消すのみ。

 長刀の一振りで押し寄せる敵を凪ぎ払い、距離を詰めてきた敵に関しては直接刃を通す。

 

 威勢の良い兵士達も通常であれば、ここで一旦怖じ気づくという感情を宿す。

 しかし、ミゾノグウジンによって影響を受けた波動の実力は相当な物で多くの者は時間が経てば自然と体力が回復するようである。

 続々と立ち上がる屍。このままでは切っても切っても先は見えない。


「円環の力を保持するか」


「ヤレ、アイテハタカダカイッピキダ」


 自分という存在がある以上は戦場に立とうと。アビスは僅かながら心の中に想いながら長刀を片手に迎え撃とうとした。

 だが、勢い良く迫ろうとする敵は背後から首ごと切りされていった。

 武器の刀身。色はどこまでも黒く染められ、無数の敵を退く最強の刃と成り果てる。

 

「ようやく祭壇に降りるか」


「真打ちは遅く登場かよ。たくっ、長らく待たせてくれるぜ」


 新たに形を変えた蒼剣を振るう青年ショウタ・カンナヅキ。彼は今やこの世界の中心として戦場に舞い降りる。


 有象無象に広がった屍を踏み越えて、彼は懸命に足掻いていた二人に謝礼を述べる。

 

 立場に違いがあれど、ようやく合流した三人という世界の裏に対抗しようとする者達。

 例え、圧倒的な人数で攻めいようが彼等の表情に苦悩はなかった。

 寧ろ……これからが巻き返すチャンスに相当すると。


「すまない、あっちの方に時間を取られていた」


「だったら遅れた分も取り返してくれや。こっちは二人だけで結構な相手をさせられたんだぜ?」


 目に見える殆んどが死体の海。その中で未だに這い上がろうとする兵士。

 こいつらに理性は乏しい。あるとすれば、ただミゾノグウジンに与えられた使命だけ。

 

 その哀れな集団の中でミゾノグウジンの手に掛からずに済んだ者が居る。

 エレイナ将軍は三人の反乱分子に有無を言わさず攻撃を仕掛ける。

 大きく振りかぶる強烈な斬撃。一度地面に付けば、土は砂となって激しく舞い上がり視界を妨げる。


 三人はほぼ同時に回避。ザットは左に回り込み、アビスは右に回る。

 ショウタは不意を付いて背後に回り、合図をせず三人同時に攻めいった。


「ぐっ!! たかだか三人に遅れを取るなど!」


 真・蒼剣の刃が通った背中。浅く通ったとしても、その傷の痛みは尋常な物ではない。

 急いで前に飛び込んで、緊急回避を行うエレイナ将軍。どうにやら、三人の実力は甘い物ではないようだ。

 

 以前ひょんな場面で鍛え上げる事になったショウタ・カンナヅキの成長ぶりは尋常ではない。


 油断も隙も、この三人では作れない。単身で飛び込むには無理があったのだ。


「中々、俺達も息が合うじゃねえか! このメンテでどうなるのかとひやひやしていたが、ただの杞憂だったな」


「三本の運命の道。それが結び果てたと言えよう」


「エレイナ将軍、貴方が思う以上に僕達は強い。あまり舐めない方が良いですよ?」


「ほう……貴様も見ない間に随分と成長したな。関わった時間はそれほど長くないとはいえ」


 致命傷は受けていない。故にまだ、辛うじての傷なら戦える。エレイナ将軍はもう理性を無くした部下に鼓舞を敷いた。

 

 ここらが正念場であると。三人相手に遅れを取るなど言語道断でしかない。

 

「知らずに知らずに成長するもんだねえ。まぁ、俺の場合……何かひがんじゃったんだけど」


 状況としては五分五分。三人いや、前半は殆んど二人だけで退いていたとはゆえ限界という限界がある。

 

 増援も幾らか押し寄せて来ているであろう。このまま真面目に相手をしても、数が一向に減る保証もない。

 

 三人は言葉を出さずとも理解した。今は叩くよりも戦力的撤退を敷いた方が実に効果的であると。


「はぁ、お前のせいで俺は散々な目に遭いそうだぜ」


「ごめんね。責めて、希とケリを付けるまでは付き合ってくれ」


「行くぞ……私がこの数多なる障害を払いのける。その間にお前達は進め」


 単独で長刀を軽々と進みながら振るうアビス。数はあっちが上だというのにどう見えても、一方的に叩き潰されているようにしか思えない。

 ショウタはその光景に乾いた笑いしか出ない。どうにも、自分の中のメンツの一人は単身でも異常な能力を発揮していると。


「味方に回ってくれて良かったよ……本当に」


「お前はそれで良かったのかもな。俺としては内心複雑だが」


 アビスが連中を退いている隙を突いて、現状からの離脱を試みる。

 リーダー格に相当するエレイナ将軍ならびにイクモ団長からの追跡が来ると心構えしていた。


 だが、しかし二人は相手にせず見送った。どうやら追撃しようとするエレイナ将軍をイクモ団員が宥めていたようだ。

 一瞬振り向いただけなので、詳しい経緯は分からないが何となくそう読み取れる。


「このメンバーだけで上手くやれるか?」


「さぁ、どうだろう……ただ、簡単にやられる程僕達は弱くないよね?」


 この先に待ち受けるは間違いなく地獄。だが、その運命にすら受け止める三人の挑戦者。

 彼等と異世界を赴くままにコントロール出来る神宮との火蓋がいよいよ幕を切る。

 

 敵は世界中。その世界に歯向かおうとする三人の男達に牙が剥く。

 しかし彼等が皆恐れるという感情はない。待ち受ける障害の全てを受け止め、間違った世界を正しき物へと修正する為に……。


「はっ、馬鹿は休みに休みにしやがれってんだ! 俺がそこまで大勢相手に遅れを取るつもりは一切ねえ」


「そうか。なら……このメンツで充分やっていけそうだ」


 先陣を駆け抜けたアビスが二人の元に合流し、ようやく三人全員互いに顔を確認しあう。

 三人共に自分の中に宿る目的は違えど、想いだけは変わらない。

 アビスとザットが隣に並んで走る中でショウタ・カンナヅキは僅かな期待と希望を胸に、赤く染まりきった空の下を駆け抜けていく。

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