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エピソード9:こういう展開もあり得るか

 さーて、息巻いたのはまだ良かったけど……


「暑いぃぃ」


 オウジャの街に向かうには幾つかの砂漠を通り抜けなければならない苦行が立ちはだかる。

 しかも、この魔法と剣のご時世に置いて灼熱の中でも耐久力があるラクダは存在しない。

 こっちの世界に来た時から動物が見当たらなかったから何となくそうかなと思っていたけど、やっぱり徒歩で砂漠の中を歩くのは苦しいです。

 とは言えお金があったとしても馬は砂漠という灼熱環境に適していないから使えない。

 詰まる所手詰まり状態に入っています。


「はい、水。貴重だからあんまりがぶ飲みしないように」


「ふー。助かるよ」


 ペットボトルを半分にしたかのような鉄の容器。それに入った水を少しだけ飲み干す。

 どの世界でも、やっぱり水は美味しい!! 口が乾いているから尚更旨いね!


「私にも頂戴」


「どうぞ」


 マリーも喉が乾いていたんだな。何の躊躇も無く水を飲んでいるけど、それって間接キスですよ。


「2の番号となると中間にも差し掛かってないか」


 番号が幾つあるのかは知り得ていないけど、まだまだ歩く必要がありそうだ。

 一体何時間歩けば休憩という名のオアシスに巡り会えるのだろうか?


「今日中にあそこまで行けたら、充分ね。行けるかどうかは私達のペース次第になるけど」


「それってどれくらいで到着するの? ざっくりで良いから教えて欲しい」


「頑張って休まず歩けば四時間。ゆっくりペースでいけば六時間になるかも」


 ただただ絶望しました。休憩しようにも四時間って……間に合わなかったら、この砂漠の上で寝泊まりになるのか。それはそれで辛い。


「因みに正式名称はグランドオアシス。水の魔法をこしらえて作り上げた泉が広がる砂漠の街よ。そこの飲める水は最高級の料理にも重宝する程の美味って言われているようね」


「へぇ」


 是非とも行かねば。 いざ目指そう、グランドオアシス!


「おっ、気合いが入ってるね」


「そりゃあそうさ。こんな乾いた砂漠に居るなら、急いで目指すに限る」


「じゃあ急ぎましょう。時間はそう待ってはくれないからね……って思ったけど、ここでモンスターのお出ましか」


 何気ない砂漠の一面からモンスターが這い上がってきた!?

 容姿は丸っこいネズミが少し大きい感じか。砂まみれでありながら手はどんな物も切り裂きそうな鋭き爪を持っている。

 モンスターもこちらに警戒しながら近付いている。ここは正念場か。なんか戦闘するのも久々だな。

 気を引き締めて行くとしよう。

 

「来てくれ、蒼く輝く蒼剣よ」


 初めて手に取った時から自分の身体のように程良く馴染んだ剣。

 アウレオルスとの戦闘後に蒼剣は勝手に引っ込んでいった。そのお陰で次からどう出せば良いのか分かっていない。

 ただ、祈ってみれば何となく自分の手に来るかもしれない。これは言ってみれば一つの賭けだ。

 しばらく待ってみると、月から突如舞い降りた剣が昨日と同じ形状を持ってして掌から現れた。

 蒼剣は実体化を為し遂げ、今僕の手に収まっている。


 さぁ、この武器で成敗するとしよう!


「せいやぁぁ!」


 一歩地面を大きく踏み込む事により驚異的な加速を生み出した僕は近付いて来ているモンスターに容赦の無い斬撃を振り払う。

 切り裂かれたモンスターは意識を閉ざして砂と一体となって消えて行くが増援が湧いてきた。

 どうやら、これで終われないらしい。

 そちらがそのつもりなら、僕もそれ相応の態度を取らせて貰おうじゃないか。

 

「敵の数は5体。さっきので怒らせたようね」


「手っ取り早く終わらせよう」


「オーケー。サクッと締めるよ!」


 襲い掛かるモンスターを剣で振り下ろし、魔法を嗜むマリーは氷の球体を全力でぶつける。

 僕の軽快な足は誰にも付けられていない。こっちに来てからは身体がよく動く。


「はぁぁ!」


 数分で片付いた。意外と時間が掛かるんじゃないかと思っていたけど。

 やはりこの武器の切れ味は相当な物だ。普通の剣と比べて重さも殆ど無い上に攻撃力も抜群。


「さすがは私の頼れる騎士ね。一瞬で瞬殺出来たのはお見事よ」


「いいや、どちらと言うとこの蒼剣が凄いよ。一払いでモンスターが薙ぎ倒せるんだから」


 恐ろしい力だ。この剣だけでもどんな奴等も倒せるのだろうか? それが可能ならこいつはチートに相応しい武具となる。

 

「あれっ?」


 モンスターが居なくなった途端に消えてしまった。この剣は僕の意識とは裏腹に勝手に動くタイプなのだろうか。

 また、用があったら呼び出すとしよう。


「よし、行こう」


 お日様が照らされた砂漠。額から汗を垂らしつつも、一先ずの目的地であるグランドオアシスへ。

 遠くで徘徊しているモンスターは僕達の気配に近付いていない。

 だからなるべく遭遇しないように先を急ぐ。戦闘を一回するだけでも余計な時間と体力を消耗しかねないからだ。

 それから、どれだけ足を動かしたのかは全く覚えていない。グランドオアシスに到着するまでに僕とマリーが黙々と歩いていたのは確かだったけど。

 

「はぁはぁ」


「あと少し。頑張りましょう」


 どこの世界でも砂漠は広大だ。あっちの世界ではタクラマンカン砂漠とか色々あるらしいけど、こっちもこっちで負けていないと思う。

 実際に行った事無い人が言うべき言葉ような気がするけど……気にしない気にしない。


「……っ!」


「あっ! あれって、あれって……まさか!?」


 喉を最大限に潤してくれる水はあと少し。

 最早目的地に向かって進むしか取り残されていない僕達に突如希望が目の前に! 

 マリーは満面の喜びを表に出していた。僕もそれに釣られて笑みを溢す。


「ははっ、やっと到着した!! あーあ、長かったぁぁ!」


 モンスターとの接触を避けながら長く歩いた道のり。いつ到着するのか分からない苛立ちもあったけど、ようやく辿り着いたぞ! グランドオアシスに!


「水水水」


「マ、マリーさん?」


 到着した瞬間にお目当ての方向へ走り去ってしまった。このままだと置いていかれてしまう。急いで追い掛けよう!


「うわっ、人だかりが凄まじいな」


 水を求めて走り抜けたマリーを追い掛けていたら色んな店が立ち並ぶ街が目の前に。

 現実世界で例えると一昔前に賑わった商店街か。店の周辺には大勢の住民で入り交じっている。

 もう、こうなるとマリーを追い掛けるのは困難だ。この入り乱れた中を進むのは容易ではない。


「うぐっ、進みづらい」


「お客さん。今なら向こうの森で取れた果物が超安いよ!」


 紫色のぶつぶつとした果物だ。これって、この世界ではポピュラーになっているのか……アウレオルス戦の前に一回食べて大変な不味さを思い知らされた有害な果物(僕だけ)。

 出来れば金輪際関わりたくない果物として上位の位置に君臨している。

 

「さぁ、どうだいどうだい!」


 店主の迫力が凄まじいが、マリーを見たかどうか訪ねておこう。


「すいません。さっき急ぎ足で向かった女の子を見掛けませんでしたか? 特徴は髪が白色で瞳がエメラルドなんですけど」


「あぁ、何か知らねえがお前さんの彼女か? 凄く美人な女の子ならあっちの方向に全速力で走って行ったぞ」


「助かりました。ありがとうございます」


「おうよって、ちょっとお客さん!!」


 本当に人が多すぎるお陰でまともに歩けそうにない。取り敢えず気さくな店主が教えてくれた方向へ急ごう。

 この街は広そうだから、最悪僕が迷子になってしまうだろうし。


 全力走りで幾つかの店は通り過ぎた。次に見えるのはこのグランドオアシスを象徴するかのような石像と一般人が衣食住として使う石の家。

 そこを通っていくと円を描いた水が真ん中を陣取っていた。どうにも、これがマリーの言っていた魔法で作られたお手製の泉って所か。

 皆思い思いに水を汲んだり口に運んだりと割かし自由気ままにやっているみたいだけど。


「遅かったね」


「そりゃあ、君がさっさと行っちゃったからね。ここまで追い付くのに苦労したよ」


 自分の顔が鮮明に映る程の水を両手で口の中に放り込む。さらさらと雑味が無い、透明な触感。

 家の水道水とは比べ物にならない味わい。水だけでここまで変わるとは!


「う、旨い」


「ふぅ。顔もすっきりした!」


 顔洗いもするのか……マリーは遠慮を知らないな。この街の住民ではない僕達がこんな堂々としていたら町長とかに目をつけられないかいささか心配だ。

 バレない内に引き上げよう。


「お主ら、その泉は皆の共有財産じゃ。もう少し丁重に扱えい」


 杖を持った爺さんに見つかっちゃったよ。見た感じはこの街に住む住民って所かな。とにかく素直に謝罪だ。


「ごめんなさい、ここに来るまで喉が乾いていた者でして。私はゲネシス王国のエナジー地方から参りましたマリーと申す者です。以後お見知りおき頂ければ幸いです」


 下から目線で挨拶を交えるマリー。それに対して爺さんの頬は緩んでいる。

 怒りっぽい爺さんも所詮は男。女の子にはめっきり弱くて助かった。


「僕は遠い国からーー」


「じゃかましい。貴様の事は聞いておらぬわ!」


 このジジイ。男の前だと典型的にウザい性格になるのか。いや僕だけかもしれないけど。


「ワシはモース。グランドオアシスの長として百人以上の民をまとめあげる老いぼれである」


「この炎天下の灼熱でどうやって暮らしているのですか? 百人も築き上げるのはきついでしょうに」


「スクラッシュとゲネシスからの報酬金で賄っているのです。この聖なる泉を取引として使って」


 青く鮮明な泉を取引として使っていた。となると、この砂漠に囲まれた灼熱の状況下で街が発展している理由は国が出す報酬金によって補われていたから。

 もし仮に財産を生み出す泉が何らかの理由で枯渇したりあるいは失ったりでもすればグランドオアシスは瞬く間に衰退しかねない。

 そうして被害は刻一刻と広がり最終的にはスクラッシュとゲネシスの資源である水が市民に供給出来ない状況に陥る。

 

「この泉は遥か昔に全人類の祝福によって生み出されたとされる創造神ミゾノグウジンによる贈り物。これだけは何としても命に変えてでも守られねばなるまい」


 言葉だけでも長老の意気込みは強く伝わる。この泉を死守する事が百人の命を引いてはグランドオアシスの繁栄を安定させる宿命であると。

 しんみりとした雰囲気に口をつぐむ僕達。その時、鐘が鳴り響く。

 それは警報と呼べるような鳴らし方で何度も何度も打ち鳴らしている。

 

「長老! グランドオアシスに接近するモンスターが大量に!!」

 

「なんじゃと!? この国の周囲100m圏内にモンスターが入って来れぬよう結界を張って置いた筈じゃぞ!」


「そ、それが全く効果を為しておりません。恐らく何者かに解除されたかと」


「えぇい、とんだ術師が現れた者じゃ。こうなりゃあ、防衛じゃ! 動ける者をかき集めて、先に向かわせろ! 敵の狙いはこの泉に違いないからのう。絶対に近寄らせるではないぞ!!」


「はっ!」


 モンスターが接近中。もし、この泉に近付かせたら何が起きるか分かったものじゃない。

 それに術師が存在しているとなると故意的に狙っている可能性は充分に考えられる。

 僕の第一目的はオウジャの国に潜入して連れ去られた子供達の解放だとしても、この迫り来る状況を捨て置けない!


「分かっている。私も泉の水を堪能したんだから、感謝の気持ちを返さないとね」


「お前達は逃げんのか?」


「いいえ、僕とマリーは襲来するモンスター退治に務めます。それと結界を解除したとされる術師の発見も併せて」


「……うーむ、分かった。こちらの方でも応援を呼ぶなりして早急に防衛に取り掛かって準備する。お前達はワシと違ってまだまだ若い。決して無茶をするでないぞ」


 さぁ、この泉を狙う術師よ。お前の狙いと正体を見せて貰おうか!

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