異世界転生抑制課
思わず拳を握る良いぞ、そのままお前はモブになる。前世なんて思い出さずに異世界転生などではなくお前はその世界の住人に溶けるのだ。
この女性は自己投影型夢好きだった。ならばと夢で何度も何度もモブの人生を刷り込んでみれば思った通り、彼女は彼女になった。
「よっしゃ! 転生阻止! はい次ぃ!」
「先輩次この人お願いします! 十八歳男性異世界最強難聴系逆ハーレム主人公狙いのようです」
「っかーーーー! またか。最近男性で多いな」
「流行らしいです」
後輩から受け取った書類。書いてあるプロフィールはここ数年で見飽きた平凡な人間のそれ。まったく、どうして転生なんか願うのか。そもそも何故転生なんて流行ってしまったのか。何回言ったかわからない愚痴を飲み込んで自分のデスクの隣、俺たちの上司であり、この世界の神さまを睨みつけてみれば神さまはいつものように眉を下げてごめんねと小さく口を動かしたのだった。
…………神さまが世界を作った。なんてのは聞いたことがあるだろう。たまたまその世界作りを任された神さまはあまりそれが得意でなかった。だから地球と呼ばれる世界、人が住まうようになったこの世界に一つの特権を与えた。物語を作るという特権を。
人はそれを己たちの特権だとは知らずに様々はものを描き、書いた。神さまはそれをひとつひとつ見ながら同じような世界をぽんぽん作っていった。これは楽だと人の作る物語を作っていた神さま。だけれどほんの数年前から異変が現れたのだ。
人が、世界を渡っていく。そんなことが起き始めた。
人に与えた特権は物語を作ることだけだったはずなのに、彼らは自分を物語に組み込むことでそれを可能にし始めた。もちろん誰しもが出来るわけではなく、一部の特権を知らず知らずに使いこなした人だけが渡っていたため最初はそう問題でもなかった。
だけれど神さまにとってほんのわずかと言える数年でそれは爆発的に増えてしまい、世界は勝手に知らない間に増え始めた。神さまが作った世界からもう一つ子どものように同じような世界が勝手に生まれ始めたのだ。そこは神さまが手を出せず消すことも出来ない無法地帯、それこそ世界を渡った人が神さまとして機能してしまう世界。
それに気づいた神さまは慌てて他の神さまを集めて会議を開き、何ヶ月か篭ったのち、確定事項として一つの部署を作った。
それが俺たち『異世界転生抑制課』だ。
何となくタイトルが浮かんだのでプロローグっぽいのだけでも作れないかと思いこんなものができました。