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「彼女の故郷は随分前に失くなっていますね」


エルグレドは執事の言葉に走らせていたペンを止めた。


「失くなっているとは?」


「6年ほど前に何者かに襲われて村があった場所は今、廃墟になっているようです」


「盗賊か何かの仕業か?」


「それが・・・分からないのです。金目の物は残っており、野生の獣に襲われたにしてもそれで村が滅びるなどとは思えないのです。当時も役人が不審に思って調べたらしいのですが、結局真相は分からずじまいだったらしいです」


「・・・そうか」


ロゼは故郷に帰る予定だったと言っていた。

それが嘘か、もしくは生まれ故郷とは別の故郷があるのか・・・。


「彼女がこの国に来たのは2年前です。魔術学院に入学したのも、この時ですね」


「・・・彼女はつい数日前に卒業した。あの学院はすべてのカリキュラムをこなすのに6年。最低でも4年はかかると言われている筈だが?」


「・・・・ああ!ご存知なかったのですね」


「?」


「彼女ですよ。最年少首席卒業者」


その言葉に唖然とする。今までどんなに優秀な魔法使いでもそんなに早く卒業できた者はいない筈だ。それだけの膨大な知識と技術を扱っている。そんな学院を今年、とても優秀な成績と功績で卒業した者がいると、それはそれは騒がれていた。


「・・・確かに。平民にしては、かなり頭が切れそうだとは思ったが・・・」


しかし初対面の会話では、そこまでの優秀さは感じられなかったとエルグレドは思う。ただ彼女の物怖じせず物をハッキリと言う態度に、少し違和感は抱いていた。


「1年前に魔術の失敗で実験塔を破壊しています」


「確か、あれはバルド様が修繕の援助をしていたな」


「しかし、その借金も大半を彼女は返済してます。冒険者ですから。新しい発見の情報など国に売っていたようですね。」


聞けば聞くほど頭が痛くなってくる。


もしや自分は、とんでもない者を押し付けられたのでは?

エルグレドは今更ながら眩暈がした。


「・・陛下とロゼは前から面識があったということか」


一体何のために王は自分とロゼを婚約させたのだろう。

もし、彼女をこの国へ留めておきたいだけなら、もっと別のやり方もあった筈だ。


「さぁ、私などには陛下の考えることは分かり兼ねます。」


「どうしたものか・・・・」


ロゼには、つい数日前に自由にしていいと伝えたばかりだ。


だが万が一、バルドの目的がロゼを留め置くことならばエルグレドは初手を誤ったことになる。しかしエルグレドにはそれが目的だとは思えないのだ。


何故なら婚約を告げられたあの時、二人が意味ありげに目で語っていたのをエルグレドは見逃さなかった。


「また俺は蚊帳の外か」


エルグレドの呟くように告げられた言葉はか細く、幸い執事の耳には届かなかった。


「エルグレド様?なにか・・・?」


「いや、御苦労だった。すまないな忙しいのに。余計な仕事を増やしてしまった。後はこちらで引き継ぐ。クライスは明日からいつもの業務に戻ってくれ」


「本当に良いのですか?」


クライスと呼ばれた彼は、歳はエルグレドとそう変わらないが優秀なファイズ家の執事である。


その一言で彼の言いたい事を理解したエルグレドは、うっすらと口元に笑みを浮かべ目を閉じた。


「この家の当主はベルグレドだ。それが変わることはない」


その返答に、執事は静かに頭を下げ部屋を後にする。


「・・・・・婚約など、すぐに解消されるかもな」


もし、彼女がバルドに害なす者であればエルグレドは躊躇いなく剣を振り下ろすだろう。


そういうことなのだ。


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