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そして小鳥は舞い降りる

誤字脱字が多くてすみません修正しつつ話を進めております。どうぞご容赦くださいませ。

「今、何と言った?」


エルグレドは馬上から偵察から帰ってきた部下に聞き返した。


「敵は全軍海域では無く陸からこちらに進軍しております。もうじきガルドルム領内に到達するかと・・・」


伝言を伝えた兵士の顔は青白い。

エルグレドは想定していたのか素早くその兵士に王都へ戻るよう指示し自分について来た部下を振り返った。


「あちゃーやっぱりですかぁ〜」


アストラが海域を強化すると言った時ほとんどの者が考え直すよう進言した。しかし頑なにアストラは聞き入れなかった。それは稀に見る頑なさで終いにはバルドからの許しも得ていると言い出し誰も何も言え無くなってしまったのだ。

エルグレドは手薄になる地上の境界線を守る役目を申し出た。本来の立場ならエルグレドが海域を守る筈だったのに。これにはゼイルが強く反対した。彼は今回この戦いに参加出来ない。エルグレドを補佐する事が出来ないからだ。しかしエルグレドはこれを譲らなかった。アストラはそれを了承し竜騎士団は地上にとどまる事になった。


「作戦を立て直す」


パラドレアとガルドエルムの境界線には大きな河が流れておりそれを渡り切ると平地に出るまで暫く森が続いている。そこで出来るだけ足止めし、援軍を待つ。


「いいか。この戦いにおいては圧倒的にこちらが不利だ。

だから今回に限り限界になったら退却する事を許す」


エルグレドの言葉に皆息を飲む。エルグレドがこの戦いに勝ち目は無いと認めたのだ。


「無駄死にはするな。民はこの事を知らされていない。ここで倒し果せなくとも王都を守なればならないのだから」


それは誰が聞いても建前であった。

エルグレドは恐らく一人でもここに残り最後まで戦う気だ。部下達はしょうがないなぁと笑い合いながら珍しく軽口を叩いた。


「分かりました。じゃあ駄目だと思ったら直ぐに城に帰ってあの勘違い坊ちゃんを差し出して見逃してもらいましょう」


皆がどっと笑い声を上げた。

エルグレドはコレには片眉だけ上げて苦い顔をした。


「お前達言葉には気をつけろ。何が自分の首を締めるか分からないぞ」


ゼイルの事を言っているのだとわかりまた笑い声が上がる。


「敵を出来るだけ分散させ足止めする。行くぞ!」


ハッ!とそれを合図に皆散り散りになった。

すまない。と部下に思う。恐らく援軍は来ない。間に合わないだろう。きっと部下達も気がついているはずだ。だが誰一人引き返そうとは言わなかった。

エルグレドは馬を走らせながら青い空を見上げた。


(顔ぐらい見てくれば良かった)


誰が見捨てても味方でいてくれると彼女は言った。

エルグレドの心は晴れ渡る空のように澄んでいた。


(こんなに気分が良いのは久しぶりだ。悪くない)


今ならこのまま死んでも悔いは残らない気がする。エルグレドは前方に見えた敵を確認し馬上からスラリと剣を抜いたのだった。








それからしばらくの間、敵との交戦は続いた。

森で上手く身を隠しながら次々と敵を切っていく。

森の彼方此方で剣が打つかる音がしている。

ハッとエルグレドは息を吐いた。


「ぐあ!!」


どんなにエルグレドが強くとも数に差がありすぎる。

息が上がり少し動きが鈍くなるそこへ数人の敵が現れた。


「いたぞ!コイツが指揮官だ!」


男が声を上げた途端にエルグレドは数歩前に踏み出した。

同時に前方二人を斬りつけその背後にいた敵を突き刺した。その時エルグレドの右腕に激しく稲妻が走った。


「!?」


その痛みに一瞬動きを止める。その隙を見て横から敵が剣を振り上げる。エルグレドはチッと舌打ちした。


(魔術士か!)


その剣先がエルグレドに届く瞬間地面からフワリと風が舞い上がりそれは刃となり目の前の敵を斬り裂いた。


「!?」


何が起こったのか理解できず固まったまま立ち尽くした。

エルグレドの周りには先程の敵が全員倒れている。


「・・・・・・・なっ!!!」


これは夢かと思いたかった。

影が出来空を見上げるとあの青空から見覚えのある者が降りてくる。

フワリと降り立ったのが彼女だと理解するとエルグレドは目眩を起こしそうになった。


「ぎゃ!?」


「ぐぁあ!!」


ハッと振り返ると更に何人かが地面にバタバタ倒れて行く。


「何とか、間に、合ったみたいね・・・・」


ロゼはハーハー荒く息をしながらエルグレドに近づいてくる。エルグレドは思わず怒鳴り声を上げた。


「何を考えているんだ!!何故こんな所へ!」


周りにいた部下数人も驚き固まっている。この辺りにいた敵が一斉に倒れたのだ。


「あー。ごめん。ちょっとなり振り構っていられなくて」


ロゼはエルグレドの抗議を無視すると何かを詠唱し、手をかざした。

眩しい光が足元からエルグレドの身体を包み込む。


「短期間素早く行動できるようにしたわ。部下に退却するよう指示して」


ロゼが指差している方を見ると地面が光っている。魔法陣らしきものだ。


「ここが国の境界線で助かったわ。あそこに立てば一瞬で王都へ戻れる」


その言葉に部下達はぎょっとする。


「ここは私が何とかする。要は敵が退散すればいいんでしょ?」


部下達が集まってくる。

ロゼは見渡しハッキリと現実を口にした。


「生き残っているのはほぼここだけよ。援軍は間に合わない」


ようはエルグレドが殺されれば戦いは終わると。


「貴方達は王都に戻ってそれを伝えて。私はお客様にお帰りいただくよう進言してみるわ」


「何を言っているんだ」


「もちろん話をするんじゃないわ。強制的にお帰りいただくのよ」


時間がない。エルグレドは部下に指示をだした。




****



その日の空は澄み渡るような青空で、だからこそ、その異変に誰もが気づいて空を見上げた。


「おかーさーん!おそらまっくろー!」


子供が空を見上げ指差している。

まさかと思いながら見上げると黒い雲が物凄い速さで流れていた。

地上ではそんなに強く風など吹いていないのに。

人々は皆そんな空を見上げ不安そうな顔をした。



彼女はふと休んでいた洞窟から外に出た。

遠く微かに見える空を睨み胸元にあるネックレスの石を握り締める。

それは彼女の唯一の家族が彼女の為に作った物だ。


「どうした?」


そこへ異変に気付いた美しい紫色の髪を持つ男が声をかけてくる。彼女はそれを無視してじっと空から目を離さず、やがてグシャリとその顔を歪めた。


「あの馬鹿野郎。呼びやがった」


美しい金色の髪の少女はその美しい見た目にはそぐわない口調でただじっと空を睨み続けていた。







エルグレドとロゼは森を抜けた平原の小高い丘にいた。

向こう側から敵が向かってきている。


「エルグレド」


呼ばれてエルグレドはロゼの言葉を待った。


「私は今から貴方達に重大な秘密を知られるわ」


エルグレドは影が差した事に気がつき上を見上げる。

そこには真っ黒に渦巻く雲の塊が出来上がっていた。

それは見る見る間に厚くなっていく。

ビリビリと上からも下からも圧力を感じる気がしてエルグレドは思わず足に力を入れた。

横を見るとロゼの身体から薄っすらとモヤのような光の様な物が滲み出ていた。ロゼは笑った。


「でも後悔はしてないわ。自分で選んだから」


(貴方を。貴方を生かす選択を。

たとえ二度と貴方に会えなくなっても。)



唐突にロゼの身体からおびただしい量の魔力が噴き出した。それは空に吸い込まれ物凄い速さで形成されていく。


(空に魔法陣!しかもあんな・・・・・)


その大きさはこの辺り一帯の空を覆ってしまう程だった。エルグレドはここで始めてロゼは何かを召喚するのだと理解した。


(お願い。持ち堪えてね私の身体)



[我が呼び声に応えよ!ウィング・ベル!]



ロゼの呼び声に()は応えた。

その日パラドレアの人間は信じられないものを目撃する。

空から現れた恐ろしく禍々しいそれは最早伝説として伝えられていた空を覆うほどの巨大な竜だった。





[愚かなる者達よ・・・]


そして人々は確かに聞いたのだ。

その竜が言葉を発した所を。


[お前達は私の眠りを妨げた・・・相応の報いを受けるがいい]


竜が翼を羽ばたかせるとそれはあっという間に広がり風の刃になりパラドレア全軍に襲いかかった。

皆堪らず地面に膝をついている。


[弱き者達よ。帰るがよい。二度とこの地を奪おうなどと思わぬことだ。もしまたそのような理由でこの地を踏めばその時は1人残らず我が炎で故郷ごと焼き尽くしてくれよう」


チラリと竜の口に火が見え兵士達は慌てて退却していく。


当然だろう。


こんなものが国を攻めてきたら勝ち目などなく街は炎の海になってしまうであろう。


エルグレドは茫然と、ことの成り行きを見ていた。


これはなんだ?と思う。

こんなモノを召喚出来る人間など聞いたことはない。


人間が作り出せる魔法陣はせいぜい人が入れる程度。

よくて馬車ぐらいの広さである。


魔法陣を大きくすればする程、必要な魔力も多くなるからだ。


[ロゼ、久しいな。また下らんことで私を呼び出したものだ]


美しい厚く青い鱗がキラキラと竜の皮膚を覆っている。

竜はグルルと喉を鳴らした。


[苦しそうだな。そう長くは保つまい。用が済んだのなら私はまた眠るとしよう]


隣を見るとロゼは苦しそうに息をしている。

魔力が底を尽きそうなのだ。


[我が主人。長生きしたければ無茶はせぬ事だ。お前が神の御子だということを決して忘れぬよう]


ロゼはそのセリフに眼を見開いた。


エルグレドは倒れそうなロゼを支えようと手を伸ばしたがその視界は一瞬にして違う風景に変わった。


彼女の姿が見えなくなる瞬間、彼の視界に残ったのは悲しみを滲ませていたロゼの姿だった。


「騎士団長!!」


背後からゼイルの声が聞こえてくる。

そこは宮廷の入り口だった。


エルグレドは一人此処へ一瞬にして飛ばされたのだ。


「なんて事だ・・・・・」


あれは人の持てる力ではない。

もしあれを持っている事が知られれば今以上にロゼは狙われる。


いや、それ以上に。


エルグレドは震えそうになる身体を右腕を強く握り押さえつけた。


考えたくないと思うのに頭は勝手に思考する。

もしアレをバルドが知ったら彼はロゼをどうするだろう。

そしてその時、エルグレドはロゼを守り抜く事がどこまで出来るというのか。


「・・・・・っロゼ!」


彼女は言った。私は死ねないと。

エルグレドとは相反する答えである。




そしてそれは2人の別れを意味していた。


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