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理由

「それで、お前の目的は何だ?」


国王から解放されて、二人は今エルグレドの執務室らしき場所にいる。そして部屋についた直後、ロゼの婚約者から出て来たのがこの発言である。

ロゼは思わず大きな溜息をついた。


「・・・何を企んでいる。王になんと言って取り入ったんだ」


完全にロゼは悪者扱いである。

ロゼはそのセリフを聞いて予想していたとはいえ、うんざりと冷たい眼差しを向ける相手を見上げた。


「で、なければこんな事態納得できない」


そりゃあそうだとロゼも思う。

ロゼとエルグレドには天と地ほどの身分差がある。

本来ならこの二人が夫婦になどありえない話であった。

しかしエルグレドは王命には逆らえない。


「何故、お前の様な平民で階級もない者と・・・」


ピキッっとロゼの額に青筋が立った。

ずっと黙って聞いていたが、もう黙っていられない。


「仰りたいことはわかりました。ファイズ騎士長」


ロゼは花の様な可愛らしい笑みを浮かべながらも、目は決して笑っていなかった。


「私、とても嫌われてしまったみたいですね」


「・・・なっ!」


「だったら言ってくださればよかったのに・・・」


悲しげに伏せられたロゼの瞳を見て一瞬たじろいだエルグレドが何か言葉を発するより速く、ロゼが口を開いた。


「誰がお前の言うことなど聞くかバーカ!と」


一瞬、その場に沈黙が落ちた。

ロゼは笑顔のまま、エルグレドは真顔のまま固まっている。


「私、とても迷惑なの。学院の卒業帰りにいきなり連れて来られて会ったこともない人と無理矢理婚約させられて・・・しかも、その相手がこの国の貴族!」


ロゼは勢いに任せて目の前の机を叩いた。

先程のしおらしさは何処えやら、捲したてる。


「卒業したら故郷へ帰って旅に出る筈だったのよ? やっと窮屈な場所から解放されたのに、もっと窮屈な立場に追いやられて私だって貴方以上に大迷惑なのよ!今までだって冒険稼業と学業の二重生活で大忙しで、やっと本業に専念できると思ったら婚約?冗談じゃないわ!イントレンスの御告げとか私はこの国の人間じゃないからそもそも関係ないのに、こんな巻き込まれかたってある?」


確かにバルド様がそんなことも言っていたと、ロゼの話を聞きながらエルグレドは不思議に思う。


エントレンスとはこの世界ファレンガイヤ大陸の中心部にある聖地のことで、基本他の国や民族間には介入してくることはない。介入があるとすればこの世界に何かしらの危機が迫っている時や神々からの御告げなどを一方的に知らせる時ぐらいしか接触がないからだ。彼らは外界から隔離された世界で生きている為、こちらから接触しようとしても基本叶う事がない。しかしこの国の王はこれまで幾度となくその御告げを受けている。この国が他の国よりもこんなに豊かで国土を広げている理由はそこにある。


「・・・なるほど、状況は大体わかった」


あまりに冷静なエルグレドの言葉にロゼは肩すかしを食らった気分になった。


(あら?もっと怒り狂うかと思ったのに。意外だわ)


仮にも主人にバーカと発言したことに対して怒りを露わにするかと思いきや返ってきたのは至って冷静な対応。もしや最初の発言はこちらを試していたのだろうか?と

ロゼはそれに乗っかってしまったらしい自分に腹が立つ


「ロゼ、と言ったか。お前は冒険者なのか?」


「ええ、魔術学院に入る前から」


「・・・それは何か目的があってやっているのか?」


「そうね」


やはり竜騎士団のトップなだけあって頭が切れる。

今のやり取りだけでエルグレドはロゼの意を汲み取った


「王命だ。俺にも婚約は解消出来ない」


ロゼはこの時始めてエルグレドの瞳をしっかりと見た。

色素の薄いブラウンと金が入り混じった瞳が静かにこちらを見つめている。


「だが、お前をここに縛り付ける気もない。旅に出たいのなら出ればいい。ただどうしても必要な時はここに帰って来てもらわなければならない」


「新たな二重生活を始めろというわけね」


「嫌なら悪いが冒険業は諦めてもらう」


「まぁそこまで悪い話でも、無いわね」


無理矢理監禁生活させられるよりは大分マシである。


まぁそうなってもロゼが本気になればここから逃げ出す自信はあるのだが。それは黙っておく。

指名手配にされ追いかけ回されても面倒であるし。


「こちらに戻って欲しい時期に関しては資料にまとめて後で渡す。構わないか?」


「構わないわ。でも大丈夫なの?婚約者なのに側にいなくて。ましてや冒険業なんて貴方の両親だって納得しないんじゃない?」


「両親はだいぶ前に亡くなっている。弟がいるが彼が後継だ。お前が俺の婚約者でも問題ない」


ロゼの目が自然とジト目になる。


つまり彼にとって婚約者など誰でもいいのだ。

ただ王を害する者でなければ。

被害者はロゼただ一人である。


「ところでロゼはこの国の者ではないと言ったが俺のことは全く知らなかったのか?」


「知ってますよ。この国の竜騎士長なんですから」


ロゼはエルグレドが何故そんなことを尋ねてくるか何となく気が付いていたが、あえて言葉を続けるのをやめた。


彼はそんなロゼに困惑気味に眉を寄せた。

しかし彼も敢えて口にはしなかった。


「貴方のこと、エルグレドって呼べばいいのかしら」


ロゼはワザとらしく意地悪な笑みを作って聞いてみた。


「好きに呼べばいい」


エルグレドは呆れたような、少し安心したような態度で椅子に腰かけた。仕事をするらしい。


「では後ほど。エルグレド」


部屋を出てロゼは深いため息を吐いた。


(全く。あの腹黒皇帝め・・・)


まんまと嵌められた自覚はある為、腹は立ってはいるものの、だからと言って本気で逃げ出す気になれないのには訳がある。


(確かに、あの人に護衛をつけるのは無理があるけれど)


最強竜騎士団の団長である。

護られる対象より弱い護衛は付けられまい。


(よく考えたら確かに近くにいる為には、いい案ではあるんだけどね。だったら最初からそう言っときなさいよ)


実は最初ロゼはバルドにエルグレドを守る為、側にいて欲しいと頼まれていた。

イントレンスの巫女はエルグレドが生死を別けるキッカケにロゼの名を挙げたという。


(そのきっかけが分かるまでの間、彼の側に極力居座るにはまぁ護衛以外なら確かに婚約者よね。本人は放置する気満々そうだけど)


誰でも構わないとは心外である。


(振り回されるのは性に合わないのよね)


彼は逆らう者は容赦なく排除する冷徹で無慈悲な冷酷剣士であると有名だ。

彼が通る道には自然と道が開く。

誰もが恐れて離れていくからだ。


(彼の体から異質な魔力が感じられた。魔術はほとんど使えないみたいだから恐らくほとんどが剣技に乗せられているのね。周りがあんなに怖がるのも自分とは違う波長を感じるからなんだわ。実際話してみても特に彼自身の立ち振る舞いに問題があるとは思えないもの)


考えごとをしながら廊下を歩いていくロゼの視界に金色に輝く髪が通り過ぎて行くのが見え、ふと足を止める


(あら、珍しい。ファイを思い出すわね)


彼女はどうしているだろう。

ロゼはその少女に思いを馳せる。唯一の家族であるその少女に。


執務室のドアが叩かれる。


「ベルグレドです」


「ああ」


先程すれ違った金色の髪の青年は、そのまま執務室へ入っていく。ロゼは再び歩き出した。


「俺に話しとは何です?兄さん」


そして、その会話はロゼには届かなかった。

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